【インタビュー】清酒「白老 for survivor」は労働の讃酒──澤田酒造の副社長・英敏氏が愛する知多半島の風土と音楽の魅力

【インタビュー】清酒「白老 for survivor」は労働の讃酒──澤田酒造の副社長・英敏氏が愛する知多半島の風土と音楽の魅力

これまでmusitの特集記事「ALCOHOL HARMONY」では、数多くの音盤ジャケットをオマージュしたお酒を紹介してきた。音楽愛が溢れ出すラベルはヴィジュアル的にも楽しいし、その音盤を聴きながら堪能するお酒は格別だ。

記事で取り上げたものはどれも素晴らしいお酒とラベルだったが、その中でも「お猪口からブラストビート〜音楽愛溢れる日本酒ラベル〜」で紹介した、愛知県常滑市(とこなめし)の酒蔵・澤田酒造が醸す「白老(はくろう) for survivor」は特にコアかつマニアックな選盤で、印象に残っている方もいらっしゃることだろう。

今回はこの「白老 for survivor」シリーズを企画した、発酵飲料/食品とロック(とルアーフィッシング)をこよなく愛する男、澤田酒造副社長・澤田英敏さんにインタビューを敢行。澤田酒造の醸す白老の魅力とその味わいを育んだ知多半島の風土、そして澤田さんの偏愛音楽趣味をご紹介しよう。

インタビュー/文/写真=仲川ドイツ
編集=對馬拓

徳川家のバックアップによって発展した知多半島の酒造り

名古屋駅から「赤い電車」で約40分。住宅街を抜けると視界の先に突然海が広がる。そこは焼き物「常滑焼」の産地で有名な愛知県常滑市。この街に澤田酒造はある。

澤田酒造は約170年もの歴史を誇る酒蔵。常滑市の中でも知多半島の付け根部分の海沿い、セントレア空港の向かい側に位置する。お酒好きの間でもあまり知られていないかもしれないが、かつて知多半島は全国でも有数の清酒(日本酒)の生産地で、澤田酒造が創業した江戸時代には227軒も酒蔵があったそうだ。

当時の知多半島で酒造りが盛んだった理由は多々ある。まず、お隣の三河地方など原料となる米の産地から近かったこと。次に、良質な湧き水が豊富だったこと。そして、知多半島を含む当時の尾張藩は、徳川家のバックアップによって江戸までの海運が優遇されており、灘(兵庫県)など他の酒どころよりも江戸での需要にフレキシブルに対応しやすかったことも、大躍進に繋がった要因だったそうだ。

ただし、明治時代以降は清酒醸造に対する増税や戦中/戦後の原料米不足などで合併や廃業が相次ぎ、現在では知多半島の酒蔵は7軒となっている(旧知多半島であった名古屋市緑区を含めると10軒)。

白老はUKパンクに通じるブルーカラーのお酒

白老の〈白〉は「お米を白くなるまで磨くこと」に由来する。古くは「諸白(もろはく)」といって、麹米/掛米ともに磨いた(精白/精米した)お米を使うことは、雑味の少ない良い清酒を造る条件とされ、「白=良いお酒を造るためにお米を磨く、原料を丁寧に扱う」ことを表している。もう一方の〈老〉には「老練の技で真面目に酒を造る」という意味、また延命長寿や不老長寿を願う想いも込められている。

白老の味わいだが、米麹の力でしっかりと原料のお米を溶かし、濃醇な旨味を引き出したお酒が多い。それは現代の日本酒業界において主流の淡麗辛口や香り高いフルーティーなタイプとは真逆とも言える(大吟醸など淡麗なタイプや吟醸酵母を使った香り高いタイプも一部ある)。

澤田:私たちは白老の味を表現する際に〈押し味〉って言葉を使います。押してくる味、広がっていく味、という意味です。今の日本酒の世界からいうと「甘い」「重い」「余韻が長い」っていう、どちらかといえば主流ではないタイプのお酒になるんですけど、これは地元の人がむちゃくちゃ好む味なんです。

──地元の人に愛される味。白老がこの味にたどり着いたのは、この常滑の食文化や風土が大いに関係している。

まず、知多半島は豆味噌やたまり醤油など、濃い味わいの調味料が使われる食文化圏だということ。

次に、常滑市が古来から続く製陶の街だということ。現代では、昔ながらの窯焼きの職人は減少しているものの、大手製陶メーカーの工場は依然として多い。大手といえど製陶業は熱い場所での重労働なので、晩酌ではミネラル分の多いお酒が好まれる。故に白老はしっかりとお米を溶かして、旨みとミネラル分を引き出した濃醇な味わいになったそうだ。これを澤田さんは「僕の好きなUKパンクに通じるような〈ブルーカラー(=労働者)のお酒〉なんですよ」と説明する。

そして、近年では研究機関の調査でも明らかになってきているが、尾張地方の住民は古来から他の地域より体内のアルコール分解酵素が少なく、お酒に酔いやすい体質だとされること。なので、少量でも呑み応えがあって満足感を得られる味わいになったのでは、と考えられている。

昔からの地域の嗜好や文化を反映した、まさに〈地酒〉ということだ。とはいえ、現代では地元の嗜好とは別に首都圏向けのブランドを持つ酒蔵もあるが、澤田酒造でもそういった展開はありうるのだろうか?

澤田:それはやらないですね。それよりもお米の旨みを大事にした、郷土食に合う味わいを今後も造っていきたいです。それに最近は和食もどんどん味が濃くなっているし、逆に洋食は健康志向で油を控える流れになっているので、知多半島の味に近付いてきているとも言えます。当社の濃い味のお酒がハマる瞬間が出てくるんじゃないかなと考えていますね。

ところで、日本酒の味には仕込み水の水質や硬度が大いに影響することは、多くの方がご存じだろう。澤田酒造では硬度が異なる3系統の天然水を使っている。というのも、常滑周辺は成り立ちが異なる様々な地層が入り組んで形成されており、その地層の隙間を流れる地下水は場所によって水質や硬度が大きく異なる、といった特徴がある。例えば、ミネラルが多くて発酵の立ち上がりが良い硬度の高い水は酒母用に、軟水は洗い物に、お酒の加水には3種類をブレンド…というように使い分けているそうだ。この3種類の水について、澤田さんが興味深いエピソードを教えてくれた。

澤田:僕が今メインでやっている仕事は、前年に造った貯酒(ちょしゅ)の管理をして、レギュラー酒(=普通酒)の調合と濾過をすることです。17度の原酒に加水して15度にするのですが、複数のタンクの原酒と3種類の水から様々なサンプルを作って、社長と相談しながらどうブレンドするか決めます。澤田酒造には昔から「珠(たま)のように転がる味じゃないといけない」という謎の言葉があるんですが、それを追い求めて「今日はこの水で良いだろう」とか「もうちょっとパンチが欲しいから硬めの水で」みたいな感じで選んでいきます。そこまで苦労してやってるんですけど、普通酒って生酒とかと比べて評価されないのがツラいところですよね。笑

コンテストで評価されたり、グルメ雑誌で注目されることも稀な普通酒だが、こうした細やかな仕事があるからこそ白老は地元で支持され続けているのであろう。

愛知県はアミノ酸爆発の地

ところで、澤田英敏さんは酒蔵の代々の後継ではなく、実は兵庫県の出身。愛知県の発酵食品の文化に惹かれて移り住み、豆腐屋で働いた後に澤田酒造に入社。現社長である薫さんと結婚して今に至る。移住するほど澤田さんを惹きつけた愛知県の発酵食文化の魅力は、一体どのようなものなのか?

澤田:全国の中でも愛知県は〈アミノ酸爆発の地〉なんです。酢、味醂、味噌、たまり醤油、白醤油、そして酒。発酵調味料を造っているところが集約されている珍しい地域です。発酵食品ではないですがケチャップメーカーもありますね。これだけの調味料が豊富に集まっているので、料理の味付けも濃くなるわけですよね。

澤田さんによると、発酵調味料の産地は意外にも酒蔵が少ないケースが多く、これが愛知県の面白いところだとか。江戸時代に227軒あった酒蔵が廃業する過程で、味噌や醤油蔵に転向したパターンも多かったそうだ。

そして、この土地のもう1つの名産「常滑焼」の魅力についてもこう語る。

澤田:常滑焼は「六古窯」(※1)と呼ばれる産地の中では価値が低いと言われますが、それはあまり芸術品を作らないからなんです。常滑焼は日用品、いわゆる「gear(=道具)」ですね。そういった在り方も僕は好きなんです。また常滑焼には「藻掛け」といって、海藻を掛けて焼く手法があるんですが、ひとつひとつ模様が違って、僕はこれがめちゃくちゃ好きなんです。海の近くで焼き物の産地というのも珍しいんですよ。

※1:日本六古窯 = 古来の陶磁器窯のうち、中世から現在まで生産が続く代表的な6つの窯(越前・瀬戸・常滑・信楽・丹波・備前)を指す。(参照:旅する、千年、六古窯 – 日本六古窯 公式Webサイト

日々闘って暮らしている方に「白老 for survivor」を

では、満を持して「白老 for survivor」シリーズについて伺ってみよう。「for suvivor」は直訳すると「生存者へ」ということになるが、この名前にはどういった思いが込められているのだろうか?

澤田:白老は、先程も例に挙げた製陶業をはじめとした、製鉄業、農業、漁業など、一年中大量に汗をかいて働く方たちに愛されて存在しているお酒です。「for survivor」は、日々闘って暮らしている方がこのお酒を飲むことで明日に向かってリラックスしてもらいたい、そんな気持ちで造った新しい形の〈労働讃酒〉です。

白老のお酒は火入れと熟成が基本だが、「for survivor」シリーズは従来の日本酒ファンだけでなく、普段あまり日本酒を飲まない人にも親しんでもらえるように、少しアプローチを変えて、濃醇な味わいはそのままにフレッシュな無濾過生原酒でリリースされる。そして、ロック・ミュージックが好きな人にも(もちろんそうでない人にも)酒屋さんで手に取って飲んでもらえるように、遊び心のあるポップなラベルになっている。

澤田さんのInstagramをご覧の方は、彼が好きな音楽というとハードコアやメタルなど重くて激しいロックをイメージするかもしれないが、「for survivor」シリーズのラベルにはそういったジャンル以外のオマージュも見られる。ラベルデザインはどのように決めているのだろうか?

澤田:ラベルを決める際のルールですが、まず、全アルバムを持っていてめちゃくちゃ好きなバンドだということ。次に、蔵の風景、もしくは常滑の風景を必ず入れてオマージュすること。なので、アイデアを思いついたら写真を撮るようにしていて、ラベルのイメージに合う酒質や味わいのお酒を瓶詰めしています。例えば「常滑の登り窯の風景はイギリスのJesuをモチーフにして」とか、「Dinosaur Jr.はお米の味が強く出たお酒だよな」とか。

白老の取り扱い店舗は全国に数多くあるが、「for survivor」シリーズは澤田氏と同じように音楽に造詣の深いスタッフが在籍している以下の2店舗のみでの取り扱いだ。

・酒のいとう(岐阜県郡上市)
・ふくはら酒店(東京都台東区)

ちなみに、ふくはら酒店スタッフの田島氏(a.k.a.シンちゃん)は、東京で開催されるハードコア×日本酒のイベント『Positive Drinking Attitude』のオーガナイザーでもある。このイベントでは「白老 for survivor」が提供され、老若男女、ハードコアパンクスもそうでない人も、白老を飲みながら音楽に身を委ねている。

これはvol.2(2019年)で私がお手伝いした際の写真。シンちゃん、2022年も開催してくださいね。

澤田さん的All Time Favorite Albums 20

ここからは澤田さんの偏愛音楽趣味を掘り下げてみよう。まずは10代の頃の思い出を教えてくれた。

澤田:10代の頃「モダンチョキチョキズのようなボーカル求む。当方Dr. スラッシュメタルやりたし」という、相当アホなメン募をしたことがあります。実際に声をかけてきたのは頬に「B-T」と書いた先輩(元ヤンキー)…。「おい、自分ドラムやれるんけ! 俺らのバンドに入らんかい!」と播州弁で勧誘(強要)されました。その出来事がターニングポイントになり、今でも音楽を聴き続けています。25歳の時にひどい腱鞘炎になり、それ以来は人前でプレイすることがなくなりましたが、ドラムをやることで高校生の頃からメタルやパンクなどの人たちから声をかけてもらって、たくさんの音楽を教えてもらいました。そこから節操なくジャンルレスに自分が思うカッコいい音を探すようになり、ロックという大きな括りの中では12歳の頃からこれまで全く飽きずに聴いてくることができました。今でも音楽を聴く時、まずはドラムを聴き込んでから…がクセになっています。

彼のInstagramを拝見していると、忙しい合間を縫って今でもライブハウスに足を運んでいるようで、音楽への並々ならぬ愛情が伝わってくる。そして今回、蔵に伺った際には彼の「All Time Favorite Albums 20」を用意してくださった。全て紹介したいところだが、スペースの都合もあるので「好きなドラムが鳴っているアルバム」というテーマで5枚を選んで紹介してくださった(以下、澤田さんによるコメント)。

Dinosaur Jr.『You’re Living All Over Me』(1987)

2008年の名古屋公演の時、私はDischangeのTシャツを着て最前列に。サウンドチェックしていたドラムのマーフをガン見していたら、私としっかり目が合いました。そして軽くDビートを叩き、ニコっと笑いながらスティックで私の方を差してくれたのです。一瞬でしたが、その夢のような体験が今でもDinosaur Jr.を聴き続ける要因となっています。

Helmet『Meantime』(1992)

タメの効いた金属質でパーカッシヴ、ヒップホップにも通じる跳ねるグルーヴ。高度な音楽理論に基づく、シンプルなようでノイジーで複雑な構成。この時のドラムは現Battlesのジョン・ステニアー。

Therapy?『Caucasian Psychosis』(1992)

海外ではそこそこ売れているのに日本では知名度がかなり低く、Helmetと同じでカテゴライズしにくい立ち位置にいるバンド。初期音源集のこの作品はハードコア、ポストパンク、ノイズ、ジャンク、ゴス、ダンス・ミュージックをごった煮にしたサウンド。こちらも硬質で抜けの良いスネア、手数の多いドラム。路線をメタル寄りに変えてヒットした後に脱退したドラマー、ファイフ・ユーイング氏は今でも私のドラムヒーロー。

注:『Caucasian Psychosis』は実家に置いてあるため、20枚の写真では代わりに『Troublegum』になっているとのこと。

Bolt Thrower『The IVth Crusade』(1992)

ハードコアパンクスからも支持の厚い、UKデスメタル。重戦車が進撃してきたかのような低音が鳴り響く怒涛の2バス。当時は《TOY’S FACTORY》から日本盤が出ていて購入したのですが良さが全く分からず、10年以上経ってからカッコよさに気付きました。ツインペダルの練習にもよくコピーさせて頂きました。

Kylesa『Time Will Fuse Its Worth』(2006)

男女トリプル・ヴォーカル、ツイン・ギター、ツイン・ドラムのアメリカ産エクスペリメンタル・スラッジ。ツイン・ドラムの良さを最大限に活かしたトライバルでヘヴィなビート。サイケデリック、アンビエントな浮遊感も漂いますが、奥底から感じるハードコア・パンクのストレートさ、ダイナミックさが全てを見事なまでにまとめています。

こんなに良い甑は見たことがない──

ここでまた酒造りの話に戻ろう。上の写真に写っているものは「木甑(きごしき)」といって、日本酒の原料であるお米を蒸すための器となるもの。その下は「和釜(わがま)」で、お湯を沸騰させて蒸気で木甑を熱するための機器だ。近年は木桶や木樽など、木製の醸造道具を再導入する酒蔵も増えてきたが、この木甑と和釜を使い続けている酒蔵は非常に珍しいそうだ。

澤田:今はステンレスやホーローの甑(こしき)が主流で、日本中の地酒蔵でこの木甑を使っているのは澤田酒造だけだと思います。大手の酒蔵だと剣菱さんや賀茂鶴さんが使ってますね。知り合いの杜氏さんや蔵人さんのほとんどからは「(ステンレスやホーローに)変えた方が良いよ」って言われるんですけどね。木甑と和釜での(酒米の)蒸しは非効率な部分も多いんですが、それでも使い続けているのにはいくつか理由があります。

澤田:まず1つ目は、この辺りの気候ですね。冬の常滑の海沿いは湿った冷たい季節風が吹きます。この風が蔵に吹き込むとステンレスやホーローの甑の場合、蒸し上げたお米がベチャベチャになっちゃうんですけど、木甑だと冷めにくいし、余計な水分を木が吸ってくれるんですね。お櫃に入った旅館のご飯のようなイメージです。なので、この辺りの風土に合った理想的な道具なんです。
それともう1つ。以前、造りの最中に木甑の底が抜けたことがありました。この甑を作ってくれた大工さんのお弟子さんが一応直してくれたんですが、「(造りの最後まで)たぶん保たないぞ、どうする?」ってなったんですね。そんな時に偶然、隣の武豊町の味噌屋さんに大阪のウッドワークという業者さんが木桶のメンテナンスに来られていて、相談したら「ちょっと帰りに寄ってあげるよ」と見に来てくれました。そしたら「こんなに良い甑は見たことがない。これはすごいぞ!俺が直してやるから、やれるところまでこれでやりなさい」と仰ってくれたんですね。

蒸米の掘り返しや洗浄など苦労も非常に多いそうだが、実際に白老の純米酒や普通酒を飲んでみると、窯で炊いたご飯のようなふっくらとした味わいや腰の座った旨味が感じられ、澤田酒造での木甑と和釜の重要性を実感させられる。

とはいえ、澤田酒造でも昔ながらの設備を使うだけでなく、必要とあらば新しい機器も導入する。そのひとつが醪(もろみ)を搾る工程で使うこの機械だ。

澤田:これは常滑にある株式会社マキノに作ってもらった圧搾機です。元々は常滑の大手製陶会社が、世界中から買ってきた色々な砂を大きなタンクにドバッと入れて水で攪拌させたあと、搾って固まった部分をタイルにするためのものです。日本酒の場合は、搾って流れ出た液体の部分がお酒になるので、原理としては同じなんですね。それまでは日本酒業界ではポピュラーなメーカーの自動醪搾器を使ってましたが、旧式は鉄板でプレスするので鉄臭、ゴムパッキンを使っているのでゴム臭が付くなど欠点がありました。でも、この圧搾機だったら袋部分も簡単に洗浄できるので粕臭も出ず、コンプレッサーも高性能なので省エネだし、しっかりと搾れるなどメリットが多いです。それに地元・常滑の会社ですしね。

以前、某酒蔵の杜氏さんと話していた際に「白老はここ数年で驚くほど酒質が向上した」と仰っていたのが記憶に残っているが、蔵人の方々の技術向上はもちろんのこと、こうした設備投資も酒質の向上に寄与していることだろう。

麹室火災からの復活

ニュースなどでご存じかもしれないが、澤田酒造は2020年11月に麹室の電熱線のショートが原因で火災に見舞われた。幸い酒蔵の全焼は免れたが、酒造りにおいて心臓部とも言える麹室が焼失してしまった。

澤田:消防士の方々が決死の姿勢で消火をしてくださったおかげで被害は最小限で済み、本当にありがたく感謝しております。醸造アルコールを置いている関係で、偶然にも火事の1週間前に消防署の査察があったことや、酒蔵開放の時に消防署員の方も遊びに来てくれていて、蔵の構造を把握してくれていたことも初期消火の速さに繋がりました。

麹室と共に、製麹(せいぎく/麹を造ること)に必要な麹蓋(こうじぶた)も全て焼失した。実際に麹蓋を見せてもらったが、全て木材で造られているというだけでなく、温度や湿度を管理するために様々な細工が施され、非常に高価だという。必要な300枚程の麹蓋のうち、半分ほどは長野県の湯川酒造店(十六代九郎右衛門の醸造元)から分けてもらった、とのこと。また、それ以外にも様々な酒蔵さんや酒販店、飲食店や白老のファンの方々から多くの支えや応援があったことについても、澤田さんは感謝の思いを語っていた。

2020年から2021年の春までの酒造り(R2BY)(※2)では他の蔵の麹室を借りて米麹を造り、冷凍して自蔵に持ち帰ることによって酒造りを継続。2021年秋には新しい麹室が無事完成した。

※2:BY = 「Brewery Year」の略で、醸造年度を指す。「R2BY」は令和2年度となる。

澤田:この新しい麹室は色々と工夫があって、自然な空気の流れができるようになっているのと、角がないので空気の対流がすごく良いんですよ。素材は秋田杉を使っています。秋田は日照時間が少ないので、秋田杉は目が詰まっていて、丈夫でしなやかなので酒造道具には重宝されています。それと、この麹室は温度帯を変えたり除湿など便利な機能があるのですが、実はそういうものをあまり使わず元に戻していこうとしています。というのも、テストで麹を造った時に他の酒蔵さんなら喜ぶような「現代の基準の良い麹」ができたんですが、それって僕らが求めている酒質の良い麹じゃないんですよね。〈総破精(そうはぜ)〉(※3)〈ふっくら〉〈柔らか〉みたいな麹じゃなくて、パリッパリなのができちゃうんで、(それで造ったお酒を飲むと)「軽っ!」ってなっちゃうんですよね。なので、味を変えないためにもこれまで通りを再現するってことに今年はチャレンジしています。

※3:破精(はぜ) = 麹における麹菌の繁殖形態を表現する言葉。蒸米に種付けした麹菌の胞子が発芽繁殖して、米粒の中心部に菌糸が生育して行く程度を破精込みという。破精込みの深いものを総破精といい、蒸米の硬軟が適度である場合に生じやすく、酵素力が強くて、酒母麹に向いている。(灘酒研究会 灘の酒用語集より抜粋して引用)

音楽と同様に日本酒の業界もトレンドや市場は日々変化しているが、澤田酒造はあえて「変わらないこと/守り抜くこと」でサヴァイヴする道を歩んでいる。

澤田さんの言葉を借りるなら、「for survivor」は〈労働賛酒〉。忙しい毎日に癒しや刺激をくれるお気に入りの音楽のように、白老はきっと貴方の食生活に安らぎと彩りを与えてくれることだろう。

あとがき〜R3BYの白老を飲んで〜

取材時は、春まで続くR3BYの酒造り真っ最中の寒い時期。そこから訳あって、だいぶ時間が経っての記事公開となった。

その間に「for survivor」シリーズの新作が発売されたので、台東区のふくはら酒店で購入してきた。このお酒は定番商品「でらから純米」の直汲み無濾過生原酒。ラベルはハードコア・パンク・バンド、Dischargeの絶頂期と名高い1981年のライブを収録したアルバム『APOCALYPSE NOW』のジャケットのオマージュ。ふくはら酒店の田島氏が企画し、ふくはら酒店のみでの限定販売とのこと。

ボリューミーな旨みにドライな後味。搾ったまんま瓶詰めした、無濾過生ならではのフレッシュで溌剌とした瑞々しさが、身体全体に染み渡ってくるようだ。澤田さんも言及していたが、麹室や麹蓋が新しくなった影響だろう、白老にしてはやや素直な飲み口に仕上がっている。とはいえ透明感があるので、丁寧に造った麹の風味が瑞々しく活きており、これはこれでR3BYの白老の個性とも言える素晴らしい出来栄えだ。

ここから白老がどのように昔ながらの味わいを取り戻していくのか、毎年飲み続けるのがとても楽しみだ。

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澤田酒造

〒479-0818 愛知県常滑市古場町4丁目10番地
TEL 0569-35-4003

HP:https://hakurou.com
Twitter:@hideaway_hakuro
Instagram:@hakurou_sawadashuzo/
Facebook:https://www.facebook.com/sawadasyuzou/

「白老 for survivor」シリーズ販売店

・ふくはら酒店(東京):http://www.fukuharasaketen.com
・酒のいとう(岐阜):http://sakenoito.shop-pro.jp

オマケ情報

ふくはら酒店で「白老 for survivor」シリーズを購入したら、そこから徒歩30秒の藤本商店にも是非寄って欲しい。ここのぬか漬けは日本酒に抜群に合う! NITRO MICROPHONE UNDERGROUND好きの若旦那に声を掛ければ、その日オススメのこだわり野菜やおつまみを教えてくれるだろう。

 

仲川ドイツ