【衣食住 plus 音 Vol.6】「ラブレターを渡す気持ちで」タトゥーアーティスト・Alice novi -Ray-に聞く、タトゥー文化の変化の兆し

【衣食住 plus 音 Vol.6】「ラブレターを渡す気持ちで」タトゥーアーティスト・Alice novi -Ray-に聞く、タトゥー文化の変化の兆し

着たい服を着て出掛ける時、今日の昼食を拵える時間、1日の終わりを自分に告げる間際で、聴きたい音楽がある。そんな「衣食住」と音楽の濃厚な関係に迫る連載コラム。第6回目は、美容師からタトゥーアーティストへ転身し、独自の世界観が醸す繊細な絵柄から男女問わず人気を集める彫師・Alice novi -Ray-のインタビューを掲載する。

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近年、特に若者を中心に「ファッション」としてカジュアルに施術するケースも増えているタトゥー。しかしタトゥー文化それ自体が閉鎖的であるがゆえ、国内においては流行の変遷があるということさえも地下に潜ってしまっている。

そこで本企画では、音楽と同様に一つの「カルチャー」として育まれるタトゥー文化に歩み寄るべく、東京は東松原にあるAlice novi -Ray-のスタジオを訪問。ゴシックで耽美な世界観を有するタトゥーアーティストとして名を馳せる彼のルーツを辿ると共に、アーティストの視点から見た現在のタトゥー文化の変遷やタトゥーを取り巻く時代の流れについて話を聞いた。

タトゥーを保有している/していないにかかわらず、表立って取り上げられる機会の少ないカルチャーを掘り下げていく貴重なインタビューとなっているので、是非目を通してみて欲しい。

インタビュー/文=すなくじら
写真/編集=翳目

タトゥーはあくまで「自分を表現するためのツール」

──まずは自己紹介からお願いします。


Ray:Alice novi -Ray-です。「Ray」は本名で、宮城県出身の23歳です。宮城の専門学校を卒業して、20歳の時に就職を機に東京に来ました。

──Rayさんは元美容師なんですよね。ということは、宮城で通っていた専門学校は美容系だったんですか?

Ray:そうです。当時は自分が将来タトゥーを彫る仕事に就くとは微塵も思っていませんでした。強いて今の仕事に繋がる部分があるとしたら、当時から絵を描くことが好きだったので、高校卒業後の選択肢としては美大も考えたんですけど…母が美容師だったから、それならヘアカットを極めるのが表現の道として良いかなと。

──なるほど。お母様の影響があったんですね。美容系の専門学校ってファッションにこだわりがあったり個性的な方が集まっているイメージが強いのですが、専門学校時代に印象に残ったエピソードってありますか?

Ray:そう思うじゃないですか?笑 自分もそう思ってて、入学初日に金髪で行ったんです。そしたら自分以外染めてる人が全くいなくて。「今日はレクリエーションだからいいけど、次は染めてきてね」って先生に言われて、初日からやらかしたことが記憶に残っています。笑

──当時から自分を表現することがお好きだったんですね。笑 美容師からタトゥーアーティストに転身しようと思ったきっかけは何だったんでしょう?

Ray:元々タトゥーに興味はあって、ほかのアーティストさんに彫ってもらっていました。でも、基本は自分でデザインしたものを彫ってもらっていたので「だったら自分でやった方が早くない?」って思ったことが最初のきっかけですね。

もう少し補足すると、当時憧れてたアーティストの方が落書きみたいな…見方によっては「完成されてない」とも捉えられるようなタトゥーを入れていたんです。色飛びしてるし、ラインも所々ガタついてるようなデザイン。でもそれが当時の自分には超カッコよく見えて。完璧じゃなくても、まずは自分の身体をキャンバスにしてタトゥーを彫ってみよう、自分だけの落書き帳にしちゃおう、と思ったんです。
その後コロナが蔓延して美容師の仕事が半年間休みになった時に、本格的にお金をいただいて施術をする形でタトゥーを彫り始めました。

──そうだったんですね…! 美容師時代のお話がありましたが、Rayさんはタトゥーアーティストでありながらも、様々な事情やポリシーから「タトゥーを彫ることのできない」お客様との繋がりもある、ということでしょうか。

Ray:美容師時代に知り合ったお客様の中には、もちろんそういう方もいます。ただ、繰り返しになってしまいますが、自分はあくまで「表現するためのツール」としてタトゥーを選んでいるので、(自分が選ぶ)表現の方法が今後変わっていくことも十分あると思っています。だから、彫る/彫らないっていうのは自分の中で全く関係ないことだなと。

その点で言うと、普段タトゥーを彫らないお客様にも楽しんでいただく機会を作りたくて、今年の2月にオリジナルのデザインを持ち込んでTシャツ展に参加させていただいたんです。極論ですが、ファッションだって一つの表現の手段ですよね。相手の求めているものを引き出して具現化する。誰かのために何かをしたいと思った時に、自分のできることが(タトゥーやファッションといった)表現だっただけ。形式にこだわりはなくて、お花屋さんとかも憧れますよ。

──ありがとうございます。職業としてのタトゥーアーティストではなく、Rayさんの職業は「表現者」なのかもしれませんね。そんなRayさんのタトゥーは私も実際に彫っていただいたことがあって、ゴシックなテイストの世界観が軸にあると感じているのですが、幼少期からそういった作品に影響を受けているのでしょうか?

Ray:完全にそうです。とにかく映画や音楽のカルチャーが好きで、中でもダーク・ファンタジー系の作品を幼少期から妹と観ていたことはかなり影響していると思います。周りが仮面ライダー観てる時に、ティム・バートン監督の『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(1993)を観てました。笑『コララインとボタンの魔女』(2009年も好きです。

自分のタトゥーはいわゆる細密画(細いタッチで書き込んでいくタイプの絵柄)なんですけど、ルーツを振り返ると保育園にあったエドワード・ゴーリーの絵本との出会いが一番最初じゃないかな。ヒグチユウコさんとか、寺田克也さんの作品のテイストに影響を受けているのはもちろんだけど、あの頃読んでたエドワード・ゴーリーに原点は全て詰まっている気がする。

──エドワード・ゴーリーの絵本が置いてあるとは…なかなか尖った保育園ですね。笑 映画がお好きとのことですが、「Alice novi -Ray-」の「novi」がラース・フォン・トリアー監督の『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(2000)に由来しているのは納得です。

Ray:『ダンサー・イン・ザ・ダーク』も自分にとって大切な作品ですね。『ダンサー・イン・ザ・ダーク』の一つのテーマが「視る」ことだと思うんですけど、自分のタトゥーでは特に目のモチーフを依頼していただく機会が多いんです。

目を見れば、嘘をついているとか悩みがあるとか大体分かるじゃないですか。タトゥーは一生残るものだからこそ、事前に行うテキスト上でのカウンセリング以上に当日のカウンセリングを大事にしていることもあって。目を見て実際に話をしてからその人の好みを汲んで、細密画のデザインの微調整をすることもあるくらいです。

──細密画をデザインする上で、気をつけていることなどはありますか?

Ray:一つの身体、つまり描くことのできるキャンバスに対する「引き算」です。タトゥーを始めたばかりの頃は、とにかくモチーフを詰め込んで詰め込んで、最後に自分らしさを汲み出す作業工程をとっていました。でも、色んな作品やほかのタトゥーアーティストさんの作品に触れるうちに、全体に対するバランスや配置が大事だと気がつくようになったんです。

特に人の身体は、サイズが皆絶対に違う。だから、細かい部分にこだわってとにかく書き込むんじゃなくて、その人の身体に合わせた余白とか、全体で見た時の構図に気を遣ってます。

「ラブレターを渡す気持ちで彫っています」

──Rayさんのお客様からはどんなデザインのオーダーが多いのでしょうか。

Ray:オーダーの傾向かあ……。デザインにも旬があるので、特にこれが多い!っていうのはないです。強いて言うなら、ありがたいことなんですけど「お任せでお願いします」がかなり多いかもしれない…。一生消えないデザインを任せてくださるほどの信頼関係が築けていることは素直に嬉しいですね。

でも、お任せだからこそ悩むこともあります。自分はお客様のカウンセリングの時の雰囲気だったり、その人の人生のテーマとか悩みによって、元々予定していたデザインに自分から要素を付け加えるケースが多いので。お任せの場合、自分からその方に向けてラブレターを渡している気持ちで表現をしています。

もちろん特別な信条やテーマをタトゥーにしたい方も一定数いるんですけど、ファッションとしてのタトゥーを求める方が増えてきているからこそ、自分が汲み取ることのできるメッセージをほんの少しデザインに忍ばせることが自分の彫るタトゥーの付加価値になるんじゃないかな、と思っていますね。

──一生消えない、ということは、自分のタトゥーを彫ってくれたアーティストとは一生の付き合い、という意味でもありますね。

Ray:本当にその通りです。これは少し余談なんですが、自分のデザインする線の細いタトゥーって業界的には実はあんまりスタンダードな作風ではなくて……。細かいタトゥーほど、経年劣化でどうしてもラインがぼやけてしまったり、広がってしまうのが理由です。

それを防ぐために自分はあえて薄めのラインで彫って、数年後にメンテナンスができるようにリタッチのできるタトゥーを意識しています。年齢を重ねてデザインの好みが変わることもあるだろうし、変化していくタトゥーっていう意味でも、自分のお客様とは本当に一生の付き合いになると思っています。

──そう思うとタトゥーへの愛着がさらに湧きますよね。少し話題が変わるのですが、今回は音楽メディアでの取材ということで、Rayさんを構成する音楽についてもお聞きしてもよろしいでしょうか。

Ray:音楽の話、止まらなくなりそうですけど大丈夫ですか?笑

──好きなだけ話してもらえればと思います。笑 学生時代はどんな音楽を聴いていましたか?

Ray:音楽の原点は、ジャンルで言えば海外のパンク・ロック、あとはちょっと昔のL’Arc〜en〜Cielとか、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTが超好きです。そういうのを正直に学校で出していけばよかったのに、当時は恥ずかしくて言えなくて…一人で好きな音楽を内に秘めていました。

高校の時の友達のお父さんがレコードが好きだったのがきっかけで、そこからレコード集めも趣味の一つです。レコードを拭く作業まで好き。いつかレコードショップで働きたいです。笑

──さっきは花屋、今度はレコードショップですか。笑 確かにお部屋にはたくさんのレコードが……。この中で特にお気に入りはありますか?

Ray:難しい質問ですね…。全部お気に入りなんですが、強いて名前を挙げるなら、ザ・ディランⅡの『きのうの思い出に別れをつげるんだもの』。フォークがすごく好きで、細野晴臣はっぴいえんどもよく聴きます。

ザ・ディランⅡのレコードは元々狙っていたんですけど、映画『劇場』(2020)でザ・ディランⅡの「君住む街」を主人公が歌うシーンがあって、それでなおさら欲しくなって買いました。『劇場』も自分の世界観にかなりヒットした作品です。

映画絡みで言えばYEN TOWN BANDのレコードもお気に入り。岩井俊二監督の『スワロウテイル』(1996)が好きで、レコードショップで働いている友達から買いました。しかもSランクの未開封の状態だったので、テンションMAXになって。

──このYEN TOWN BANDのレコード、『スワロウテイル』を象徴する鮮やかな蝶々のヴィジュアルだけでもテンション上がりますね…。こっちは細野晴臣のレコードですね。

Ray:細野晴臣なら『HOSONO HOUSE』は宝物です。あとはお気に入りで言うと、はっぴいえんどのライブ盤(『ライブ!! はっぴいえんど』)。自分は『風街ろまん』より絶対ライブ盤派です! 音楽単体でももちろん好きなんですけど、映画や漫画みたいなほかのカルチャーとリンクしている音楽は特に好きですね。

──こっちにあるのは宇多田ヒカル、ドレスコーズ……次々出てきますね! この量のレコードは普段どのようにして入手しているんですか?

Ray:自分は古本とかもそうなんですけど、巡り合わせで物を買うのが好きで、下北や高円寺のようなカルチャー・タウンで買う…というよりかは、地方に旅行する時なんかにフラッと買ったりします。あとはそれこそ友達から買うこともあるかな。

どちらにせよ、デジタルな世界だからこそネットじゃなくてアナログな世界での巡り合わせで手に入れたい潜在意識が働いている気がします。物事に出会うタイミングってすごく大事なことだから。その時がベスト! って感じられるポイントが必ずあると思っています。

タトゥーが最も魅力的に見えるタイミングを探して

──確かに、運や直感での巡り合わせが後の人生を大きく分けたりするのはあるかもしれません。「ベストなタイミング」というのは、タトゥーに関しても一緒だと思いますか?

Ray:もちろんです。厳密に言えばタイミングの話とは少しずれるかもしれませんが、例えば蝶のデザイン一つ取っても、「半袖の裾からチラッと(タトゥーが)見える瞬間が可愛い」とかありますよね。

その人の日常の中のベストなタイミングで、最高に可愛さを引き出せるような作品を彫りたい。だから事前の準備の段階で「この人は普段どんな服を着るんだろう」とか「どんなルーツや趣味嗜好を持っているのか」「見せるタトゥーなのか、隠すタトゥーなのか」とか…何パターンも考えるんです。

──彫る場所やライフスタイルによっても見せ方が変わるのもタトゥーの魅力ですよね。特に若い世代では、従来の「タトゥーを彫ること」への考え方が少しずつ変化してきているようにも思えるのですが、Rayさんがタトゥーアーティストの視点から今の世の中のタトゥー文化について感じていることはありますか?

Ray:基本的に自分のところに来てくれているお客様に対しては、感謝の気持ちしかないですね。笑 ただ業界規模で言うなら、タトゥーをファッション要素として落とし込む気軽さだけでなく、しっかりとリスペクトを持てるタトゥーアーティストに出会うことも大切にして欲しいなと思います。SNSで予め作品を好きに見ることができる時代だからこそ、「(タトゥーを彫るアーティストが)誰でもいい」っていうのはもったいないなと。

一生身体に残るものだからこそ、「この人、人としても最高だな!」って心から思える人のところで彫って欲しい。相手に敬意があれば当日の無断キャンセルはまずあり得ないだろうし、タトゥーへの愛着もより湧くんじゃないかな。

──ありがとうございます。人として尊敬できる方の作品だと、確かに相乗効果でタトゥーも大切にしたいって思いますよね。ちなみに、今後やってみたいことや目指すゴールはありますか?

Ray:人と話すことが好きなので、誰か毎回ゲストを呼んでラジオをやりたいです。ただラジオもあくまで(自分を表現する)手段の一つであって、根底としてはやっぱりワクワクすることならなんでも挑戦したい。

逆に、自分がタトゥーにワクワクしなくなる時が来たら、もうタトゥーの仕事はしないかもしれないですね。自分が妥協せずにのめり込んで、自信を持って商品や技術を提供できるかどうか。明確なゴールはなくて、楽しいことを探し続けて変化していくのが自分のスタイルです。

──時代に合わせてタトゥーへの考え方や取り入れ方が変わっていくように、Rayさんの表現の形も変わっていく。あえてゴールを定めないRayさんがこれからどんな景色に行き着くのか、これからが楽しみです。最後に、この記事を読んでくださっている方へメッセージをお願いします。

Ray:タトゥー文化ってまだ閉鎖的な部分もあるし、特に初めてだと入れたいけど迷うって思う方もいらっしゃると思うんです。だからもし、タトゥーに興味をいただいている方がいたとしたらまずは気楽に遊びに来て欲しいです。映画でも音楽でも最近食べた物の話でもいいので、あなたの好きな物を是非教えてください! お茶会でもしましょう。笑

実際に話してみて「この人、なんか違うな」って感じた場合には、自分の知り合いの素敵な彫師さんを紹介させていただきますし、一番良い形でお互いに尊敬し合えるような関係性をお客様と築きたいです。心から自分が魅力を感じられるような、最高のタトゥーとタトゥーアーティストに出会える環境をまずは探してみてください!

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今回Alice novi -Ray-へ取材に伺った経緯としては、筆者自身が以前に彼の元で施術をしていただいたことからアポイントメントを取るに至った、というものだった。筆者はライターという職業柄もあり、モチーフに対して言葉で意味付けを行うことを重要視しているため、「ファッション」としてよりかは「信条」に近い要素がタトゥーを入れる上での比重を占めている。

▲筆者がAlice novi -Ray-の元で入れたタトゥー

しかし今回のインタビューを通して、ファッション感覚で身に纏うタトゥーが流行していること、そこに対して「彫る側」が託す細やかなメッセージが存在することに衝撃を受けた。もちろん今回はあくまでタトゥー市場で活躍するアーティストの1人を切り取ったケースであり、アーティストの数だけテイストやこだわり、タトゥーに関する考え方が異なるのは当然である。

だが、そんな多種多様なタトゥーアーティストの中から「自分がリスペクトできるアーティストに出会うべき」という彼のメッセージには、ライトな感情だけで事前のリサーチが甘いまま体に一生残るタトゥーを入れることへのリスク喚起も隠されているように感じる。情報過多なこの時代だからこそ、しっかりと吟味をするというフェーズを踏んで、一生を共にするタトゥーとアーティストを選ぶべきなのだろう。

この先、ファッションタトゥーの文化の浸透が加速化すれば、タトゥーはますますオープンな市場になっていくことは想像に難くない。気軽にタトゥーを日常に取り込む時代になったからこそ、我々はタトゥーに対しての意思決定の重要性を今まで以上によく考えたうえで、スタジオのドアを叩くべきなのだろう。

 

すなくじら

Alice novi -Ray-

Instagram:https://www.instagram.com/alicenovi_ray/
※予約は随時解放。詳細はInstagramの投稿/ストーリーズを参照。

すなくじら