【インタビュー】「全存在で生きている」──七尾旅人が『Long Voyage』を経て広げる新たな海図

【インタビュー】「全存在で生きている」──七尾旅人が『Long Voyage』を経て広げる新たな海図

七尾旅人が今年9月に上梓したアルバム『Long Voyage』は作品全体を「旅」に見立てながら、同時代を生きる人々の繊細な心の機微や救済を求める「声にならない声」を歌にした唯一無二のコンセプチュアルな作品となった。それは、パンデミック以降の世界で人々が抱えてきた怒り、悲しみ、不条理といった様々な感情を受容しながらたった1つの歌として表現された、大海原で過酷な航海を続ける我々へ小さな宝石のような希望と期待をもたらすような、紛うことなき2020年代を象徴するマスターピースだ。

そんな傑作アルバム『Long Voyage』のリリースから約3ヶ月、改めて今作を自身の言葉でひもといてもらうべく、musitでは七尾旅人へメールインタビューを実施。24年間というキャリアの中で生み落とされたディスコグラフィーとの関連性やYouTubeでの対コロナ支援配信、そして『Long Voyage』の制作にあたって招いた多彩なゲスト・ミュージシャンと楽曲との親和性など、今作の血肉となった部分を中心に深く掘り下げた。

取材/文=竹下力
編集=星野

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1. ニュー・アルバムのリリース、おめでとうございます。優しくてたおやかで、人々の「生」の営みだけでなく、そこに内在する「死」も含め、人間存在を抱合して慰撫するような力強さに満ちた素晴らしい作品だと思いました。アルバムが発売されて3ヶ月ほど経ちますが、ご自身にとって今作がどのような作品になったかなどの「気づき」があれば、お聞かせください。

デビューからこれまでの24年間の集大成であり、再出発でもあるような作品だなとマスタリングの日に思いましたが、リスナーにどう受け止められるかは全くわかりませんでした。思いがけず好意的に迎えられて嬉しく思ってます。

2. 七尾さんはいつでも曲を作り貯めているイメージがありますが、今作はパンデミック期にコロナウイルスで困窮する人々の支援のために行ったYouTube配信(『LIFE HOUSE』)や感染者を抱える家庭に食料を届ける『フードレスキュー』などの活動を通して生まれてきた曲の中から選び抜かれたもの、というイメージを抱きます。まずは、今回のアルバムの制作の契機を教えてください。

2020年の2月、コンサートがどんどんキャンセルになり始めて、僕ら音楽関係者が一番最初に世の中の経済活動から撤退することになりました。その時に作曲したのが、disc1の冒頭に収録されている「crossing」です。

この時期、僕が住んでいる横須賀から東京に赴く際、横浜ベイブリッジの下に停泊するダイヤモンドプリンセス号が見えていました。電飾できらきらと輝く壮麗な大型客船ですが、その中では何千人もの人たちがウイルスの脅威にさらされていた。いっぽうで、橋の上の車中には、仕事こそ飛んでしまったものの、まだそこまで追い詰められていない自分がいる。その対比を描いた「crossing」は、これから世界中で加速するであろう個々の分断を予感させる、パンデミックの幕開けの曲です。この歌がアルバム制作の起点となりました。

3. 七尾さんのディスコグラフィーを追いかけていけば、七尾さんの内省的な悲鳴のようなものも感じるし、あるいは政治的だと感じる曲もあります。ただどの作品でも現実の混沌とした状況の中でどのような「生」を組み立てるのかを私たちに考えさせる多面的なイメージを持つのですが、七尾さんにとって、このアルバムにどのような問題意識(社会・政治・生活問題など)を盛り込みたかったのでしょうか。

多様な楽曲の集合として浮かび上がるアルバム作品が内在する意志のようなものをたった一言で述べるのは難しいですが、今作に関して言うと、2020年から続けてきた『LIFE HOUSE』や『フードレスキュー』などを通して新曲が生まれていく過程が、noteやTwitterで常に公開されていました。

様々な形で社会的に抑圧された方々の物語であったり、自分自身の身に起きたことなどを織り上げて作品化していくそのプロセスがこれまで以上に開示された状態でアルバム完成まで至ったことで、僕がこれまでの24年間どのように音楽作品というものを捉えて、取り組んできたのか、リスナーの皆さんや同業の方々からも把握しやすい状態にあったかと思います。答えはもちろん1つではないし、全然上手くいかなくて停滞してしまう期間もある訳ですが、それでも日々の中で考え、作りながら、少しずつでも前に進んでいくしかない。その過程にしか希望は生じないと僕は考えています。これは初期作品の頃から変わらぬ思いです。

4. 七尾さんの作品群には、普遍性の溢れるポップなアルバムもあれば、極めて個人的なアルバムを作ってきたような印象を受ける時もあります。今作においては、普遍性とパーソナルな側面のどちらの視点も併せ持つアルバムになったと思うのですが、それはご自身の変質がもたらしたものか、あるいは何も変わっていないのか…その辺りのお話を聞かせてください。

初期の3作品『雨に撃たえば(…! disc 2)』から『(ひきがたり・ものがたり vol.1)蜂雀』までは、パーソナルな感覚や情景を掘り起こすことによって、結果的に公共性も獲得していこうとする作品群だったと思います。

4作品目の3枚組アルバム『911fantasia』以降は、戦争や震災、その他、社会的な事象をテーマに据えながら予め公共性を意識した創作を続けてきましたが、初期と全く同じレベルで個人的な感覚も落とし込まれていると思います。僕はシンガーソングライターなので、個の問題を回避してしまうと逃げになるからです。

5. 今作は、多彩なゲスト・ミュージシャンの参加で構成されている点も印象的です。シンガーソングライターとして制作していた楽曲とゲストを招いて作られた曲の違いは、七尾さんの胸の内にどのような感触として残っているのかを教えてください。

今回初めてバンド・レコーディングを軸にレコーディングすると決めて、これまでのように打ち込みベースで無制限にどんな楽器でも使うというスタンスではなく、限られたメンバーの音色と人間性への信頼に基づいた組み立てを行いました。これは楽曲にとって、とても幸せなことだったと思います。アルバムを聴き返していると、何か音が鳴る度にそれぞれのプレイヤーの顔が浮かんできます。

6. そこから具体的にどのようにレコーディングを進めていったかについても伺えると幸いです。まずは今作を作るうえで大変だったこと、あるいは楽しかったことがあれば教えてください。そして、サウンド面でほかの作品よりも気をつけていたことや意識していたことがあれば聞かせてください。

パンデミックの中バンド・レコーディングする事には困難が伴いました。疾患持ちのメンバーもいましたので、リハスタなどあまり安易に集合できない。でも、それ以外の全てが楽しかったですね。

サウンド面で気をつけていたことは、1つ前の回答とも重なりますが、欲をかきすぎずに制約の中で思考するということです。ない物ねだりをせず、メンバー間で出せる音だけで全てを構築したい、それが今作にとって最善だと考えていました。

7. 更に突き詰めて、ゲストの方は七尾さんの友人であったり、先輩方であったり近しい存在の方々を中心に招かれていますが、楽曲ごとにどのような意図でゲストを使い分けていったのか、お答えできる範囲で聞かせてください。例えば「『パン屋の倉庫で』」(M6)ではサックスの梅津和時さんだけがクレジットされていますが、これはどのような意図があったのでしょうか。

音楽性と人間性に基づいて、この曲にはこの人しか有り得ない、というラインが最初から見えていました。なので人選で迷うことはありませんでした。『パン屋の倉庫で』に関していうと、70年代の終わり、両親が20歳そこそこだった時代に知的障害者の方が働くパン屋でバイトしながらお店の倉庫に間借りして暮らし、赤ん坊の僕を育てていた、そんな実際の出来事に基づいた情景を曲にしています。

若き日の父は、ジャズが好きで、梅津和時さんのライブにもよく伺っていました。この時代が宿していた空気の明暗、社会のメインストリームから疎外されていく者たちの感覚、そして僕らの家族が抱えていた幸福や哀しみを、梅津さんならそのサウンドで全て汲み取ってくださると確信していましたので、お願いしました。

8. 七尾さんの曲には、原初の叫び声のようなものから、ご自身の声を変質させて使ったり、ゲストを招いてポリフォニーになっていく曲などバラエティー豊かです。そういった多声性の曲は作品ごとに増えていく印象があり、「歌」を通して歴史との接続を果たしたかのように、未来や過去といった時制の中に埋没している言葉を拾い上げていく作用があると思います。今作において、七尾さんが楽曲の中から拾い上げたかった声はどのようなものなのでしょうか。

声なき声というのか、メインストリームから弾かれてしまってなかなか表に現れることがない、片隅の声、そんな声に耳を澄ませて、文化の俎上に上げることができればという思いはあります。まだ歌になっていない人が無数にいる訳ですが、本来そういう存在のためにこそ音楽や歌やダンスなどの文化が育まれ、培われてきたはず。

人間にとって歌は、言葉や文字が発明されるずっと前から存在する最古のメディアで、そこには様々な事象を盛り込むことができるはずですが、いつからか、消費財としての役割が主となってしまっている懸念がありました。それに反して、映画や文学作品、漫画などで取り上げられるトピックは日本国内でもなかなか豊富で、多岐にわたっています。ありとあらゆる登場人物が作品内に息づいていますし、複雑な問題を扱ったうえでちゃんとエンターテイメントしている。

音楽も、もっと大きな器でいられるはずです。自分の非力さでなかなか思うようにいきませんが、これからも試行錯誤していくつもりです。

9. 今作における七尾さんの歌声は、(もちろん年齢によって変わってくると思いますが)軽やかに風景を描写していくようなくっきりとした輪郭を持つ優しい声に変わっている気がしました。身の上(想念的、思想的)、身の下(肉感的)、いわば、それらを自在に操っているような印象を受けました。それによって、どんな人でも七尾さんの曲に入り込みやすくなったと思っています。ご自身の声の変質についてはどのように捉えていますか。

40代を迎えてから、声の変化をますます感じるようになりました。楽器が自分の肉体である以上、変化は避けられないのですが、できる限り長く歌っていきたいので、それがなるべく良い変化であるように心身を運んでいきたいです。最初から老成した声だったトム・ウェイツなどと比べて、例えばボブ・ディランやレナード・コーエンやジョニ・ミッチェルは加齢に伴って声質が大幅に変化しましたが、それがけしてマイナスになっておらず、説得力が増しましたね。

そもそも60歳を過ぎて同じように声が出るかは運の要素も大きいとベテラン歌手の方が仰っていたのを聞いたことがあります。最終的にどんな声で歌えるか、まともに声が出ているのかは、自己鍛錬でなんとかなる域を越えて、神のみぞ知るなのかもしれないです。

最晩年、90歳を越えた舞踏家・大野一雄さんの車椅子からはみ出した枯れ木のように細い腕を見たことがあります。もう自在に踊ることができなくなってしまっても、大野さんの腕は、類まれな重力を放っていました。もし仮に老齢で全く声が出なくなったとしても、歌う方法はきっと無数に存在するでしょう。

10. 稚拙ではございますが私が書いた今作のレビューの中で「他者の不在と他者の発見」が七尾さんに通底するテーマだと思っていました。突き詰めれば、七尾さんが曲を作るという行為は、失われた他者と同時にその発見をすることで、七尾さんにとって新しい「生」の再構築を作品ごとに行っているイメージがあったのですが、実際にどのような意識で楽曲を作っているのかをお聞かせください。

それは全くその通りで、付け加えることは何もないです。20年以上僕の音楽を聴き、ライブを観てくれている竹下くんならではの視点だと思いました。何作品作っても、自分から消えることがない部分ですね。

11. 七尾さんの作品は例えば『911 FANTASIA』や『兵士A』などのように、社会に根付く現実問題を取り上げながら、必ず全曲に貫くストーリーラインがありますね。今作では「旅」というコンセプトに曲を見立てていますが、それはどのような経緯があったのでしょうか。『911 FANTASIA』や『兵士A』、今作も決して結論は描かれない余白を残した所も素晴らしいと思っているので、あえて無粋な質問になってしまいますが、七尾さんなりに今回の旅を通して、具体的に見つけた場所のようなものはありますか。

パンデミックの間、僕たちはそれぞれの部屋に、遮蔽空間に幽閉されて、不確実な未来へと押し流されていった。それがまるで船旅のようにも思えて、アルバム・タイトルに「航海」というメタファーを用いることにしました。作中にはダイヤモンド・プリンセス号や海賊船など様々な船が登場しますが、エンディングには「(Long Voyage)筏」というインスト曲が配置されています。人間がその両腕だけで作ることができる最小の船は、きっと筏やカヌーですよね。ロシアによるウクライナ侵攻は未だ収束のめどが立たず、市中にはコロナ禍によって元の生活を崩壊させてしまった人々が溢れています。いずれ政府によってパンデミックに終結宣言がなされても、結局は皆、孤独な船旅を続けざるを得ません。でもそんな航海の途中で、思いがけずほかの誰かの船とすれ違った時に、お互いの手書きの海図を見せ合うことができれば、どんなに良いだろうかと。そんな思いで、2枚組アルバムのラストに1つの小さな筏を配置しました。

僕らには寿命があり、それぞれの命には限りがあり、自分自身のストーリーは有限ですが、世界の物語は、自分が消え去ったあとも紡がれていきます。その大海のうねりの中に、何かしらの希望を投げ込んでいきたい。それはもしかしたらボトルに入った手紙のようなものかもしれません。

12. それぞれの成り立ちを聞いていくと終わりそうにないので(笑)、今作の中でとりわけ私が個人的に驚いた曲がありました。つまり、「未来のこと」(M3)で「未来」という希望の感触を残す具体的な言葉が、タイトルに出てきました。これまでの作品には未来を想像させる行為を促す歌詞はあったと思いますが、それはあくまで聴き手の想像力に任されていた気がします。「未来」という具体的な形象を歌にすることはなかったのでとてもポジティブに感じました。曲自体も、聴き込めば暗さがあるのに、どこか明るい。七尾さんなりに、捩れと歪みを露わにしていく日本の中で「未来」という言葉にどのような気持ちを託そうとしたのでしょうか。

確かに、未来といった強い言葉を歌詞のモチーフにする事はこれまで少なかったかもしれません。パンデミックによって多くの人々が労働や就学の機会さえ奪われる、そんな未曾有の事態であったことと、僕自身が40代になり、以前よりも率直な表現を行うようになった事が関係しているかもしれませんね。

13. 七尾さんは作品ごとに明確にストーリーラインを使いながら、CDという形態であれば、Disc1やDisc2と意識的に分けています。本作では、「フェスティバルの夜、君だけいない」(M9)で他者の喪失が歌われDisc1が終わり、Disc2の停泊からの自己と他者の再生へと繋がっていく気がします。そこで、Disc1とDisc2の差異についてお聞きしたいと思います。

1枚目と2枚目の役割をあらかじめ決めて制作に臨んだ訳ではなく、作り溜めた楽曲に最適と思える流れを与えたら自然とこうなりました。1枚目の方は物語の発端ですから問題提起が多く、やや硬質な印象。それからポップで勢いのある曲も多いので、攻めてる感じ。

2枚目の方はそれを受けて展開していく楽曲群で、前半と比較するともう少しパーソナルで、柔らかいテイストの曲が多いかもしれませんね。

14. 私が七尾さんのライブを初めて拝見したのは、新所沢駅の近くのバーのような所で、持参の桟敷を持ち込んで聴いていました(ちょうど『911 FANTASIA』のツアーで「エアープレイン」を聴いて泣いていました)。親密な空気が流れていてとても楽しかったです。まだツアーの予定などは発表されていませんが、今作においてはどのようなライブをしていきたいと思っていますか。

所沢MOJO、懐かしいです。当時マネージャースタッフを務めてくれていた杉山直哉くんの紹介で演奏させていただきました。お店の方も暖かく、まだまだ発展途上だった20代の自分が成長させていただいた、大切な場所です。今回のツアーでも初心を忘れず、学びの多いものにできればと思っています。まだ詳細発表できていませんが、東名阪などではバンド編成で、今作のストーリーに即したアルバム再現ライブを、そのほかのエリアではもっと自由なセットリストによるソロもしくはデュオ形式でのライブを考えています。

15. ちなみに、七尾さんはフェスやイベントに対しても、歌というメディアがどうあるべきかということをしっかり考えたうえで携わっているように思います。七尾さんなりに、音楽が、このコロナという時代において、フェスやイベントといった外側のメディアに対してどうあるべきか、どのように考えているのかについて興味があります。また、ようやくライブ活動ができるようになったとはいえコロナの状況は変わりませんが、七尾さんは細心の注意を払ってコロナの最も激しい最中でもライブを行っていた背景から、七尾さんにとってライブとはご自身にとってどのような表現であるかを伺いたいです。

ライブ演奏はいつでも自分の根幹ですね。

お客さんの前に立って、作り溜めてきた楽曲にどのような意味があったのかを問い直す機会ですし、僕の場合、「圏内の歌」や「if you just smile」など、ライブハウスの客席にいた方との出会いから生まれた曲も多いです。

先日、渋谷の宮下公園で開催されたイベントにオファーいただきましたが、この場所にはホームレスを排除して商業施設化した経緯があり、出演自体を大変悩みました。真面目なテーマを掲げたイベントでしたが、なかなかそこで歌う気になれない。結果的に「ホームレス・ガール」という新曲を作って行って演奏しました。その瞬間の自分は異物だったと思いますが、結果的にはイベントが掲げていたテーマを深掘りできたと思う。用意された状況に沿う以外の形で、主催側やお客さんにコミットしていくことも誠意になり得ると思ってます。

パンデミックをきっかけにライブハウス離れをしてしまった方も多く、コロナの爪痕の深さを感じていますが、音楽を愛する人たちのエネルギーはやっぱり凄くて、様々な考えを持った音楽イベントがいまも日夜生み出される豊かな状況ではありますので、新たにその日のための歌を書き下ろしたりもしながら向き合っていけたらと思ってます。

16. どなたにも聞かれていらっしゃるかもしれませんが、七尾さんにとって「歌う」という行為はどのような意味を持つのでしょうか。というのも、歌うということ自体が人間の本質であるように感じる時が七尾さんの歌を聴いているとしばしばあります。私は文章を書いて自分の思いや他者の思いを言葉にして伝えようと奮闘している日々ですが、七尾さんの歌を聴くとご自身のしていることに覚悟を持つことの大切さを教えられているようで、とても勇気づけられています。

子供の頃、不登校児だったのですが、阪神淡路大震災直後の神戸に祖父が連れて行ってくれたことをきっかけに突然歌作りを始めました。その時以来、僕の作る楽曲は成長と共に変化していきましたが、今でも変わらないことが1つあって、歌を作っている間は心身ともに熱を帯びて、自分は紛れもなく「全存在で生きている」という感覚になります。そんな気分にさせてくれるものは、40代になった今も歌しかありません。

なので覚悟というよりも、自分自身が生きていくために必須のものだと捉えています。

17. 七尾さんのこれからも更に楽しみになってきますが、まだまだ誰も踏み入れたことのない領域があるような気がしてしまうのが本作の最たる魅力だとも思います。以前は「赤とんぼ」のような曲を希求されていると聞きましたが、時代や状況が変わり、また七尾さんの意識にも変化が訪れたと思われます。改めて七尾さんにとって、今後やってみたいこと、またご自身の中で歌いたい歌があればお聞かせください。

『Long Voyage』をリリースできたばかりで、今はまだ具体的に次の方向が見えている訳ではないですが、これからツアーなどの日々の中で生まれてくる楽曲や出会いを通して、進むべき場所を探っていければと思っています。

18. 最後に、活動歴20年以上を過ごされる中で、この時代に、この社会に求められている音楽がどういったものか(それは音楽に限らず、あらゆる表現手段において)七尾さんなりの考えを聞かせてください。

この時代と社会の片隅を生きる人々に何が欠乏しているのかを考えることはありますが、時代と社会に何が求められてるかを考えることはないですね。それは特に意識せずともチャートや広告とかを経由して目に飛び込んできますしね。もし時代が欲望していることについて鼻が利く人間ならバズを量産してインフルエンサーとかになって高級車を乗り回したりするのかもしれないけど、そういう生き方に全く興味が持てない。

僕の音楽人生は、この社会から取りこぼされてしまっているものについて引き続き考えていくことになるだろうと思ってます。

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RELEASE

七尾旅人『Long Voyage』

レーベル:SPACE SHOWER MUSIC
リリース:2022年9月14日

トラックリスト:
[Disc 1]

1. Long Voyage「流転」
2. crossing
3. 未来のこと
4. Wonderful Life
5. 入管の歌
6. ソウルフードを君と
7. リトルガール、ロンリー
8. フェスティバルの夜、君だけいない

[Disc 2]

1. Long Voyage「停泊」
2. 荒れ地
3. ドンセイグッバイ
4. if you just smile(もし君が微笑んだら)
5. Dogs & Bread
6. 『パン屋の倉庫で』
7.  ダンス・ウィズ・ミー
8. 미화(ミファ)
9. Long Voyage「筏」

配信リンク:https://tavitonanao.lnk.to/LongVoyage

INFORMATION

ONE MAN TOUR『LongVoyageTour』

詳細:https://www.tavito.net/longvoyage/tour/

竹下 力