【インタビュー】「自然な流れに身を任せていくだけ」──工藤祐次郎が歌い続ける中で観た景色

【インタビュー】「自然な流れに身を任せていくだけ」──工藤祐次郎が歌い続ける中で観た景色

宮崎県出身、阿佐ヶ谷在住のシンガーソングライター・工藤祐次郎。

まるで風来坊のような、飄々とした雰囲気を醸し出しながら歌う彼の楽曲は、懐かしさを感じる歌詞と穏やかなメロディが心地良い。2012年から活動を開始し、2015年にリリースした『葬儀屋の娘』がサニーデイ・サービスの曽我部恵一から「名盤」と称され一躍有名に。その後も小山田壮平や鈴木真海子など名だたるアーティストから高く評価され、フォークシンガーの域に留まらない才能を発揮している。

曽我部主宰のレーベル《ROSE RECORDS》の企画以外では初だという今回のインタビュー。
工藤祐次郎がたどってきた音楽遍歴、また9月2日に発売した弾き語りAL『残暑見舞い』について、詳しく話を聞いた。

取材/文=翳目
写真=musit編集部

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先輩たちのライブも観に行った後に「何かやってみよう」と

--まず、音楽活動を始めた経緯について教えてください。

元々、福岡の大学を卒業してから上京して、阿佐ヶ谷の兄の家に住みながら営業の仕事をしてたんです。でもしばらく経って営業の仕事を辞めて、少し引きこもっていた時期があったんですよ。2012年の春頃だったかな。そしたらある日、大学の先輩から急に「今度ツアーで東京行くけん、工藤ん家泊めてよ」って連絡が来て。で、兄に無断で「いいっすよ」ってOKして、せっかくだからその先輩たちのライブも観に行ったんです。東京で3ヶ所ぐらい回っていたところをお供したんですけど、ライブが終わってから「ちょっとこのままじゃ良くないかもしれない、何かやってみよう」って思ってギターを弾き始めたんですね。そしたらだんだん曲ができていって、2012年の5月に初めて「ねこの背中」という曲をアップしました。

「Sunrise&Sunset」を歌ったら、壮平さんが「いやいや、おれの歌やん!」って

--元々楽器経験はあったんですか?

中3の終わり頃からベースを弾いてました。大学時代は軽音サークルに所属していたので、バンドを組んでそこでもベースをずっと弾いてて。といってもオリジナル曲は全くやってなくて、コピーばっかりだったんですけど。でも、大学を卒業してこっち(東京)に来るってなった時に、東京にバンドを組めるような友達がいる訳でもないから、1人でやる分にはギターの方が楽しいかな、と思ってギターを弾くようになって。だからその延長ですね、曲を作るようになったのは。

--工藤さん自身はどんな音楽を聴いてきたんでしょう?

それこそサークル時代は、部員が皆音楽に取り憑かれてる…みたいな人ばかりだったので、古いロックやポップスから最新のアニソンまで、色々と聴かされてましたね。あと、今でこそ小山田さんは友人ですけど、大学の終わり頃からandymoriも聴いてましたよ。

--あ、工藤さんのファンにとっては小山田さんとの出会いも気になる所ですが…。

壮平さんとの出会い、色んな人から聞かれます。やっぱり皆気になるんですかね? 壮平さんはただ本当に偶然、阿佐ヶ谷の飲み屋でバッタリ会っただけです。ライブバーだったんですけど、お店のギターを何人かで回して歌いながら飲んでたら、いきなり壮平さんが「君も音楽やってるんだったらなんか歌って〜」って酔っ払った勢いで無茶振りしてきて。笑 で、どうしようと思ったんですけど、せっかくだからandymoriの「Sunrise&Sunset」を歌ったんですよ。そしたら壮平さんが「いやいや、おれの歌やん!」って突っ込みながらハモってくれて。そこからですね、壮平さんと仲良くなったのは。

--緊急事態宣言中も小山田さんから<うたつなぎ>のバトンを渡されてましたよね。

あれは前日の夜に壮平さんから電話が掛かってきて、「なんか今うたつなぎっていうのやってるんだけど、よかったら工藤ちゃんやらない?」って誘われたんですよ。特に断る理由もなかったから「ああ、やるやる〜」って2つ返事でOKして、あの動画を上げました。

--小山田さんを通じて工藤さんを知る人もすごく多いと思うんですけど、サニーデイ・サービスの曽我部さんのツイートで工藤さんに出会ったという人も多いですよね。

いやもう、あの時はびっくりしましたよ! あのツイートを見た友人からいきなり「工藤、大変なことになってるよ!」って連絡が来て。

--それがきっかけとなって『団地の恐竜』は曽我部さんが主宰するレーベルから出されてましたよね。「ゴーゴー魚釣り」のコーラスにも参加されている、生田さんについてはどうですか?

ちゃんボーイは阿佐ヶ谷のライブバーでお手伝いみたいな感じでたまに働いていて、そこで出会いましたね。彼もバンドマンだっていうのは知ってたんですけど、バンドの曲は聴いたことがなくて。

ある日、お店のBGMですごくカッコいい曲が流れてたんですよ。それがあまりにカッコよかったんで、お店のオーナーに「これ誰の曲っすか?」って聞いたら「生田ちゃんのバンドだよ」って言われて…。「あいつ、弾き語り大したことなかったのにバンドだとめちゃくちゃカッコいいじゃん!」って思ったのを未だに覚えてます。

できたものを聴いてみたら「あ、これだけで良かったんだな」と

--9月2日に発売されたAL『残暑見舞い』は、昨年リリースされた『暑中見舞い』同様、初期に比べかなり音がシンプルになったなという印象でした。

あれはだいぶ意図してやりましたね。音の厚さで言ったら『団地の恐竜』がピークかな。『団地の恐竜』のリリースツアーをやった時に、各地の地元ミュージシャンの演奏を観て「ギター1本でも良い曲を作る人はたくさんいるんだな」って思って。だから次のアルバムはギター1本で作ってみよう、って決めたんです。それまでの自分は「おれってこんなにすごいんだぜ!」みたいな気持ちを見せつけたかったのか、色んな音を重ねてたんですね。若い時ってどうしても心が尖ってるから、それを見せるために色々なものをくっつけていて。でもそうじゃなくて、本当は削ぎ落とすことでとんがるんだなと。

--鉛筆削りみたいな。

そうですね、鉛筆削りみたいな。そうやってどんどん削ぎ落としていって、できたものを聴いてみたら、自分でもびっくりするぐらい綺麗にスッと立ってくれたので「あ、これだけで良かったんだな」って思いましたね。それで完成したのが『暑中見舞い』であり今回の『残暑見舞い』なんです。

--「羊のようこ」「魔法使いおっさん」のような短尺の曲も、前作辺りからアルバムに収録されるようになりましたね。ある意味肩の力が抜けたというか、「曲はこうでなくてはいけない」っていう型から外れたのかなと思いました。

ああいう<30秒ソング>は『葬儀屋の娘』よりもうんと前、活動初期からずっと作ってはいたんですよ。でも、「わざわざアルバムに入れるほどじゃないよな」と思って入れてなかったんです。あくまでライブの箸休め的な感じのポジションで作っていて。だけどその反面で、そういう短い曲を気に入ってくれる人も多くて。「「羊のようこ」聴きたーい!」ってお客さん側から飛んできたりとか。なので、弾き語りのアルバムを作ろうって決めたタイミングで2、3曲入っていてもいいかな、と思って前作から収録するようにしました。

--Twitterの100字楽曲紹介で、「お金もち」はお子さんが生まれてからの率直な気持ちだと拝見しました。

そうですね、あれは子供が生まれてから最初に思ったことです。子どもが生まれる前、周りの友人らから「子どもが生まれたら曲も変わっていくだろうね〜」って言われてて、自分でもちょっと意気込んでたんですよ。「愛に溢れた曲、書かねば…!」みたいな。でも結局自分がそうやって真面目なものを作ろうとしても「良いこと言おうとしてんなあ」っていうのが透けて見えるというか…。それがすごく自分には気持ち悪く思えてしまって。だから無理に意気込むのはやめて、ポンっとできたのが「お金もち」でしたね。

--工藤さんの楽曲には、死を連想させる曲があるのも印象的です。「葬儀屋の娘」「最高の別れ!」、そして今回の「9月の海」も。

あー、言われてみると確かにそうかもしれない。「9月の海」は身近な友人の死があって、その時の感情を曲にしたんですけど…。他は死、よりかはおばけの方が近いかな? おばけのことを歌ってる。僕自身、全く霊感がないので、霊感がある人がちょっと羨ましいというか、楽しそうだなって思えて。「死ぬの悲しい」よりかは「おばけって楽しい!」っていう感じで書いてますね。

壮平さんが頼もしいのはもちろん、ちゃんボーイも愛玩のような存在

--9月28日には青山の月見ル夢想フでのワンマン(《暑中見舞い&残暑見舞い レコ発ワンマンライブ》)もありましたね。工藤さんにとってはおよそ半年振りのライブでしたが、どのように決まったのでしょう?

自粛中は丸々制作期間に充ててはいたんですけど、ライブをやりたい気持ちはずっとあって。でも、今自分がライブをやってしまうことでもし感染者が出たら…って考えるとなかなか踏ん切りがつかなかったんです。仮にやったとしても、採算合うのかな? って考えたりとか。で、9月の頭になって友人に相談したら「せっかくアルバムリリースしたんだし、工藤ちゃんにとって1番良い条件でやりなよ!」って言ってくれて、月見ルで働いてる人を紹介してもらったんですよ。それで連絡取り合ったら、ライブハウスも今やっぱりスケジュールがガラ空きみたいで「今月末か、10月の頭あたりでどうですか!?」って結構食い気味に提案されて。

「そんな急に!?」と思いながらも、やるんだったら壮平さんとちゃんボーイも呼ぼうってなって2人に連絡とったんです。壮平さんは福岡に住んでるからどうだろう? って思ってたんですけど、「ちょうど9月末に東京行くよー」って言ってくれて。すごいタイミングでしたね。

--半年間というブランクがある中でのライブでしたが、お2人に支えられた部分もあったかと思います。

そうですね、壮平さんが頼もしいのはもちろんなんですけど、ちゃんボーイも僕にとっては愛玩のような存在なので。笑 安心感はありました。でも、やっぱりライブをやらない期間が長かったので、(当日までは)ライブの時の感覚を取り戻すのに必死でした。だから当日も最初はすごく緊張しましたね。

--リリース、それからライブを終えて、一段落されているところだと思います。今後新しくやってみたいことや、活動方針について教えてください。

バンドやりたいなあとか、インストのアルバム作ってみたいなあ、とかはずっと思ってます。あとはめっちゃチャラい曲作りたい。笑 「残暑見舞い」みたいに<田舎の夏>って感じじゃなくて、<夏だ!海だ!サーフィンだ!Yeah!>みたいな感じの曲。浮かれたいんだと思います。活動については…流れに身を任せて、って感じですかね。
曽我部さんも壮平さんもちゃんボーイも、偶然の出会いの中で自然に交わってくれているので…。これからも色んな出会いの中で自然に変わっていくんでしょうね。

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RELEASE

工藤祐次郎「残暑見舞い」

工藤祐次郎『残暑見舞い』

1.残暑見舞い
2.かなしいうた
3.8月のイメージ
4.魔法使いおっさん
5.9月の海
6.小夏
7.お金もち

各種サブスクリプションはこちら
https://ultravybe.lnk.to/Latesummer

PROFILE

◯HP:https://ozounirecordsworld.tumblr.com/
◯Twitterhttps://twitter.com/ozounirecords

musit編集部