アイドルユニット・じゅじゅ、現体制ラストワンマン『走馬灯』で迎えた物語の終劇
3月27日、アイドルユニット・じゅじゅの現体制ラストワンマン『走馬灯』が渋谷のライブハウス・duoにて行われた。本公演は先行抽選に続き、1次、2次のチケットも販売と同時にソールドアウトと入手困難を極めた。数年にわたりじゅじゅの足取りを見てきた1ファンとして、どうしても最後のライブを見届けたいとの願いが届いたのか、なんとかチケットを手にした筆者だったが、正直ここに至るまで手に汗握る思いであった。
また、ラストワンマン直前となる25日には、新曲を含む最後のミニ・アルバム『走馬灯』に収録される全6曲が期間限定でYouTubeにて公開された。その新曲こそが本公演のタイトル、またアルバム名にも冠している「走馬灯」だ。じゅじゅのメンバーの想いをなぞるような歌詞が託された、最初で最後の公演にて初披露の新曲に、ラストワンマンを前にして既に一度涙を流したファンも多かろう。
会場の前に着くと、早速ファンから贈られた豪華なフラスタ(=フラワースタンド)が目についた。先月21日に行われた、ねうの生誕祭に引き続きではあるが、とにかくじゅじゅのファンのフラスタは彼女たちの世界観をばっちり擬えておりクオリティが高い。しかもワールドワイド。今回は最後ということもあって、気合の入りようも凄まじい。

基本的にアイドルのライブというのは二部構成になっていて、前半には通常のライブ、後半では「特典会」と呼ばれるチェキ会が開かれる。じゅじゅのチェキ会に参加するには、通常は共通券と呼ばれるチェキ用チケットのようなものを購入するのだが、ラストワンマンに至っては各メンバー専用のチェキ券が発行された。今回リリースされたミニ・アルバムのジャケットと同じヴィジュアルが印刷されたチェキ券であるが、これがまたファンの心をくすぐるわけである。16時の開演直前、フロア内にあるステージが見えにくいことで有名な柱のそばを避けるようにしつつも、フロアはほぼ満員状態に。

ここで、始まりを今か今かと待つファンに思わぬサプライズが。開催の注意事項を含めた、メンバー直々の影ナレ(姿を映さずに音声だけが場内にアナウンスされるナレーション)が流れたのだ。ゆらねが可愛らしく噛んだり、みおりがCAさながらに茶目っ気のあるナレーションを行ったりと、それぞれの推しの声を聞いたフロアの空気が一気に緩んでいくのを感じた。
定刻を過ぎると入場SEの「祈り」が流れ、いよいよ最後のワンマンライブが幕を開けた。海底のように青く揺らめく照明の中を鈴の音の荘厳なリズムに合わせて、一歩ずつステージ中央に進むメンバー。今から始まる全ての曲を、こうしてライブハウスで聴くことが最後であることに目頭が熱くなった。
華々しいスタートを飾ったのは「ノロイハジメ」。続く「零」に至っては優雅なSEから一転、ギター・サウンドが響くロックテイストが入り混じった人気ナンバーに、いよいよ最後のライブが始まったことを実感する。「零」の‘‘呪いが解けたらおしまい’’というサビの歌詞に涙腺が早速過敏になりつつも、なんとか抑える。
次の楽曲「煉獄」が終わると、闇を羽ばたく鳥のようなフォーメーションダンスの振り付けが印象的な「コノ世界・闇」で会場は一気に暗鬱かつ耽美的なじゅじゅの世界へ。その後、無機質なバックミュージックに合わせ、みおり・ねう、ちゅん・ゆらねの2組に分かれたメンバーが、ダイナミックなダンスで魅せる。絞られた光の筋がメンバーの背後で柔らかく交差し、幻想的な空間での躍動感溢れるパフォーマンスに思わず息を呑んだ。
楽曲は人気ナンバー「35席」へ移り、会場の盛り上がりはすでに最高潮に。落ちサビではねうが‘‘早ク来テヨ’’の歌詞をラストライブらしく切なげに歌い上げ、一層会場を沸かせる。その後も「蜘蛛の糸」「ゆらりゆらり」とスローテンポな中にもメランコリックなじゅじゅらしさを孕んだアンセムが漕ぎ出す。メンバーの一人ひとりが「さよなら」と告げるパートには、今回だからこそ感じ得られるドラマ性を含んだメッセージであると受け取ったファンも多かったことだろう。既にもう、こちらの情緒は不安定である。
「産声」「イトシスギテ」とじゅじゅの歩みを彩った定番曲が続き、いよいよライブは後半戦へ。背景にじゅじゅのロゴマークである六芒星が浮かび上がり、4人が中央に集まる。六芒星は本来、男と女/動と静/体と魂といった相反する力の調和と統合を象徴する。オカルトや呪いのモチーフに合うということで、深い意味はなく六芒星のデザインが選ばれたのだとは思うが、「呪い」でありながら人々を照らす「光」であったじゅじゅにはぴったりの紋章だと思う。
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ちゅんが作詞を手掛けた、心の奥底に渦巻く切ない想いを描く「余談」、魅惑のファムファタルを想起させる「愛の苑」(ちなみにこの曲はじゅじゅの中で1、2を争う筆者のお気に入りの曲だ)に続き、ミニ・アルバム収録曲「ブルーバック・バウンダリー」「イデア」が続き、ライブはいよいよ終盤へ。
そしてこの時が来てしまった。
この日会場に訪れていた誰もが期待を寄せていたと共に、別れを実感してしまうが故に聴きたくないという矛盾を感じていたであろう楽曲、「走馬灯」。図ってか、図らずか。じゅじゅを8年間守り続けてきた、ねうのパートからスタート。
‘‘明日にはもう ここで姿は見えないかもしれないけど
寂しいなんて決して思わないで
もしまた生まれ変われるとしたら 次もまた君を照らす光になるから
あのとき交わした言葉に偽りないから 時々でいいから思い出して
もし自分が消えてなくなっても
また新たな光がきっと紡ぐから この印はここに残していくから
必ずかならず思い出してね 私たちがここにいたことを
走馬灯の灯火は消えない’’
落ちサビでは一人ひとりが今までの記憶を辿っていくように、エモーショナルな歌詞を歌い上げる。
そしてこの曲には、最初で最後ながらにこのラストワンマンを見届けた者のみが目にすることができる、とある仕掛けがあった。視覚的にもどこか見覚えのあるフリの数々は、ファンである我々がコピーしてきた、今までの人気楽曲の印象的な振り付けだった。最後のステージにして初披露というこの曲に、これまで歩んできた全ての振り返りを託した、まさにじゅじゅにとっての走馬灯。本楽曲最後のフリはじゅじゅポーズ(彼女たちの現場でよく使われる、写真撮影時のポーズ)だったことも含め、感慨深く思う。

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本公演のセットリストには、1つの物語があるように感じていた。「ノロイハジメ」でじゅじゅの呪いに囚われたファンが、前半で披露される「35席」「イトシスギテ」などじゅじゅの代表曲と呼べるナンバーで彼女たちの軌跡を振り返る。後半ではミニ・アルバムに収録された比較的新しい楽曲に触れながら、最後から2曲目「走馬灯」へと流れ着く。しかし、これは「最後から2曲目」というところが肝であり、本編ラストに披露されたのは「呪呪」であった。
「走馬灯」が終わるとステージは暗転し、初期から現在に至るまでのじゅじゅの映像が走馬灯のごとく映し出された。BGMはパッヘルベルのカノン。映像が止まり、「終わっちゃった」という呟きと共に、ステージ背景に「終劇」の文字が浮かび上がった。
入場SEを1曲目に含めるならば、「祈り」はいわば映画のオープニングのようなもので、対になるエンディングがじゅじゅによる「呪呪」なわけだ。始まりから終劇までの見事なシナリオにも拍手せざるを得ない。
サイリウムの使用がOKとなったアンコールでは、各メンバーのカラーのペンライトが会場内を彩りながら計4曲を披露。じゅじゅとしての最後を飾ったのは「idoll」だった。理想のアイドル像との乖離の苦悩を歌ったこの曲を、多くのファンに愛され続けたじゅじゅが最後の曲として歌うことは、まるでハッピーエンドの象徴のようでもある。
ラストのMCでは涙ながらに今までの感謝とこれからの個人の活動についての方向性を語ったメンバー。本音を言うのであれば、いつかまたどこかで再会できることをほんの少しだけでも願ってしまうことは、今はまだ許してほしい。
しかし、ガラスケースの中にピン留めされた蝶のごとく、儚くも完璧な美しさを携えた4人のアーティストは1つの時代から解き放たれて、次のステージへと進もうとしていた。遠ざかる漆黒のレースに寂しさを感じながらも、じゅじゅの輝き瞬くような「お呪い(おまじない)」は、物語の最後のページが閉じたあとも私たちの胸を照らす灯火となることを予感させた。
少しの寂しさと幸福が静かに溶けた桜舞う春の日に、彼女たちが笑顔で卒業を迎えることができたことを心から祝福すると共に、彼女たちがこれから歩むそれぞれの道が明るいものであるようにと、心から願っている。

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すなくじら
