【インタビュー】「僕らのやり方は5人だからこその複雑さ」──パッチワークのように紡がれるSquidの本質

【インタビュー】「僕らのやり方は5人だからこその複雑さ」──パッチワークのように紡がれるSquidの本質

本来だったら2020年に初来日を果たすはずだった。世界がパンデミックに包まれるまでは。ここ数年、大きな盛り上がりを見せているUKインディー・シーンの筆頭株バンド、Squidだ。3年ぶりの開催となった『SUMMER SONIC 2022』(以下、サマソニ)で、やっとの初来日を果たした彼らがもたらしたのは、異様な緊張感と熱気に包まれたステージだった。たった30分足らずにも関わらず、爆発力のある楽曲とそれをリードするテクニカルな演奏に、多くのオーディエンスが固唾を呑んだ。

そんな印象深いライブから2日後、帰国直前のSquidからルイス・ボアレス(Gt. Vo.)とアントン・ピアソン(Gt. Vo. Perc.)がmusitのインタビューに応じてくれた。パンデミックは恐怖の象徴でもあり、またバンドにとって最大の幸福だったと語ってくれた彼らが、ポスト・パンデミックの今、見ている景色とは何なのだろうか。傑作『Bright Green Field』のリリースから早1年、Squidの現在地点に迫っていく。

取材/文=Kaede Hayashi
写真=井上恵美梨
編集=翳目

全く違うオーディエンスのあり方

ルイス:やあ! 聞こえるかな?

────はい! このインタビューもフライトの直前だとお聞きしました。今日はお忙しい中、時間を割いていただきありがとうございます。よろしくお願いします! 

ルイス:大丈夫だよ!

アントン:今日はよろしく!

────実は心臓の音が聞こえてしまうくらい緊張しています…。笑

ルイス:笑。僕たちはそれに見合うか大丈夫かな?笑

────パンデミックを乗り越えて、待望の初来日でした。SUMMER SONICでのライブはいかがでしたか?

アントン:本当にライブができて良かったよ。 2020年、2021年と2回も日本に行くことができなくてがっかりしていたからね。実はうっすらと「今回も無理かもしれない…」と思っていたけど、こうやって日本に来ることができたことは本当に嬉しかったよ。

ルイス:日本のお客さんは本当に注意深く僕らの演奏を聴いていたよね。音の奥の奥まで捉えようとしているように感じたよ。

────僕も生配信を観ていましたが、文字通り息を呑むような演奏でした。

ルイス:でも、その音楽にだけ集中して耳を傾けることっていうのは、オーディエンス同士が互いにリスペクトし合っているということでもあるよね。それはつまり音楽を大切にする能力だと思う。僕たちにとってそんなお客さんを見るのはとても新鮮なことだったよ。本当に静かだった。一瞬、全く盛り上がっていないんじゃないかと勘違いしてしまうかもしれないけど、ライブを進めていく中でお客さんがとても集中しているということに気付いたんだ。

────僕は7月のサマセット・ハウス公演に行ったのですが、演奏と同じぐらい熱狂するファンも興味深かったです。どちらが良い、悪いという話ではないのですが、日本とイギリスではオーディエンスの雰囲気は全く違いますよね。

ルイス:イギリスはもちろん、ツアーで行ったアメリカもそうだけど、今まで訪れた場所と日本は全く違うオーディエンスのあり方だったね。ヨーロッパでは多くの場合がちょっとクレイジーな感じだったんだ。笑 だから日本のお客さんは逆の意味でとても異質なオーディエンスなんだよ。笑

パンデミックは最大の幸運とも考えられる

────本来、2年前の『SUPERSONIC 2020』で来日される予定でしたが、コロナウイルスの流行によってキャンセルになってしまいました。このパンデミックの2年間を通して、個人としてまたはバンドとして、何か変わったことはありましたか?

アントン:もちろん。

ルイス:山ほどあるな。

アントン:まず第一にライブが再びできるようになったのは幸せなことだよね。もう1年ぐらいになるのかな。パンデミック以前と同じくらいツアーを周ったり、ライブができているんだ。この1年間はひたすら止まらずにライブをしては、またライブをしての日々だったね。この「ライブができる/できない」っていうのは、僕らにとって本当に重要なことなんだと思う。これが一番の大きな変化かな。それと、僕ら全員が家を引っ越したんだ。 だから機材の置き場所が変わったこともそうだね。笑

ルイス:笑。

アントン:ともかく大きな変化だよ。今はメンバーが自由に会えるし、一緒に作業することができるんだ。これはバンドにとって良いことだと思う。これまではそういう時間があまりなかったんだよね。

ルイス:変わったことはアントンの言った通りだね。今はパンデミックを抜け出してライブができていることかな。あとはもちろん、パンデミック中に『Bright Green Field』ができあがったこと。パンデミックが始まる前、僕らは一度もアルバムをリリースしたことがなかったんだ。本来だったら『Bright Green Field』ができあがる前に日本でライブをしていたかもしれない。だから2021年にできあがったこのアルバムを携えて、日本でライブが行えたというのは不思議な感覚だったね。

────パンデミック前にあったバンド像がイメージできないような感覚ですか?

ルイス:パンデミックさえなければ日本でライブをする可能性がもっと早くにあったかもしれないけれど、今となってはそれを考える文脈がないってことかな。パンデミックはもちろん定義としては恐ろしいものなんだけど、同時に僕らにとってはアルバムを作ったり「ライブができない」ことを経験したり、最大の幸運だったとも考えられるんだ。本当に不思議なことにね。

通常ならアルバムをリリースすると、多くの人がそのアルバムに慣れ親しむ時間ができるよね。でもパンデミックというライブができない状況下でアルバムを作り上げたからか、いざ再びステージに戻った時には、僕らの音楽に慣れ親しんだ人の前でライブができる感覚がかなりシュールなことのように感じたんだよ。

────NMEのインタビューでオリー(Dr. Vo.)は「パンデミックは限界を押し上げるいい口実だった」と語っていましたね。

ルイス:パンデミックでお互いに限界を越えることを余儀なくされたようなものだよね。パンデミックでまともに活動ができなかった時は、インターネットでアイデアを送り合うしかなかったんだ。それはこれまでの僕らが選んできたやり方じゃなかった。それでもできる限りのことがしたかったし、そのための最低限の手段という感じかな。「限界を超える」というのは大げさかもしれないけど…。

アントン:笑

ルイス:でもある意味で僕たちは限界を越えることができたよ。笑

────バンドの拠点がイギリス西部のブリストル(Bristol)にあると伺いました。バンドの知名度が上がる一方で、ロンドンではなくブリストルに拠点を移したことには何か理由がありましたか?

ルイス:ちょっとそこはややこしいんだよね。笑 ブリストルはロンドンよりも小さな街だから、パンデミックでロックダウンになった時に、ぶらぶらするのにも音楽を作るのにも本当にいい環境だと感じて引っ越したんだ。だから今まではブリストルに住んでいたけど、僕はロンドンに戻ったよ。アーサー(Key.Str.Perc.)とローリー(Ba. Brass. Perc.)も。アントンとオリーはまだブリストルに住んでいるけどね。笑 それと僕らはメンバー全員とも、よく引っ越す傾向にあるんだ。自分を含めて、みんなかなり落ち着きがないなと思う。笑

────そうだったんですね。笑 それではパンデミックの期間を過ごしたブリストルはどんな街だったのでしょうか?

ルイス:パンデミックだったからだけど、とても静かな街だった。ロンドンに住んでいるなら分かると思うけど、ロンドンとは全く違う雰囲気だよ。街は小さなコミュニティだけど、より親密な雰囲気があるような感じだね。ロンドンにいると打ちのめされる気持ちになることが時々あったけど、ブリストルで過ごした時間は制作活動にとてもいい時間だったんだ。アントンがすぐ近くに住んでいたからよく顔を合わせられたのも良かったね。あとは野生の動物を眺めたりね。笑

重要なことは全てを作り上げたあとに、その音楽を振り返ること

────Squidの音楽は予測不能な展開に加えて、音のバラエティさもその特徴だと思います。そのインスピレーションの源は何ですか?

アントン:全て一緒に作っているから明確な答えを出すのは難しいかもしれないな。例えるなら、お互いがお互い同士でコラボレーションしているようなものなんだ。時には一緒に仕事をしたり、違うことをする。それが5人もいるから同時に複雑さが生まれるんだと思うな。いつも何かを計画して作っている訳でもないしね。だから音楽を作る時に「これを実現したい」ということはあまりないんだ。ただ何となく…ごめん、そうなっちゃうんだよね。笑

ルイス:確かに。笑

アントン:とりあえずやってみるという方式だから、結構昔ながらのやり方というか。笑

ルイス:ミュージシャンのほとんどは、曲作りの時に「こういう音にしよう」とか「こういう曲にはならないようにしよう」とか軽くでも道筋を決めると思うんだよね。実際、そっちの方が簡単だとは思う。でも僕らのやり方は5人だからこその複雑さがあるし、いつもメンバー全員の気持ちがちょっとずつ入っているんだ。

────デビュー・アルバム『Bright Green Field』の制作背景には「未来を偏重するディストピア」というテーマがあったと聞きました。

アントン:そうだね。僕らの音楽へのアプローチの仕方や今を写しているような歌詞には、その要素が沢山含まれていると思う。色々な曲があるけど、はっきりとは捉えずに断片的に想像できる形で作っていたんだ。制作当時はディストピア小説を読んでいるような気分で音楽を作っていたね。

────僕は『Bright Green Field』を初めて聴いた時に今の東京が思い浮かんだんです。広がる格差や進むジェントリフィケーション、同じようなディストピア的感覚が日本にもあるなと感じました。きっと今作はイギリスを舞台に作られているはずなのに、そこが面白いなって。

アントン:それは当時の世界中の人たちが持っていた感覚だと思うよ。実はほとんどの曲は世界的なパンデミックをきっかけにして書き始めた感じでもあるんだ。だからディストピア一辺倒の作品というよりは、むしろパンデミックという出来事と今の世界が繋がっているような複合的なアルバムになっているつもりだよ。この作品はあるイメージから別のイメージへと素早く変化する複雑なプロセスについて、それがいかに多面的であるかを示すためのものだと思うんだ。そういうところを自由に反映させた結果かな。

ルイス:それと、本質を理解しようとするのは曲を作り上げたあとなんだ。「この曲は何と結び付いているのか?」「どのように?」「僕たち全員にとってどのような意味をなすのか?」というようなコミュニケーションを通して、「この音楽が語っていることは社会のある1つの要素なんだ」ということに気付く。そういうプロセスを経て、曲が表すものが「街の一部分」だったり「人の組織の一部分」のように捉えることができるようになるんだ。だから重要なことは全てを作り上げたあとに、その音楽を振り返ることなんだよ。ある種の反省だね。「この作品で売れてやろう!」ではないんだ。笑 

アントン:笑

────複雑なプロセスを経たからこその強度があるんですね。楽曲それぞれが強い存在感を放っている理由が分かった気がします。そしてこの作品は、全英チャート初登場4位と高い評価も得ました。笑

ルイス:決して意図したものではないけどね。笑 でも曲作りのプロセスとしてはとても良いものだと思う。レコーディングが終わってから、その解釈を活かしてMVを発表したり、アルバムのアートワークに取り組んだり、イメージを具現化するような色々と楽しいことが待っているんだ。曲が完成してアルバムがリリースされるまでの間に、興味深いポイントが沢山あるんだよ。「僕たちが今やっていることは何なのか」、「僕たちは今何をしようとしているのか」「このようなことは何に分類できるのか」というようなポイントがね。それらがパッチワークのように繋がって作品が完成していくんだ。それで『Bright Green Field』の場合は「都市」というカテゴリーに落ち着いたね。

僕らが好きなことをいつもやっているということ

────次回作は『Bright Green Field』よりも「メロウ」な作品になるかもしれないと聞きました。次回作について教えてください。

ルイス:確かに作風としては「メロウ」に当たるかもしれないね。笑 僕らにとっては新しいアルバムの方が音楽的には面白いんだ。2ndアルバムを作るというのは本当に奇妙な気分だよ。なぜなら僕らが音楽を作るうえでの文脈が以前とは全く違うから。ロックダウンの中で制作されていた『Bright Green Field』と違って、今はお互い会うことを許されているからね。納得のいく作品を作り上げたし、その評判にとても満足しているからこそ、2ndは「とにかく何でもありにしよう」と思っているよ。自分たちのルールを少なくしている気がするね。

────想像がつかなくなってきました…。

ルイス:「メロウ」って言葉が出たように、僕たちは別々のラインのメロディーにより興味があるんだと思う。Squidはリズムセクションの上に誰かがリードをつける音楽を得意としているんだけど、それはギターだけのセンスとは全く違うものなんだよ。むしろメロディーの異なるラインが交錯するという、僕たちの強みをより活かしている感じかな。

今までの作品ではヴォーカルは副次的なものだったけど、次のアルバムではもっとヴォーカルに重点を置くつもりだしね。オリーは本当に素晴らしいヴォーカルだし、メロディーを歌う能力についてずっと探求していると思うんだ。そして僕らの音楽をとても印象深いものにしてくれている。そうだね…でも僕らがやっていることは、まだ自分たち自身でも解明されていないような気もする。今は様々な分野から少しずつ実験しているのだと思う。だから僕たちの音楽を聴いた人の中で、好きか嫌いか意見が分かれたりするんだろうね。笑

────笑。

ルイス:ただはっきりしているのは、僕らは好きなことをいつもやっているということ。それは楽器へのアプローチの仕方だったり音の特色を押し出すことだ。ほかのアーティストと比べて超異色というわけではないんだけど、ちょっとだけでも前の作品より洗練されたものになればいいなと思っているよ。

───バンドとしてこれからのヴィジョンは何かありますか?

ルイス:何かあるかな?

アントン:思いつかないな…。笑 まあでも、かなり不安定な仕事ではあるからバンドを続けていけることが一番かな。何か賞を取ろうとも思わないしね。笑

ルイス:平均的なことが一番の賞だったり。笑

アントン:もし僕らの本当にやりたいことが「ただ音楽を作り続けること」そして「どんな音楽でも制作を楽しむこと」だとするのなら、そうすることができればそれはもう幸せだよね。

ルイス:オフィスワークをしないためにも、多少でたらめでいた方が良いね!笑

───今日はありがとうございました! バンドとしてもファンとしても待望の来日だったと思います! 最後に日本のファンに一言ください。

アントン:僕たちのステージに来てくれた沢山の人に感謝しています。本当に素晴らしい時間を過ごすことができました。初めて訪れる国の中でも、特に日本のような遠い国で多くの人が観に来てくれるということは、僕たちにとってとても特別なことです。本当に嬉しいことでした。また日本に行ける日を楽しみにしています。

ルイス:サマソニに来れなかった人、地方に住んでいる人も含めて、本当にありがとうございました。 僕らがまた日本でライブをする時には、フェスはもちろんツアーもしたいと思うし、その時には皆さんがそこにいることを願っています。もしまだSquidの曲を聴いたことがない人がいたら、ぜひチェックしてください! また日本に戻って来られる日をワクワクして待っています!

<2022年8月23日 フライト前の渋谷某カフェにて>

RELEASE

Squid『Bright Green Field』

レーベル:Warp Records
リリース:2021年5月7日

トラックリスト:
1. Resolution Square
2. G.S.K.
3. Narrator ft. Martha Skye Murphy
4. Boy Racers
5. Paddling
6. Documentary Filmmaker
7. 2010
8. The Flyover
9. Peel St.
10. Global Groove
11. Pamphlets

[Bonus Tracks]
12. Sludge
13. Broadcaster

Kaede Hayashi