【インタビュー】「自分と相手の世界観が両方収まる方法を」──Nosaj Thing『Continua』が見せる新たなフィーチャリングの手法

【インタビュー】「自分と相手の世界観が両方収まる方法を」──Nosaj Thing『Continua』が見せる新たなフィーチャリングの手法

Nosaj Thing(ノサッジ・シング)と検索すると、同時に目にすることになるのは錚々たる面々だ。ケンドリック・ラマー、チャンス・ザ・ラッパー、キッド・カディ、レディオヘッド、The xx、ザ・ウィークエンド…。ビート提供にリミックス、ライブの前座など、関わり方はそれぞれだが、それにしても幅広い。果たしてこの人は一体どんな人なんだろう?

これまでの作品を聴いてきた限り──これは偏見だと言われても仕方ないが──どちらかというと繊細で気難しい性格なのではないかという気もしていた。でも、だとしたらこれほどまでに幅広く付き合いがあるのはなぜだろう? 最新作『Continua』だけでも総勢12組ものアーティストが参加している。その全員が魅力的な個性を放つため、彼らとのコラボレーションのひとつひとつについて聞きたいことがたくさん出てきた。 そして、その中心にいるNosaj ThingことJason Chung(ジェイソン・チャン)とは何者なのか、ますます気になり始めた。実際に会ってみるまでの緊張と不安、高揚感と好奇心。

そしてインタビュー当日、プロデューサーとして気をつけていることを尋ねてみた。彼は「まだ勉強中だから」と謙遜していたが、話を聞いていくと彼がこれほどまでに信頼を得ている理由が自然とわかってきた。ちなみにインタビュー前の小休憩で彼が私に対して最初に放った言葉は、「コンビニ行くけど何か欲しいものある?」だった。思わず「あ、じゃあ水を…」と言いそうになるほど自然な口ぶりで、どうやら気さくで良い人そうだと、そっと胸を撫で下ろした。

取材/文=もこみ
編集=星野

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「ゲスト・アーティストをフィーチャーしたアルバム」であることが最も重要なコンセプト

──まずは5thアルバム『Continua』のリリースおめでとうございます。この作品はパンデミックの影響とそれを乗り越えつつある現在の空気感をビート・ミュージックともアンビエント・ミュージックともとれるような絶妙な塩梅のサウンドで表現しされているような印象で、リリースされてからよく聴いています。実に5年振りとなるアルバムですが、今回特に力を入れた点やこだわった点を教えていただきたいです。

今まではインストのビート・ミュージックを主に作り続けてきたんだけど、ヴォーカルが入ると音楽は全く違った構造になってしまうんだ。そこにはアレンジやミキシングについてのこれまでとは違ったレベルの課題があって、その点で曲を構成していくのがとても難しかった。それに君が言ったように、パンデミックの影響がとても大きかったのだと思う。1stアルバム以降はずっとツアーをしていて、制作に集中する時間を確保するのがとても難しかった…それにL.A.はすごく騒がしい街だからね。だからこのパンデミックが与えてくれた時間のおかげでじっくり集中して制作に取り組むことができた。そういう意味で、僕にとって『Continua』は最も挑戦をしたアルバムだし、今作は僕自身を成長させてくれたと思う。

──前作『Parallels』(2017)までと比較すると、形式面でも内容面でも異なる点が多くあるように感じました。最大の違いは、今作ではほぼ全曲でゲストを入れている点ですよね。今仰ったように、この形式によって音楽的な内容もこれまでと全く異なったものになっているように感じました。多くのゲストを迎える方針は制作の最初期から決めていたのでしょうか?

このアルバムは僕が心から尊敬する人たちとのコラボレーション曲を集めようと考えて制作したんだ。だから以前までの作品とは、制作過程や構成の面で全く逆の手法を取ることになった。今までは自分の中から自然に出てくるものを曲に落とし込んでいくようなやり方で、あまり考え過ぎないようにしてきたけど、今回は音響的・視覚的なコンセプトが先にあって、そこに曲を当てはめてアルバムにしていくようなプロセスを取ったんだ。アルバムカバーになっているあの写真をアーティストに見せてから作業を始めたようにね。

──アルバムのアートワークやWebサイトも含め、ビジュアルアートとしても非常に洗練されていて格好良いと思いました。私は昨日ジョニ・ミッチェルの『Hejira』を家で聴いていて気づいたのですが、『Hejira』のジャケットと『Continua』の写真は、色合いや構図がとても似ているように思いました。

え、そうなの? どんなのか気になる。

──これです(『Hejira』の写真を見せる)。

おー! これは素晴らしいね。笑 ジョニ・ミッチェルはレジェンドだよ! そのカバーは見たことなかったけど、面白いね(自分のiPhoneで記念撮影)。

『Hejira』(1976)

──この薄暗い道路の写真から得たというインスピレーションや、それをどう作品に落とし込んだのかについて伺いたいです。

この写真は2017年ぐらいに友人を通して知り合ったEddie Otchere(エディ・オッチェーレ)というロンドンの写真家が撮ったんだ。彼は歴史の生き証人みたいな人で、Wu-Tang Clan(ウータン・クラン)やJay-Z(ジェイ・Z)、ビギー(The Nortorius B.I.G.)といったヒップホップ・シーンや、Goldie(ゴールディー)やMetalheadz(筆者注:Goldie主宰のドラムンベース名門レーベル)周辺といったロンドンのジャングル・シーンを90年代から撮影してきた人なんだ。

彼は元々僕の音楽を聴いてくれていたみたいで、僕の友人と繋がったのをきっかけにL.A.まで写真を撮りに来てくれた。実際に会ってみると謙虚で、どこか肩の力の抜けたような、とにかくとても良い人だった。ある日彼が投稿した写真を見た時、自分の頭の中から曲が飛び出してきたんだ。そのままこの写真をテーマに曲を書いていたらアルバムが1枚できあがっていたような感じかな。この写真を使ってグラフィックを仕上げてくれたのはEric Hu(エリック・フー)っていうデザイナーで、彼はたまたまL.A.で僕の隣町に住んでいた。僕の名前がうしろの方に隠れているのは、今回はゲスト・アーティストがたくさんいて、その人たちをフィーチャーしたアルバムっていうことがコンセプトとしては一番重要だからなんだよ。

──Julianna Barwick(ジュリアナ・バーウィック)が参加した「Blue Hour」やPink Siifu(ピンク・シーフ)の参加した「Look Both Ways」など、シングル・ジャケットについては、映画のフィルムのようだと感じました。

ある意味このアルバムはあの写真が1つの映画だと捉えて、そのサウンドトラックを作ったとも言えるかもしれない。実は今『Continua』のビジュアル・アルバムを1月下旬のリリースに向けて作っている所で、今回は映像が自分の中でとても重要なんだ。今までは音楽を自分1人でコツコツ作ってきたんだけど、今回は例えばヴィオラとかピアノみたいな音も入っているし、人間の声もたくさん入ってる。だからこのアルバムは鮮やかなコラージュのようなものになっていると思う。アートワークもコラージュ的な要素があるんじゃないかな。

コラボレーションする時は、相手とある程度のスペースを設けながら

──では、楽曲について具体的に伺っていこうと思います。まずアルバム冒頭の表題曲「Continua」ではDuval Timothy(デュヴァル・ティモシー)をフィーチャーしています。今年はケンドリック・ラマーをはじめとした、メインストリームのアーティストとのコラボでも彼の名前を非常によく見かけました。今回の作品リリースの直後に公開されていた全曲解説の記事を読むと、彼の音楽をロックダウン中にヘビーローテーションしていたというあなたの発言があります。彼のどういう所に魅力を感じたのでしょうか?

僕は彼のリリースした作品が全て好きで、ロックダウンに限らずずっと聴き続けてきたんだ。特に家にいる時に聴くのが最高だね。この曲でピアノのイントロが欲しいと思った時に、Duval以外には考えられなくて直接連絡してみたんだ。彼とは一度電話で話しただけなんだけど、とても真摯に耳を傾けてくれたし、僕の作品のこともよく知ってくれていた。アイデアを伝えると彼はやるべきことをすぐに理解してくれて、そのあとの作業も素晴らしくスムーズだった。もっと色んなプロジェクトを一緒にやっていきたいね。

──アルバムを聴いていて驚いたのがserpentwithfeet(サーペントウィズフィート)が参加している4曲目の「Woodland」です。これまでのserpentwithfeetの作品にはあまりなかったような、アブストラクトでダークなサウンドだと感じたのですが、この方向性も彼に似合っていると思いました。このようにフィーチャリングというのは、そのアーティストの新たな側面を引き出すような批評性が伴うし、そこが腕の見せ所でもあると思います。それについてミュージシャンとして、あるいはプロデューサーとして気をつけていることは何かありますか?

プロデュースや楽曲提供については今でもまだ学んでいる段階だから、はっきりとしたことは自分でもよくわからない。でも、例えばserpentとの曲は何度もセッションを重ねて作ったよ。僕は彼の次のアルバムに参加していて、元々「Woodland」はそのアルバムに入れる予定の曲だったんだ。毎日いくつかアイデアを出し続けていたらやけにこの曲に惹きつけられて、僕のアルバムに入れたくなったんだ。そうしていいか尋ねるのに1ヶ月ぐらいかかっちゃったんだけど、思い切って聞いてみたら全然いいよって快諾してくれた。僕は彼が録音したヴォーカルをアレンジして最終的に組み立てただけ。

彼の持つ世界観を僕の世界にどうやって組み込んでいくのかを一番考えたんだけど、これに限らずコラボレーションする場合はそこにある程度のスペースを設けるようにしている。そこに自分の世界観と相手の世界観とを入れておけるような、そのバランスが上手く保たれるような方法を探すんだ。

彼らの中から自然に湧き出るものをかたちに

──8曲目「Condition」に参加しているトロ・イ・モアについては、あなたの2013年作『Home』にも参加していますね。今回はその時とは全く別の作風になっていて、彼の最新作『MAHAL』にもないタイプのラップを披露しています。

これはあまり知られていないんだけど、サンフランシスコにいた時、トロ・イ・モアと僕は、大物ラップ・アーティストのセッションに何度か参加したことがあるんだ。Travis Scott(トラヴィス・スコット)とかね。ある時トロから、Lil Yachty(リル・ヨッティ)がスタジオに入りたいって言ってるっていう電話がかかってきたんだ。それでサンフランシスコに行って、Lil Yachtyのためにプレイできるように準備したんだ。

その次の日、L.A.でカニエとドレイクのコンサート(筆者注:現地時間2021年12月9日、ロサンゼルス・コロシアムで行われた「Free Larry Hoover」を掲げたベネフィット・コンサートのことと思われる)があったんだけど、Yachtyがそれに行くって言うから、次の日スタジオが自分たちだけで使えることになった。それでせっかくだからトロと一緒に曲を作ったんだ。トロはラップとかロックとか、そういうムードだったと思う。彼は作曲をしてオートチューンをかけて歌い始めたから、そのままスタジオでしばらく歌ってもらったんだけど、オートチューンが曲とマッチしていないように感じたんだ。今日は上手くいかないかもなあと思いながら、僕は彼をスタジオに残して友人と一緒にコーヒーを飲みに一旦外に出た。それでスタジオに戻ってみたら、彼はオートチューンなしで全然違う歌を歌っていたんだ。その場にいた全員が「これはクレイジーだ」と思ったよ。とても変わった歌い方で僕も最初は驚いた。でも、そのうちだんだんわかってきて、結局このアルバムにそのまま使うことにしたんだよね。

彼に限らず、参加してくれたアーティストは僕がずっと好きで聴き続けてきた人たちだから、その人たちのことを全面的に信用している。彼らの中から自然に湧き出るものをかたちにしたかった。それで僕は彼らがやってくれたものをどうやってアルバムに混ぜ込むか、それだけに集中することに決めた。

トロは色んなことに挑戦していて、カメレオンみたいな存在だと思う。彼は作品ごとに少しずつスタイルを変えているんだ。例えば70年代的な音楽であったり、ラップだったり、ほかにも色々ね。あの時彼はそう感じていたし、僕はそれを目撃した。だから僕はそれを受け入れて、このまま進むことにしたんだ。

<2022年12月 都内某所にて>

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RELEASE

Nosaj Thing『Continua』

レーベル:LuckyMe Records
リリース:2022年10月28日(日本盤は12月9日)

トラックリスト:
01. Continua
02. My Soul or Something ft. Kazu Makino
03. Process
04. Woodland ft. serpentwithfeet
05. Blue Hour ft. Julianna Barwick
06. Grasp ft Coby Sey, Slauson Malone & Sam Gendel
07. We Are (우리는) ft HYUKOH
08. Condition ft. Toro Y Moi
09. Look Both Ways ft Pink Siifu
10. All Over ft Panda Bear
11. Skyline
12. Different Life ft Eyedress

詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13001

もこみ

musit編集部