誰もがハッピーになれる場所──《Melodies International》主催のパーティー『You’re A Melody』

誰もがハッピーになれる場所──《Melodies International》主催のパーティー『You’re A Melody』

街路樹の緑も目立ち始め、街の空気はすっかりと春の匂いに変わった4月10日。日曜日にも関わらず《Melodies International》のパーティー、『You’re A Melody』は日付が変わるその直前まで人々の熱気とソウル・ミュージックへの愛に溢れていた。musitロンドン支部から送るライブレポート第3弾。

《Melodies International》の名前を僕が初めて目にしたのは、小袋成彬が今年6月から行う日本ツアーのフライヤーだった。このツアー決定の文字に心が踊ったのは僕だけではないだろう。何しろ2019年にイギリスはロンドンに拠点を移した小袋成彬の、約3年半振りとなるライブだ。彼は昨年、コロナ禍を経て人々のアチーブメントではなくそのプロセス、すなわち歩幅(Stride)に焦点を当てた『Stride』という作品をリリースした。自分自身の感想は置いといて、リリース時、周りはこの新譜の話題で持ちきりだったし、僕自身、何度も何度もヘビロテしてしていたため、彼のライブが本当に観たくて仕方ない。けれどしばらくは帰国する予定がないので、残念だけどこのツアーに参加することは叶わない。もともと「生のデカい音が至高派」の人間なのでコロナ禍を通して根付いた配信ライブにはあまり関心が惹かれないが、いざ本当に行きたいライブだと配信がないことが少し寂しい。日本ツアーに参加できないのならと思った僕は、小袋成彬の言う「ロンドンの友達」のパーティーに足を運んだ。

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『You’re A Melody』は「世界中のソウルを祝う」をコンセプトに始まったFloating Pointsのパーティーだ。Floating Pointsと言えば、宇多田ヒカルが今年リリースした『BADモード』の共同プロデューサーで話題になったことも記憶に新しい。かつてイーストロンドンに存在していた名ヴェニュー、《Plastic People》で2013年に始まったこのパーティーは、インターナショナルにベルリンやニューヨークでも開催されてきた。《Melodies International》はそんな『You’re A Melody』を通して育まれたバイブス、そのモーメントを形にし、何度も追体験して欲しいという希望が込められ2015年に設立されたリイシュー・レーベルだ。公式が発信している「幸運にも耳にする機会の少なかった特別な音楽」という書き方がニクい。こんなこと言われてしまったら、余計聴きたくなって仕方ない。

当日は16時の開場とほぼ同時刻に、サウスロンドンに位置するエレファント&キャッスル(Elephant & Castle)の《Corsica Studios》に到着。《Corsica Studios》はエレファント&キャッスル駅に続く高架線下のヴェニューだ。家賃が高騰を続けるロンドンで移転を続けたCorsica Studiosは、2002年からこの高架線下に拠点を構えている。地元の美術学生や青少年プログラムにもスペースが貸し出され、過去には美術展が開かれたり、ダンスクラスを開講したりとナイトクラブとしての側面だけではなく、地域社会のコミュニティとしても機能しているヴェニューと言えるだろう。1991年創刊の国際的ダンス・ミュージック誌『DJ Magazine』が選ぶ「Best of British 2019」のSmall Club of the year部門では1位を獲得している。Small Clubの言葉通りキャパシティは350人。高架線下という外見の無骨さとスタイリッシュな室内のギャップに少し驚いた。

開場直後はまばらだったフロアも19時過ぎには人で溢れていた。パーティーは前半の《Melodies International》のDJ陣のプレイや、後半のFloating Pointsとスペシャルゲスト、Four TetのB2Bなど見どころが随所に溢れていたのだが、僕がこの日一番強く感じていたのは、このパーティーの雰囲気に溢れる幸福感だった。簡単に言うならば、居心地がとてつもなく良かったのだ。会場にはもちろん友人と音楽を楽しむ人もいるが、Shazamを片手に真剣にDJを見つめる人も、1人で黙々と踊っている人もいる。年齢層も様々で、普段からクラブに遊びに行かない自分でも「クラブ」という言葉から感じるハードルがとても低く感じた。1人でいることが全く苦に感じない。それはシンプルに、音の中にいる感覚の心地良さを体感したからだ。ソウル・ミュージックの魔法とでも言えようか。そのグルーヴは耳から入ってくるんじゃなくて体の中から響くような感覚でどこか懐かしく、言語化するのは難しいけども音楽が全員を連れていく──誰も置き去りにしない雰囲気があった。

「お気に入りの曲なんだ!」とパーティーの終盤にかかったナンバーに思わず涙を流す男の子がいた。僕は彼のこの曲に対する思い出もバックグラウンドも何も知らない。だけど純粋に音楽を聴いて揺さぶられる気持ちは分かるから、その姿を見て涙が出てしまった。例え言語が違くても、その気持ちに共感することは出来る。思えばコロナ禍で足りなかった要素はこれだなと思う。音楽は1人で聴くことも楽しむこともできるけど、「聴いてきた過程で芽生えた音楽への愛を誰かと共有できる」という側面も持ち合わせている。誰かと踊ることだってそうだ。

少し個人的な話をすると、イギリスに来て数ヶ月が経っても未だに拭えない孤独の中にいる気がした。もちろんこれは努力次第だが、言語の壁は明らかに大きい。だからこそ言葉が通じた時の嬉しさが毎回のようにある。そこには僕の拙い言葉を理解しようとしてくれる相手の共感があるからで、全く同じ共感がこのパーティーを通して感じられた。それは暑そうにしている僕に「上着をここにかけな!」と言ってくれたお姉さんだったり、「楽しいね!」と話しかけてくれたお兄さんだったり、些細なことでも様々な形の共感が溢れていたからだ。もちろん言葉だけではなく、音楽も通して。だからこそ水中のような、ずっとそこに漂っていたくなる居心地の良さがあったのかもしれない。

もう少しだけ、もう少しだけと思っても時間は着々と進んだ。週末が終わる。月曜日を目の前にして終演。フロアは拍手で溢れた。

そんな《Melodies International》がこの夏、日本に初上陸する。友人でも、恋人でも、会ってみたいと思った人でも、1人でも構わない。是非彼らのパーティーに足を運んでみて欲しい。それはこの日、僕が小袋成彬に素っ頓狂に聞いてしまった「『You’re Melody』はどんなパーティー?」という質問に対して、笑って返してくれた「ハッピーになれる場所」の言葉通りだと思う。きっとこのコロナ禍の2年で忘れかけてしまった音楽を現場で楽しむという、原点的なことを思い出せるはずだ。もちろん彼らは最高のパーティーと音楽を提供してくれるだろうし、それが良い夜になることに間違いはないのだから。

Kaede Hayashi