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【インタビュー】三浦エミル(sheeplore)、寄り添うことで生まれた抑圧からの解放

By星野

作品ごとに1つのテーマを掲げながら活動を展開しているバンド、sheeplore(シープロア)。2012年に結成された彼らは、過去にMaison book girlやノウルシ、MUNIMUNIなど多彩なアーティストらと共演。音楽制作だけではなく、アートワークやVJ、不定期でのZINE発刊など各々のクリエイティビティが光るプロモーションを行いながら、一際異彩を放つ存在としてその名を馳せてきた。

今回は、バンドのフロントマンである三浦エミル(Vo.&G.)にインタビューを実施。去るクリスマス・イヴにはスタジオライブ映像を公開し、来年初頭には新作のリリースも控えた彼らの次なる目的地とは───。

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取材/文=翳目
写真=Yoko Tsunakawa

自分の考えっていうものを意外と疎かにしていたんだな、と

──sheeploreは昨年6月に「Vaudevillian」、同じく昨年の9月に「Modern Time’s Step」をリリースしています。コロナ禍に入ってからも割と活動的に見えましたが、この期間はどのように過ごしてましたか?

「Vaudevillian」はコロナ前に作った曲でしたが、緊急事態宣言が出てからライブとか計画してたものも色々中止になっちゃって、音楽と自分自身について考えながら過ごしていました。それまで言葉だったりとか音楽以外の表現に頼ってきたんですけど、「音楽の楽しみ方」というものについてもう1回改めて自分自身を振り返る事ができました。長い時間をかけて丁寧に「自分が何を考えているのか」っていうのを紐解いていってできた曲が「Modern Time’s Step」でした。作品自体は作ってきましたが、それまで自分の考えっていうものを意外と疎かにしていたんだなっていう。それぐらい自分にとって純粋なものにたどり着いたんだなって実感はありますね。

──分かります。今までのsheeploreってどうしてもVJとかアートワークとか、音楽以外の武器をもって補完している印象も否めなかったんですけど、だから尚更「Vaudevillian」や「Modern Time’s Step」は楽曲そのものに対してちゃんと向き合っているように感じたんですよね。歌詞を書くうえでの変化はあったんでしょうか。

うん、うん。あった気がします。昔から自分の中で憧れとして持っているんですけど、なるべく自分自身の言葉で表したいなと思っていて、でもなかなかそれが苦手で…。どうしても客観視してしまう癖があるというか。でも(「Vaudevillian」「Modern Time’s Step」については)それにちょっと近づいたかな、とは思っていますね。まさに自分が何を考えているかっていうのと向き合ったが故に出てきた言葉だなと。

──特定の誰かへ向けたものではなく、あくまで自己との対峙の上にできたもの。

あー…確かに。歌詞を書いてた時は「誰かに届けたい」じゃなくて自分が考えていることや思っていることをとにかく表に出す、ことを目指していたけど、これは意外と俺が人に言いたいことなんだろうなって最近思いましたね。

──「人に言いたいこと」というと?

大まかには「見てくれ!」とか「気づいてくれ!」っていうのがすごく強くて。自己顕示っていうよりかは、「僕のこともちゃんと見てくれ」っていう感覚か強くなったというか。

──でもそういう欲求って、一般的には「初期衝動」として込み上がってくるものじゃないですか。なんでこのタイミングなんだろうなと。

まさに言ってくれた通りで、色んなバンドが「初期衝動」でやるものだと思うんですよね。多分、そういう「最初にやらなきゃいけなかったことをやれなかった」とも言えるし、別のところに興味があったからというのもあると思うし。

──トリッキーな見せ方をしてきたバンドですからね、sheeploreは。

狙ってやってたわけじゃないんですけど。たまたま自分の好みのものがそうだったっていうのもあるけど、ある意味自分の衝動を無視して音楽をやり続けていたとも言えるというか。

──じゃあこの期間は今まで等閑にしていた自分自身を見つめ直す時間になったわけですね。

そうですね…。本当に長く見つめ直しましたよ。大きなひっくり返りがありました。

瞬間瞬間を楽しみながら生きるロック・バンドでありたい

──エミルさんが先程話してくれたご自身の「変化」って、やっぱりリスナーよりもメンバーの方が気づきとしては早かったと思うんですけど、実際どんな反応がありました?

でも、皆は良い意味で見守ってくれているというか…うん。でもある意味でシビアだったかな。俺が「これがやっぱ足りてなかったと思うんだよね」って言うと「うん、そうだよね」って返してきて。「いや、言えよ!」って思うんだけど。

──笑。でもあえて言わないでいる部分も含めて見守ってくれているんですよね、きっと。

そうですね、見守ってくれてるのがすごく強い気がします。「好きなようにやったらいい」っていうのは俺も皆に対して思ってるし。

──そんなsheeploreは先日、HP上でアーティスト写真を一新しました。今までのコラージュ作品みたいなものではなく、メンバーの顔がはっきり見える写真で、リスナーにとってはかなり驚きのある変化だったと思います。それもやっぱりエミルさんがさっき話してた「自分を見つけてほしい、見てほしい」っていう欲求が具現化されたのかなと思ったんですが、その辺りはどうでしょう?

自分たちの存在をアートワークで表現したいって思って力を入れてたんですよ。でも、その前に自分たちの人間性が見えるっていうことがすごく重要だなと思うようになったんですね。本当になんというか、覆面的でいたいわけじゃないし。でもちょいちょい言われてきたんで…。

──いや、そうですよね。今までメディア露出の機会もほとんどなかったわけだから尚更。

でも全然そんなことはなくて。どっちかっていうとこうして顔出すのを忘れてたぐらいの。

──そうなんですね。じゃあようやくバンド然とした形になったんだ。

普通にロックバンドでありたかったので。

──第2章、って言い切っていいんですかね。

…むしろ第1章だと思ってますけどね。

今まで作品を出す度に、自分の中の変化が大きかったというか。でも今作ろうとしてる作品からはもうあまり変わらないだろうな、っていう確信があって。だからやっとバンドが始まった…「第1章始まりました」っていう感覚がありますね。これからが私たちです、みたいな。瞬間瞬間を楽しみながら向き合っていきたいなと。

言葉で伝えるのではなく、踊ることが大切だと気づいた

──ここまでの話を聞いていて、「方向性は定まっていないけど、ただ音を鳴らしたかった」っていうのがsheeploreにとっての「初期衝動」だったのかなって思いました。

確かにそうかも。『シュトラスブールの雨傘』の時とかは何がしたかったのかよく分かってなかったから。逆に今はどんどんエゴになっていく。

──エミルさんはいつも映画だったり小説だったり、音楽以外のカルチャーから得たものを自身の楽曲に昇華していると思うんですけど、今作に関してもそのスタイルは変わらず?

うん、そうですね…色んなものから影響を受けてるから。あ、でも今回はチャップリンの影響がすごく大きくて。『モダン・タイムス』(1936年公開。チャーリー・チャップリンが監督/製作/脚本/作曲を担当した、彼を代表する喜劇映画)っていう映画から「Modern Time’s Step」を作ったり。あれを観た時に、チャップリンが表現していることって、メッセージというか、社会的なものを伝えたい…でもそれを「面白おかしく」伝えたいっていう感覚を持っていて。

「言いたいこと」っていうのはいくらでもあるんだけど、それを「表現として消化」できるっていうのに魅力を感じていたし、『フェリエールの鏡翳』までって結構深刻に出来事や問題などを悲しんでいたんです。フェリエールが完成してからは、社会とか自分たちが向き合わなきゃいけない問題に対して、踊ることというか、その瞬間瞬間を楽しみながら向き合っていきたいっていう気持ちが大きくて。

──なるほど。では、自粛期間中も映画や本に没頭する生活だったんじゃないですか?

あー、いや、コロナになってからは観るものって実際減ってて。

もちろん読んではいるんだけど、前は多分もっと色んなものを観て、色んな吸収の仕方をしてきたんだけど、自分のしたい表現が分かったうえで日々過ごしてるから…ヒントになる作品に絞って観るようになってて。それで観る本数は減ったのかなと思いますね。

──カメラみたいにどんどんピントを合わせていったら結果的に必要としているものが限られていった、みたいな。

そうそう。自分の中で「一番大切なもの」っていうのをちょっと疎かにしてたなと思ったから。一番大切なものを守る、っていう感覚が今は強くて。だから本当に絞ってる。『フェリエールの鏡翳』以降は言葉で伝えるのではなく踊ることの大切さに気づいた。

──今後、sheeploreとして何かやりたいことはありますか?

まずは自分の表現したいことっていうのが今までちゃんとわかっていなかったというか…。自分自身の純度が低かったなっていうのがあって。ある意味で周りに流されていたっていう部分があったというか、例えば「この映画面白いよ」って言われて観たら直感的に「良い」って思っちゃうじゃないですか。

──あるある。

「良い映画」と「自分が好きな映画」って全然違うわけだから。バンドにしても、自分のやりたいことってなんだろうって疑問を持ち始めたから、まずはそれを形にしたいなと。自分のやり方としてはアルバムを完成させるっていうのがまずは大きな展望になってくると思いますね。

──そういえばエミルさんはこの夏、有料note(公式LINE登録者は無料で閲覧可能)も何回かに分けて更新してましたよね。今までそういう情報発信とか、リスナーとのコミュニケーションってやっぱり聴く側の目線からしたら消極的だったと思うんですよ。だからnoteにしても、エミルさんにとってのコミュニケーションツールの意義を為してたのかなって。

今まで外側への発信やコミュニケーションが少なかったのは、「自信がない」っていうのがまずあって。そもそもできあがった自分の作品に対して「自分じゃない」って思っちゃうんです。自分が偽物の姿でいるようで、その状態で人と話すのってすごい嫌だったっていうのが大きくて。今は自分っていうものだったり、これをこうしたいっていうことが分かってきてるからこそ人と話せるようになったかなと。それがすごく大きな変化だとは思いますね。

──なるほど。でもエミルさんは以前から非常に話し上手なイメージがありますけど…?

人と話すのは好きだけど、相手に分かりやすいように話すっていうのは苦手で。だからこうやって話をしてもらうことによって接続ができるようになるというか。聞かれたことに答えてるぐらいなら歯止めが利くけど、自分が発信するとグワーッって喋っちゃう。

──どんどん加速しちゃうんですね。

そう、だからそういう意味では『フェリエール(の鏡翳)』のリリースを終えて、言葉で伝えるのではなく踊ることの大切さに気づいたよ。あのアルバムは「真剣に考えなよ」っていうのがメッセージとして強かった気がしてて。これからもそれはあるんだけど、基本踊ってるかな、「踊ろうぜ!」っていうのがすごい強いから。

──新生sheeploreの幕開けですね。ライブにもまた行かせてください。

是非是非。楽しみましょう。

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PROFILE

sheeplore

2012年結成。東京を拠点に活動を展開するオルタナティヴ・ロック・バンド。アートワークやVJ、またメンバーらによる楽曲解説が掲載されたZINEを発刊するなど、様々な手法で自身の音楽性をアプローチ。来年2022年1月1日、新作リリースの発表を予定している。

(写真L→R)
金子タカアキ(Dr.)
三浦エミル(Vo.)
Cookie(G.)
Takumi Izawa(Ba.)

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