【インタビュー】死んだ僕の彼女、5年振りの新作『shaman’s daughter』リリース──結成15年を迎え降り立った新境地
ノイズポップ・シューゲイザーバンド「死んだ僕の彼女」が先日、約5年振りとなる新作AL『shaman’s daughter』をリリースした。
本作は2021年公開予定の映画《シャーマンの娘》のコンセプトアルバムとして制作され、劇中歌「winter reminds me of you」、エンディングテーマ「rebirth and karma」など全5曲を収録。また、アートワークは前作同様にイラストレーターの河合真維が担当し、こちらも映画の内容を踏襲したものに仕上がっている。
今回は、ヴォーカルでありフロントマンのIshikawaと、ギターのKinoshitaにインタビューを敢行。約5年振りとなる新作リリースへの思いや、本作を通して見えた今後のバンドの行方について詳しく話を聞いた。
取材/文=翳目
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「映画の世界観に合わせて楽曲を作ろう」っていう意識は全くなかった
──『shaman’s daughter』はバンド初のコンセプトアルバムですよね。今回、どのような経緯で井坂監督からオファーを受けたのか教えてください。
Ishikawa:昨年の春頃に井坂監督から突然「長編映画を作るので、(死んだ僕の彼女の)既存曲を使わせて欲しい」っていう内容のメールが届いたんですよ。で、とりあえず直接会って話すことになって、井坂監督とKinoshitaくんと新宿で飲みながら話してたら、彼がすごく熱意のある人だっていうのが分かったので、主題歌も既存曲ではなく新しく曲を作って提供しましょう、と。それから2019年の6月ぐらいに改めて井坂監督と具体的に打ち合わせをして。そこである程度方向性が決まったので、10月から今年の2月ぐらいまでの間にバンドメンバーと制作を進めていったっていう感じですね。
──映画に起用する楽曲に関して、井坂監督から細かい要望などはあったのでしょうか。
Ishikawa:特にはなかったです。というのも井坂監督が元々死んだ僕の彼女のファンだったらしく、「自然体で作ってほしい」っていう部分もあったみたいなんですね。だから「映画の劇伴を作る」というよりかは、死んだ僕の彼女としての楽曲を好きなように作って、できあがったものをいくつか向こうに投げて、そこから映画に起用したい楽曲を選んでもらうという段取りで進めていきました。
──確かに、今回のアルバムはコンセプトアルバムというカテゴリでありながら、元々の死んだ僕の彼女のリスナーにとっても耳馴染みの良い作品に仕上がっている印象でした。
Ishikawa:そうですよね。逆に映画の内容が死んだ僕の彼女の歌詞だったり、曲の世界観をモチーフにしているようなところもあって。だから自然体で作っていっても上手くマッチしてくれたんだと思います。
──「rebirth and karma」のMVも終盤で女の子が半狂乱的にバットを振り回すシーンがあって、死んだ僕の彼女のサイケデリックなイメージを見事に表現していますね。
Ishikawa:そうなんです。笑
──型に囚われず制作を進めていったということですが、普段の楽曲制作時と特に目立った違いはなかったのでしょうか。
Ishikawa:「映画の世界観に合わせて楽曲を作ろう」っていう意識は全くありませんでした。でもやっぱり久々に作るから、今までより凝ったものを作ろうという気持ちはありましたね。前作よりも少し工夫をしてみたくなったというか…。
Kinoshita:そうだね。まあ久々に録るっていうのもあったし、「試してみよう」っていうモードではあったよね。
──と、言うと?
Kinoshita:今まで誰もやったことがないような…斬新なことを取り入れたわけではないけど、これまで死んだ僕の彼女がスタジオでやっていたことに比べたら一歩踏み込んだことをしたというか。例えばレコーディングを進めていく中で「こんな感じだっけ?」って曖昧にしていた部分を、1回立ち止まって確認していく作業を今回は何度も繰り返していて。(確認作業は)良いところと悪いところがあると思うし、案外ノリで進めた方が良いものが生まれることもあるけど…。
Ishikawa:結果としてすごく良かったよね。良かったと思うし、改めて聴き直したら「細かい作業を繰り返したんだな」っていうのが伝わってくる感覚があった。
Kinoshita:最初に作ったデモとは全然違う感じがしたよね。
Ishikawa:「iliad」なんかは本当に全く違う曲になったよね。笑
──前作と比べて丁寧な作業を繰り返したことで、よりバンド全体としてブラッシュアップされたんですね。
Kinoshita:ロックバンドってそれが良いのか悪いのか、荒削りな部分や初期衝動みたいなところがそもそもの魅力だったりもするから、あえて丸く収まってどうすんねん!みたいなところはありつつ…。
Ishikawa:ははは。笑
「バンドコンセプトから外れたものを作ろう」ぐらいの方が案外ちょうどいい
──今回レコーディング・エンジニアとして制作に参加したKensei Ogata氏とは、どんな風にやりとりを進めていきましたか。
Ishikawa:Ogataくんとは終始楽しくやらせてもらいました。そもそもレコーディング・エンジニアとして参加してもらったのも、個人的にOgataくんが以前出したソロ名義のアルバム(『Her Paperback』)がすごく好きで、ずっと一緒にやりたいと思っていたんですよね。だから作業する前から楽しみだったし、実際一緒にやってみてもすごく有意義な時間になったし。Ogataくんは「このエフェクターを使ったらこんなことできるよ」とか、「フロントピックアップにした方がこの曲には合うと思うよ」みたいなアドバイスを沢山くれるんですよ。
──おお、アドバイザーみたいなポジションですね。
Kinoshita:僕はほとんど何も言われず、自然体でレコーディングしてました。笑 でもIshikawaくんがすごく楽しんでやってるな、っていうのはこっちにも伝わってきてたよ。
──バンド結成から15年、また5年振りの新作という面で、ファンにとっては音楽性が変わってしまったのではないか…という懸念もあるにはあったのですが。『shaman’s daughter』はそんな不安を見事に払拭してくれるような、ある種の安心感も得られるアルバムでした。
Ishikawa:確かに結成から15年経ちますけど、15年間ずっとバンドばかりやっていたわけではないので…。そこは大きく音楽性を変えずに活動できている理由の1つだと思います。あと僕個人としては、死んだ僕の彼女っていうある意味アクの強いバンド名で活動してる限り、こういった音楽に帰結するところがあるので、いくら自由にやろうと思っても全くの別物にはならないんじゃないかと思うんですよね。逆に「バンドコンセプトの域から外れたものを作ろう」ぐらいの勢いでやっていた方が、案外ちょうどいいんじゃないかと。
──死んだ僕の彼女という枠組みの中で表現しているからこそ、バンドの本質に沿った音が鳴っているんですね。
Ishikawa:嬉しいです。制約がある中で面白いことを考えるのはすごく好きなことですね。
──死んだ僕の彼女の楽曲は、歌詞の中に「別れ」を連想させるものが多いですよね。今回も「rebirth and karma」の‘‘いつかはすべて消える’’とか「zaiakukan no nichiyoubi」の‘‘遠く遠く離れて消える’’とか。Ishikawaさんにとって、「別れ」の感情とはどういう風に捉えているのか知りたいです。
Ishikawa:別れだったり、忘れてしまうことへの漠然とした残酷さは以前からすごく感じていて。逆らえないまま気持ちが移り変わってしまうのは残酷だよな、という感情が無意識のうちに自分の曲に出ているんだと思います。
意思確認がとれたタイミングが1つの区切りだなと
──コロナ禍で音楽業界全体が打撃を受けた2020年ですが、どのように過ごされましたか。
Ishikawa:4月から9月頃まではやっぱりコロナの影響で家で過ごす時間が普段より少し増えたので、趣味でギターやベースを弾いていました。90年代のバンドのバンドスコアをネットで購入して一人で弾くっていう。なかなか楽しかったですね。あとは自分だけ出社しなくちゃいけない日も多かったので、会社にギターを持って行って、オフィスで曲のフレーズの断片を作ったりもしていました。笑 そこで実際に作った曲が12月24日に発売されるコンピ(『V.A』)で、ソロの「死んだ僕の石川」名義でCDに収録されるんですけど…。Kinoshitaくんも参加してたよね?
Kinoshita:僕はちゃんと自宅で作ったけどね。笑
──それぞれの環境下で音楽制作はしていたんですね。では、今はある程度ストックがある状態ということでしょうか?
Ishikawa:ただフレーズの断片があるだけで、ストックというほどではないですけどね。けどもちろん、それが元になってまた曲が生まれる可能性も0ではないです。死んだ僕の彼女はそもそもバンドメンバー全員が「よし、曲を作ろう!」っていう確認がとれたときに動き始めるバンドだと僕自身は思っているので。やっぱり長いキャリアの中で動いてない時期も多いですし、そうやって意思確認がとれたタイミングがリスタートというか、1つの区切りになっているような気がしますね。明後日もメンバーと会うんですけど、飲みながらなんとなく「とりあえず次もまた作ろうね」ぐらいは伝えようかなと。笑
──非常に楽しみです。では最後に、死んだ僕の彼女がこの先どこへ向かっていくのかを教えていただけますか。
Ishikawa:どんな形で出せるかはまだ分からないですけど、音源はこの先も作っていきたいですね、僕は。できたらフルアルバムも出したいし。この先も死んだ僕の彼女というバンドの世界観を世に広めていきたいです。
Kinoshita:ライブがしたいですね。それは、コロナが流行る前の生活に戻りたいかって言ったらそうではなくて。だって、当時も完璧だったわけじゃないし。でも人前で演奏したい気持ちは常にあるので、今後何らかの形でできたらなと。まあ、やったらやったで色んな悩みもまた出てくるんだろうけど。笑
Ishikawa:「あそこもうちょっとカッコよく決めたかった!」とかね。ただ、ライブ前はいつも迷いなく臨んでいたっていうのは確かだから。これからもそういう気持ちで演奏を続けていきたいよね。
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RELEASE

『shaman’s daughter』
1. the secret of sunflowers
2. rebirth and karma
3. zaiakukan no nichiyoubi
4. iliad
5. winter reminds me of you
《シャーマンの娘》
◯監督・脚本:井坂優介
◯出演:木原渚、長野こうへい、佐藤あかり、倉上桃圭、手塚眞、他
◯劇伴/主題歌:死んだ僕の彼女
PROFILE

死んだ僕の彼女
◯Twitter:@shindaboku
◯HP:http://www.mydeadgirlfriend.jp/
musit編集部




