【インタビュー】完全なマックスアウトを迎えて──幾何学模様が5人で描いた1枚の絵

【インタビュー】完全なマックスアウトを迎えて──幾何学模様が5人で描いた1枚の絵

幾何学模様が今年いっぱいで活動を休止する。しかも無期限である。5月6日にはバンド名の一部を冠したアルバム『クモヨ島 (Kumoyo Island)』をリリースし、6月にはイギリスの『Glastonbury Festival(グラストンベリー・フェスティバル)』 へ出演した。このまま来年以降も海外ツアーへ出るように思える勢いだが、アルバムは最後の1枚であり、12月には東京でファイナルショーが開催される。いよいよ別れが現実味を帯びてきた。

最後の瞬間が着実に迫る中、幾何学模様は『FUJI ROCK FESTIVAL ’22』(以下、フジロック)に出演。この度、そのライブ直後にGo Kurosawa(Dr. Vo.)とTomo Katsurada(Gt. Vo.)の2人に話を聞く機会を得た。アジア出身のバンドとしてのアイデンティティや『クモヨ島』について、そして活動休止後の話まで──フジロック当日の写真と共に別れを惜しみつつ、アムステルダムを拠点に海外を飛び回ってきた彼らだからこそ見えた景色の一部を、このインタビューで感じ取ってもらえたら嬉しい。<musit編集部>

インタビュー=鈴木レイヤ
編集=對馬拓
写真=Kazuma Kobayashi

* * *

はじめに

──日本のフェスに初出演ということですが、フジロックはどうでしたか?

Go Kurosawa(Dr. Vo.):昨日の夜から前夜祭に行ってて。

──実はオアシスエリアでウロウロしているのを見かけてました。

Tomo Katsurada(Gt. Vo.):ウロウロしてたね。笑 (海外から来た音楽フェスという文化だが)日本のお祭りの雰囲気が思いのほかあって、やっぱり日本っぽいなって。

──特に前夜祭には盆踊りなど日本独自の夏文化がありますよね。

Go:しかもフェスティバルって日本語に訳したらお祭りだからね。

「邦楽」「洋楽」っていう流れは必要ない

──幾何学模様というバンドに関して、まず私は「アジア人がアジアの文化、音楽をメインストリームに押し出している」という点に、アジアに生まれ育った人として、嬉しさを感じていました。バンドとして、そういう「アジアの音楽を前面に出していく」というゴールが達成できた感覚はありますか?

Tomo:ものすごくありますよ。

Go:ありますね。

──アジアに生きる人が自ら西洋文化に憧れ同化されていく中で、その流れに抗っているように見えて憧れすら覚えました。そもそも、バンドとして当初から「アジアの音楽を前面に出していく」という目標があったのか、という点も聞かせてください。

Tomo:例えば、アメリカとイギリスのバンドは自分たちのそのままのルーツを出して世界中をツアーできるじゃないですか。だから「アメリカ感」「イギリス感」っていうのは自然と受け入れられてるんやけど、「日本っぽい」っていうのは、既に「イギリスっぽい」とか「アメリカっぽい」になりすぎてる。

Go:つまり、アメリカで売れてたら、世界中のどのフェスにも出れるんですよ。アメリカで一番とかUKで一番とか。でも、全員がって話じゃないですけど、日本で一番のアーティストが世界のフェス回れるかって言ったら、違うじゃないですか?

Tomo:自分たちはアメリカで留学してたんやけど、移民国家の場合、みんなが自分の(ルーツとなる)アイデンティティを出してくのが普通で、それを武器にして音楽、カルチャーを作っていくから。

Go Kurosawa(Dr. Vo.)

Go:海外に出ると、相手からも否応なしに日本人に見られて、日本のことをいっぱい聞かれる。

Tomo:日本にいたら、日本のことなんか言う必要ないんやけど、音楽文化っていうのはそこは大事やと思うから、そういうのを学生時代に経験できたってのは良かったよね。

Go:だから、バンド(幾何学模様)のアイデンティティっていうのは海外向け、国内向けっていうのじゃなくて、自然に形成されてる。

Tomo:ね。日本やったら「邦楽」「洋楽」っていう流れがあるから分けて見てるけど、そういうのって本当は必要ないし。

Go:音楽は音楽だから。どこの国の人がやってようと、良いものかどうなのかっていう違いがあるだけ。

──最新作『クモヨ島』や前作『Masana Temples』は、これまでの作品に比べて明確にアジアの音楽の影響を受けてるように感じます。例えば、タイのモーラム(※1)っぽいフレーズが結構あったりとか。また、今作は日本らしい音階も目立ちます。どういう影響があって、そういった要素が加わったのでしょうか?

※1:ラオス及びタイ東北部のイサーン地方に伝わる歌謡芸能/伝統音楽。ケーン(笙)を伴奏とし、古くから伝承されている旋律に即興的な歌詞をつけて歌う。

Tomo:特にどこかを意識した感じじゃないよね。でも、東南アジアっぽい要素って、日本の音階とも近くて。で、日本風でもリズムを変えたらタイっぽくなったり。全部アジアっていう地域で繋がってる。

Go:「国」というより「地域」。「アジアっぽいな」っていう感覚、あるじゃないですか。

──東アジア、東南アジア、南アジア……というように、なんとなくグラデーションになってますよね。

Go:なんとなくね。あと実際、モーラムは聴いてたけどね。作った時は「モーラムっぽい感じで!」ってことはなかったけど。

──既に自らの血肉になるまで解釈できてるから地で出てくる感じですかね。

Tomo:そうだね。

試行錯誤して、もっと深い所まで

──『クモヨ島』は、タイトル通り「島」のイメージがある作品だと思いますが、A面は青い海や空など明るい景色、B面は霧がかった暗い景色という風に、A面とB面で景色が全然違うように感じました(※2)。こういった違いの裏には、コンセプトの違いやレコーディングなどが関係しているのでしょうか?

※2:M4「Meu Mar」まではA面、M5「Cardboard Pile」からはB面となる。

Tomo:曲ができて、アルバムのコンセプトが固まってきた段階で、レコードの基準で曲順を決めとるからどうしてもそこがメインになってくるよね。Spotifyやったらアルバムの最初から最後までそのまま流れていっちゃうけど、レコードやったら「A面の世界」「B面の世界」っていうのがある。自分はやっぱりその聴き方がすごい好きやし。レコードは(収録できる)分数の限りがあるから、どれだけ入るか考えたりするのは楽しいよね。

──『クモヨ島』はA面とB面で曲数が違いますが、それはストリーミングだと分かりづらいですよね。

Tomo:あとは、コロナで時間があったから色々と実験もできて。自分たちが今までやってきたことと、実験性も色々混ぜて、聴いてて面白いアルバム、楽しいアルバムにしたかったから。

Go:それをやったのがB面。

──確かに、一癖あって楽しい聴き心地でした。具体的にはどういう実験をされたんですか?

Tomo:これまでだったらずっとツアーしてて、ツアー中に浮かんだアイデアとかをみんなですり合わせてアルバムを作ってたけど、コロナの影響でみんなで会わない時期が増えて、自分たちでそれぞれ家にこもって、音の研究をしたりするっていう変化がまずあった。

──ライブをしながら曲が形を作っていくというアプローチは物理的に難しくなりましたからね。

Tomo:一人で試行錯誤して、もっと深い所まで突き詰める時間が永遠にあった。ひたすら家の中で宅録をするっていう感じだった。

──「Yayoi, Iyayoi」は特にカオスで、頭が揺られるような印象です。深く潜ってる印象が聴く側にも感じられる曲だと思います。物悲しい、雪が降ってても良いぐらいの景色が見えるというか。

Tomo:そうですね。ちょっと悲しげな曲。そんなに明るくない。

Go:そういう経緯でB面は、外の世界へ広く開けた感じじゃなくて、もっと縮こまった家の雰囲気とかインナートリップ的な感じが出た。

Tomo:宅録っていう背景もあって、アルバムのジャケットも部屋のコンセプトで、それで壁の前にソファとオレンジがあるっていう。あと、今までのジャケットはイラストだったけど、今回は「現実に戻ってくる」っていう意味も込めて写真になった。

──B面で特に印象的だったのは「Cardboard Pile」でした。クラウトロック調から急に展開していく様はとても聴いていて楽しいです。最後の「Maison Silk Road」がシタールのRyuさん作曲だと知ったのですが、「Cardboard Pile」は誰が中心に作った曲ですか?

Tomo:今回のアルバムは、基本的に自分とGoとGuy(Ba.)の3人で、週1ぐらいでアイデアを出し合いながら作ってて。

Go:Dropboxに誰かがアイデアを入れて、その上にまた誰かが何か乗せて、ちょっとずつデモができていく。Tomoが何か入れたら、それを聴いて俺が「これだったらベースはこんな感じで入るかな」とか、「じゃあビートはこれを」みたいなことをみんなでやっていきながら作った曲の1つがこれ。

Tomo:「Cardboard Pile」は元々2曲やったんやけどね。

Go:Tomoがある日突然、「ビョーン」っていう音を足して2曲をくっつけた。笑

Tomo:「バーン!」ってクラッシュさせて、宇宙旅行みたいな感じにしたかった。

1枚の絵みたいに、枠に入れて飾って見てみたい

──実際に幾何学模様のライブを観るのは初めてでしたが、YouTubeなどで観たライブ映像と比べて、今日は力が抜けてるというか、リラックスして演奏してるような印象がありました。実際、ご自身でもその感覚はありますか?

Go:いや、パンデミックの後──今のツアーは特に力が抜けてるよね。

Tomo:抜けてる。

Go:なんだろうね? 実際に力みが抜けてる。

Tomo:多分、(終わりが)近づいてるんすよ。笑 あと、パンデミック中のツアーは、もう、でっかいホールでも着席で「シーーン」って感じで。うちらはお客さんが踊ったりするバンドやったから、そこから変化もあった。力だけじゃなくて、もっと緩急が柔軟になってくるというか。

Go:アゲアゲみたいな感じだけじゃなくてね。

──今日、最後のライブ(12月3日/めぐろパーシモンホール公演)がアナウンスされましたが、やはり年末で活動は終わりになるんでしょうか?

Go:はい。今年いっぱいですね。

──すごく寂しいです。お2人はGuruguru Brain(幾何学模様の自主レーベル)の運営もされてますし、バンド外でレーベルの活動やDJ、ラジオ、プロデュース業など色々されてますよね。バンド解散後も、音楽には関わっていきますか?

Go:そうっすね。でも、音楽も多分やると思いますけど、プロでやるとか、「音楽で食う」みたいな感じではないですね。

Tomo:元々うちらはそういう感じでやってきてないから。「自分らの好きでやりたいことだけをやれたらいいね」って言ってきた。自分たちでできる自由を探してきたから、絶対に譲りたくない所は譲りたくないからこそ、こういう結末になった。ツアーをずっとやってきて家にも帰ってないし、もう、自分たちがどういうことをしてきたかってことすら分かってない状態だから。

──ずっと走り続けてたから、俯瞰して見ることはできないですよね。

Tomo:そう。だから、一回全部が終わった時に、1枚の絵みたいに、枠に入れて飾って見てみたい。そこでやっと「こういうことをしてきたんや」って。

──今回の活動休止は、バンドの自由を譲らないといけない段階になったということですか?

Tomo:5人でできる限界のところまで来た、っていうのがあって。5人でしかできない音楽をやりたかったから。今が5人の一番マックスな状態。マックスアウト(=限界/最高点に達すること)してるよね。

Go:バンドとして完全にマックスアウトしてる。たくさんライブして、音楽と向き合ってきて、そういう仕事もあるんだ、っていうのも分かったし。楽しいけど、「フェスに来た!」っていうフレッシュ感もだんだん薄れてくるじゃないですか。そういう感じでやっていきたくないし、「音楽で食う」っていうのが目標で始めたバンドじゃなかったから。

Tomo:規模が大きくなってくるといずれバンド・メンバーの関係も、よりビジネス的になっていくし。自分のやってることも他の所に頼まなあかんくなるから。こうなると、やっぱり「それが本当に自分たちがやりたいことなのか?」って思うよね。

──幾何学模様はレーベルもツアーも、プロモーションから物販まで「全部自分たちでやってるバンド」というところがかっこいいですもんね。

Tomo:だから、やっぱりうちらができる限界はこれぐらい。もっと上に行くなら形を変えないといけないって分かったし、うちらはそれが嫌だから。

Go:そこまでして、ね。

Tomo:「スターになりたい」とかそういうのじゃなくて、本当に楽しいからやってることやから。「とにかく毎回楽しくやっていく」、そこは最後までこだわりたかった。

Tomo Katsurada(Gt. Vo.)

──ちなみに、活動を休止したら髪の毛は切りますか?

Tomo:切らないっすね、俺は。

Go:俺も切らないかな。(バンドの活動休止も)別に区切りって感じはなくて、これからもその延長線上っすね。「新たな一歩」みたいな感じじゃなくて、バンドは「人生のひとときにこういうことがあった」みたいな。

Tomo:「はい、活動休止」ってタイミングで、もう好きな時にメンバーそれぞれでいろんなことをやっていくと思います。また気が向いた時には、もしかしたら戻ってくるかもしれない。やっぱり自分らで全部やってきたから、戻ってくるタイミングとかもうちらが決定できるし、レーベルも自分らでやってるからその決定権も全部こっちにある。その自由はね、絶対堪能したかったからね。

ちょっと切り替えて休んで、後半戦

──フジロックが終わって、これから年末の活動休止までは、どういう形で走るビジョンになっていますか?

Tomo:8月はもうゆっくり休む感じ。もう5月、6月と、2ヶ月くらいずっとヨーロッパでツアーしてて、そろそろ休もうと思ってた時にフジロックが決まったからね。

──今日のライブは前半の集大成でもあった、と。

Go:そうです。だから、ちょっと切り替えて休んで、後半戦。

Tomo:9月からね。

Go:アメリカとイングランドです。

──後半からラストスパートにかけての変化も楽しみです。

Go:これからもっと(力)抜けるんじゃない? 笑

Tomo:確かに。

Go:ふにゃふにゃになってるかもだよ。笑

Daoud Akira(Gt.)

Tomo:あとは、特に新曲とかね。まだライブでやってない曲もあって、色々取り組んでるから楽しみにしててください。

──まだまだ『クモヨ島』の観たい曲がたくさんあるので最後のライブも楽しみにしてます。……すみません、最後に、個人的な質問になってしまうんですけどいいですか?

Tomo:全然いいですよ〜。

──ギャルの友達に頼まれてて……。

Tomo:ギャル?笑

Go:笑

──今日、幾何学模様を観て、「イケメンすぎ! インタビューするんでしょ? 最後のライブでタバコ差し入れするから何吸ってるか聞いてきて!」って頼まれてまして。

Tomo:タバコの差し入れ…笑  あれなんだっけ?

Go:プエブロじゃない?  なんか青いやつね。

Tomo:手巻きタバコのプエルゴでお願いします。俺らは吸ってなくて、Daoud(Gt.)とGuyがいつもプエルゴ吸ってるんでもらいますよ。笑

Go:プエルゴじゃなくて「プエブロ」ね。

<2022年7月29日 新潟県湯沢町苗場スキー場にて>

* * *

RELEASE

幾何学模様『クモヨ島 (Kumoyo Island)』

レーベル:Guruguru Brain
リリース:2022/05/06(Digital)・2022/05/25(CD)・2022/08/26(LP)

トラックリスト:
A1. もなかのなか (Monaka)
A2. 青の舞 (Dancing Blue)
A3. エッフェ (Effe)
A4. ぼくの海 (Meu Mar)
B1. 段ボールの山 (Cardboard Pile)
B2. ゴムゴム (Gomugomu)
B3. 白昼夢の蜃気楼 (Daydream Soda)
B4. 鬼百合畑 (Field of Tiger Lilies)
B5. やよい、ゐやおい (Yayoi, Iyayoi)
B6. 昼寝のうた (Nap Song)
B7. メゾン シルクロード (Maison Silk Road)

LIVE

Artwork by Kendra Ahimsa

KIKAGAKU MOYO FINAL SHOW
日程:2022年12月3日(土)
会場:めぐろパーシモンホール 大ホール

※ソールドアウト

鈴木レイヤ