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【インタビュー】Superorganism『World Wide Pop』──オロノとハリーが語る、常に自然体でいることの強さ

By竹下力

Superorganism(スーパーオーガニズム)が帰ってきた。去る7月15日に文字通り待望の2ndアルバム『World Wide Pop』をリリースし、苗場のステージに堂々と登場した彼ら。流行り病のせいで時空が少々歪んでいる気もするが、アルバムのリリースも日本でのライブも気が付けば約4年ぶりである。ユーモアと楽しさが通底するサウンドに心を踊らせ、苗場でのハッピーなバイブスに満ちたパフォーマンスを目に焼き付けたファンも少なくないだろう。

今回musitでは、『FUJI ROCK FESTIVAL ’22』(以下、フジロック)出演を機に来日したアーティスト3組へインタビューを敢行。その第1弾となるSuperorganismの取材では、メンバーのオロノ(Vo.)とハリー(Gt.)に話を聞くことができた。フジロック出演直後(翌日!)にも関わらず、オロノは時に日本語を織り交ぜながら、誠実に答えてくれた2人。久々のフジロックを振り返りつつ、『World Wide Pop』におけるマインドの核心に迫った。<musit編集部>

インタビュー/文=竹下力
編集/写真=對馬拓

* * *

ステージに立てば細かく考えない

──まず、フジロックでのパフォーマンスは素晴らしかったですね。

オロノ:ありがとうございます。

ハリー:ありがとう。クレイジーな経験だったね。笑

──Superorganismにとって、2018年のフジロック以来の久しぶりの日本でのライブであり、同時に有観客のライブでもあると思います。

オロノ:前回のフジロックは、英語に日本語を織り交ぜながらMCをしたせいもあって頭が混乱して、「なんでオッサンしかいねぇんだ!」と叫ぶぐらい狂ってしまって。笑 だから今回は言い慣れている英語でMCをしながら、落ち着いた感じのライブにできたかな。オーディエンスもハッピーな気持ちで聴いてくれて楽しかった。

オロノ(Vo.)

ハリー:フジロックの会場に着いた時、スマホの写真アプリのメモリー機能から前回のフジロックの写真が出てきて、当時を思い出してノスタルジックな気分になったね。前回の会場はRED MARQUEEでとにかく緊張してた。今回はさらに大きいWHITE STAGEになったけど、これまで長い期間ツアーをこなしきたし、自分たちのパフォーマンスに対しても自信があったから楽しんで演奏することができたよ。オーディエンスの反応も良くて、エモーショナルな気分になったね。特に「Don’t Let The Colony Collapse」を演奏した時にはオーディエンスがジャンプしてくれて、新作から初披露の曲だったけど即座に反応してくれて感動したよ。

──終盤ではお客さんをステージに上げて、オロノさんと一緒にスマホで写真を撮影したかと思えば、オロノさんの盟友である菅原達也さん(め組)がサプライズで乱入したりと、ハッピーなバイブスに満ちていましたね。Superorganismがライブで心掛けていることはありますか。

ハリー:大切にしているのは、オーディエンスとコミュニケーションを取ること。オーディエンスの中に僕たちの曲を歌っている人がいたら、その人とアイコンタクトを取りながらお互いに「絆」を深めて、それを他の観客にバトンタッチしながらバンドとオーディエンスの隔たりを壊して、1つのコミュニティを作り上げる。僕たちのライブは、メンバーを含めてみんなとの共有体験にしたいんだ。

ハリー(Gt.)

オロノ:ハリーと同じかな。周りを見回して、1人でもバンドの曲を知っていて一緒に歌っているオーディエンスがいたら、「ずっとノってるな」と感心しながらテンションを上げて、ほかの観客にも想いを繋げて広げていく過程を大切にする。そうするとオーディエンスもバンド自身も楽しめるし、その場にしかない空気が生まれるから。それでも、ステージに立った瞬間は「こうしよう、ああしよう」とは考えていなくて。

ハリー:ステージに立てば細かく考えないね。だから演奏が上手にできるとか、誰かが演奏を失敗することもあまり気にしないというか、ライブ全体のフィーリングが大切だね。

オロノ:そう。あえて考えているとしたら、前回のフジロックのせいもあって、気持ちを落ち着かせることぐらいかな。笑

メインストリームでポップなアルバムにしたかった

──最新作についてお伺いする前に、私なりに前作『Superorganism』(2018)を総括すると、今作のゲストでもあるスティーヴン・マルクマス率いるPavement、それからアナーコパンク・バンドのCrassやThe Psychedelic Furs、Kanye West、私の大好きなYves Tumorなどにも通じる、野放図でカオティック、そして清々しい開放感のあるアルバムでしたね。

オロノ:その感想で挙げてもらったCrassとかKanye Westは、数年前に『The Sign Magazine』の取材で知り合った田中宗一郎にも言われたな。ありがたいね。

ハリー:オロノの言う通りだね。そうやってジャーナリスティックな視点で作品を見てくれると嬉しいし、僕らが感じていることを君も感じているということは、色々な人たちに僕たちの音楽の本質が伝わっていることを実感できるよ。

──そこから今作『World Wide Pop』も聴いて、見事な作品だと思いました。そこで私の所感がいくつかあって。まず、誰にでもできそうでいて、誰にも真似できないサウンドと歌詞だなと。

オロノ:ふふ、確かに。笑

──同時に、バンドのこれまでの様々なリファレンスをアップデートしながら、さらにエクストリームでアナーキーでカオスになっている。サウンドはインディーでありメインストリーム……とめちゃくちゃに言葉を並べてみましたけれど。

ハリー:あはは。なんとなく分かるよ。ありがとう。

──突き詰めれば透明な結晶のように美しい純粋なポップ・アルバムになったと感じたのですが、前作のリリースから4年間、バンドは何を考え、そして今作に繋がったのか教えてください。

ハリー:2ndアルバムはエクスペリメンタルではなく、メインストリームでポップなアルバムにしたかったから、そう言ってくれてとても嬉しいよ。今作の曲は1stアルバムをリリースした直後から作ってはいたんだ。前作と違うのは、曲を書きながら、メンバーが持つそれぞれの個性をいかに極限まで楽曲に落とし込むか、ということを考えていたぐらいかな。それ以外は何も決めないまま作ったアルバム、とも言えるかもしれないね。笑

──なるほど。笑 では、今作を作る上できっかけになった曲は何になりますか。

オロノ:「Teenager(feat. CHAI & Pi Ja Ma)」(以下、「Teenager」)だね。

ハリー:そうだったね。

オロノ:前作をドロップして最初に書いた曲なんだけど、次のアルバムのためというわけではなくて。ツアーをしながら曲を書いていたから、どこからが2ndアルバムの作業というのはなかったけれど、区切りをつけるとすれば「Teenager」かな。でも途中でパンデミックに突入して、その時は曲を書くより「禅」のような精神状態で頭を空っぽにして過ごしながら、2〜3年を費やして今作のアートワークを作ることに没頭してた。その作業の方がアルバム『World Wide Pop』の始まりかもしれない。

──そうなんですね。ちょうど私が深く質問してみたかった曲が「Teenager」なのですが、歌詞を読んだりサウンドを聴いたりすると、どこかオールドスクールなロックの感覚もありながら、オロノさんが実際に経験して感じたことをスケッチしている気もする。けれど、どこか距離を置いたクールな視座というか、オロノさんの意志の強さも感じたんです。このアルバムの骨子となった曲が出来上がったのはどういう経緯でしょうか。

オロノ:いや、全然個人的なことではなくて、むしろ自分の視点が大して入ってない曲だし、「Teenager」はアルバムの中で最も客観的な曲。自分が子供だった時は頑固で……今はもっと頑固かもしれないけれど。笑

ハリー:ははは。笑

オロノ:若い頃の自分に聴かせたかったのと、現在のユース・カルチャーに対する想いを込めてる。「オールドスクールなロックンロールを聴くのも悪くないよ」って若い子たちに言うようなノリの曲で。「そんなに頑固にならなくてもいいじゃん」っていう。

ハリー:僕も若い頃はオロノと同じで視野が狭くて、何事も「クールであるかどうか」にこだわりすぎていた。それでも歳を取ってオールドスクールなロックンロールを聴いてみると「そんなのどうでもいいよね」と吹っ切れる時があって、凝り固まった考えが打ち壊せられる気がする。「Teenager」にはそういったフィーリングがあって、今作の中でも特に共感できるんだ。

曲作りは自分たちの心に正直であること

──今回の曲作りは、前作のようにインターネットを通じてデータをやりとりするだけでなく、メンバー同士が直接会って作り上げたと伺いました。それを踏まえると、今作は1つの楽曲に皆さんの様々な感覚が有機的に練り込まれている印象も受けたのですが、いかがでしょう。

ハリー:言っていることはよく分かるよ。スタジオに入ってメンバーみんなで曲を作る時は、僕たちのエネルギーの集合体が1つの楽曲に反映されるからね。例えば「Oh Come On」の原形は、数年前にシカゴのスタジオでジャムをしている時にできたんだけど、その時のメンバーの感情が投影されているかもしれない。

オロノ:ただ、スタジオでジャムったのは最初のアイデアを練り上げる時ぐらいで、あとはリモートでファイルを送って作っていく感じだった。だから前作と変わらない所もあるよね。

ハリー:そうだね。曲作りは自分たちの心に正直であることだけを心掛けているから、僕たちにとってどういった制作環境であれば良いのかは、あまり関係のないことかもしれない。なんて言えば良いんだろうな……僕たちも人間なんだよね。ツアーの最中は疲れているし、そんな時に曲を作り始めると、その時のムードが如実に漂うことがある。例えば、ツアーを始める前にLAのスタジオで作った「Solar System(feat. CHAI, Boa Constrictors & Pi Ja Ma)」はメランコリックだけど、ツアー中の感傷的な気分で作った「Oh Come On」に比べるとずっと軽い雰囲気がある。メンバーと触れ合う期間が長くなった分、前作と比べれば曲ごとに全く違うバイブスのあるアルバムになったと思うよ。

──そうしてできあがったアルバムですが、1曲目の「Black Hole Baby」から〈Superorganism〉という言葉が飛び出してくるし、最終曲の「Everything Falls Apart」にも同様にバンドの名前が歌詞に出てきます。〈Superorganism〉という言葉が多用されるのは、今作を通してご自身のアイデンティティを確認しようとしていたからでしょうか。

ハリー:興味深い質問だね。『World Wide Pop』はどこか「自分探し」というか、バンドに自意識が芽生えた作品なのかもしれない。制作の過程で見つけた僕たちのアイデンティティを、ネガティブな感情を含めて、良い意味でも悪い意味でも楽曲に投げかけている部分があると思う。合わせ鏡には、同じ画が永遠に連なって常にそのもの自身と向き合っているけれど、そういった状況を自ら作り上げて、これまでなかったバンドの内に潜む感覚をキャプチャーしたかったのかもしれない。オロノはどう思う?

オロノ:そういった要素はあるかも。高校生の時に「お前は“self-aware”(※)すぎる」と友達に言われたぐらいだから。

ハリー:そうなんだ。笑

※:自分の感情や存在を正しく理解し、個人としての自分は他の個人とは別の存在であることを認識する能力のこと。自己認識(名詞:self-awareness)。

オロノ:最初は意味が分からなかった。“self-aware”って大抵は褒め言葉として使われるから、あまりポジティブではないニュアンスで言われたことに困惑して。でも最近になって、やっと意味が分かった。ただ、バンドの自意識が強い作品を狙って作ろうとはしてなくて。

ハリー:うん。前作の時は、リスナーがどう思うのか、評価を気にしすぎた所があった。今作では、リスナーの感じ方や評価は、僕たちではコントロールできないことに気付いたからこそ、自己探求的な作品に繋がったのかもしれない。でも、オロノが言ったように狙ってそういうアルバムになったわけではなくて、ジョークのつもりでもあるんだ。楽曲ごとに一種の言葉遊びのようなことをして楽しんでもらえたら良いなと思いつつ、アルバムの構成を考えたり曲を作ったりしたね。

音楽もMVも絵を描くことも全部一緒

──確かに言葉遊びの要素はありますよね。それと、Superorganismの音楽を聴いていると、それぞれの曲が立体的で、音像にスペクタクル性がありますよね。音が目に見えるというか……。

ハリー:その指摘も興味深いね! 僕たちはあらゆるアートやメディアにアンテナを張っているから、そういった現実の世界からの影響をダイレクトに反映させて楽曲として表現すると、リスナーの目の前にリアルな絵のように立ち上がるのかもしれない。それは、僕たちがクリエイティブな好奇心や探究心に従って、楽曲のアイデアやストーリーを思い浮かべながら、どんなアートでも平等に作ることを楽しんでいるからだと思う。僕たちにとって、ピアノで曲を書くこととアコギで曲を書くことの違いって、ラップトップ上で絵を書くのか音を作るのか、という違いがあるだけだと感じてて。キャンバスは同じで、できあがるものが違ってるだけ。その根本には何でも楽しむというマインドを大切にしてるよ。

オロノ:単に違うフォーマットでアウトプットしているだけで、音楽もMVも絵を描くことも全部一緒。同じアプローチをしているから、音が絵のように見えることがあったとしても不思議ではないし、どんな解釈も成り立つと思う。

──そういう感覚で作られるからこそ音がカラフルなのかもしれませんね。さらに、前作は海やクジラというイメージがありましたが、今作も太陽、雨、宇宙といったモチーフを通して命の循環が描かれています。

ハリー:さっきの答えに繋がっていくんだけど、アートは、音楽やアートワーク、ビデオでも、チェーンのように繋がりあって1つのサイクルを作っているんだ。僕たちはその中にいて、色々なフォームの素材を破壊しては再生させることを繰り返していきたいのかもしれない。だから太陽や海、宇宙という普遍性のあるモチーフを使って生命の循環を描くことは必然かもしれないけれど、なぜそうなるのかは、やっぱり僕たちにも分からないんだよ。笑

オロノ:そう。答えを見つけようと思っていないというか。何かをモチーフにして語りたいわけではなくて、音楽として現れると、そういう風に見えるだけだと思う。でも、そうやって色々な角度から作品を捉えてくれるのは嬉しい。

──ところで、今作の共演者に関する質問は嫌というほど聞かれていると思うのですが……。

オロノ:ふふ。笑

ハリー:あはは。笑

──あえて聞きたいのは、Superorganismを見ていると、常にオープンマインドで、平等で、全然スノッブじゃないから、Kanye WestやBeyoncé、ひょっとしたらBob Dylanだって仲間に引き寄せるような吸引力がある気がします。それは自然とバンド内でできあがった心性でしょうか。

ハリー:おそらくそうだと思う。僕たちは誰に対してもオープンな考え方を持っているし、僕たちの好きな人たちがやっていることにリスペクトできれば、誰でも参加してほしいと思ってる。Pi Ja Maはパリで一緒にライブをしたり、CHAIはUKで一緒にツアーを回ったりして、それぞれ仲良くなったからアルバムに参加してもらったし、以前共演して友達になった星野源やスティーヴン・マルクマスみたいなレジェンドを迎えられるのはラッキーだね。でも、気が合うだけっていうのが大きいんだよね、オロノ?

オロノ:うん。笑

── 一言で終わっちゃった。笑 では最後に、Superorganismを形成する上で不可欠なピースはありますか。例えばメンバー間のコミュニケーション、あるいは音楽に対するパッションなど、色々あると思います。

ハリー:そうだね……えーと。

オロノ:グッズやチケットが売れて、お金が欲しい!笑

ハリー:ええ、そんな!笑

オロノ:だって今、ハリーは「友情」っていう綺麗なオチを言おうとしたからさ。笑

ハリー:でも、やっぱり大切なのはメンバーみんなが健康で、音楽を作ることもツアーをすることも楽しめることかな。それが、これからもSuperorganismを続けていく大事な要素になると信じてるよ。

<2022年8月1日 渋谷某所にて>

* * *

RELEASE

Superorganism『World Wide Pop』

レーベル:Domino
リリース:2022年7月15日

トラックリスト:
1. Black Hole Baby
2. World Wide Pop
3. On & On
4. Teenager (feat. CHAI & Pi Ja Ma)
5. It’s Raining (feat. Stephen Malkmus & Dylan Cartlidge)
6. Flying
7. Solar System (feat. CHAI & Boa Constrictors)
8. Into The Sun (feat. Gen Hoshino, Stephen Malkmus & Pi Ja Ma)
9. Put Down Your Phone
10. crushed.zip
11. Oh Come On
12. Don’t Let The Colony Collapse
13. Everything Falls Apart
[Bonus Tracks]
14. Black Hole Baby (ME-GUMI Cover)
15. crushed.zip (mabanua Remix)

配信リンク:https://superorganism.ffm.to/worldwidepop-more

LIVE

『World Wide Pop Tour』
全国5都市のジャパン・ツアーを2023年1月に開催!

東京 2023/1/13 (Fri) ZEPP DiverCity Tokyo
大阪 2023/1/15 (Sun) Namba HATCH
名古屋 2023/1/16 (Mon) ダイアモンドホール
広島 2023/1/17 (Tue) Hiroshima CLUB QUATTRO
福岡 2023/1/18 (Wed) Fukuoka DRUM LOGOS

インフォ:https://smash-jpn.com/live/?id=3754

writer

竹下力のプロフィール画像
竹下力

1978年6月27日生まれ、静岡県浜松市出身。出版社勤務を経て演劇・音楽系フリーライターに。90年代半ばに『MTV japan』に出会い音楽に目覚める。オアシス、ブラー、レディオヘッド、サウンドガーデンやスマッシング・パンプキンズとブリット・ポップやオルタナティヴ・ロックに洗礼を受け、インダストリアル・ロックにハマり、NINE INCH NAILSの虜になる。BOREDOMSのEYEと七尾旅人がマイヒーロー。

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Taku Tsushima/92年、札幌生まれ。『musit』編集/執筆、『ヨムキクノム』スタッフ/バイヤー。個人ではシューゲイザーに特化したメディア&プラットフォーム『Sleep like a pillow』主宰。イベント企画やZINE制作、“知識あるサケ”名義でDJなど。

photographer

Taku Tsushima/92年、札幌生まれ。『musit』編集/執筆、『ヨムキクノム』スタッフ/バイヤー。個人ではシューゲイザーに特化したメディア&プラットフォーム『Sleep like a pillow』主宰。イベント企画やZINE制作、“知識あるサケ”名義でDJなど。

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