【インタビュー】ラッパーが野菜と日本酒の伝道師!?至福のチルが在る居酒屋、野菜と日本酒 ちりん

【インタビュー】ラッパーが野菜と日本酒の伝道師!?至福のチルが在る居酒屋、野菜と日本酒 ちりん

まずはこの動画を観てほしい。

まるでヒップホップ・アーティストのMVのようだが、実は居酒屋のプロモーション動画。

店名は「野菜と日本酒 ちりん」。東京の東側、「谷根千(=谷中、根津、千駄木周辺の総称)」と呼ばれる古い町並みが残されたエリアに店舗を構えている。お店のテーマはその名の通り「野菜と日本酒」。そして若き店主の関さんはラッパーとしても活動している。

私は酒屋の仕事を通じて関さんと知り合ったが、彼の飄々としたキャラクターと唯一無二のお店のスタイルに興味を持って、是非musitで紹介したいと考えた。

取材したのは2021年6月上旬。東京都は緊急事態宣言に伴う酒類の提供自粛要請が発令されている最中。居酒屋としての営業を休止し、豊洲や地方の農家から買い付けした野菜を販売する「ちりん青果店」として営業するお店にお邪魔して、店主の関さんにインタビューをさせてもらった。

※飲食の写真は緊急事態宣言前に伺った際のものです。

インタビュー/文/写真=仲川ドイツ

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樹の上で熟している新鮮なトマトに感動して

--日本酒と食材のペアリングと言えば、まずお刺身などの魚介類や鳥料理などを売りにするお店が多いと思います。「野菜と日本酒」という独自路線の居酒屋をやろうと思ったきっかけを教えてください。

結論から言うと「好きだからやってるだけ、好きなことだけやりたい」ってことですね。好きなものが音楽と野菜と日本酒だったんで、それしかやりたくないと。

というのも、修行先の師匠(日本酒宿 七色/北千住)が「日本酒と天然鮮魚」というコンセプトで好きなことに情熱を持って追及している姿を見ていて。僕も魚は好きで、「ちりん」オープン前の修行中は自分も鮮魚をやろうと思ってたんですけど、師匠ほど情熱を持って真摯に取り組めるほどじゃないかもと。それだったら食材は(師匠と同じレベルで)情熱を注げる「野菜」1本でやろうと思いました。

--野菜に情熱を持ち始めたきっかけは何かあったんですか?

大学を卒業した時にとりあえず働かなきゃ、と思って仕事を探してたんですけど、新聞の折込チラシで八百屋の卸(=配送ドライバー)の仕事を見つけて。「友達でやってるヤツいないし、面白そうだな」って思って働き始めたんですよね。

ただ、その仕事は2年半くらい勤めた後に辞めて。そこから北海道へバイク旅に出ました。北海道の大きい農園が季節制バイトを募集してるのを元々知ってたので、「最悪お金がなくなったら働くのもアリだな」って思いながら旅してて。実際に北海道の真ん中、美瑛あたりで所持金が68円になって、ガソリンもエンプティーに近くなって。

--えー! ヤバいじゃないですか!

とにかく働かなきゃ!って季節制バイトのことを近くの人に聞いたら「JA(=農業協同組合)に行ってみたら?」とアドバイスをもらって。それでJAに相談したら、運良くトマト農家さんの収穫のアルバイトが見つかったんですよ。

そこでは6月から8月いっぱいまで、3ヶ月間働かせてもらったんですけど、樹の上で熟している新鮮なトマトに感動して。東京の卸で扱っていた野菜は、産地で収穫してJAに持っていって、選別してからパッケージングして、そこから流通を経て東京に届いたものだったので、鮮度の違いを実感したんですよね。

そのバイク旅はこれからの自分がやりたいことを探す旅でもあったのですが、季節制バイトで野菜の生産の現場を知って。配送ドライバーとして流通、それ以前には飲食のアルバイト経験もありました。そうして生産から提供の場までが自分の中で繋がったので、これを活かせる仕事をしたいな、と思いました。

--日本酒の美味しさにはどのように出会ったのでしょう?

これもバイク旅ですね。元々好きで飲んではいたんですけど。岩手県の久慈という、朝ドラの『あまちゃん』の舞台になった街があって、そこの道の駅の近くで夕方にテントを張ってメシを作ってたんですよ。そしたら、こっちに歩いてくる外国人の女の子2人と目が合って「ヤベぇな〜…」ってなって。

--何がヤバいんですか?笑

英語喋れないからコミュニケーションとれないと思って。そしたら2人とも英語の先生で日本語ペラペラで。笑 2人のうちの1人が久慈に来たばかりで案内してあげてたらしいんですけど、話の流れで「今日同僚の送別会があるんだけど、アナタ面白そうだから来ない?」って呼ばれて、蕎麦屋に行ったんですよ。

--すごいですね!

そこで「これが久慈の地酒だよ」って飲ませてもらったのが美味しくて感動したのがきっかけですね。

--そのお酒の銘柄は覚えてますか?

「福来(ふくらい)」というお酒です。久慈以外ではあまり流通していなくて、若干野暮ったさもあるんですけど、それもまた良いなと思いました。本当は「俺はやりたいことが見つかるまで帰らん!」と思って日本一周するつもりだったんですけど、(関東から太平洋側を北上して)岩手と北海道で早々に見つかっちゃいました。笑

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「チル」は行為ではなく「心の在り方」かなと思ってます

--「ちりん」という店名の由来について教えてください。

実は元々友達と2人でお店を始めるつもりだったんですけど、「何にしよう?」って意見出し合う中で「やっぱりユルい感じでやりたいよね」「じゃあChill(チル)だね」って。ただ、英語だとちょっと気取った感じがするから、ひらがなで気が抜けた感じが良いかなと。

それと、「シンボルマークが欲しいな」って考えて風鈴を使うことにして。風鈴って涼をとるアイテムですけど、すごく日本の美的センスが現れていると思うんです。それで「チル」と風鈴の「ちりん」という音色のダブルミーニングにしました。

--古い江戸が残るこの街に合ってますよね。

色々と噛み合ったんですよね。友達に誘われてこの街に遊びに来たら気に入って、「ここでお店をやれたら面白いな」って物件を探し始めました。

--今の若者は気軽に「チル」って言葉を使いますが、僕と同年代くらい(30代後半)でクラブ・ミュージックに馴染みがない人は「チルって何?」って人が結構いるんですよ。関さんのイメージする「チル」の感覚ってどういったものですか?

「チル」は行為ではなく「心の在り方」かなと思ってます。例えば温泉に行くとか、お金を払って非現実まで自分を連れ出すとか、そういうイメージになりがちですけど、僕はそこじゃないかなと。今あるものに満足することだったり、ゆとりや心の豊かさだったり。

それって日本人の昔からのマインド--例えば「侘び寂び」とか、「足るを知る」っていう、生きてく上での心得みたいな、そういうことに近いのかなと。「ちりん」を通してそういうことを発信して日常生活に落とし込めることができれば、僕の使命は達成かな、と思ってやってますね。

--例えば、毎朝盆栽に水をやるとか、コーヒーをハンドドリップで煎れるのも「チル」。

お茶なんかもそうですよね。じっくり蒸らしてる時間もだいぶ「チル」だと思うし。熱中することとか意識することとか。

--そういった意味では「自分だけの時間」を大切にする酒飲みは、そういった「チル」な心の在り方って上手いかもしれないですよね。

そうですね。日本酒って酔い方が気持ち良いお酒なので、僕はチル向けのお酒だと思うんですよね。あ、こんなんあるんすけど(と言って、おもむろにノートを取り出す)。

--おぉーーーーーーー!!!!!

チルについて考えた図解。また途中っすけど。

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「じゃあ俺らもヒップホップやるか」って

--ラッパーとしても活動する関さんがヒップホップを聴き始めたきっかけ、ハマった音楽を教えてください。

ヒップホップを聴くようになったのは地元の友達の影響ですね。当時の仲の良い遊び仲間10人のうち、僕ともう1人以外の8人が末っ子だったんですよ。末っ子って兄ちゃん姉ちゃんの影響でファッションとか遊びとか文化的な情報が下りてくるじゃないですか。僕たちが中学くらいの時に兄貴たちが高校生で、ヒップホップがちょうど流行ってる時期で、そういう所から入っていきましたね。

--その頃って何が流行ってたんでしたっけ? キングギドラとか?

その辺の世代ですね。でも僕がヒップホップを好きになったのは高校2年生になったくらいで、それまではTHE BLUE HEARTSとかを聴いてました。あとはSHAKALABBITSのライブにはよく行ってました。

--良いですね、懐かしい!

当時はそっちの方が好きでしたね。でもラップって楽器がなくてもできるじゃないですか。なので高2くらいのときに「じゃあ俺らもヒップホップやるか」ってなって始めたのがきっかけです。

--関さんが今注目しているラッパー、トラックメイカーはいますか?

最近めちゃくちゃ応援してるのは茅ヶ崎の潜伏期間っていうユニットなんですけど、彼らが在籍してる《レコードの館》ってレーベルはめちゃくちゃかっこいいす!

--そういう情報はどこで集めてるんですか?

僕はTwitterが多いですね。好きなアーティストがフォローしているのを聴いてみたりしてます。コロナ禍前みたいに現場に足運んで、ってこともできなくなっちゃったんで。最近の若い子はすぐPV上げてくれるんでチェックしやすいですよ。

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敬意を込めて「アンダーグラウンド」って呼んでます

--野菜へのこだわりについて教えてください。関さんの思う「良い野菜」「お店で使いたい野菜」の基準はなんですか?

「らしさ」が前面に出てるってことですね。

--その野菜の本来の姿、ってことですか。

そうです。例えば、ピーマンやゴーヤだったら苦ければ苦いほど良いと思ってます。昔、トマトの糖度合戦みたいなのがあって。「ウチはメロンと同じ糖度だ」とか。確かに「甘い」は「美味い」だし、生産者の技術あってのものなので否定はしないんですけど、ウチが1番求めたいのは「濃い感じ」とか「ワイルドさ」なので、そこを追求していきたいですね。

--「らしさ」には産地の特徴もあったりするんですか?

そうですね。ローカル感が出ているものにめちゃくちゃ魅力を感じるというか。地酒もヒップホップもそうですよね。

--ヒップホップのローカル感?

「Represent(=レペゼン/〇〇代表)」って言葉があるんですけど。住んでる地域を代表するってことですね。地域ごとにスタイル/やり方があって、みたいな。お酒で言うテロワール(=ワイン生産におけるブドウ畑を取り巻く生育環境)に近いことなのかな。

--日本酒の仕入れについても聞かせてほしいです。「ちりん」のラインナップは日本酒好きなら誰もが知っているプレミア銘柄のようなものでなく、例えば富山県の「三笑楽」や埼玉県の「釜屋」など通好みの銘柄を多く揃えていますよね。関さんが「お店で使いたい」と思うお酒の基準があれば教えてください。

まず僕が飲んで「良い」と思ったもの。プラス、どメジャーすぎるものを取り扱うのって僕的に面白くなくて。美味いのは当然なんだけど。もっとアンダーグラウンドなもの--東京に出てきてない、地域に根を張って愛されて、そこで成り立ってる蔵と出会いたい、っていうのが1番ですね。あまり有名じゃないっていうとお蔵さんに失礼ですけど、僕は敬意を込めて「アンダーグラウンド」って呼んでます。

--地元でしっかり売れているお酒であれば、わざわざ営業費をかけて東京に出てくる必要はないですからね。

そうですね。そこはさっき言ったことにも通ずるローカル感ですよね。両親も僕も東京出身なので、「田舎がない」ってことがコンプレックスなんですよ。小学校の時に友達が「田舎でカブトムシ採ってきた」って話してるのを聞くと良いなって思ったり。

なので尚更、土地柄とか歴史、文化背景が残っているものに魅力を感じるんですよ。野菜ならその土地の気候に合ったものが育つし、お酒ならその土地の食文化に合った味になる。そういったものを大事にしたいな、という思いが強いです。

--「秀月」(棚上段中央)なんかも、まだ東京で飲めるお店は少ないですよね。これは以前、車中泊で旅された際に出会ったお酒だと聞きました。

そうですね。「秀月」は99.9%くらい地元で消費されているお酒みたいです。僕が現地のお店でお話を聞いている間に、地元の方が続々と買いに来てたのが印象的でした。

--まさに地元に愛されているお酒なんですね。こうやって関さんがカウンターに立って、「このお酒はこういうお酒で」って説明してもらえるのも「ちりん」の魅力の1つですよね。

修行先の師匠からも「自分でその土地に足運べよ」って教えられました。現地に行って蔵元さんや杜氏さんに話を聞いて、飯食って、酒飲んで。その体験をお客様に伝えるとより一層、話に奥行きが出るかなと思ってます。

--そのバックボーンも含めた地酒ですもんね。

ただ注がれただけでは、なんのこっちゃ分からんですからね。

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即身成仏になりたい

--緊急事態宣言の「酒類の提供自粛」を受けて青果店としての営業にシフトしたと思うのですが、どういった思いがありましたか?

僕は1人で店をやってるので、給付金をもらうことでとりあえずは店を続けていられます。なので先に繋がることとして、今は他では手に入らない良い野菜を売って「ちりんに行けば美味しい野菜が食べられる」というのを幅広い人に知ってほしい。そのための期間だと思ってやっています。

--宣言解除後は居酒屋に戻ると思いますが、今後の展望などはありますか?

以前、別のインタビューの時に「将来の展望は?」って聞かれて「即身成仏になりたい」って答えたらことごとくカットされました。笑 輪廻から解脱したいですよね、道のりは長いですけど。

--このインタビューではカットせず採用しますよ。笑

それと、まだ構想だけですが八百屋メインのお店をやりたいですね。八百屋6割、角打ち3割、雑貨屋1割みたいなお店をできたら面白そうだな、と考えてます。爆音で音楽かけて。

--めっちゃ良いですね!

あと、最近は伝統工芸、特に竹ざるの有用性に気付いてしまって。めっちゃ水切れるんですよ。軽いし、薄いし。例えばカラビナを付けて壁なんかにもかけられるし。アウトドアに持って行っても使いやすいんじゃないかな。なので「伝統工芸×ちりん」みたいなコラボもいつかできたらなと思ってます。

--やりたいことがいっぱいありますね…!

やりたいことを全部やって満足して往生したいですね!

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取材を終えて

関さんは色々と面白いエピソードを持っていて、かなりのロングインタビューになりました。文字数や流れの都合上、泣く泣く端折ってしまった部分も多く、申し訳ない想いがいっぱいです(特に3ヶ月間の季節制バイトで貯めた全財産を再出発早々にどこかに落としてしまった衝撃的なエピソードとか…)。

でも、それはちりんに行った際に、是非関さんから直接聞いてみてください。

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野菜と日本酒 ちりん

所在地:〒110-0001 東京都台東区谷中3-1-3松村ビル2階
定休日:毎週月/火
谷中 野菜と日本酒ちりん Twitter:https://twitter.com/dada3701
お酒も飲める八百屋 ちりん青果店 Twitter:https://twitter.com/yeixyvnaw06uzyv
Instagram:https://www.instagram.com/hebihebi3701/

仲川ドイツ