【ライブレポ】「最高なバンドはただ、最高のライブを」 − 1/15 People In The Box / << noise >> was NOT cancelled.

【ライブレポ】「最高なバンドはただ、最高のライブを」 − 1/15 People In The Box / << noise >> was NOT cancelled.

2021年1月、渋谷。この日、People In The Boxのワンマンライブが開催された。

依然として蔓延るコロナウイルスの対策として、‘‘ライブハウス及び飲食店の営業は20時まで’’の規定に則り、本公演は本来予定していた19時から、一時間早い18時に開演時間が繰り上げられていた。それでもやはり、無事にこの日を迎えられたことが、今は何より嬉しく思う。

 

17時半を少し過ぎて、渋谷O-EASTに到着。
場内はありとあらゆる感染症対策が徹底され、スタッフの指示に従いながら入場の手続を済ませる(これは山口のMCで聞いた話だが、本来の収容人数基準が1/2未満と定められていたのに対し、本公演では収容人数を全体の1/3まで減らしていた)。

 

開演時刻の18時。People In The Boxのメンバー三人がステージに登り、各々の位置へ。
波多野裕文がそっと腕を上げて、BGMが止む。この日最初に演奏されたのは『さようなら、こんにちは』。2012年に発売されたアルバム『Ave Materia』に収録されている楽曲だ。‘‘あなたの絶望で空が晴れ渡るよ’’。まさにこの状況下で開催されている今日を象徴するようなフレーズに、思わず感嘆の声が漏れそうになる。

次ぐ二曲目もピープル初期の名曲『おいでよ』。お伽話を聞かされているような、波多野の温かみのある歌声が徐々に観客の緊張を解していく。

等間隔で甘美に鳴るピアノ伴奏から始まるのは『懐胎した犬のブルース』。この曲について、波多野は昨年の緊急事態宣言期間、自身の公式ブログ上にセルフライナーノーツをしたためているので、一部引用したい。

 

‘‘9年前(注釈:東日本大震災)から、いつか必ず訪れる非常時や危機的状況下でも演奏や聴くことに耐えうる歌詞を書くことを心の底で目的としてきた。あの頃とくらべると少しはましなものを作れるようになっているだろうか。少なくとも、アルバム『Tabula Rasa』を聴くのに相応しい世界は今をおいて他にないと思っている。’’
(引用:波多野裕文公式ブログ『write』 懐胎した犬のブルース

 

コロナ禍以降、音楽は頼りないものであると誰もが口々に言った。音楽は不要不急で、手助けを求めても虚しいだけの娯楽である、と。だけど一年前の春、錯綜する情報に翻弄され、身動きのとれない日々が続く中、誰もが本当は『正しい情報』以外の安寧を求めていたはずだ。

‘‘かたく紐結んで 暴れて怪我せぬように’’。音楽は無力かもしれない。それでも、冷静さを欠いてしまった人々の心を宥め、平静を与えるにはやはり『必要されるべき娯楽』なのではないか。かたく紐を結んで。きちんと本来の自分の元へ帰って来られるように。

 

序盤三曲の演奏を終え、波多野の「最高のバンドはただ、最高の演奏をしていくだけなので」との言葉を皮切りに『無限会社』『ミネルヴァ』『冷血と作法』と、ピープルの楽曲群の中では攻撃力の高い曲が続く。

‘‘かけがえのあるたったひとつへ 有象無象はボーダーを越え入れ替わっていく’’(『ミネルヴァ』)

生きる手段を問い詰められた日々の中、同時に自分の存在意義について深く考えた。感染症が蔓延する状況下、行動制限があるとはいえ、何もせず押し黙って過ごすことは御門違いであろう。それこそ、有象無象と何ら変わりのない「かけがえのある」存在だろう、と。自分は飽くまでもーーーこの先もずっと、「かけがえのない」存在でありたいのだ。

 

 

イントロから今回の公演タイトルに相応しい、ぎりぎりとしたノイジーな重低音が耳を劈く『ストックホルム』で会場を轟かせたかと思えば、『She Hates December』では一転、‘‘月が消えたら僕らだ’’と澄み切った美しい歌声を響かせてみせる。御無沙汰だったゆえ、すっかり忘れてしまっていたが、People In The Boxというバンドの持ち味はこの部分ではないのか。陰鬱さと無機質さを兼ね備えた上に、生命への賛美がベールをかけるように優しく包み込む。規則や秩序に囚われていない世界観ながらも、それは混沌とも違い、並んだスパイスから何種類かを手にとって順に味見しているような感覚。一曲単位で掻い摘んでみても、聴けば聴くほどに新たな側面が顔を覗かせ、ますます私たちは翻弄の湖に足を浸けたまま上がって来られなくなる。

波多野は度々、自身の制作した楽曲に対して「聴き手の解釈に任せている」と明言している。それは一見、無責任な言葉のようにも思えるがそうではない。彼らは私たちがピープルの楽曲を聴いて何を思おうとも、決して取り締まることはないからだ。まさに私たちリスナーが、People In The Boxという名がついた『箱の中の人々』で、自由に距離をとりながら彼らの作る音像に触れているのだ。
今、物理的な距離は遠かれど、ピープルの楽曲が創り出す空間の中では変わらず近い。「音楽はいつも傍にいるなんて綺麗事だ」、と思う人も多いだろうが、それは私たち聴き手がどの位置から音楽を聴き入るかによってアンサーが変わるものではないのか。

 

‘‘かわす緊急車両 踊る赤信号 交差点の真ん中でとりみだしたって’’(『いきている』)

 

とりみだしたって。大震災に見舞われた年も、終わりの見えない日々を過ごしている今も、多くの人たちが目に見えない赤信号に阻まれながら取り乱している。それでも自分は、惑わされず‘‘オーケー’’と言いたい。いや、言わなければならないのだと思う。オーケー、例えどんなに居心地悪い世界でも。オーケー、私は。いつだって。

 

『どこでもないところ』『月』の演奏を終え、山口が「最近抜け毛に悩んでいて…」と唐突に話を始める。だが、すかさず波多野が「それは今する話じゃないから(笑)」とやんわり遮り、区切りのいいところで再びギターを手に取った。「最後、三曲やって帰ります」波多野の言葉から息を飲む間もなく演奏されたのは、『世界陸上』『逆光』『聖者たち』。ピープル屈指のキラーチューン、電光石火のようにまばゆく燃える三連発だ。

(引用:People In The Box / 逆光【Official Music Video】-zankyo record)

‘‘見開いた穴になにをみたのか 光のなかになにがあるのか’’(『逆光』)

 

今を切り抜けた先の世界を、私たちは見なくてはいけない。
波多野の書く歌詞のほとんどは不明瞭で、かつ暗喩を用いた表現が多い。そんな中でもこの日、最も伝えたかったメッセージは『逆光』の一節に込められている気がした。

 

『聖者たち』の演奏を終え、本公演は終了ーーーと思いきや、間髪入れずに『ヨーロッパ』の神聖な重みのあるイントロが会場全体を飲み込んでいく。

‘‘君の胸騒ぎが本当になるといいな’’。終盤、ポエトリーリーディングで何度も語られるそのフレーズは、この先も私たちが生きていくことを前提とした波多野の切なる祈りであるようにも思えた。

 

「ありがとうございました。People In The Boxでした」と波多野がマイク越しに告げて一礼し、山口、福井も続いて頭を下げ、三人はステージを後にした。
この日はアンコールがなく、アナウンスに従いながらの規制退場となった。本来ならば用意されていたのかもしれない、が、後腐れないステージも含めて彼ららしく感じられた。これはこれで正解、という空間を作り出すのも、きっと彼らの得意技であろう。

 

*        *        *

 

『<< noise >> was NOT cancelled.』

 

彼らはこの日、新旧問わず演奏されたセットリスト全体でライブタイトルを顕現した。
重厚なノイズを会場全体にーー胸の奥まで染み渡るように響かせながら、彼らは曲を通してひとつのメッセージを届けてくれた。ノイズは鳴り止まない。止まらない。それは紛れもなく、People In The Boxと私たちリスナーが、今後も相補的な関係性を保ちながら日々を過ごしていくという‘‘誓い’’だ。

 

予断を許されぬ毎日を過ごす中、People In The Boxと同じ波長のノイズで正しく共鳴し続けること。そしてまた、近い未来でそのノイズを互いに差し出し、日々を美しく彩っていくこと。それが今、未曾有の事態を生き抜く私たちに降り注ぐ、一筋の光になる。

 

 

1/15 People In The Box 『<< noise >> was NOT cancelled.』セットリスト

1.さようなら、こんにちは
2.おいでよ
3.懐胎した犬のブルース
4.無限会社
5.ミネルヴァ
6.冷血と作法
7.ストックホルム
8.She Hates December
9.失業クイーン
10.いきている
11.2121
12.どこでもないところ
13.月
14.世界陸上
15.逆光
16.聖者たち
17.ヨーロッパ

People In The Box  

波多野裕文(Vo.)
福井健太(B.)
山口大吾(Dr.)

■HPhttps://peopleinthebox.com/

 

 

(画像出典:People In The Box 公式Twitter

 

(執筆:翳目)

musit編集部