【アプリレビュー】《Chooning》が提示する、ストリーミング時代における音楽への向き合い方
はじめに
ストリーミング・サービスについては、かねてより色々と思うところがありました。
以前、筆者はこのような短いコラムを執筆したことがあります。
結局サブスクってどうなのよ?という話
数年前、転職活動中で金銭的余裕がなくCDを自由に買えない状況下で、半ば「仕方なく」利用を開始したストリーミング。当時はApple Musicに登録し、リリースされたばかりの新譜を家にいながら聴けたり、検索するだけでフィジカルでは入手が難しい廃盤に出会えたりと、その恩恵の大きさに感動したものでした。おまけに、自分が聴いた音楽の傾向から自動的におすすめの作品を表示してくるほどのお節介っぷり。想像以上に音楽生活が充実し、触れる作品の数も格段に増えました。
しかし、いつの間にかそれが当たり前となって久しくなった頃、膨大なライブラリを提供されるがまま聴くという行為に疲弊しはじめ、その状況に疑問を抱くようになっていきました。「音楽を聴いている」というより「音楽を消費している」という、ある意味で倒錯しているような現状を、徐々に自覚するようになったのです。特にここ最近は、その感覚がより強まっていました。
そのタイミングで、《Chooning》というアプリを使ってみる機会を得たのですが、気軽に音楽の話ができるだけではなく、機能的にも優れており、非常に満足度の高いものでした。また、開発者のコンセプトにも共感でき、自身の音楽生活を豊かにできるような可能性も感じたのです。
音楽特化のSNSは成功しにくいという定説を覆すのではないか…。この記事では、そんな可能性を秘めたChooningをご紹介します。
《Chooning》とは
《Chooning》は、横浜を拠点に活動しているデザイナー/エンジニア、イワモトユウ氏を中心に開発されたスマートフォン向けアプリ。Spotifyと連携し、楽曲と文章を紐付けて投稿することができるSNSです。2020年9月にiOS版がリリースされ、2021年2月にはAndroid版も登場しました。
イワモト氏は、Chooningについて下記のように語っています。
Spotifyなどの登場によって、膨大な音楽と低コストで瞬時に出会えるようになった一方、かつてのように一つひとつの音楽と深い結びつきを得ることが難しくなった。ストリーミングを使いながらも立ち止まり、音楽と向き合う場所を作りたかった。コロナ禍でイベント規制があり、アーティストとファン、ファン同士が交流しづらい状況が続いている。音楽に特化したオンライン上の交流チャネルとしてファン、アーティスト、事務所やレーベル、メディアなどに活用してもらいたい
--横浜発のストリーミング時代の音楽アプリ「Chooning」が始動(ヨコハマ経済新聞)
まさに、ストリーミング世代によるストリーミング世代のためのアプリと言えるのがChooningです。具体的に、どのような機能が備わっているのでしょうか。
《Chooning》は何ができるか
《Chooning》にも、多くのSNSに存在するようなフォロー機能、プロフィール画面、タイムライン、通知欄などがあります。大きな特徴としては、端的にいえば「音楽に特化したInstagramのストーリー」のような機能が備わっている点です。
主にできることは下記の通り。
・Spotifyで配信されている曲について、300文字のテキスト情報を添付し、投稿することができる
・投稿には、Spotify APIから取得してきた曲名、アーティスト名、アートワーク、30秒のサンプル音源が付随する
・投稿に対して、ユーザーは「コメント」「お気に入り」のリアクションを取ることができる
・投稿された楽曲をSpotifyに保存(プレイリストに追加)することができる
・任意のユーザーをフォローすると、フォローしたユーザーの投稿が自分のタイムラインに流れるようになる
・投稿にハッシュタグを付与でき、ハッシュタグごとに投稿を一覧できる
・アーティストごと、トラック(楽曲)ごとに投稿を一覧できる
なお、「お気に入りに加えた投稿はSpotifyに送られ、月別プレイリストを自動的に生成する」というリリース当初の機能は、「投稿をお気に入りに加える」、及び「投稿された楽曲をSpotifyに追加する」という2つの機能にそれぞれ分化されました。
また、新たに追加された右上の音符マークのボタンをタップすると、そのユーザーが投稿した曲を全てSpotifyプレイリストとして保存することが可能となっています。
さらに、2020年9月にリリースされた際はiOS向けのみでしたが、2021年2月からは満を持してAndroid版も登場したのは前述した通り。Spotifyと契約しているスマホユーザーであれば、基本的に誰でも使用可能です(※1)。
UIもシンプルで直感的に使用でき、Instagramのストーリー機能を彷彿とさせるので馴染みもあるため、大きなストレスもありません。
ただし、投稿できる楽曲はSpotifyで直前に聴いていた楽曲の履歴から選ぶ仕様になっているので、それ以外の任意の楽曲を指定することはできません。あくまで自分が実際に再生している楽曲をシェアするという仕様は、<音楽と向き合う場所>というChooningのコンセプトに沿った設計と言えるでしょう。
※1:現在はアップデートにより、Spotifyのユーザー以外も投稿が可能になりました(後述参照)。
《Chooning》のメリット/デメリット
数週間《Chooning》を使い込んだうえで、個人的に感じたメリットとデメリットを下記にまとめてみました。
メリット
・シンプルで使いやすいUI
・音楽に特化したSNSなので、余計な情報(ノイズ)がない
・純粋に音楽の話だけを気軽に共有したいリスナーにとっては理想的な空間
・プロフィール文が一般的なSNSより長く設定できる
・プロフィールや投稿にURLを自由に設定でき、メディア運営やプロモーションの導線としても使える
デメリット
・投稿文の配置を中央揃え以外にも選択できてほしい
・直近に再生した楽曲の反映に若干ラグがあり、時々反映されない
・アーティスト名や曲名で投稿を検索できない(→アップデートで対応※2)
・アルバム単位での投稿はできない
・Spotify以外のサブスクにも対応すると、よりユーザー層が広がる(→アップデートで対応※2)
※2:音楽SNS・Chooningが誰でも投稿可能に。Apple Musicユーザーなどの利用獲得を狙う
ユーザーによっては「アルバム単位で投稿したい」という声もあるかもしれませんが、前述したように<音楽と向き合う>というコンセプトを踏まえれば、曲ごとの投稿は自然なものでしょう。
また、「Twitterと連携できてほしい」といった声が散見されたのですが、個人的な認識としてChooningは独立したSNSであり、あくまで別のフォーマットという印象なので、むしろ連携する必要性はそれほど感じていません。逆に、Chooningの投稿に設定したURLなどから他の媒体への訴求が可能だという点に着目すべきだと感じました(※3)。
※3:ただし、現在はプロフィールページにTwitterとInstagramのアカウントを紐付けられるようになっています。
【2021/08/11 追記】Spotifyのユーザーに限らず、Apple Musicのユーザーにも対応し、そもそもストリーミング契約の有無に関係なく投稿可能となったのは、非常に大きいのではないでしょうか。純粋に音楽をシェアする行為に特化したアプリとして、今後さらに拡大していくのではないかと想像しています。
他サービスとの比較
《Muzine》との比較

画像:Muzine(ミュジーン) – 音楽を書き記すアプリ by PERX Inc.
「Zineを作ろう」という《Muzine》のコンセプト(及び機能)は大いに賛同できます。あらゆるものがインスタントに消費されていく現代において、長く残るコンテンツを発信できるフォーマットが登場すること自体が、個人的には希望だと感じるからです。
一方、《Chooning》は一言二言の投稿でも形になるため、どちらかといえば長期的なコンテンツのフォーマットではありません(その点、新規のユーザーはMuzineより流入しやすい気がしました)。ただ、あくまで個々人が音楽としっかり向き合い、それを共有できるという点を重視しているため、コンセプトが異なります。
Muzineはタイトルやサムネイルを設定できたり、本文の投稿は30,000字まで対応しているなど、本格的に文章を書いて語りたいというユーザーをターゲットにしているため、そもそも一概には比較できない、というのが正直なところです。
ちなみに、Muzineにはアーティスト名や曲名で検索し、曲ごとの投稿を一覧で見られる機能があるようですが、上手く反映されていません(2021年3月現在)。
《Roadtrip》との比較

画像:Roadtrip – Listen Together by Brian Wagner
音楽をリアルタイムで流して共有できるという《Roadtrip》は、やはり画期的です。ただ、Clubhouseと同様のクローズドなルームで共有することになるので、《Chooning》のようなオープン性はないかもしれません。
そもそも「DJのように自分のプレイリストを流したい」というユーザー以外にはフィットしないサービスなので、やはりこちらもターゲット層が異なる印象です。ただ、Chooning同様にアーティスト名や曲名で検索することはできないので、ハプニング的な出会いを求めるという意味においては多少共通する部分もあります。
なお、ChooningはRoadtripのようにSpotifyプレミアムユーザー(有料会員)である必要がないので、その点はサービス選択の際の意思決定に影響してくるでしょう。
関連記事:
【アプリレビュー】音楽特化のSNS『Muzine』と『Roadtrip』はメインストリームとなるか?
《Chooning》が提示するもの
日常的に音楽ストリーミング・サービスを使い続けていると、いつの間にか一つひとつの作品に対しての思い入れや、音楽と出会うという体験が、希薄なものとなってしまう場合もあります。事実、改めてフィジカルに立ち返る「ストリーミング離れ」をするユーザーも見かけたりします。ここ最近レコードの売れ行きが好調なのも(コロナ禍の巣ごもり需要もあれど)、そんな現状と相関関係があるのかもしれません。
しかし、人間は一度便利なものを知ってしまうと、そこから逆行することは難しいものです。《Chooning》は、それを理解したうえで決してストリーミングを否定することなく、むしろその利点をあくまで最大限に拡張しようとします。
機能的にはInstagramのストーリーを彷彿とさせるものですが、そもそも根本的な設計思想が異なります。あくまで「音楽と向き合う空間」として提供されていることが重要なのです。音楽特化のSNSは定着しない…などといわれていますが、この「ストリーミングありき」の時代において、一定の成果を出しつつあるフォーマットなのではないでしょうか(そもそも、元々フォロー機能などSNS的な要素を備えていたSpotifyが、いかに優れたサービスであるかということを、ある意味で逆説的に示してもいるのですが)。
誰かのテキストと試聴感覚で聴ける投稿を通して、音楽と気軽に出会いたい--普段からTwitterやInstagramなどのSNSユーザーであれば、そう思っている方も多いはず。薄れていく音楽体験に対して危機意識をお持ちの方も、少なからずおられるでしょう。そうした層にとって、Chooningはこれ以上ないサービスであり、まさしくメインストリームとなるポテンシャルを秘めているのです。
INFORMATION
・ダウンロード(iOS)
https://apps.apple.com/jp/app/chooning/id1523140155
・ダウンロード(Android)
https://play.google.com/store/apps/details?id=app.chooning
・公式サイト(日本語)
https://chooning.app/ja/
(執筆:對馬拓)
musit編集部




