【インタビュー】「ドラムよりも楽曲が届いてくれたら」多彩な表情を合わせ持つドラマー、美秋が奏でる音の分子

【インタビュー】「ドラムよりも楽曲が届いてくれたら」多彩な表情を合わせ持つドラマー、美秋が奏でる音の分子

松任谷由実や吉田拓郎、スキマスイッチ、アンジェラ・アキら国内ポップスのバック・バンドを数多く務めてきたプロドラマー・村石雅行が主宰する教室「村石雅行ドラム道場」出身、学生時代から数多くのバンド活動を積みながら、現在はドラマー兼講師、また大手電子ドラムメーカー・ATV社の公式YouTubeチャンネル内にてナビゲーターを務めるなど、多岐に渡って活動を展開するドラマー、美秋(ミシュウ)。

サポートドラムとしての活動を含め、これまで多くの実績を残してきた彼女は両腕、両脚を存分に使ったパワフルな奏法が目立つが、その中には極めて緻密なまでに計算された繊細な音の鳴りを同時に感じる。今回は彼女が今年の春にATV社製品の電子ドラムを購入し、愛用していることから『HARAJUKU  eSTUDIO』を併設しているmusit編集部オフィスに招いてのインタビューを実施。「ドラムよりも楽曲が届いてほしい」と語る彼女がドラムを自身の武器として携えるまでにはどのような背景があったのだろうか。彼女が1つの楽器から奏でる音の「分子」に迫る、濃密なインタビュー。ぜひ最後まで目を通してほしい。

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取材/文/写真=翳目

「どうしてもドラムを始めないといけない」と

──まずは、美秋さんがドラムを始めたきっかけについて教えてください。

元々はクラシック専門で、マリンバを習ってたんですよ。小学生の頃から。その延長で中学校に上がってからも吹奏楽部に入部して。本当はサックスとか、もう少し吹奏楽部っぽいというか…ほかの楽器をやりたかったんですけど(笑)、顧問の先生に「(マリンバを)習ってる」って言ったらパーカッションに入れられて。笑 でも、3年生になって「マリンバをこの先ずっと続けていく」っていう選択肢をとる気がなくなってしまったんです。「どうしてもドラムを始めないといけないんだ」って。

──天のお告げですね…。そこまで美秋さんがドラムに心奪われた理由とは…?

自分が吹奏楽部に入る前の先輩と、自分の一代前の先輩がすごく上手だったんですよ。だから楽しみではあったんです、頑張ろうっていう気持ちも大きくて。もちろんマリンバも好きでやってたんですけど、それよりも(ドラムは)感覚的に好きになったというか…。マリンバに比べて自由なパフォーマンスができる点もそうですし、ソロ・マリンバだと自分を前に押し出していくスタイルなんですけど、ドラムだと常に誰かの後ろにいる、皆を支えているっていう感じが良くて。あとはやっぱり誰かと一緒に音を出すのも楽しいですし。

(引用:https://soarguitarschool.com/blog/archives/2220

──比較的早い時期にドラムに転向したということは、バンド経験も多く積まれているように思います。

そうですね、高校に入ってからは軽音楽部に入部して。でも、元々入る気があったわけではなくて、友達に誘われてって感じで。笑 部活の中でバンド活動はずっとしてたのと、並行して外でもロック・バンドをやったりとか、ポップスをやったりしてましたね。どれも長く続けていたわけじゃないけど、その時が一番多くバンドを経験していた時期でした。基本的にはコピー中心で、SCANDALとかELLEGADEN、ONE OK ROCKとかを中心に演奏してましたね。

──世代ですね! 楽器の経験って、ご家族に影響を受けた部分もあるんですか?

父がギター好きで、弟もたまたまギターをやってたんですよ。でも別に影響されたとかではないかな。親が何か習い事をさせた方がいいんじゃないか? ってなってた時に、当時幼稚園で木琴を叩く私の姿が楽しそうだったから(マリンバを)習わせたって言ってて。笑

──なるほど。普段聴く音楽についてはどうですか?

私、アンジェラ・アキが一番好きなんですけど、それは完全に母の影響ですね。それまでポップスをあんまりちゃんと聴いた経験がなかったんですけど、私が一番好きなドラマーが村石雅行さんで。家にあったアンジェラ・アキのアルバムの中で、村石さんが叩いてる曲を片っ端から聴いて…。(同じ理由で)スキマスイッチも好きです。村石さんはもう…憧れの存在ですね。

指導は基本ストイック。でも大事なのは、ドラムを「楽しい」と思ってもらうこと

──そこから「講師」の肩書を持つまでの経歴を教えてください。

私、出身が兵庫なんですけど、高校出て神戸の音楽専門学校に進学して。2年間学生して、そこから同じ神戸の音楽教室で1年半講師の仕事をやってたんですよ。昔マリンバを習ってた時、教えてくれる先生が結構頻繁に変わってて。1人目の先生の時は何とも思わなかったけど、2人目の先生になった時「やっぱり1人目の先生の教え方、良かったな」って思うようになって。もちろんどの先生にも教える側としての良さはあるんですけど、自分の中ではあの先生の教え方が好きだった、みたいな。それで、先生だけでこんなにやる気も何もかも変わるんだなって思って「じゃあ将来は絶対講師になろう」って決めたんです。

──ちなみに、1人目の先生はどんな教え方をしてたのか気になります。

すっっごいストイックでした。クラシックだからかもしれないんですけど…1音間違えただけでも怒られるし、練習も厳しくて。もう、何もかもがすごいっていうような人。笑

──ええ…。笑 美秋さんの指導も結構ストイックなんですか…?

自分では優しくしてるつもりなんですけど、言われます。自分のレッスンの次に入ってた先生とこの前たまたま会ったんですけど、「美秋ちゃんの生徒さんって皆ちゃんと練習してくるんだよね」って言われて。笑

──真面目な生徒さんが多いということは…(察し)。でもその分、成長スピードも目に見えてくるのではないでしょうか。

本当にすごく早くて…!! いつもびっくりしてます。ストイックとも言われるんですけど、私は基本的にドラムを「楽しい」って思ってもらえるように教えていて。その場で優しく教えることもできますけど、本当に楽しいと思えていないとドラムって続かないので。「まあ、それでもいいんじゃないですか?」みたいなことは言わない。最初から本物を求めているので妥協はしないんです。例えば課題曲があって、その曲のこのポイントだけは絶対にクリアしてから次に行こう、っていうのは徹底してますね。ただ「通るだけ」みたいなレッスンはしてないかな。

(引用:本人Twitter

──一歩一歩着実に、ですね。とはいえ、生徒さんの個々のスキルに応じて臨機応変に教え方を変えなくてはいけない部分もあると思うんですけど、その辺りの匙加減ってどうコントロールしてますか?

そうですね…自分が叩く時ともまた違うので、最初の頃はその辺かなり苦労しましたね。今はほとんど初心者の方を中心に教えていて、本当にスティックの持ち方とか、そのレベルからの指導になるのであんまり気にしなくてもいいんですけど…昔だとちょっと叩けるぐらいの人も教えていて、自分は「このぐらいなら叩けるだろうな」と思って教えてみても実は全然まだハードルが高かったり。今はもう克服しましたけど、当時は結構力加減が難しかったです。

──教える側と教えられる側ではまた感覚が違いますからね。これまで数多くの生徒さんを受け持ってきたと思うんですけど、美秋さんが初心者ドラマーの方にアドバイスするとして、1つだけ教えるなら何を伝えますか?

うーん……。ドラムのストロークって叩き方が4つあるんですけど、まずは鏡を見ながら練習して、ストロークを完璧にしておけば後々困らない、っていうのは伝えたいですね。私自身、講師として教える時も「ストロークはきちんと獲得することを目標にしてください」っていう話を皆さんに都度してました。自分ができなかったので、生徒さんには苦労してほしくないんです。笑

──今までどれくらいの数の生徒さんを教えてきたんですか?

どれくらいだろう…今は単発でしかレッスンを行ってないんですけど、定期的に持ってた生徒さんが15人ぐらいいて。プラス、自分がお世話になっていた講師の方の臨時で教えることもあったり…なので正確には把握できてないですね。笑 15人教えてた頃は教材のない教室だったので、レッスンが終わってから一人ひとり苦手分野を書き出して「この人の課題どうしようかな…」って悩んでた記憶があります。

手癖は無理に直さず、曲との相性を見てベストなバランスを目指す

──では、次に美秋さんのプレイヤーとしての話を。ドラマーとしてプレイするにあたって、最もこだわっている点は何ですか?

曲をリスペクトしつつ自分の味を出していく、っていうのを一番意識していますね。多分ドラマーって、全く指示通りに叩くってまずないと思うんですよ。手癖とかも出てくるし。でもそういうのが曲の邪魔にならず、良い曲に仕上がるように頑張るっていうか。笑 ベストな状態を目指して演奏するっていうのはずっと続けています。

──ご自身とメンバーの間で意見の相違がある場面も多いと思います。

そうですね、基本バトルみたいなことはまずないんですけど…まあそういう熱い議論をするっていう機会もたまにある分には楽しいかなと思います。前は多かったかな、「そのドラムじゃない方が良いと思うけど、どうしたらいいか分からない」って言われたりとか。笑

──そんな無茶な…。笑 美秋さんは一日にどれくらい練習するんですか?

最近は「やりすぎない」ってことを意識してて。考える時間を増やしているので。この曲に対して自分はどうするのが良いのか、っていうのをスティック持つ前に整理してからスタジオへ行くようにしてて。なので大体時間で言うと3時間ぐらいですかね。すごく抱えてる曲が多くなってしまった時だけ5時間とか。

──なるほど。美秋さんは11月にATV社の公式YouTube動画でナビゲーターも務めてましたが、元々ご自身でATVの電子ドラムを使ってたんですか?

(村石雅行ドラム道場の)先輩のかねこなつきさんが先にナビゲーターをやってたんですけど、その動画を観るまで正直ATVの存在は知らなくて。でも、先輩がATVの電子ドラムを叩いてる姿を見て「良いな」って思って、色々調べたんですよね。サイズ感も家に置けそうだったし、何より音が良くて。試奏しないでも買って大丈夫ぐらいには確信がありました。笑 で、たまたま弟の職場の方とATVの社長さんがお知り合いで。ATVさんに行って試奏してきたら? っていうのを弟の会社の社長さんが言ってくださったんです。その前にぽろっと弟に「電子ドラム買うけどもし会社で扱ってるなら買わせてよ」って言ってたんですけど、そしたら話が良い方向に変わって…。それで、実際に試奏してみたらやっぱり間違いないなと思って購入しましたね。

──電子ドラムを使用していく中で、ご自身のプレイに影響が出た部分はありますか?

電子ドラムを買うまでは、そもそもスタジオに行く時間の確保が上手くできなくて、あんまり叩きに行けなかったんですよ。行ったとしてもいわゆるハズレのドラムってどうしてもあるじゃないですか、年季入っててボロボロのやつとか。笑 そういうのを叩いていくと音とか打感がどうしても安定しなかったんですけど、ATVの電子ドラムを使うようになってからは…電子ドラムではあるんですけど、ちゃんと調整されたドラムとほぼ同じ打感なので、逆にスタジオにいくより良いかな? と思います。結構力加減が変わるので、音にもこだわりを持ちながら練習できるというか。ただ鳴らすだけじゃなくて、「こういうニュアンスを出したい」とまで思えるようになったのは大きいですね。

あと、今までは「あるもので叩くしかない!」みたいな感じだったんですけど、今は逆に「その機材がダメ!」っていうんじゃなくて、自分でちゃんとチューニングとかしてから叩くようになりました。すげえな、生ドラム、って後から改めてちゃんと気づかせてくれましたね。笑

──今、実は美秋さんの真後ろにそんなATV社の電子ドラムがあるんですけど…もしよかったら叩いてみます?

えっ、いいんですか…! 叩きます!笑

「ドラムが良かった」よりも「曲が良かった」って感じてほしい

──即興演奏、ありがとうございました…! 毎日練習を続ける中で、必ず行うルーティンみたいなものってありますか?

納得できる状態のセッティングになるまで準備してから練習をしてます。当たり前のことではあるんですけど…。昔は時間に追われてる時とか、チャチャッとやっちゃって、ちょっと傾いてるの気になるけど「まあいいか」みたいな、妥協してたんですよ。でもそういうことをしてると自然と演奏にも出て。傾いている分調子悪いよね、って言われたりする。それがいい加減ダサいなと思って…。当たり前ではあるんですけど、なかなか気づかなかったんですよね。だからセッティングだけはちゃんとしておこう、納得できるまでやろうって毎日意識してます。

──「形から入る」ではないけど大切なことですよね。ドラマー、講師、ナビゲーターと様々な顔を持つ美秋さんですが、客観的に見てご自身をどんなプレイヤーだと思いますか?

めちゃくちゃ難しい…。でもドラマーとして言うなら「可愛い」よりかはクールな印象を持たれていたいですね。淡々としてるというか。動画も誰かに撮影してもらうってなったら「あまり可愛い感じにしないでください」って注文してます、顔も別に映らなくていいし。あとはできるだけ名前を覚えてもらいやすいような動画にしてくれたら。笑

──先ほどの演奏姿からも、美秋さんの理想のドラマー像が垣間見えたような気がします。今後も講師として、またドラマーとして経験を積んでいくことと思うんですが、ドラムという1つの楽器を通して美秋さんが「表現者」として最も伝えたいことを教えてください。

大まかに言うと、曲聴いて良いなとか、ライブ楽しかったなとか言ってもらえるようになりたいですね。一番最初にパッと聴いた時に「ドラムが良かった」というより「曲が良かった」って感じてほしい。今後6年間くらいは地盤固めの期間にしようと思っていて。色んなバンドに入ったり、講師の経験を積んだりして自分の実力に自信を付けるための時間に充てようかなと。この先6年ぐらいが自分の中では一番自由の利く期間だとも思っているので…。そこを目指してこの先もしっかりドラマーとして力を付けていきたいなと思います。

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PROFILE

美秋

小学3年生からマリンバを始め、中学では吹奏楽部で打楽器を担当。中学3年生の頃、ドラムを始める。高校卒業後は甲陽音楽学院に進学。ジャズや音楽理論についても深く学び、現在は活躍の拠点を東京に移しながら精力的に活動している。

Twitter:@dr_tatakuyo
Instagram:@urya_dr
HP:https://drummermishu.crayonsite.net/

翳目