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Gosekiのアメリカ徒然探訪録:Day 5

ByGoseki

2022年8月、Awesome &roidのベーシストであり、musitのライターでもあるGosekiが、バンド・メンバーでヴォーカル/ギターのタツルと、カメラマンのショータロー(NEW FAT GLORY)と共に、人生初の海外、そして人生初のアメリカを訪れた。ここに綴られるのは、Gosekiがその目で見て、その耳で聞いて、その手で触れたものたちの、大いなる記録である。

これまでの探訪録

Gosekiのアメリカ徒然探訪録(特集ページ)

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8月5日

今日はアナハイムでNFGのライブを観る。

前日のうちに会場近くのモーテルまで来れたため、今日は運転はなしだ。アメリカに来て4日間、ずっと移動していた我々にとって、初めての滞在。時間に急かされないというのは何とも嬉しい。昨日はタツルと同じベッドをシェアするということで散々文句を言っていたが、実際に寝てしまえば自分でも引くほど問題がなかった。そしてこの後もタツルとは何度も同じベッドを共有することになる。

朝起きてまず我々がしたことは洗濯だ。このモーテルにはランドリールームが併設されていた(もちろん有料ではあるが)。4日間休む間もなく活動していたため洗濯は一度もできていなかった。アメリカサイズのでかい洗濯機に3人分の衣服を入れる。

驚いたのは、支払いの方法がクレジットカードのみだったことだ。日本ではほとんどが現金、しかも硬貨のみだろう(コインランドリーという名をしているくらいだ)。アメリカは日本よりはるかにキャッシュレス化が進んでいる。むしろクレジットオンリーの店も多いくらいだ。セントコインで払うものなら嫌な顔すらされた。

さらにタツルに聞いて驚いたのは、アメリカでは100ドル札が使える店は少ないのだそうだ。100ドル札を見たらまず偽札を疑われる。本物だとしても、証明できないのであれば店側にもリスクがあるため断られてしまうのだそうだ。日本の印刷技術はかなり進んでいるらしく、偽札の作成はまず不可能だという。その技術力が逆にシステムの進歩を遅らせてしまっているというのは皮肉だ。

洗濯が終わったら、次は乾燥機にかける。こうしているとなんだかアメリカに住んでいるような気持ちになる。というかこれからまだ2週間もいるのだから、実際住んでいるようなものだ。毎日移動していたためあまり考えてはいなかったが、初めてのアメリカで洗濯までして、こんな人生あるのか、としみじみ感じた。

ショータローが仕事のためモーテルを出るタイミングで、私たち散歩隊も出かけることにした。目的地はもちろん、《ディズニー・カリフォルニア・アドベンチャー・パーク》だ。

もちろんと言いながら、私はアナハイムにディズニーがあるのを知らなかった。フロリダの世界一大きいと言われる《ウォルト・ディズニー・ワールド》の印象が強いが、アナハイムのパークこそが世界で最初のディズニー・ランドなのだそうだ。

昨日は疲れすぎて気が付かなかったが、モーテルの内装も少しファンシーで、受付ロビーにはディズニーキャラクターのぬいぐるみが飾られていた。低価格層のモーテルでさえディズニー色に染まっているのかと驚いた。街並みもどこか浮き足立つような雰囲気に覆われており、どこからともなく優雅なファンファーレのようなメロディが流れていた。私は、街全体がディズニーの恩恵にあやかろうとするこの空気感に既視感を覚えていた。規模は数段違うが、日本のディズニー・ランドがある舞浜駅も似たような空気感が漂っている。なるほど、舞浜の浮ついた雰囲気はアナハイムを意識しているのかと納得した。

あらかじめ調べたところ、現在はコロナの影響もあり、パーク自体は完全予約制となっており、入ることはできなかった。だがパークの外に、誰でも入れるディズニー・ストアや飲食店が立ち並ぶエリアがある。日本でいうイクスピアリのようなものだろうか。せっかく近くまで来たので私たちはそこまで行ってみることにした。

ディズニーのゲートで簡単な荷物チェックをし中に入ると、そこはもう別世界のような華やかさがあった。まだテーマパークの手前ではあったが、道ゆく人は誰もが幸せそうな顔を浮かべており、スタッフもまた、心からの笑顔で接客してくれた。これがエンターテイメントの最高峰。。

私にはこの8月でちょうど4歳になる姪がいる。1歳、2歳の頃は全く懐かず、私の顔を見るたびにこの世の終わりのような絶望の表情で泣き喚いていた彼女だったが、近頃はようやく慣れてきたようで、会っても泣くことはなくなった。ただ、近付いては来ないし、視界の隅に常に視線を送られ、振り向くと目を逸らされる。そんな付かず離れずの関係だったのだが、この状況を打破すべく、私はここで彼女に誕生日プレゼントを買おうと決めていた。

姪は最近『トイ・ストーリー』を食い入るように観ている、という前情報を得ていたため、物語の主人公であるウッディの等身大の人形を買った。ついでにシリーズ4作目に出てくるらしい謎のキャラクター、フォーキーも買った。他のキャラクターに比べて安かったからだ。本当は犬とバネが合体したおもちゃ(スリンキー・ドッグ)が可愛くて欲しかったが、サイズがデカすぎて帰りのスーツケースに入る気がしなかったため諦めた。

このプレゼントで姪のハートを鷲掴みにし懐いてもらうという作戦は結果、失敗に終わる。

子供のおもちゃだと思っていたウッディの人形は、意外と対象年齢が高く細かいパーツもあったため、まだ姪には渡せないということになってしまったのだ。悲しい。帰国した現在、ウッディとフォーキーは私の家に置かれている。箱から出されずにただ壁を見つめながら、いつか箱から取り出され子供に遊ばれる日を待っている。なんかこれ、新しいトイ・ストーリーの話になりそうだな。哀しい。

アナハイムにはディズニー・ストアとは別にスターウォーズのストアも併設されており、昔から大のSW好きな私とタツルは大いに興奮した。

本場のSWストアでは自分だけのライトセーバーを作れたり、AIで自由に動くR2-D2など、日本にはない、面白いグッズがたくさん売っていたが、特に私が気に入ったのは「SW脇役名言Tシャツ」だ。コアなファンしか覚えていないようなキャラクターとそのセリフをプリントしたTシャツだ。

例えば、ep4で登場しすぐにハン・ソロに撃ち殺されてしまった賞金稼ぎのグリードや、ep6で登場した共和国側の船長であるアクバー提督のTシャツなど、コアなファンしか分からないようなTシャツを堂々と販売しているディズニーに、私は感服した。ちなみにTシャツはギリギリまで悩んで買わなかった。他にも劇中に何度か登場するがルールが分からないボードゲーム「ホロチェス」のフィギュアや、80年代の公開当時のグッズの復刻モデルなど、ファン必見の品々に目を輝かせた我々だったが、結局ほとんど買い物はしなかった。旅はまだ前半で、今後どれくらいお金がかかるか分からなかったため、財布の紐が固かったのだ。

結果としてこの時の行動は正しかったのだが、気持ちとしては、なかなか行ける場所でもないのだからもっと散財すれば良かったのかもしれないとも思う。私は記念にR2-D2のピンバッチとマンダロリアンのマグネットだけ買った。次に来た時には、買いたいものを全部手に入れたい。

ひとしきりディズニーの雰囲気を楽しんだ私たちは、ピクルスコーンドッグの屋台を見つけた。

この食べ物はピクルスにソーセージを詰め込み、さらにそれをアメリカンドッグのような生地で包み油で揚げるという、1口食べただけで1日分のカロリーを補填するような悪魔の食べ物だ。タツル曰く、Fall Out Boyのベーシストであるピートがラジオ番組で紹介していたらしく、Fall Out Boy好きとしては見過ごせないと思い注文した。

巨大コーンドッグ

実物は想像の3倍大きく、冗談じゃなく私の手首くらいの太さだった。そしてそれをさらにピーナッツバターをつけて食べるというのだから、頭が下がる。最初の1口、2口は美味しく、これでピートのようなベースが弾けるなー、なんて冗談を言っていたが食べ進めるうちにどんどん気持ち悪くなり、なんとか食べ終わった時には血糖値が上がりすぎて歩けなくなっていた。これがアメリカ。。。。

重すぎる体を引きずり、なんとかモーテルまで戻った私たちはNFGのライブまで休憩することにした。思えばこの数日は忙しなく過ごしていたため、部屋でゆっくりするということがなかった。初日から書き始めたこの旅行記も全く更新できていなかったためこのタイミングで書かなくてはと思いたち、携帯のメモを開いたが満腹感とベッドの心地良さであっという間に寝てしまった。

2時間くらい経っただろうか、タツルに起こされるともう夕方になっていた。

今回のNFGのライブ会場である《House Of Blues》はアメリカの各地にあり、日本で言うZeppのようなものだそうだ。モーテルから10分ほど歩き会場に入ると、壁一面にスケートボードが飾られていた。この会場では、Sold Outしたイベントには記念に特製のスケボーが送られるのだそうだ。見渡して見ると、Sum 41、The Offspling、Green Dayなど、名だたるアーティストのボードが飾られている。NFGのボードも何枚か発見した。そして本日の公演も、もちろんSoldだそうだ。さすがNFG。Awesome &roidもいつかこのステージに立ちたいと強く思う。そして我々も特製のボードをこの壁に飾るのだ。

この日のNFGライブももちろん最高だったのだが、1つだけ事件が起きてしまった。ライブ中にモッシュピットの方で客同士が喧嘩を始めてしまったのだ。

異変に気付いたギターのチャドがすぐに演奏を中断し、仲裁に入ったため大ごとにはならなかったが、一時は会場の空気が張り詰めた状態になってしまった。先頭の方にいたため私は気がつかなかったが、タツルは近くにいたため一部始終を目撃していた。どんなに良いライブでも怪我人が出てしまってはイベントとしては失敗になってしまう。素早く判断し演奏を中断してまで喧嘩を止めたチャドはさすがだ。

その後ライブは再会し無事に終わったが、タツルは喧嘩を実際に見てしまったこともあり、あまり楽しめなかったようだ。私はというとそんな喧嘩が起きていることも知らずに存分に楽しみ、イアンが投げたピックを再びキャッチすることに成功した。なんかごめんって思った。

ライブが終わりモーテルに戻る途中で、喧嘩を起こした当人を見かけた。なぜか上半身裸の筋骨隆々の男で、こんな奴に殴られたらひとたまりもないだろう。だがどんなに磨かれた筋肉も人を傷つけてしまっては台無しだ。きっと筋肉も泣いているだろう。日本でもアメリカでもマナーの悪い客はいて、時折話題に上がる。彼らのせいでライブという行為が素行の悪いイメージになってしまうのは本当に残念だ。ライブ、そして筋肉のイメージを良くするために、マッチョには節操をもった行動をしていただきたい。

モーテルに戻った我々だったが、昼に食べたピクルスコーンドックがお腹の中でいつまでも存在感をアピールしてくるため、夜ご飯はほとんど食べずに就寝することにした。もちろん今夜もタツルと同じベッドだったが、もはや何も気にしていなかった。

明日はカリフォルニアを離れアリゾナへ向かう。おそらく6時間以上のドライブになるだろう。早朝のドライブに備えて私は目を瞑った。

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Day 6へ続く

Gosekiのアメリカ徒然探訪録:Day 6

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Goseki

Awesome &roid ベース、個人レーベルFFR主宰。90’s EMO、Alternative Rock、映画が好きです。コーヒーは豆を煎るところから、カレーはスパイスから作ります。

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Taku Tsushima/92年、札幌生まれ。『musit』編集/執筆、『ヨムキクノム』スタッフ/バイヤー。個人ではシューゲイザーに特化したメディア&プラットフォーム『Sleep like a pillow』主宰。イベント企画やZINE制作、“知識あるサケ”名義でDJなど。

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