通称「エサ箱」〜ハードオフの床置きレコード箱で買うべき3枚〜

通称「エサ箱」〜ハードオフの床置きレコード箱で買うべき3枚〜

これをお読みのあなたは、今聴いている音楽の値段を考えたことはあるだろうか?

音楽や映像作品のサブスクリプションが一般的な視聴方法になった昨今。
どんな大物ミュージシャンが「サブスクや配信ではミュージシャンが食っていけない」と叫ぼうがリスナーの心には響かない時代かもしれない。そもそも現代の10代はレコードやカセットなど手に取ったことがない人がほとんどだろうし、CDでさえ自分で買ったことがない、という人もそこそこの割合で存在するはずである。

そんな世代が中古品リユース販売店・HARD OFF(ハードオフ)に行ったとしても、足元に転がるレコードの入った半透明や青色の衣装ケース、通称「エサ箱」に心踊ることなどないだろう。そもそも私がよく行く数店舗は10代、20代の客層がゴッソリ抜け落ちているのだけれど。

エサ箱。何の因果か、正規の棚に並べれらず、無論ジャンル分けもされず。ひどい場合はレーザーディスクと一緒くたに詰め込まれ、通路に直置きされたレコード盤の入ったプラスチックの衣装ケースである。それを養豚場の豚宜しく鼻をフガフガと鳴らしながら、時にはベタつくビニールカバー由来の埃にヤラレてくしゃみを連発しながら、客は血走った眼でレコード盤を漁るのである。
捲れども捲れども冠二郎や小林旭などお爺ちゃんの聴きそうな音楽や、なんとなく二流っぽいクラシックレコードばかり、そしてDJがまとめて売ったであろうよく分からない12インチ。掘れども掘れども金脈の見つからない、まさにゴールドラッシュ末期の様な不毛な掘削。
たまに「おっ!ニューオーダー!!」となるも、よく見るとさだまさし。

秒速2枚で掘ってくと本当に間違えます。

それのどれもこれもが500円以下、100円+消費税というものが大半。音楽の値段が希薄になった昨今において、それは安いのか高いのかは分からない。ただ少なくとも、レコード盤を扱うお店では「100円+消費税」というのは底値と言える値段だと思う。

「100円+消費税」だからこそ、「なんとなく気になるけどいつでも買えるしぃ〜(*1)」と不遇な扱いを受けている、埋もれた名盤もあると思うのです。*1、そういう盤はエサ箱内に同じのが2枚はあります。アーティスト単位なら5枚はある。

今回はそんなハードオフの「100円+消費税」で買える(ことの多い)レコードの中でおすすめの邦楽盤を、あくまで私個人の感覚で紹介します。

井上陽水『氷の世界』

1973年発売、井上陽水の3枚目のオリジナルアルバム。「氷の世界」「帰れない二人」など人気の高い名曲が収録されていながら、「100円+消費税」という不遇な扱いを受けているのは単純にミリオンセールスであるから(エサ箱内に複数枚入っている盤というのは、大抵ヒットしたから現存しているものが多い、というのも理由の1つ)。

前述の「帰れない二人」や「待ちぼうけ」など忌野清志郎との合作曲が収録されていたり、演奏者として細野晴臣や高中正義、村上“ポンタ”秀一が参加しているなどゲストも豪華。美しいメロディの中に歪さや不穏な響きがちらつく歌詞の世界観も素晴らしい限りです。

荒井由美『ユーミンブランド』

現在は松任谷由実として活動するユーミンの、荒井由実時代のシングル曲を収録した1976年発売のベスト盤LP。

「ルージュの伝言」「やさしさに包まれたなら」「翳りゆく部屋」など人気曲が収録されているのでおすすめしない理由がないです。全く意外な理由などありません。でもそれで良いじゃないですか。
あえて言うなら3Dメガネが付属していてジャケット及び歌詞カードが立体的に見えると言うことでしょうか。3Dメガネが紛失されているブツもあるので、買う際はご注意ください。

吉川晃司『LA VIE EN ROSE』

1984年に発売された、吉川晃司の2枚目のオリジナルアルバム。おすすめの理由?…単に私が好きなだけです。

でもそれで良いじゃないですか。
(多分葉山っぽい)ヨット、カクテル、白スーツという、バブルの象徴以外の何物でもないジャケット写真も本当にカッコイイと思います。

A面は前年に発売されたYAMAHA DX-7(FM音源を導入した世界初のフルデジタルシンセサイザー。プロミュージシャンも使用する本格的な機種ながら、当時のシンセサイザーとしては破格の24万8千円!(それまでのプロ仕様のシンセサイザーは100万円以上するのが普通でした) ガラスが割れるような「パシャアァーン」というデジタルサウンドが流行りました)のアタックの強いデジタルシンセサウンドが多用された、攻撃的で勢いのあるアレンジ。B面のバラードやミディアムナンバーでも垢抜けた、カラッとしたアレンジが逆に孤独感や切なさを感じさせます。

広島から上京して数年の、まだ青さもある吉川氏の歌い方もこのアルバムの楽曲群には合っていると思います。

00年代の80’sリバイバルでもほとんど日の目を見なかった、ニューロマンティックというジャンル。ジャケット写真さながらにくるぶし程度までニューロマの影響に浸った当時のJ-POP界で先端をいくサウンドのこのアルバム。仕事や家庭に疲れて恋を忘れた少し疲れた30代そして、今後あるはずもないバブルに憧れる恋多き10代や20代の心にも、きっと響くと私は思います。

「エサ箱」コーナーの魅力

ここまで書いておいて身も蓋もない話ですが、掘り出し物が見つかるというのも結構な魅力です。
そして同じ店で定期的にエサ箱漁りをしていると、お宝があるときはなんとなく雰囲気で分かるようになりますし、コレクターの断捨離(もしくは遺産整理かも)でまとまって見つかるときも多いのです。一例を挙げたいところですが、自慢混じりのちょっといやらしい感じになるのでやめときます。

くしゃみの止まらなくなる箱に埋もれるレコード盤に、あなたなりの価値を見つけていただければ幸いです。

仲川ドイツ