【インタビュー】有閑のサウンドを奏でるやんごとなき集団──Palastlebenは何を企むのか?
ドイツ南部のとある宮殿。有閑階級の余裕と威厳を携えた、高貴かつ何やらキケンな香りを放つ奴らが集い、ワインを片手に下界を眺めている──このバンドには、そんな優雅なイメージがピッタリだろう。
Palastleben(パラストレーベン)と名乗る集団は、マリアンヌ東雲(Vo. Syn. / キノコホテル)、Shinpei Mörishige(Gt. / FOXPILL CULT etc.)、竹内理恵(Sax. / PANTA&黒い鷲 etc.)、ハセガワスズナ(Ba.)、Shintaro(Dr. / MUNIMUNI etc.)という、それぞれに華麗なるキャリアを持った5名が構成している。
去る4月28日、Palastlebenは初の音源「Monaural / Danse.Karma」をドロップ。6月上旬頃にもリリースを予定している。ニューウェーヴやポストパンクをベースにオリジナリティを加えたサウンドは、思わず身を捩りたくなるほどクールだ。「Monaural」は映像も公開され、宮殿の暮らしぶりを垣間見ることができる。
彼らはきっと、この先も良からぬことを企んでいるに違いない。その腹の中を探るべく、マリアンヌ東雲、Shinpei Mörishige、そしてShintaroの3名に、畏れ多くもたっぷりと話を聞くことができた。
インタビュー/文/写真=對馬拓
華麗なる5人衆、あるいはMörishigeの苦悩
──Mörishigeさんは以前のソロ・インタビューで、Palastlebenの結成について「マリアンヌさんに声をかけてもらった」と仰っていました。他のメンバーもマリアンヌさんの主導で集まったのでしょうか?
マリアンヌ東雲(Vo. Syn.):取っ掛かりとしてはそうですね。ちょっと力を抜いて純粋な気持ちでバンドを楽しんでみたいと思って。元々やっているバンドで色々あった時期でもあり…。笑 それで、知り合いの人たちを集めて何かやろうと。でもリーダーになる気は全然なくて、ワタクシはただの言い出しっぺなだけ。Shintaroくんを連れてきてくれたのはMörishigeよね?
Shinpei Mörishige(Gt.):僕ですね。
マリアンヌ:ドラムだけ、ちょうどいい方がなかなか見つからなくて。
Shintaro(Dr.):自分以外のメンバーはもう集まってたんですよね?
Mörishige:そうだね。最後のピースがShintaroかな。
マリアンヌ:(Shintaro以外が)集まったのが2020年の2月くらい?
Mörishige:そう、コロナがジワジワとエンタメを侵食してた頃。5人全員の顔合わせは外飲みだったんだよね。野外レイヴ。あれはもう7月とか8月で、バンドをやるって決まってから5ヶ月くらい何もできてなかった。
マリアンヌ:とりあえずバンドを始めたいと思ってメンバーを集めたものの、コロナ禍になって全然動けなくてね。スタジオに入るのも憚られる状況だったから「どうしましょう?」って。でも夏になってMörishigeがShintaroくんを呼んでくれたから、顔合わせでパーッと飲んで。その時に「ワタクシの性誕祭で何かやりましょう」って決まったの。

マリアンヌ:毎年ワタクシのお誕生日(12月)に新宿LOFTで性誕祭を開催してまして、当初はキノコホテルの単独の予定だったんですけど、色々事情があってバンドを一つ呼ばないといけなくなってしまったんですよ。だからそこに向けて(Palastlebenで)何かやろうって。ほら、本番が決まればみんな動くじゃない?
Shintaro:それでスタジオに入ったんでしたね。
マリアンヌ:うん。だからShintaroくんが加入するまで全く動きはなかった。
Mörishige:飲み会はやってた。笑
一同:笑
Mörishige:だから、5ヶ月もドラマーが決まらないままだったし、その頃は(コロナの影響で)ライブっていう文化が消え去ろうとしてた時期だったから、「出鼻くじかれたね」って思ってたんだけど。デビュー・ライブも「無観客配信かな?」って。
マリアンヌ:そういう話もしたわね。
Mörishige:でも頭の中にはずっとShintaroの存在があったから、声をかけてみようとは思ってて。ただ(Palastlebenの)明確な動きがなかったから、バンドの立ち上げから声をかけるまで時間がかかったんだけど。

Mörishige:そもそも最初はオリジナル曲をやるって思ってなかったの。カヴァー・バンドかな、くらいの気持ちでさ。そういうコンセプトも最初はちょっとあったよね?
マリアンヌ:ううん、なぁんにも決めてなかった。
一同:笑
Mörishige:でも、僕が曲を作るなんて思ってなかったから…。笑
Shintaro:そういえばそんなことも言ってましたね。
マリアンヌ:あ、そう?
Mörishige:どうせ覚えてないんでしょ。笑 ほら、マリアンヌさんのソロ曲とかやったじゃん、最初の頃のライブで。だから僕はキノコホテルの曲とかその辺を中心にやっていくもんだと勝手に思い込んでて。でも「何言ってるの、オリジナル曲やるわよ」って言われてさ。笑
マリアンヌ:まあそれで、なんとなくMörishigeが曲を書いてくれるように仕向けて。
Mörishige:苦笑
マリアンヌ:それでちゃんと作ってきてくれたから、そのままオリジナル曲が増えればそれをメインでやっていけばいいと思ってたし。初めのうちこそワタクシのソロ曲で数合わせしていたけど、案外順調に曲が増えていきそうだったから、とりあえずMörishigeくんを褒めて伸ばして…。
Mörishige:いやぁ…褒められたかな……?笑
マリアンヌ:それで曲をたくさん書いてもらってね。
Mörishige:でもさ、全員共通のルーツがあるバンドじゃないし、元々活動してる場所もバラバラの5人だから、最初は曲を作るにあたって(メンバーに)好きなものをヒアリングしたいなと思ってて。
マリアンヌ:でも、程なくしてそんなことしても無駄だって気付かなかった?
Mörishige:気付いた。笑 ヒアリングしたところで、どこにも着地しないなって。それぞれのルーツ、今でも分かってないからね。
──曲を持ってくるのは、基本的にMörishigeさんなのでしょうか?
Mörishige:最初はそう。途中からマリアンヌさんも持ってくるようになったけど。
マリアンヌ:それで曲を持ってきてくれたから、「じゃあワタクシが歌詞を書いてあげる」って言って。今は英語だけど、最初は日本語の歌詞を書いてた。
Mörishige:そうそう。だから、初めてリハに入ったのが2020年の9月とかなんですけど、そこから今に至るまでのトライアンドエラーが多いんですよ。最初の音楽性とは全然違う。まとまり始めたのって最近かな。
──かなり紆余曲折があったんですね。
マリアンヌ:むしろ今回のリリースを経て、また変わっていくと思う。それも面白いなって。そもそも本人たちが「Palastlebenってなんだろう?」って思いながら始めたから、やっていく中でだんだん分かってくるっていう。そういう過程をあえて見せるのもいいんじゃないかと。
──リスナー側としても、そういう変化を楽しめるのは良いですね。
マリアンヌ:それこそ最初の頃、Mörishigeは何も分からない中で曲を作ってくるから、もうMörishigeの趣味全開で。「これは嫌」とか言って彼を凹ませたり。せっかく作ってくれたのにねえ?
Mörishige:ね? 全然褒めてないでしょ?笑
マリアンヌ:いい歌詞を書くためにも、思ったことは言わないと。
Mörishige:そうだねえ。だから、まず10曲くらい作ってタイプをそれぞれ分けて、これはメンバーのモチベーションを引き出せるか?というラインを見定める。メンバーのやりたいこともそうだけど、まず第一に、ヴォーカル、キーボード、ギター、ベース、ドラム、サックスっていう編成にハマるサウンドってなんだろう?って考えて。最初の頃はそれを意識しすぎてたかもしれない。
Shintaro:まあまあ顔色を窺ってましたよね?
Mörishige:窺ってた。笑
マリアンヌ:でも口出しされるより、リアクションがない方がよっぽど嫌じゃない?
Mörishige:まさにそう。パッと作ったデモの曲に思い入れはないし、「違うな」「つまんないな」ってなったら、じゃあこれはちょっと置いといて、もっと楽しそうなやつをやろうよ!ってなる。思い入れは、みんなで楽しくやって初めて生まれるからね。楽しいことが一番で、あくまで演者本意でやりたいバンドだから。でも今言ったことと矛盾するのは、僕が一番楽しんでない。笑
一同:笑
マリアンヌ:そうなの〜?笑
Mörishige:でも、僕はみんなの笑顔が見たいからさ…。
マリアンヌ:何それ?! なんかイラッとくる。笑
Mörishige:このインタビューを読み終わった時、みんな僕のこと好きになっててくれたら報われるんだけどな!
マリアンヌ:Mörishigeが一番楽しんでるもんだと思ってたけど?
Mörishige:いや、もちろん冗談だよ。笑 多分なんだかんだで一番楽しんでるかもしれない。笑

マリアンヌ:でも、そうやって曲に対してああだこうだ言えるのは、バンドとしてはすごくポジティブな状態だと思うの。…一番口出しする人間が言うな、って話ではあるけど。
Mörishige:そうね。笑
マリアンヌ:でも過去の音楽人生を振り返ると、そういう雰囲気が作れずにバンドに対してイライラした経験があるから。こちらが作ってきたものに対してネガティブなことを言われたら、イラッとはするかもしれないけど…いや確実にしますけど。笑 でもノーリアクションより絶対良い。なんのリアクションもなくて、「これで本当に良いと思ってるわけ?」っていうのが見えてこないと、バンド活動って本当に楽しくなくなる。だから、そういうやり取りができるうちが華。
Mörishige:それは本当にそう。主体性があって、自分も楽しもうとしてるからこそ違うものに「違う」って言ってくれる。そういうことだよね。
マリアンヌ:そうなると、バンドの方向性みたいなものを統一したくなってくるんですよ。だから(デモで上がってくる曲が)「アリかナシか」っていう判断は絶対必要だと思っていて。全部をみんなで「いいねいいね!」って言って上手くいくとしたら、それってすごいマジックなんですよね。でもそういうことって基本的にないので。
救世のドラマー、Shintaroの面目躍如
Shintaro:それで、責任を分散させる意味で、自分が曲作りの現場に呼ばれるっていう。笑
Mörishige:最初は一人でギターやピアノと向き合って作曲してたんだけど、実際に演奏するプレイヤーの意見も聞きながらやらないと煮詰まってくるんだよね。しかも僕はリズム・セクションが特に苦手だから、もうShintaroを曲作りの段階から呼ぶしかないと思って。そしたらすごくスムーズに進んでさ。二人で音出しながら、楽器を持ちたての中学生みたいなやり方に立ち返って。笑
──原点回帰。
マリアンヌ:ワタクシ含め他のメンバーにも何も言わないで、いつの間にか二人で密会しながら作ってたことが判明して、「偉いじゃない!」と思って。
Mörishige:効率も上がったし、自分だけでは絶対にできなかったものができるようになったよ。僕一人だったらもっとドラムのパターンも平坦になってたと思うし。
マリアンヌ:確かに「Monaural」はドラムの視点も入ってて、ギタリストが一人で作るタイプの曲ではないかも。
──個人的にも「Monaural」はドラムがとても印象的でした。特にアウトロが良かったです。
Shintaro:ありがとうございます。中々攻めたドラム・フレーズを繰り返してます。
Mörishige:まず「自分たちがやってみたいことをやりたい」っていう気持ちがあったから。もちろん聴いてくれる人にも届けたいですけどね。
マリアンヌ:「Monaural」は比較的最近できた部類よね。歌詞が英語なのはどの曲から?
Mörishige:「NEW ORDER」かな。あれもセッションで作った曲。
マリアンヌ:あの辺りからPalastlebenの纏ってる気配がようやく見えてきたというか、なんとなく良い方向に軌道を持っていけそうな予感がしたかも。ワタクシ英語は全然喋れないので、個人的に英詞の採用は結構な決断だった。
Mörishige:そこから僕の中で「四つ打ちブーム」が始まったんですよ。笑 それまでは本当にシンプルなビートロックとか8ビートのニューウェーブが好きだったんだけど、「ドッ、ドッ、ドッ」っていう四つ打ちをベースに曲を作る頭に切り替わって。だから「NEW ORDER」の時点で今の方向性を作れてたのかもしれない。
マリアンヌ:でも今回は2ヶ月で2曲ずつ、計4曲が配信されるけど、なんだかんだその半分はワタクシの曲よね。
Mörishige:そうだけどさ、すぐそうやって自分の功績を言おうとする!笑
一同:笑
マリアンヌ:Mörishigeの頑張りは結構言ってるけどさ、ワタクシも認めてもらいたいし。笑

──今回は、4月28日に初音源として「Monaural」と「Danse.Karma」、6月上旬頃には「Neon Escape」と「NEW ORDER」がそれぞれ配信されますよね。
マリアンヌ:もうすぐじゃない?(※取材日は4月中旬)
Mörishige:そうなんだよ。超バタバタでリリースの準備とかやってるんだから!
マリアンヌ:雑務、頑張ってるわよね。
Mörishige:マジで雑務大臣だよ。笑
一同:笑
Mörishige:そういう愚痴とか言い始めたらインタビューが超長くなっちゃう。笑
マリアンヌ:いきなり(Palastlebenの)初インタビューで愚痴。笑
Mörishige:バンドのグループLINEに「MVできたよ」って送っても、みんな返事がスタンプだけで少し寂しかったり。まあ良いんだけどね。笑
マリアンヌ:だからワタクシは「Mörishigeがナルシスティックすぎてみんな引いてるんじゃない?」ってフォローしたわ。笑
Mörishige:やっぱりさ、お客さんよりも先に「メンバー」っていうハードルを超えなきゃいけないんだ?!っていうことを思い知ったよ。笑 もちろん「メンバーを納得させたい、楽しんでもらえるものを作りたい」って強く思ってるけど!
マリアンヌ:でもそういう意味では、ワタクシとMörishigeみたいにこだわる人がいて、中立で意見を言ってくれるShintaroくんがいて、今日は来てないけどハセガワスズナ(Ba.)さんと竹内理恵(Sax.)さんは割と委ねる感じで、みんな性格が違ってバランスが良いんですよ。全員がワーワー言ってたら大喧嘩になるから。一番平和な塩梅。
Mörishige:そして、僕はなんでもやらされるという。笑
一同:笑
Shintaro:僕はここまで曲作りに加担するとは思ってなかったですね。
マリアンヌ:Shintaroくんはジュエリーの仕事もしてて、元々「モノを作る」っていう感覚を持ってる人だから、作曲チームに入ってもらった方が良いんじゃないかって。アートワークもやってもらってるし。

1st Single「Monaural / Danse.Karma」アートワーク
Shintaro:マーチとかも自分がやってるんですよ。
──ヴィジュアル面の担当なんですね。
マリアンヌ:Tシャツを作ってくれたり。バンドのロゴとかも。
Mörishige:バンドによるとは思うけど、僕が今まで関わってきたバンドでは音程を弾く楽器とかヴォーカルとかに比べると、ドラマーはソングライティングから一歩引いてることが多かった気がしてさ。でもShintaroはドラマーの中でも独特な感性を持ってるから、新しいエッセンスを取り込んで曲にできてるし、すごく頼りになるんだよね。
──事実、「Monaural」みたいにそれが結実してるわけですからね。
Shintaro:「Monaural」のセッションは楽しかったですね。貴族(Mörishigeの愛称)が思い描いてるドラム・フレーズを再現したりとか。
Mörishige:そのパターンも「ああいう感じで…」って抽象的に伝えたりして。
マリアンヌ:どうやって伝えるの? 「口ドラム」みたいな?
Mörishige:そう! 「ドドツターン!」って。笑
Shintaro:でも、それで実際に再現しても、貴族が思い描いてたドラム・フレーズとは違うケースもあったと思うんですよ。
Mörishige:それが良いんだよ! だって、思い描いてるフレーズをそのまま再現できるなら、僕がPCを使いこなせればそれで済んじゃうんだから。100%にはなるかもしれないけど、120%には絶対ならないわけじゃない?
マリアンヌ:(デモを)打ち込みで作り始めちゃうと、いっそ(生楽器をなくして)全部打ち込みでいいじゃないか、ってことになりがちで。…そんなワタクシは全部打ち込みで作るんだけど。笑
一同:笑
Mörishige:でも僕とマリアンヌさんは全然タイプが違うから。僕は自分の不完全な部分をそれぞれのプレイヤーのアイデンティティで補完していくイメージかな。
マリアンヌ:だから、Palastlebenの作曲の手法は理想的なんじゃない? ハイブリッドで。
Mörishige:まあね。本当は「Mörishige帝政」を敷きたいんだけどね! でもそうもいかないですね。実力不足です。笑
──外野からすると、こういうバンド内のパワーバランスが垣間見れるのは興味深いです。笑
Mörishige:もう僕は最底辺です。笑
マリアンヌ:そうなんだ? じゃあそう扱うわ。笑
Mörishige:既にそう扱われてます。笑
マリアンヌ:何を仰いますか。笑 だから「Monaural」のMVはMörishigeのナルシー全開でお任せしたじゃないですか。
Mörishige:そういうところで僕の叛逆をね…。
マリアンヌ:倒れてるシーンは「ちょっとキモい」って言ったけど。
Mörishige:うるさいよ!笑
マリアンヌ:あと、ロケーションはすごく良かったですね。場所は内緒にしておいてください。どこかの岬、ということで。
マリアンヌ:サビついてる感じが、モノクロにするとかっこいい。実物はまあ、潮風浴びまくっているのでそれなりに…だけど。笑 撮影も夜中からスタンバイして日が昇る頃から撮り始めて。まだ3月だったから、とにかく寒かった…。
Mörishige:かなりタフな撮影だったね。
マリアンヌ:もっと着込んで行けば良かったんだけど、厚着で映りたくなかった。だんだん顔が死んでいくのが分かったもん。
一同:笑
Mörishige:実は僕、あれが1曲目でMVも作る曲になるとは思ってなかったんですよ。B面のつもりだったから。
マリアンヌ:でも「Danse.Karma」こそB面じゃない? だから「両B面シングル」ということで。
Mörishige:PalastlebenはB面バンドなのかもしれない。B系。笑 …というのも、さっき言ったように最初はメンバーを納得させることに囚われすぎて、当たり障りのない曲ばっかり作ってて。「みんなが思うA面曲」とか「バンドを代表する先行曲」っていうのが分からなくてさ。かといって、バンドの明確なコンセプトもないし。
Mörishige:だから、マリアンヌさんに対して「どういう感じの曲がやりたいのか分かんないから、まず1曲作って提示してほしい」ってなったタイミングがあったんですよ。それで「分かったわよ!」って言ってやってくれることになって。それで「よし!」って肩の荷が下りて、自分の趣味に走ろうと思って。笑 僕が元々やりたいと思ってたのはシングル向けじゃなくて「アルバムに入ってる、キラーチューンじゃないけど良い曲」だったから、それで作ったのが「Monaural」とか「NEW ORDER」で。だからビートがすごく速いわけでもないし、ドラムも変則的で、めっちゃ歌モノってわけでもないんだけど、レコーディングで歌が入った途端、一気にグッときて。
マリアンヌ:MörishigeとShintaroくんで曲の枠組みは決めてくれるんだけど、歌の旋律はワタクシが作ってるわけですよ。歌詞にしても英詞なんて書けないから、まずMörishigeに一番だけ書いてもらった上で、ワタクシが二番を書いてメロディも付ける、っていう順番で。だから歌が乗る前と後では印象が全然違うんだろうなって。メロディ、全部ワタクシが考えてるからね?
Mörishige:いや、歌詞は僕が考えてるからね?!
一同:笑
Shintaro:確かに、デモ段階の「Monaural」はB面感があったかもしれないですね。後にキラーチューンっぽくなる印象の曲ではなかった。
マリアンヌ:結局キラーチューンになったの?
Mörishige:僕はそう思うよ。印象的な曲になったと思う。ミックスもすごく気に入ってる。無駄を削ぎ落としてシンプルかつ繊細で。
マリアンヌ:でも化けたかと言えば、すごい化けた。
Shintaro:だから陰で貴族と「マリアンヌさんすげえな」って言ってる。笑
一同:笑
マリアンヌ:ほら、やっぱりShintaroくんは分かってくれるし、空気を読んでくれる!笑 ワタクシとMörishigeはもう、自分の功績ばっかり語りたがるから。
Mörishige:「自分はここからここまでやった」ってね。いつか、お金で喧嘩するくらいにはなりたいですね。笑

──ところで、Palastleben(パラストレーベン)というバンド名についてですが、これはドイツ語ですよね。どなたが付けたのでしょうか?
Mörishige:マリアンヌさんですね。
マリアンヌ:そう。「◯◯レーベン」って良いなと思って。「レーベン(leben)」って「暮らし」とか「生活」って意味で(※英語の「life」にあたる)、「◯◯レーベン」っていうのは不動産仲介業者とか住宅系の会社から何となく得た語感なんですけど。パラスト(palast)」は「宮殿」って意味で、リッチな感じがして良いじゃないですか。まあ語感ですね。ドイツ語ならかっこいいだろう、っていう。
Mörishige:安易だねえ!
マリアンヌ:みんな大体ドイツ語好きでしょ。しかも、Mörishigeもそこに乗っかってるんだからね。
Mörishige:そうでした。笑
Shintaro:で、ステージドリンクはワインっていう。
──そうなんですか?!
Mörishige:そうそう。でも歌詞は英語っていうね。笑
一同:笑
Mörishige:そこはドイツ語じゃないんだ?っていう。
引き算のアレンジ、サックスの有機的躍動
──Palastlebenにはサックス奏者の竹内理恵さんが在籍していますが、サックスありきで作曲を進めるという点において、これまでの音楽活動で作曲にあまり関わってこなかったMörishigeさんにとっては、特に難しい部分も多かったのではないでしょうか?
Mörishige:難しかったし、今でも難しいですね。しかも、サックスは和音を出す楽器じゃないっていうのが、ギターとか鍵盤とは勝手が違うところで。
マリアンヌ:ホーン・セクションならまだしも、サックス一本ですので。
Mörishige:Palastlebenでは「引き算」で曲を作っていきたいんですよ。バンド名もあって、宮殿っぽくて高級感のあるサウンドを想像するかもしれないけど、5人の音しか鳴ってないようなサウンドが理想で。だから少なくともギターのフレーズに関してはあんまり前に出ないように引き算で作って、自分のアイデンティティはギター・プレイではなくソングライティングの方で出すようにしてます。
──その「引き算」っていう感覚は、実際に聴くと分かる気がしますね。均整が取れているというか。
マリアンヌ:ワタクシが曲を書く場合も、ギターは基本的にペラペラで、カッティングがメインで良いや、っていうスタンスで。ウワモノが多いからキメキメのギター・ソロもそんなにいらないし。「各パートがなるべくシンプルに」っていうのが肝。でも、いきなり「サックスが入ったバンド・サウンド作って」って言われて実際に作ったMörishigeって、ガッツあったわよね。笑
Mörishige:でもサックスって、実際に吹いてもらうのと鍵盤で打ち込むのとでは、すごい差があるのよ。人間の息で鳴らしてるから、有機的でフリーキーな楽器でさ。鍵盤とかギターって触れば鳴るから分かりやすいけど、実際の想定ができなくて。
マリアンヌ:サックスの打ち込みはすごく難しい。まず吹けないし音域すら知らないし。笑
Mörishige:だから僕が土台を作る曲に関しては、サックスのフレーズはあんまり決めないで即興性を重視してるかな。

マリアンヌ:サックスにしても、引き算していくことが多い。ひとまず自由に吹いてもらって、「ここはやっぱりなくて大丈夫」って部分は削って、最終的に大切なところだけ残す。最初はMörishigeも「サックスを活躍させなきゃいけないんじゃないか」っていう気持ちが強かったみたいで。でも毎曲毎曲にがっつり入っている必要もない、ということにだんだんみんな気付いていった。曲を作る中でその差し引きの加減も分かってきて。
Mörishige:うん。竹内さんもセッションの中で自分らしいアプローチを見つけてると思う。
マリアンヌ:そうね。元々、即興とかセッション畑の人だから、その場での臨機応変なフレージングを初めから期待している部分はある。
──特にマリアンヌさん作曲の「Neon Escape」は、サックスの激しめなフレーズが印象的ですね。
マリアンヌ:自分がデモを作る場合は「嘘っこサックス」をとりあえず打ち込みで入れて、なんとなくフレーズを決めておくことが多くて。あとは竹内さんの作ってきたフレーズと合わせて、いいとこ取り。ただ、一つのサックスでは音域的に難しい部分もあるから調整が必要。実は「Danse.Karma」のサックス、後から録り直してるんですよ。もうちょっとワタクシのデモに近付けてほしいと思って、本人にお伝えして差し替えました。だからケース・バイ・ケースよね。
Mörishige:サックスって、音の質感に一番パンチがあるんですよ。アンサンブルの中でも音の立ち上がり方にパンチがあって、印象的であると同時に、歌メロの聴かせ所にぶつかりやすい。
マリアンヌ:歌との絡め方も難しい。いわゆるホーン・セクションとソロの管楽器って役割がまるで違いますから、もうセンスと経験あるのみ。Palastlebenにおけるサックスは飛び道具的な立ち位置でもあるので。
Mörishige:サックスって感情的な楽器じゃない? エレガンスや狂気、歪さもあって、人間味があるし。でもPalastlebenは音色的にも色彩的にも「低体温感」っていうのを意識してるから、そこをセッションで上手く作っていく。竹内さんのサックスはPalastlebenの個性の一つだと思うし。
──今後もサックスのアレンジがどう生きてくるのか、非常に楽しみですね。そもそもバンドのコンセプトも決まっていないので、サウンド自体もどう転がっていくのか。
Shintaro:どうなっていくんでしょうね?
マリアンヌ:こうして作品として形になったことで初めて見えてくるものだらけですね。次は全く違うものを作ってみたいし。
Mörishige:今までのサウンドに区切りを付けてね。
マリアンヌ:今回は今回で手応えを感じてるし。これまでの経緯を考えるとよくぞ着地した、という心境。
──コロナ禍で準備期間を多く取れたことで良いスタートを切れた、という面もあったりしますか?
マリアンヌ:しっかり準備ができた反面、時間がありすぎてなかなかエンジンがかかりませんでしたけど。でも音源なくしては何も始まらないので、まずはリリースできて良かった。実はまだ初ライブ(2020年12月の性誕祭)から2年経ってないし。意外とそんなもんなんだ、っていう。
Mörishige:その辺の感覚は独特だよね。コロナ禍でスタートしたバンドだから、どうしてもスタンスが独特にならざるを得ないよね。
マリアンヌの新たな扉、それぞれのニュートラルな距離感
──みなさんはそれぞれ別のバンドでも活動していますが、その経験がPalastlebenに還元されたり、作用しているものがあったりするのでしょうか? 特にマリアンヌさんは、キノコホテルとは全然やられていることが違う印象で。
マリアンヌ:なるべく違うことをやりたい気持ちがあるんですよ。それに、元々キノコホテルでやりたいと思いながら躊躇していたような音像や世界観をPalastlebenに持っていけるようになったから、自分の好みを上手く分散できています。それこそがバンドを2つやることの意義になってるし。Palastlebenは酒を飲みながらダラダラできるから。笑 そういう意味でも全然違うバンドなので、メリハリがつくし上手くスイッチングできてる。両方があるからこそ、両方を楽しめてますね。
──結果的にですが、英語で歌っているのも大きな違いですよね。
マリアンヌ:「流暢に操れない言語で歌う」ということに長年懐疑的な人間でしたから。チャレンジというか、実験の場ですよね。だから発音もまあ、ひどいもんです。笑 でも、それもPalastlebenの特徴の一つということで。

──キノコホテルでのマリアンヌさんは、よりキャラクターを作り込んでいる印象もあるので、そういった違いもあるのかなと。
マリアンヌ:(キノコホテルは)ほぼ素ではあるんですけど、ヴィジュアルにすごく制限があるんですよね。「制服とヘアスタイルとメイク」っていう雛形があって、そこからはみ出せないっていう、自分で自分に課した鉄の掟があるので。それを15年やってるんですけど、楽しい反面、縛られてる自分にだんだん嫌気が差してくるわけ。笑 だからPalastlebenをやることで精神衛生を保ててる。それでキノコホテルも頑張れるし。
──いい相互作用が働いていますね。Mörishigeさんはどうでしょう?
Mörishige:ちょうどPalastlebenを始めるタイミングで、FOXPILL CULTの活動を休止せざるを得なくなったんですよ。ヴォーカルの大怪我とか色々あって。笑 だから運命の巡り合わせ。同時進行だったらこんなにソングライティングもできなかっただろうし、そんな器用なタイプでもない…いや、器用なタイプだな。できるわ。
一同:笑
Mörishige:ただ、FOXPILL CULTもその前にやってたPLASTICZOOMSも、Palastlebenとは全然違うバンドで。もちろん、FOXPILL CULTのサウンドは自分の中に染み付いてるし、僕がいた頃のPLASTICZOOMSは特にニューウェーヴを意識したサウンドだったりして、同じ人間がやってることだから今も自然な形でエッセンスとして出てるとは思うんだけど…。うーん、特に意識的に繋げてる部分はないかな。だから僕もマリアンヌさんと同じで「やってきてないことをやりたい」っていう気持ちが強い。でもそれは、やってきたことの否定にはならないからさ。心機一転って感じ。聴いてくれた人が自然な形で過去の作品との共通項を見出してくれたら嬉しいな。
マリアンヌ:今までやってこなかったけど「昔からずっとやりたいと思ってる別の何か」って、人間誰しもあると思う。ワタクシの場合、それに気付いていながらあえて向き合ってこなかったんだけど、そこに疑問が湧いてきて。ならばやった方がいい気がして。
Mörishige:僕もずっと「こういう曲があったらいいな」っていう自分の理想がなんとなく頭の中にあって。というのもさ、誤解を恐れずに言うと、今までのバンドはもちろんすごく楽しかったんだけど、自分の中で完璧に「ピタッ」ってハマるものを目指していたわけではなかったんだよね。むしろ違和感を楽しんでた。自分が先頭に立ってソングライティングしてたわけでもないから。そんな中で、不思議と(作曲を)やらせてもらえるタイミングが来てね。まあ、誰とは言わないけれど想像以上にメンバーが面倒臭くて、思ったようにできてないんだけど。笑
一同:笑
Mörishige:もちろん、Palastlebenは自分のソロ・プロジェクトじゃないしリーダーでもないからさ。僕はそもそも最底辺のメンバーだし。でも、結果的には理想としてたサウンドになってる気がするね。
──めちゃくちゃいい話じゃないですか。
マリアンヌ:ね、良かったじゃん。
Mörishige:食い気味に「良かったじゃん」って。笑 でも、すごく楽しいですね。
マリアンヌ:それが続くといいね〜。
Mörishige:いや〜、ちょっと限界が…とか言って。笑
──このテンションが続くなら、今後も良い作品ができていくのではないでしょうか。
Mörishige:そうだと思いますよ、ほんと。

マリアンヌ:Shintaroくんはどうなの? 色々なバンドでドラム叩いてるけど。
Shintaro:Palastlebenほどがっつり曲作りに加担してるバンドって、他にないんですよね。メンバー全員で曲を作ってたりするバンドはあるんですけど。新鮮味があって楽しいですね。
マリアンヌ:面白いよね。Shintaroくんは曲作りに参加するのが初めてで、Mörishigeは自分で曲を作るのが初めて。ワタクシの場合は分担して曲作りするのがほぼ初めてで、3人それぞれの「初めて」がある。
──それぞれがキャリアを積んできた上で、初めてだったり新鮮なものを感じられるって、とても素晴らしいですし、決して簡単なことではないと思うんですよね。
マリアンヌ:曲作りを誰かに任せることができるようになったんですよね。Palastlebenは民主制で、「リーダーは誰だ」とか「誰かに従わなきゃいけない」という雰囲気にはしたくなかったので、当初の目論み通りに進んでる気がする。
Mörishige:Palastlebenが自分にとって優先順位が一番高いバンドとして始まってたら、譲れない部分とかメンバーに求めるものが多すぎて、きっと今みたいな状態にはなってなかったと思うんですよね。みんなニュートラルな距離感を持ってるのって、それぞれ他の活動があるからなのかなと。
マリアンヌ:きっと悪い意味での必死さがないんじゃないかと。
Mörishige:絶対的なコンセプトがなくて、それぞれが伸び伸びとやりたいことをやっていこう、っていうバンドだからね。必死になってやりたいことよりもやるべきことを優先したら、売上とか動員は良い方向に行くかもしれないけど、Palastlebenはそれを一番に置いてないから。
マリアンヌ:それでもなんとなく方向性は見え始めてるから、だったらこのままやっていけばいいし。「みんな楽しく」を優先した結果、取り止めもない感じになるのは嫌だけど、そうはならない気がする。
Shintaro:肩入れしすぎると飽きたら嫌なので、程良い距離感で続けたいですね。
Mörishige:家族とか恋人みたいに求めすぎると、絶対に息苦しくなってきちゃう。そこはディスタンスが大事ですよ。
──せっかく新しいバンドを始めたのに、苦しくなってしまったら元も子もないですしね。
Mörishige:そうだねえ。
Shintaro:まあ、そもそもメンバー各々が忙しいのでね。笑 でも、貴族は今Palastlebenだけですよね?
Mörishige:うん。まあ、駆り出されればどこへでも…なんか便利屋みたいだな。笑
一同:笑
マリアンヌ:MörishigeはしばらくPalastlebenを頑張る時期ということで。掛け持ちのメンバーだらけだと続かないし。ほら、ハセガワさんも今はフリーじゃない?
Mörishige:ハセガワさん、プレイヤーとしてすごく堅実だよね。良いリズム・プレイヤーだと思ってる。
Shintaro:うん、ベース上手いですよね。
マリアンヌ:真面目で良い子。ちょっと真面目すぎることもあるけど、ああいう子がバンドに一人いた方がいい。…でもねえ、みんなもっと成長できると思うの。「Danse.Karma」のレコーディングなんか、みんな全然できてなくて上手くまとめるの大変だったんだから! ギターのカッティングとか酷かったわよ。笑
Mörishige:うるさい。笑 認めるけど。
マリアンヌ:「みんなもっと練習してよ!」って思ってた。よく聴くと微妙にズレてたりするし。ああいう曲が案外難しいの。エンジニアさんがめちゃんこ頑張ったと思うわよ、本当に。ギター・カッティングは今後の課題だからね!
Mörishige:おかげで、自分とは思えない仕上がりになったよね。ていうか僕、ギター下手なんだよ。笑
──本当ですか?!
Mörishige:レコーディングになると特に粗が出る。笑
マリアンヌ:まあワタクシも人のこと全く言えないんですけど。なにせ雰囲気で押し通してきた人間だから、レコーディングで苦しむんですよ。でもPalastlebenが目指そうとしてるジャンルとか音楽性って、ギターが本当に大事。この壁を超えたらMörishigeはギタリストとしてもっと成長できると思うわよ。
Mörishige:そう思う。裏方のギターってあんまりやったことなかったの。今までは単音で「ギュイウイウイ〜〜ン」ってやってれば良かったけど、Palastlebenではその役目はサックスがやってくれるからね。
──個人的にも「Danse.Karma」は好きです。Taliking Headsっぽさもあって。
Mörishige:ああ、そうだね!
マリアンヌ:ちょっとふざけた曲が欲しいと思って。「クールで陰鬱で美しい」ばかりを追求するとゴスっぽくなってしまいそうだったし、「抜け感」というかある種の「パーティー・バンド感」も、Palastlebenの側面として絶対必要で。ただ真面目なだけのバンドは面白くないから、ああいう曲がちょこちょこあると良いアクセントになる。それで「Monaural」が1曲目に決まった時に、じゃあ2曲目はその対極にあるようなものをぶつけたい、と思って「Danse.Karma」になりましたね。
──なるほど。チープなシンセの音色もいい感じにハマってますよね。
Mörishige:音色のセレクト、いいよねえ。
マリアンヌ:シンセを何本も入れて音を厚くする志向性ではないから、一本入ってるシンセが非常に重要で。だから音色のセレクトは本当に難しい。
Mörishige:15年やってきて、それにようやく気付くっていう。
マリアンヌ:新しい発見というか、課題というか。ちょっと波形やニュアンスが変わったら、途端にダサくなったりするし空気感も違ってくるから、本当に紙一重なんです。
──明確な答えもないし、奥が深いですね。
マリアンヌ:奥が深すぎて。科学の世界よ、あれは。シンセって理系なんですよ。ワタクシ文系だから、理屈で捉えるのはまず無理。
Mörishige:今回のレコーディングでは、僕はギターに専念してシンセ・フレーズは全てマリアンヌさんにお任せしてるんだけど、鍵盤奏者とシンセ奏者って、実は大きな違いがあると思うんだよね。シンセで重要なのって、鍵盤を上手く弾くことだけじゃなくて、音色をシンセサイズして混ぜ合わせたりエディットして音を生み出すことなのかな、って考えてて。シンセも長い歴史があってパターンは出し尽くされてる感もあるから、聴いたことがないような音を作るのって結構大変なんだよね。
酩酊とディストピア、そしてナンセンスな詞世界
──作詞の進め方について、もう少し詳しくお聞きしたいです。最初にMörishigeさんが書いて、それを受けてマリアンヌさんが書き加える、という手法だったと思うのですが。
マリアンヌ:Mörishigeは歌詞を書く時、仮のメロディが鳴ってたりするの?
Mörishige:なんとなく、頭の中で鳴ってるよ。その方が書きやすいから。「ここはAメロ」「ここはBメロ」みたいなサイズ感もある。
マリアンヌ:ワタクシはそれを全く知らずに詞を書いて当て込んで行くんですけど。例えば、Mörishigeにワンコーラス書いてもらったら、じゃあ二番は韻を踏んで書いてみよう、みたいな感じで進めて、最終的にメロディも当てはめていく。
Mörishige:メロディに関しては間違いなく僕よりマリアンヌさんの方が上手いから、先入観なしで考えてもらった方がいいと思うんだよ。作詞に関しては、最初は出まかせで書くんだけど、気付いたら自分の内面が出ちゃったりして面白いんだよね。もちろん作詞もやったことなかったから、歌詞というよりは「文章を書く」っていう感覚が強いかな。

マリアンヌ:英語のフレーズに旋律をつけるのが面白くて。そういう経験があんまりなかったし、やってみると意外と楽しくて。英語だとメロディの自由度が上がるんですよ。今までは日本語詞で、しかも歌詞とメロディも全部自分で同時に作っていくことがほとんどだったけど。
Mörishige:僕も日本語じゃなく、むしろ英語の方が素直に思ったことを書きやすいんだよね。
マリアンヌ:ワタクシは「こんなに適当で大丈夫?」と内心感じたりしているけど。
Mörishige:いいんじゃないかな。いつも想定外のものが上がってきて面白いよ。僕の中からは生まれ得なかったと思う。
──英語の歌詞って、日本語に比べたら一つの音に対して入れられる言葉や意味が多いですよね。そういう部分も、表現の幅に繋がってるのかなと。
Mörishige:それこそ「Danse.Karma」は歌い回しのおかげで、より打楽器みたいなビート感が出てて面白いなと思いますね。
──歌詞が英語になったのは、セッションで作った「NEW ORDER」から、と仰ってましたよね。制作は具体的にどのように進みましたか?
Mörishige:Shintaroと二人でデモを密造し始めた最初の方の曲でもあるんですよね。レコーディングした中では一番古いかな。
──タイトルもかなりストレートですよね。
Mörishige:曲全体を通してのモチーフはバンドのNew Orderではないんだけど、「ダッ、ダッ、ダッ」っていう「Blue Monday」のイントロみたいな四つ打ちから始まるから、仮のタイトルで呼んでるうちにそうなっちゃった、っていう。元ネタが「Blue Monday」だって気付いてほしいな〜!
一同:笑
Mörishige:元々は2021年の8月に予定してたライブに向けて作ってて、「ドラッギーなディレイ・ギターと四つ打ち」っていう大枠のアーキテクチャーはできてたんだけど、ライブがコロナで飛んじゃってさ。ライブに向けたリハも急にやることがなくなっちゃって。それで、まだデモも聴かせてなかったんだけど、マリアンヌさんが「なんか新しいネタあるんじゃないの?」って言ってきて。笑
マリアンヌ:聞いてみたら「実は…」とか言うから、「え、何それ何それ? 聴かせなさいよ〜!」ってね。
Mörishige:「まだデモ作ってる途中なんだけど…」って言いながら嫌々出して。笑
Shintaro:「作ってる途中のデモがある」って言ったのは自分なんですよ。笑
Mörishige:そう! 僕は「何もないよ」って言ったのにさ、「Shintaro、余計なこと言うなよ!」と思って。笑 途中のデモを聴かせるのってマジで恥ずかしいんだよ!笑
Shintaro:一応スタジオで録ったやつだったんですけどね。
Mörishige:でも、僕はしらを切り通すつもりだったから、Shintaroが言い出さなかったらお蔵入りになってたと思う。笑 それで仕方なくしょぼいデモを聴かせたんだよ。そしたらマリアンヌさんの反応が意外と良くてさ。「いいじゃん、やろうよ」って。
Shintaro:自分はデモの段階でもいいと思ってましたよ。
──お蔵入りを阻止して、ちゃんと日の目を見たんですね。
マリアンヌ:だから、Shintaroくんみたいな役回りの人って大事。それに、「やっとソレっぽい路線の曲が出てきた」って思ったの。「これ行けそう!」って。そりゃあワタクシだって、「これは」って思ったものは前向きに進めていくわよ。
Mörishige:それで、もうその日のうちに割と形になったんですよ。じゃあ歌詞をどうしようかって段階になって、日本語の歌詞じゃあんまりピンとこないって話になって。
マリアンヌ:思い描いてるサウンドにハマるのが日本語じゃない気がして、Mörishigeに「なんでもいいから英語で書いて」って言って。それが始まり。

Shintaro:これ、歌詞の内容は…?
Mörishige:やったことないのにドラッグの話をしてる。笑
一同:爆笑
Mörishige:ドラッグというか、アル中とか酩酊状態みたいなイメージ。最初は特に実感のないまま書いてた。笑 でもちょっと意識したのはさ、勝手に思ってるんだけど…マリアンヌさんはアル中手前じゃん?
マリアンヌ:目下寛解中。
一同:笑
Mörishige:マリアンヌさんが入り込みやすいテーマにしたいと思って、じゃあ酒の話じゃないか?って。笑 あと、日常の写実的な話より、もっと実態がなくて脳内だけで想像するような話が面白いなと。
マリアンヌ:Mörishigeが書いてくれた歌詞も自分が書いた歌詞も、意味をよく分からずに歌ってたけど。
Mörishige:でもビート感を重視するならそれで良いんじゃない?
マリアンヌ:うん、そうなんだと思う。
Mörishige:海外の人が作る音楽って、ビート感を重視して歌詞を組み立てるって言うじゃない? 結果的には自然とそういう形になったんじゃないかな。歌詞の意味はあってもなくても良くて、言葉の羅列でいいと思うから。
マリアンヌ:意味はなくていいと思う。
──他の曲の歌詞にも、何かモチーフがあったりしますか?
Mörishige:「Danse.Karma」もそんな感じで、サイケデリックな印象。やっぱり酔っ払ってる。笑 出口のない迷路を酔っ払いが彷徨ってるような、おもちゃ箱をひっくり返したような、説明できないような世界。笑
マリアンヌ:そうね。「Danse.Karma」は「とにかくラリラリで支離滅裂な感じでお願い」ってMörishigeに伝えて。
Mörishige:「Neon Escape」もそれに近いかな。でもさっきも言ったように、自分のアイデンティティとは完全には切り離せないんだよね。完全な文字の羅列にはなりきれなくて、何%かは自分のアイデンティティが言葉選びに反映される。
マリアンヌ:作詞ってそうなんですよね。
Mörishige:実は曲のタイトルも僕が付けてて。一番恥ずかしい作業だよ。笑
一同:笑
Mörishige:曲名は記号に過ぎないと思ってるけどね。でも「Neon Escape」に関しては、「ネオン」って夜だったり、酔っ払った時に見ると脳内でパーッて開くようなイメージがあって、それと同時にアイソレーション(孤独)みたいな感覚があって。「酩酊の中で感じる孤独感」みたいなのは意識してる。

Mörishige:「Monaural」はちょっとレトロ・フューチャーな感じにしたくて、SF映画を観ながら作ったりしたんですよ。あんまり話は入ってこないんだけど、哲学的なSF映画とかをBGMにして。音楽とか映画を流して作業することが多いんですよね。もしかするとサウンドトラックを作ってるつもりになってるのかもしれない。それで、「Monaural」は人の心が冷たくなってすれ違うような、心が通わなくなってしまった未来をなんとなくイメージしていて。
──ディストピアっぽいイメージですね。
Mörishige:そうそう。それを誰かに伝えたいわけじゃないけどね。歌詞は「ぼやき」の延長線上で作ってるから。未来なんて実体はないし。
マリアンヌ:ぼやきも英語だと妙に様になる。
Mörishige:だから洋楽の歌詞とか見ても、実は大したこと歌ってないんだよね!笑
マリアンヌ:ワタクシは説明的な歌詞が好きじゃないし、具体的なことを語り過ぎたくないんです。
Mörishige:僕も好きじゃない。だから結局、実体のないテーマが直感的でいい。歌詞はトラックができた後に作ってるから、結果的にアンサンブルに影響されてる部分もある気がして面白いよね。
マリアンヌ:キノコホテルも歌詞が一番最後。歌詞はもう、仕方なく。笑 オケを作ってる時が一番楽しい。自分にとって音楽ってムードとか空気感、雰囲気なんですよ。そこはもちろん人それぞれですけど、歌詞は全然大事にしてない。ムード重視。
Mörishige:そのムードも、聴いてくれる人によって感じ方が違って面白いと思う。それぞれのムードを感じ取ってくれたら嬉しいね。
<2022年4月 原宿某所にて>
* * *
「Monaural / Danse.Karma」

「Monaural」
作詞:Shinpei Mörishige / マリアンヌ東雲
作曲:Shinpei Mörishige / マリアンヌ東雲 / Shintaro
編曲:Palastleben
「Danse.Karma」
作詞:Shinpei Mörishige / マリアンヌ東雲
作曲:マリアンヌ東雲
編曲:マリアンヌ東雲
レコーディング・ミックス・マスタリングエンジニア:
軍司健太
配信リンク:https://linkcloud.mu/3c27c036
Palastleben

マリアンヌ東雲(Vo. Syn. / キノコホテル)
Shinpei Mörishige(Gt. / FOXPILL CULT etc.)
竹内理恵(Sax. / PANTA&黒い鷲 etc.)
ハセガワスズナ(Ba.)
Shintaro(Dr. / MUNIMUNI etc.)
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對馬拓

