【インタビュー】喜怒哀楽のせめぎ合い──長嶋水徳 – serval DOG – が1st EP『NEVEREVER』で更新する価値観
恐るべき才能、と言うべきか。『未確認フェスティバル2019』ファイナリストへの選出を機に若手オルタナティヴ・シーンのホープとして躍り出たバンド、MINOR THIRD。そのフロントマンである長嶋水徳が、“長嶋水徳 – serval DOG -”としてソロ活動を本格的にスタートさせた。そしてバンドの無期限活動休止から、わずか4ヶ月で世に放たれたソロ1st EP『NEVEREVER』は、作詞/作曲から編曲、レコーディングまで全て長嶋自身が手掛けた5曲を収録している。今、彼女は何を思うのか──本作に詰め込まれたルーツ、あるいは感情に迫った。

インタビュー/文/編集=對馬拓
写真=藍
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逆に私にしかできないこともあるなって
──8月3日、MINOR THIRDがEP『らなうぇい』のリリースと共に無期限活動休止となりました。以降はバンド時代から続けてきたソロ活動へ本格的にシフトしましたが、差し支えなければ活動休止に至った経緯をお聞きしたいです。
まず、MINOR THIRDは『未確認フェスティバル2019』に出たくて組んだバンドだったんです。高校時代からずっと(前身の)『閃光ライオット』のステージに立ってみたいと思ってて。『未確認フェスティバル』は10代限定なので、19歳っていう10代最後の年に応募したいと思ってMINOR THIRDを組みました。それでファイナリストの8組に残れて、新木場コーストで演奏もできたんですけど、その時点で全盛期は過ぎちゃったのかなって。それで、22歳っていう、大学だったら卒業してみんなが就職する年齢になってみて、「本当にこのままバンドを続けていいのか?」って話し合って、こういう形になりました。バンドは好きだし、ギターを弾いて、ドラムとベースとキーボードがいて、っていうのは楽しいんですけど、デモ音源も全部1人で宅録で作ってたから、バンドとしての寿命もあったのかな。でも、あくまで「無期限活動休止」なので、いつかまたMINOR THIRDとして戻ってくる日もあるかもしれない。そういう希望を皆さんにも持ってもらいたいし、自分もその希望は捨てたくないです。
──バンドの目的が「フェス出演」というのもあって、その後のバンドとしての表現の広げ方に悩んだ部分もあったのでしょうか?
元々4人だったのが、キーボードのやあちゃんが2021年の7月に抜けたんですよ。その後は3人での活動になって、同期も入れてライブしたりとか、色々と試行錯誤して頑張ってたんですけど、やあちゃんが抜けた時点でMINOR THIRDではなくなってたと思います。「MINOR THIRDって何だろう」っていう疑問がずっと残り続けて、最終的に「3人は違うな」って。
──そうして一旦バンドに区切りをつけてから4ヶ月、12月7日にEP『NEVEREVER』のリリースに至りました。その間、何を思って活動し、作品を制作してきましたか?
『らなうぇい』はバンドの活動休止を決める前に録ってあったので、その4曲は世に出さないとかわいそうだなと思ったんです。曲たちもそうだし、エンジニアさんとかプロデューサーさんとか、力を借りた色々な人たちも悲しむだろうなって。でも実は『NEVEREVER』も今年の2月には完成させてあったんですよ。だからMINOR THIRDの終わりのEPを出した後に「新しい私の音楽だ」って言えるEPが控えていたので、ワクワクはしてました。もちろんバンドが無期限活動休止になっちゃうから悲しい気持ちもあったけど、2つのEPを今年出せるって考えると、意外とポジティブな気持ちでしたね。
──ソロ名義には“serval DOG”というサブタイトル的なものがついています。そこに込められた思いや意味は何かあるのでしょうか?
MINOR THIRDは“長嶋水徳”でやってたんですけど、バンドと並行してソロで初めてSoundCloudに音源をアップする時、ソロの名前を考えなきゃと思って。私、猫より犬が好きで。サーバルキャットっていう動物がいるんですけど、それをもじって“serval DOG”っていう名前を勝手に作ったんです。ノリですね。ソロだし名義が欲しいなっていう。

──音源の制作は基本宅録で、作詞/作曲/編曲からレコーディングやミックスまで、全て自身で完結しているとお聞きしました。
そうですね。ただ、今回のEPはミックスとマスタリングを他の人に頼みました。いつもだったら最後まで自分だけでやっちゃいます。
──そうしたスタイルに行き着いたきっかけ、影響源などはありますか?
私は宅録のミュージシャンをディグるのが好きで。LOWPOPLTD.とか、韓国のParannoulとか。
──実は私、シューゲイザーのメディアをやってまして、Parannoulのインタビュー記事を昨年公開しました。
マジですか、Parannoulめっちゃ好きなんですよ。リミックスとかやってほしい! Parannoulもそうだけど、HASAMI groupとか、春ねむりさんもそうですし、自分で何もかも完結してるアーティストが昔から好きで。

──今回のEPも全て長嶋さんご自身の演奏ですか?
全部弾いてます。ベースもギターも全部。
──それは自然と弾けるように?
中学2年生の時、私は当時ヤンキーだったんですけど、周りのヤンキーはみんなゲームばっかりしてて。私はゲームがつまなくんてすぐ飽きちゃってやることがなかったから、それでエレキギターを始めたんですよ。ベースは宅録をやるようになってから弾き始めて、できるようになりました。ピアノも弾けるんですけど、弾きながら歌えって言われるとできない。
──全て自分で完結させる、という意味ではボーカロイドからの影響もあるのかなと。
もう、めちゃくちゃ影響受けてます。ボーカロイドは中学生の時、ハチ(米津玄師)さんとかwowakaさんの系譜からどハマりして。特に今回のEPで影響を受けているのが、アメリカ民謡研究会です。ボカロPというか、MVも全部自分で作ってるユニットなのかな? ベースの音とかはガシャガシャに歪んでるんですけど、歌詞は文学的で柔らかいところもあって素敵なんですよ。あの歌詞を機械の声で歌われちゃうと、もう心が崩壊しちゃう。笑
アメリカ民謡研究会は「虚しいだけだよ。」が一番最初に好きになったきっかけの曲です。えぐいスネアの音とか、とにかく歪んでるベースとか、大好きですね。
──先ほど春ねむりさんの話も出ましたが、制作スタイルもそうですし、音楽性とかライブにも共通点があると思ってまして。長嶋さんは『春火燎原』の「シスター with Sisters」にも客演として参加されているということで、長嶋さんにとって春ねむりさんはどういった存在でしょうか?
バンド時代、SoundCloudに上げた「少女乱反射」っていう私のソロ音源を春さんが見つけてくださって。それがきっかけで春さんが私のことを好きになってくれて、ライブにも来てくれて仲良くさせてもらって。ソロになって右も左も分からない時に手を差し伸べてくれたのも春さんなんですよ。ライブも人間性も尊敬できる人だったから、私も甘えさせてもらうことができて。だから恩師でもあるし、親愛なる先輩でもあります。「シスター with Sisters」の客演も、春さんが「水徳ちゃんと絶対コラボしたい」って言ってくれたので実現しました。
──実際に「シスター with Sisters」を一緒にやってみてどうでしたか?
「人と一緒に何かをやる」っていうのが本当に昔から苦手で。笑 何もかも1人でやっちゃいたいタイプだし、バンドのメンバーからもずっと「完璧主義者」って言われてて。でも春さんと一緒に制作して自分の強みが分かった。今まで気付かなかった春さんの強みも分かったし、逆に私にしかできないこともあるなって。だから私は私の強さで戦おうって思いました。私なりに歌詞を書いて、私なりに自分の声の良さを引き出して歌えたつもりですね。
最近は、窒圧5トン(リトルネコ)ちゃんと「ASH」っていうコラボ曲をやらせていただいたりとか、そういうお声がけもあったりするし、人と何かを作ることに抵抗がなくなりつつあります。
自分の中で新しい音楽の価値観を更新したい
──では、『NEVEREVER』収録曲について詳しく聞いていきたいと思います。まず、今作はどの曲もギターのリフを軸に構成されている印象を受けたのですが。
まさにその通りなんですよ。ギターをポロンって弾いて、「いいな」って思ったアルペジオとか響きを元に5曲作ってて。よく(作曲の順番として)「詞先」か「曲先」か、って言うじゃないですか。でも『NEVEREVER』は「ギター先」。コード理論は勉強したことないし、あんまり知らなくて。だから、いいフレーズ見つけて「これ絶対使おう」って決めて、そこからイメージを広げていった5曲ですね。
──そういったリフが主体という点や、ギターのジャキついた感触などは、さっきも名前が出たLOWPOPLTD.や、過去のインタビューでも挙げていた八十八ケ所巡礼などの影響も感じました。
LOWPOPLTD.はまさに、です。昔のデモを集めたBandcampでしか買えないアルバムみたいなのがあって、それを18歳の時にユーロで買って、ずっと聴いてます。ART-SCHOOLとかDr.DOWNERにも影響を受けてますね。「音潰れてるな」って思うくらいギターがジャキジャキしてる音楽が好きなんですよね。
──その話とも繋がりますが、今作を聴いているとハードコア、エモ、オルタナ、グランジ、シューゲイザーといった要素が詰まっていると感じていて。音楽に限らなくてもいいのですが、今作のバックグラウンドにはどんな作品があると思いますか?
もちろん、さっき挙げたようなアーティストさんからの影響もあるんですけど、実は1曲1曲、影響を受けてるものが違ってて。1曲目の「G.A.W」のピアノは、Parannoulの「Beautiful World」で鳴ってる浮遊感のあるピアノに影響を受けて作りました。
2曲目の「Because」は、アメリカ民謡研究会の歪んだベースに影響を受けてます。3曲目の「Tau」のバックのコーラスは、春ねむりさんって自分の声を生かしてゴスペルみたいなバック・サウンドを作ってると思うんですけど、その影響もあるかな。4曲目の「Linda is in the sky」は、The Beatlesの「Lucy in the Sky with Diamonds」をもじってますね。
あと、最後の「NEVERLAND」は『フリクリ』っていうアニメのサンプリング音源を使ってるんです。
──あの台詞は『フリクリ』だったんですね。サンプリングという点では、Parannoulの「Beautiful World」も『リリイ・シュシュのすべて』の台詞をサンプリングしてますよね。
そうなんですよ。私は『フリクリ』の台詞をサンプリング音源として絶対に使いたかったので、そこから曲を作っていきました。でもそのまんますぎてもダメだろうから、ピッチ補正したり加工したり。あのアニメはthe pillowsが音楽を担当してるし、好きですね。
──「G.A.W」のピアノはParannoulに影響を受けたということでしたが、バンド・サウンドにウワモノ的な鍵盤の音が乗っているという点では、MINOR THIRDの楽曲の延長線上にあるような気もしたんですよね。
ギター・ロックとシンセを組み合わせて仕上げるのは、私の得意なジャンルなのかもしれないです。

──そういった部分も含めて、ご自身の中ではMINOR THIRDとソロの間に地続きな部分、あるいは決定的に違う部分について、それぞれどう感じていますか? もちろん「1人」と「バンド」という時点で異なるとは思うのですが。
今回の『NEVEREVER』は、ポップな部分もあるけど大衆向けではない部分もあると自分では思ってて。音楽好きの方が評価してくれるアルバムになったんじゃないかな。MINOR THIRDの曲は大衆向けというか、ポップな要素が強めだったと思うんですけど、今作はオルタナティヴとかエモとかグランジを自分なりに昇華したEPで。自分の中で新しい音楽の価値観を更新したいと思って作りました。
──確かにMINOR THIRDは「DOWNER POP」と打ち出していたし、そういう意味でもポップな部分は強かったと思う一方で、『NEVEREVER』はより鋭利というか。
だいぶ攻めましたね。歌詞が一言だけだったり、特に「NEVERLAND」は繰り返しが多かったりして、普通の歌ものにはなってないかな。でも「ギターを弾きながら歌う」ことを前提に作ったので、そこはMINOR THIRDの曲と作り方は似てるかも。自分がここでギターを弾くから、他は同期で流して、とか。
──「NEVERLAND」は、今作の中でもかなりキーになっている曲だと感じました。それこそEPの軸となっているギターのサウンドに加えて、台詞のサンプリングとか、終盤のごちゃ混ぜになったような激しいアンサンブルとか、そういった要素が1つの曲になっていて、今の長嶋さんのモードが如実に現れているのかなと。
「NEVERLAND」をキーにしたいっていうのが伝わってて嬉しいです。あの曲にかなり込めましたね。
──以前、MINOR THIRDのインタビューで「喜怒哀楽の“怒”の部分がわたしは強くって。それを音楽で表現しています。」と仰っていたと思うのですが、今作も怒りの感情が核になっているのでしょうか? ラストの「NEVERLAND」の後にやってくる読後感ならぬ聴後感からは、そんな要素を感じたりもしました。
今までは「怒」が多かったかもしれないんですけど、最近は喜怒哀楽の全部をちゃんと表現していきたいなと思ってて。多分、自分自身が昔より人間らしくなってるんですよ。ちゃんと人間の感情を持つようになってる。個人的な話なんですけど、MINOR THIRDの活動を終えた時、一緒に残ってくれる人と、離れていっちゃう人に分かれたんですよね。でも、新しくソロとしてやっていく中で手を差し伸べてくれる人だったり、出会った大事な仲間だったりとか、そういう人たちのことを考えてると「幸せ」って思えるようになったんです。
──めちゃくちゃ大きい変化ですね。
MINOR THIRDの時は「音楽やるぞ!」って感じでかなり尖ってて、あんまり人のことを考えられてなかった。でもソロになって、良く言えば関わる人間が断捨離されて。残ってくれた人のことを考えると、本当に幸せな気持ちになるんですよ。人の気持ちがちょっとずつ分かってくるようになったので。
──今作は喜怒哀楽が全部ごちゃ混ぜになってるのかもしれないですね。特に「Because」「Tau」「Linda is in the sky」辺りは不協和音っぽい感じのギターやコーラスが使われていて、それは負の感情の表現なのかなと思っていましたが、実際に長嶋さんのお話を聞くと、喜怒哀楽がぶつかり合ったり混ざり合ったりした結果としての不協和音なのかなと思いました。そういうギリギリの感情のせめぎ合いが音楽に落とし込まれているというか。
もしかしたらそうなのかも。実は、わざとピッチ補正をかけてなかったりとか、そういう微調整をあえてしてないんですよ。不協和音感を残したかったし、録った時の感情とか空気感をそのまま切り取りたかったので。

──ちなみに、今作の中では「Linda is in the sky」が個人的にとても好きで。イントロの空間系のドリーミーな音像がツボでした。そこから不協和音っぽいコーラスとか、タン、タン、タンと一定のリズムで刻まれるギターやビートが入ってきて、「そっちに行くのか」みたいな、いい意味で裏切られる感じがしたんですよね。
みんな「Linda is in the sky」が好きって言ってくれるんですよね。あの曲は、羊文学の「ミルク」にも影響を受けてます。メロディアスな感じとか、ギターがチャッチャッって鳴ってる感じとか。「Linda is in the sky」が好きって言ってもらえるのは嬉しいですね。あの曲、失恋した時に作ったんです。笑 その時の感情が乗ってる気がします。
──この曲のストレンジな感触の要因はそこにありそうですね。さらに終盤は、もう色々な音が鳴りまくっている。そういうアイディアはどこから出てきたんでしょうか。
あの曲パートが多すぎるんですよね。笑 何トラックぐらい使ったんだろう。でもメロディアスな部分も出したかったから、サビの「Linda is in the sky」っていうフレーズも覚えてもらえるように繰り返しにして。元々、少し長い曲を作りたいなと思ってたので、そこから色々な展開を考えていきました。
みんなから「ギターを持ってた方がかっこいい」って言われる
──先ほど、今作のバックグラウンドにある作品についてお聞きしましたが、長嶋さんがシンパシーを感じたり、ライブで共演してみたいアーティストはいますか?
downtと窓辺リカさんですね。窓辺リカさんはすっごい暗い曲とか歌ってるんですけど、声はポップスっぽいかわいい感じで、めちゃくちゃ好き。
──どちらも長嶋さんと親和性がありそうです。あと、Twitterを拝見しましたがkurayamisakaも聴いてらっしゃいますよね。
そうなんですよ。Twitterで流れてきて知ったのかな。いいですよね。kurayamisakaとも共演してみたいです!
※ここで、12月12日のライブから販売開始となった『NEVEREVER』のCDの現物が到着。
──せっかくなので拝見させていただきます。ジャケットのロゴもLOWPOPLTD.っぽいですよね。
LOWPOPLTD.のロゴを友達に見せて「このフォントない?」って言ったら、調べてくれて。あと、今まではデジタルのリリースだったんですけど、今回初めてフィジカルを作りました。中に歌詞カードも入れて。全部自分の手作りですね。

──全部を自分1人で完結させたいっていう思いはここでも伝わってきますね。自分も割とそういうDIYタイプではあるので。
やっぱり手に取ってほしいなって思ったんですよね。今まではデジタルだったので、「ライブでやったあの曲のCD売ってないんですか?」って言われても渡せなかったけど、これからはこのEPを名刺代わりにできるかなって。
──最後に、まとまった音源として1st EPをリリースして、ここが1つの区切りの地点になると思うのですが、今後はどういった表現をしていきたいか、どのように変化していくのか、といったビジョンはありますか?
さっきも言ったように、今回のEPは色々なジャンルを詰め込んだので、音楽が好きな人たちに刺さってくれたら嬉しいですね。「長嶋水徳、音楽を本気でやったらこんだけ突き詰められるんだよ!」っていうのを示したかったので。だから、このEPで私のことをまずは知ってもらって。そもそも今作はバンド・セットでライブをやる目的で作ってたので、12月12日の企画もバンド・セットでやるんですけど(※インタビュー時はライブ前)、まだソロとして本格始動してから日も浅いので、ライブの形態も含めて模索中です。でも、みんなから「ギターを持ってた方がかっこいい」って言われるんですよね。笑

あと、できれば次はフル・アルバムを出したいと思ってます。今まで出した「shibuya iggy pop」「GOFLL」「少女乱反射」とか新曲もまとめて、「長嶋水徳 – serval DOG – の軌跡」みたいなアルバムを作れたらいいですね。
<2022年12月3日 下北沢某所にて>
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RELEASE
長嶋水徳 -serval DOG – 『NEVEREVER』

リリース:2022/12/07
レーベル:PEKINGDUCK RECORDS
トラックリスト:
01. G.A.W
02. Because
03. Tau
04. Linda is in the sky
05. NEVERLAND
*配信リンク:https://linkco.re/U98fdxz8
對馬拓

