『We Are So Young』──《So Young》が繋ぐインディー・シーンの最前線

『We Are So Young』──《So Young》が繋ぐインディー・シーンの最前線

ロンドンから送るライブレポート第2弾。3月31日、《So Young》が主催する若手アーティストのショーケースイベント『We Are So Young』に行ってきた。不定期で開催されているこのイベントは今回で14回目。音楽好きの人の中には、目を引くコラージュ表紙が印象的な『So Young Magazine』の存在を知っている方も多いのではないだろうか?

《So Young》は2013年から始まったプロジェクトだ。DIY精神に溢れたこのプロジェクトはZINEやレーベル、ライブ、オンラインメディアと様々な形態で、クリエイティブなプラットフォームとして昨今のインディー・シーンを伝えてきた。《So Young》が他のメディアと相異なるのは、あくまでコミュニティとしての一面が強い部分かもしれない。自分たちが自信を持って「良い」と思えるイラストレーションや音楽にスポットライトを当て、それを紹介する。決してそこには商業的な匂いはしない。それは例えるならば、良い音楽を見つけた時に友人に伝えるような純粋さが詰まっているように感じる。過去にはshameやWolf Alice、またUKに囚われずAUのCourtney BarnettやUSのStarcrawlerを取り上げた彼らの先見性も含めて、今ではインディー・シーンを伝える重要な存在となっている。

4月も目前の3月最後の夜、イギリスではサマータイムが始まったからか、19時前になっても夕方のように明るい。気温だけが追いついていない夏のようだ。ライブに厚着は邪魔だが夜には一桁台になる気温に頭を悩ませながら、会場のあるソーホー(Soho)に向かうバスに乗った。

ソーホーは東京で例えるなら渋谷のような街だ。昨年、公開された映画『ラストナイト・イン・ソーホー』でその名前に聞き覚えのある人も多いだろう。映画の舞台になったように、20世紀では大半が性風俗店、劇場や音楽ホールに溢れた歓楽街だった。今でこそ性風俗店などは姿を消したが、監督を務めたエドガー・ライトの「ロンドンで唯一の眠らない街」という言葉通り、パブやナイトクラブが密集しているロンドンのナイトライフの中心地だ。

今回の会場はそんなソーホーの外れにある、《Heavenly Recordings》が運営している『The Social』というヴェニュー。《Heavenly Recordings》はロンドンを拠点とする名門インディー・レーベルで過去にTemplesを輩出しているほか、日本からはCHAIと契約したことも記憶に新しい。入り口から通路を抜けると1階は前面板張りの小さなパブのようになっていた。奥まった位置にあることも含めて、隠れ家のような雰囲気がある。既にテーブルは全て埋まっており、ライブ目的ではないお客さんも多く見られた。ヴェニューとしてではなくパブとしてローカルにも愛されている雰囲気がある。

ここはBlack MidiやBlack Country, New Roadなど現行UKシーンを盛り上げているアーティストたちに加え、過去にはフジロック最多のヘッドライナー回数を誇るThe Chemical Brothersに今年のヘッドライナーであるJack White、イギリスの歌姫、Adeleまでもが出演したことのある名ヴェニューだ。キャパシティは150人。ビッグネームの数々、このスケール感に正直まだついていけていない。キャパが150人のフロアで観るThe Chemical Brothersとは…?

19:30、予定通りに開場。先述した通路の途中にある階段を降りると、細長いフロアとステージが現れた。雰囲気的には代官山のUNITに似ているような気がする。面白いのはスタンディングのフロアの横にテーブル席があることだった。立っている自分の真横に座っている人がいる、というのは不思議な感覚だ。開演する頃には、フロアもいつの間にか人混みを掻き分けなければ移動できないぐらいに人で溢れていた。入場無料だということもあるが、やはり《So Young》の影響力や「彼らのイベントに行けば良い音楽に出会える」のようなある種の期待を感じた。

今回のイベントはスリーマン。ライフル銃型のギターや電動ドリルでの演奏など奇想天外なプレイをしていたdogに、まだ音源を一曲もリリースしていないにも関わらず、オペラを見ているかのような独自の世界観が完成していたThe Dinner Partyと良いライブが続いたが、特に印象に残ったのはこの日のトリを務めたPorchlightだ。彼らはブライトン発の5人組で、2021年に始動した。1年足らずの活動期間でイギリスのファッションブランド『FRED PERRY』が展開するインタビュー企画「Subculture」にも選出されている。

彼らの曲ごとに入れ替わるヴォーカルや、所々で入ってくるカウベルの気の抜ける音とシャウトのアンバランスさ、クリーンと轟音のギャップにすっかり引き込まれて、いつの間にかグイグイと前に行ってしまった。予想できない展開と爆発力に溢れるパフォーマンスでは、ラストナンバーにプレイされた昨年9月リリースの「Country Manor」でモッシュが起きるなど最高潮の盛り上がりを見せて終演。混沌としながらも緩急鋭く繰り出される演奏に目が離せなくなるライブだった。帰路は彼らの音源をひたすらリピートしていた。まだ2曲しかリリースされていないのがもどかしい…。

《So Young》のPorchlight紹介記事によると‘‘コラボレーションがPorchlightをPorchlightたらしめている。友人たちの間で才能を認め合い、友人や仲間たちとのコミュニティを確立することで、没入感のあるサウンド体験ができる。”とあるが、それを肌で感じられる夜だった。当日の会場にはデビュー・アルバムのリリースを目前に控える、サウス・ロンドン発の注目スリーピース、Honeyglazeのメンバーなども訪れており、観客と一緒になってライブを楽しんでいる様子が窺えるなど、相互作用で盛り上がっていくシーンの一面を見た。昨今のUKインディー・シーンの盛り上がりは《So Young》なくしてはありえなかっただろう。しかしそれは《So Young》が一方的に情報を伝えるメディアではなく、コミュニティとして機能していくプラットフォームだったからこそ人が人を繋ぎ、純粋に良いと思った音楽に惹かれ合うような一体感を生んだのかもしれない。これこそが、このシーンにある重要な要素だと思う。

雑誌媒体として、レーベルとして、ますますプラットフォームの広がりを見せていく《So Young》、そのプロジェクトのメインでもあり原点とも言える雑誌『So Young Magazine』を是非とも一度、手に取って欲しい。きっと音楽の面からも、それらを彩るイラストレーションの面からも、グラグラと脈動するインディー・シーンの盛り上がりを感じ取れることだろう。

Kaede Hayashi