【インタビュー】負の要素をプラスに──ぺんぎんの憂鬱が目指す「不穏でかわいい」

【インタビュー】負の要素をプラスに──ぺんぎんの憂鬱が目指す「不穏でかわいい」

飛ぶ鳥──否、飛ぶペンギンを落とす勢い。たな(Vo. Gt.)がライブや音源ごとにサポート・メンバーを迎えて展開するソロ・プロジェクト、ぺんぎんの憂鬱。2022年6月にリリースした1st EP『曖昧夢』(あいまいむ)が各所で話題になったかと思えば、リード曲「落ちる」のMVは既に2.5万再生を突破。軽快かつポップなギター・サウンドと掴み所のないヴォーカルで、着実に中毒者を増やしている。

少々個人的な話で恐縮だが、たなとは長らくTwitterの相互フォローの関係で、観に行くライブも高確率で被っていた気がするのだが、特にそれといった交流もなく絶妙な距離感を保ったままだった。大きな契機は、2022年6月5日に下北沢ERAで開催された『曖昧夢』のリリース・パーティー。想像以上にダウナーでプログレ的な志向性も感じさせるライブと、事前収録の音声をサンプラーで流すトリッキーなMCに衝撃を受けた(単に喋るのが苦手ということらしい)。終演後、物販スペースで初めて対面で喋り、その頃から「いつか何かを一緒にできたら良いな」というかなり漠然とした気持ちを抱いていたが、『musitTV』という形で叶えることができた。

本稿でも「道路に穴が空いてると嬉しい」と工事現場への思いの丈(?)を語っているように、ふわっとした掴み所のない雰囲気をまとっているが、ライブになると先述した通りでイメージは一転。その様子は動画内でもご覧いただける。今回のサポート・メンバーは『musitTV』収録のために集まった初の編成なので、その点にも注目していただきたい。ちなみに今回披露した「延滞」「OCD」は次作EPに収録予定だとか。自身が掲げる「不穏でかわいい」サウンドに、映像と共に揺られてみてほしい。

インタビュー/文=對馬拓
写真=井上恵美梨

musitTV サポート・メンバー

yuma kanai(Gt.) – 1994 / Bearwear
サトウヒナコ(Ba.) – くぐり / とがる サポート
あべゆうま(Dr.) – nhomme / YKCM

* * *

1. 私の知る限り、たなさんは元々「Twitterの音楽好きのフォロワー」くらいの立ち位置だった記憶なのですが、気がついたら本格的に音楽活動を始めており、今年だとチェコのドリームポップ・バンド、Billowの来日サポートなんかもこなしていて驚くばかりです。ここまで紆余曲折あったかと思いますが、そもそも音楽活動を始めた経緯やきっかけはなんだったのでしょうか。

実は「たな」のアカウントは音楽活動を見据えて、音楽ファンとして近い趣味の方々をフォローしておくために作成したものでした。笑

2018年にサークル内外のコピー・バンド活動で知り合った友人たちと4人体制でバンドとして活動を開始し、メンバー交代/脱退を経てソロになりました。2021年春の大学卒業時、入社までに半年のモラトリアムが生じたので音源制作を思い立ち、活動を再開して今に至ります。結局社会人になってからが一番活動しています。

2. 今年の6月2日には1st EP『曖昧夢』(読み:あいまいむ)をリリースしました。私個人の観測範囲ではありますが反響は大きかったように感じていますし、同月5日に下北沢ERAで開催されたリリース・パーティーも盛況で、私も楽しい時間を過ごしました。リリース当時とリリパ、それぞれ振り返ってみていかがでしょうか。

自分にとっては3年前からあった曲なんですが、きちんと作り込んで発表することでかなりの人に聴いてもらえることが実感できて、嬉しく思いました。サポート・ドラムの三浦くん (50 pears)の紹介で中村公輔さんにレコーディングからミックス、マスタリングまでお願いし、おかげさまで宅録時代と比べて音質が劇的に良くなりました。

リリパは準備や当日は本当に大変でしたが、なんとか人も集められて、出てくれたバンドも最高で良い日だったと思います。印象的だったのは、リリパをきっかけに出演バンドを知って気に入ってくれた方が何人かいたことです。自分の好きな人/ものが広がる嬉しさというか気持ちよさを知ってしまい沼を感じました…。

リリパでお世話になったERAには、冒頭あげてもらったBillowの来日サポートに誘っていただくなど引き続きお世話になっていて、ありがたい限りです。

3. 『曖昧夢』の冒頭を飾った「落ちる」が、MVを含めて特に印象的でした。若干翳りのあるギターの音、軽快なアンサンブル、絶妙な温度感のヴォーカルなど、全体的にふわふわと掴み所のないのもあって、繰り返し聴かせる中毒性を感じさせます。MVもフィクションが交錯するような映像が、楽曲の世界をしっかりと視覚化していると思いました。音源とMVの制作はどのように進みましたか。

ありがとうございます。楽曲自体は3年ほど前には既にライブでも演奏していました。当時はスリーピース体制で演奏していましたが、EP制作にあたって國のレオさんにお願いしてギターを足してもらいました。「不協和音気味にしたい」など、難しくて曖昧な依頼をしたにもかかわらず絶妙に対応してくださり、さすがでした。

MVはEPのタイトルにもあるように「夢」を1つのテーマにしています。暗さをベースに夢や嘘、バグのような明るさが何通りも表現されているイメージです。前作「ペンギン・シンドローム」のMVでもお世話になった大学同期の陰山くんと一緒にプロットから練り、脚本、カメラ、監督までやってもらいました。バグっぽい演出のいくつかは彼のアイディアだったりもします。想像以上の素敵なMVに仕上がって感謝しかありません。

4. 『曖昧夢』は國や50 pears、ハイとローの気分、くらげ計画など、様々なバンドのメンバーをサポートに迎えて制作されています。この柔軟な制作スタイルはソロ・プロジェクトならではだと感じますし、だからこそ生まれたマジックもあったような気がしています。実際に各曲の制作を経て、その辺りはどのように感じていますか。

曲ごと、時期ごとにやりたいことはおそらく変わると思うし、できるだけ人からの良い影響を反映した音楽制作をしたいと思っています。私のやりたいことを実現するには、私だけじゃ実力や知識、アイディア、センスなどが足りない可能性があると思います。私が想像していないメリットが生じることを期待していたし、実際生じたのではないかと思います。

もちろんバンドとして固定のメンバーがいることのメリットは本当にたくさんあって、羨ましい限りですが、それを享受する資格は私にはないんだと思います。本当は2人組ユニットとかやりたいですね〜。

5. 制作中の2nd EPは、1st EPとの二部構成となっており、どことなく翳りのあった1stよりもさらに「憂鬱感が強い作品」とのことですが、そうしたコンセプトになった経緯を教えてください。

1stも「翳りのあった」と言ってもらえると安心しますね。どちらもコンセプトはどん底の憂鬱感であり、そこに明るい要素を入れるかどうかの違いだと思います。1st EP『曖昧夢』の4曲を作った頃は、カラスは真っ白やメランコリック写楽などかわいい邦楽にハマっていたのでそれが反映されています。

最近はポストロックやベッドルーム・ポップが好きで、2nd EPではそれが反映された作品になっているはずです。あんまり聴かないくせにプログレ的な展開もかっこいいと思っているので、メロが戻ってこない(サビやAメロなどの繰り返しがない)曲も多いですね。

1st EPでは音楽ファンだけでなくたまたま耳にした方にも気になってほしくて、一見ポップなものになるよう心がけました。2ndでは1stで獲得したファンを地獄へ連れて行きたいです。

6. ぺんぎんの憂鬱の音楽性にはシューゲイズやポストロックの要素も宿っていると感じています。たなさん自身も以前仰っていたように、butohes、50 pears、くぐりなど、シューゲイズを通過した(あるいは掠めた)バンドとの親和性も高く、リスナーとしてはシーンが賑やかになってきている印象です。その中で、ぺんぎんの憂鬱の位置付けについてはどのように考えていますか。

大学時代にサークルにシューゲイズが好きな人が結構いたので、その頃から少しずつ聴き始めました。ライブをよく観ていたきのこ帝国や羊文学、リーガルリリーなども含め、轟音が特徴的な音楽に影響を受けているのは間違いないです。1st EPの音源はシューゲ感はあまりありませんが、ライブでは2nd収録予定の曲を中心にかなり大きな音を出しています。初期の2曲もシューゲイズ要素が強いですね。

空間を埋めるような轟音が生む多幸感とか陶酔みたいなものはたぶんずっと好きです。位置付けというより願望になりますが、私は音が極端にでかくなくてもかっこいい音楽を、でかい音でやりたいです。まあ静かにしたくなるときもあると思いますが…。

7. たなさんは人と話すのが苦手(というか嫌い)で、ライブのMCも事前収録の音声をサンプラーで流すという、結果的にトリッキーなスタイルになっているのがとても興味深いです。音源にしてもそうですが、そういったある種の「掴み所のなさ」が、ぺんぎんの憂鬱にリスナーが惹きつけられる大きな要因だと思うのですが、ご自身ではどのように感じていますか。

人と話すの嫌いですね。笑 日々頑張って無理してます。そういう非社交的な性格とか、卑屈な考え方とか、変な声などの負の要素がプラスに転じうるのが創作活動かもしれないと思います。

歌詞もできるだけ抽象化して、自分の中の元ネタは誰にも伝わらないように注意しています。変に何かを分かられても困るので、掴み所のない感じでずっといきたいですね。そこに興味を持ってもらう分にはもちろんありがたいです。全ての変な行動が目立たなくなるまでの道のりだと思っています。

8. たなさんが活動を続けていく上で、特に大切にしていることはありますか。何か信念や信条のようなものがあればお聞きしたいです。ぺんぎんの憂鬱に限定しても、たなさんの音楽活動全体についてでも構いません。

無理をしないことです。やらなくていいことを無理してやらないように気をつけています。持続可能な音楽活動を目指していて、ライブ頻度や制作の進め方など調整しています。最近は頑張りすぎでした。頑張りすぎることも面白いし一定の意味があると思いますが、大変です。

9. 『musitTV』は各地のライブハウスを巡りながら展開していく音楽番組ですが、これまで特に印象深く忘れられないライブを、その際のエピソードを含めて教えてください。観客としてでも、あるいはプレイヤーとしてでも構いません。

地元福岡で高校生の時に、友達が見せてくれた音楽雑誌に載っていた弾き語りの女の子のライブを見にいきました。初めてのライブハウスは慣れない場所で居心地が悪かったのを覚えています。今もできるだけすぐ帰りますけど…。笑 はっきり覚えてないし知識もなくてよく分かんなかったと思いますが、かっこよかったのは間違いないです。憧れの人を見に行けるのってすごいですよね。その後も何度か足を運んで、ちょっと話せるようになって嬉しかったです。また会いたいです。

10. 『musit』は音楽と様々なカルチャーを掛け合わせながら幅広い層へのリーチを目指すメディアですが、音楽以外で最もハマっているカルチャー(または趣味)について具体的に教えてください。

地理が好きです。地名や川などが元々好きで、変な地名やかっこいい水辺を見つけると喜んでいます。最近は道路工事を見るとなんの工事か確かめて、気になることがあったら様子を見て工事の人に質問しています。ガス管、水道管、地下鉄などなど、道路の穴にもいろいろ理由があって楽しいです。道路に穴空いてると嬉しいですよね、非日常的で。最近だと下北沢で電柱を地中に埋めるため(その他もいろいろ)の大規模な工事が行われていてすごいです。

* * *

RELEASE

ぺんぎんの憂鬱『曖昧夢』

レーベル:uni uni records
リリース:2022/06/02

トラックリスト:
01. 落ちる
02. 2086
03. SCR
04. 決めない

*配信リンク:https://linkcloud.mu/f76fe10e

對馬拓