DIR EN GREYの11枚目のアルバム『PHALARIS』が6月15日に発売された。私は彼らの音楽が醸し出す激しい情熱に心打たれた。それはこの『PHALARIS』という黙示録的なアルバムの音が、声が、私自身の心にダイレクトに響き、己を見つめ直させ、私がどのように生き、どのように死に得るのかという問い掛けをしているからだと思う。
今作で鳴らされている音は、この上なくハードで攻撃的だ。そして、切っ先鋭いサウンドは、全て聴き手自身に突き刺さって皮膚を剥がされ、肉を抉られるほど痛々しい。まるで体が細切れにされるかと思うほどの恐怖を覚えたかと思えば、救い難いほどの甘美な感覚を得たりする瞬間もある。彼らの奏でる音にあらゆる情念が宿っている。そして、驚くほど細部まで緻密に作り込まれた音像はダークだが美しく立体的、クリアな定位で鳴る音の群れは、リスナーの感情のギアをマックスまで引き上げていく。
冒頭を飾る「Schadenfreude」(M1)、煌めくギター・フレーズと鍵盤の音から振り下ろされるディストーションのギターと激しいドラムを聴くだけで、2022年の国内シーンを代表する作品だと確信できる。およそ10分の長尺の曲だがブレないし、楽曲の持つ構成は現代的で、このアルバムのアイデンティティを決定づける素晴らしい曲だ。
「13」(M4)は今作におけるハイライトの1つだろう。おそらく死刑台の階段がモチーフになっているのだが、その頂上で歌っている京(Vo.)の声を聴くだけで泣いてしまう。まるで腐った世界で死すことしかできない、悲しき天使の断末魔。
生きていく為に 過去も全て捨てれれば 変われるのか?
そう、我々は死しても何も変わらないのかもしれない。ならば生きればいいのか?──そんな生と死の問答が永遠に続いていく。
「Eddie」(M9)は、ライブで披露すれば盛り上がること間違いなしの今作で最もテンポが速いナンバー。ライブ映えするということは、会場に集まった肉体が蠢き生の胎動を感じさせてくれるはずだ。今作で執拗に描かれる「生」と「死」。それらは相反することなく互いにめり込みながら、ねじれあっている関係だと教えてくれる。
そして9分越えの壮大な「カムイ」(M11)では、「まだ生きるんですか?」と綴る京の歌詩が、生死の在り方を我々に問い、断罪するかのごとく残酷に本作の幕を引く。彼の声は歪みと痛み、同時に綺羅星のような輝きや荘厳さを兼ね備えつつ、人間が抱える実存の痛みを吐き出すが、何かを提示しているわけではない。我々はサウンドや声から感じるだけだ。生きていることの意味を。人間の根源を。
もう一度言おう。『PHALARIS』はこの2022年の国内だけでなく海外の音楽シーンにおいても遥かな高みに達している作品だ。hyperpopやヒップホップを聴き込んだ耳に刺しても違和感がない。このアルバムは天国と地獄の間にある煉獄の世界を描いている。今作のサウンドは、その中でもがいている我々の孤独な魂を燃やし尽くし、浄化してくれる。そうして我々は気づかされるのだ。私たちには死してもなお生き続ける魂がある。今作は、我々に人間宣言を促す究極の啓典でもあるのだ。この歪んだ世界でお前は人間であることを叫べ、と。
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DIR EN GREY『PHALARIS』
レーベル:FIREWALL DIVISION
リリース:2022/06/15
トラックリスト:
1. Schadenfreude
2. 朧
3. The Perfume of Sins
4. 13
5. 現、忘我を喰らう
6. 落ちた事のある空
7. 盲愛に処す
8. 響
9. Eddie
10. 御伽
11. カムイ