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【ミニレビュー】SuiseiNoboAz「THE RIDER」(2022)──遠い未来へ飛び立つ、一機と一人

ByFg

加入後の初ライブで、いきなり渋谷O-EASTワンマンを完璧なドラミングで支えた新メンバー・松田タツロウ(Dr.)が、初めて録音に参加した楽曲。

アルバム『3020』では積極的に取り入れられていた同期のシークエンスがない素っ裸なサウンドに、メロディを口ずさむようなピアノが鳴り、きらめきのようなギターのアルペジオ、ドラムはストイックに16分でハイハットを刻み続け、シーンごとにダイナミクスをつける。そんな中、変則的に、縦横無尽に、ベースが散りばめられている。なぜそんなところに…? と、良い意味で困惑する。歌詞には登場しない「THE RIDER」がすれ違うあらゆるもの──渡り鳥の群れや、雲や、敵機や、U.F.O.や、ケサランパサランや、龍…が、ベース1本で表現し尽くされているかのようだった。一方ギター・ソロは、ほかの楽曲より、心なしか温もりさえも感じられる音色に思えた。

赤ん坊が「たかいたかい」されたジャケットからも推察できるように、石原自身の子供に向けて歌われた曲のように思う。これまで爆音とフレーズの応酬によって巨大な背中をファンやキッズたちに見せてきたSuiseiNoboAzの背中に、今は担がれてどこまでもゆく命があるのだ。

今の世界情勢と関係のないタイミングで書かれたものだろうが、おそらくこれから待ち受ける困難のメタファーとして、戦争にまつわるモチーフが登場する。今の世界がこんなに厳しいなら、未来はもっと生きづらいだろう。それでも1000年後まで残るSuiseiNoboAzの音楽は、あらゆる心を守りきるかもしれない。

文学的な歌詞などは存在しない。しかし、石原正晴が紡いだ言葉は音楽に乗り、紛うことなきただ一つの文学となり、時を超えていくだろう。

タイトなリズムと隙間も意識したベースのフレージングから、活動初期の名曲である「Happy1982」や、前体制時代の楽曲「greenland」を思い出し、歌詞を見比べながらバンドの時間の流れや命の流れをふと考えさせられた。

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RELEASE

SuiseiNoboAz「THE RIDER」

レーベル:SuiseiNorecoRd
リリース:2022/04/15

トラックリスト:
1. THE RIDER
2. 群青(※7インチのみ収録)

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ポストパンクを主に聴いています。毎年苗場で音楽と共に焼死。クラフトビール好きが興じてブルワリー取材を行うこともしばしば。なんでもご用命ください。

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