音楽ライター、Webメディア『plug+』のプロデューサーとして自由に企画屋をしている鹿野水月（しかの みづき）です。平成のJ-POPとカルチャーについての連載、4回目は平成のゲームセンターと音楽についてです。
繁華街で一際白く、まぶしく、大音量の音を放つことで通行人たちの足を止めさせて引きつける場所こそ「ゲームセンター」。その中でも、‘‘音楽を聴くこと’’と‘‘遊ぶこと’’を地続きにさせた画期的な音楽ゲーム、通称「音ゲー」とJ-POPとの関係を考えていきます。
<a href="https://musit.net/feature/heisei-jpop-culture" target="_blank" rel="noopener">◆『SNS前夜、平成J-POPの話』アーカイブはこちら</a>
<div id="toc_container" class="no_bullets">INDEX<ul class="toc_list"><li><a href="#J-POP">‘‘J-POPを鳴らせる成功体験’’を提供した『太鼓の達人』</a></li><li><a href="#J-POP-2">『太鼓の達人』はネット音楽とJ-POPの交差点だった</a></li><li><a href="#i">音ゲーは“身体で共有するための”再現文化</a></li></ul></div>
<h2>‘‘J-POPを鳴らせる成功体験’’を提供した『太鼓の達人』</h2>
『太鼓の達人』は、楽器の演奏技術がない素人でも、当時話題となったJ-POPや往年のヒットソングを“叩いて”鳴らせるゲームでした。「誰でも気軽にプレイできる」という意味では、『太鼓の達人』だけでなく、DJ気分を味わえるコナミ（BEMANIシリーズ）の『beatmania（ビートマニア）』は、<a href="https://musit.net/column/heisei-jpop-vol3" target="_blank" rel="noopener">前回のテーマにも挙げた‘‘カラオケ’’と限りなく同種の成功体験を提供してくれるものだと感じます</a>。また、ビートマニアと同じBEMANIシリーズの一つで、自分のダンスを音楽と同期させる『Dance Dance Revolution』は、初回記事でも紹介した“踊ってみた”とも非常に親和性が高い文化でした。
音ゲーは、プレイヤーの「身体的体験」とJ-POPの新しい関係のバリエーションを模索する形で、さまざまな名作タイトルを次々と生み出していったのです。
<h2>『太鼓の達人』はネット音楽とJ-POPの交差点だった</h2>
発売当初『太鼓の達人』は、もっと平成のヒット・チャートを反映させた選曲がされていた印象でしたが、2000年代後半〜2010年代にかけてちょっとした変革が起きました。それは2007年にボーカロイド・初音ミクが発売されてから、ボカロ音楽の最初のブームとして、「メルト」（ryo）や「千本桜」（黒うさP）がヒットし、地上波のテレビでも流れるようになったことです。
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とはいえ、当時のボカロ曲は誰でも知ってるJ-POPとしての位置づけはまだなく、あくまでもサブカルチャーの範囲内にあったと思います。しかし、『太鼓の達人』の中では、ボカロ曲というのはプレイヤーから絶大な支持があり、そのギャップは現代におけるJ-POPとボカロの関係と近いものがあったように思います。
ボカロ音楽の特徴として、人間の歌唱力ではとても再現できない音程差や、高速のスピードで駆け抜けるようなメロディが挙げられます。ですが、ゲームのプレイヤーにとっては「とにかくどんな高難度の曲も叩き切る！」という野心に燃えていたので、「初音ミクの消失」のような超高速ボカロ曲の人気にさらなる拍車がかかっていきました。
『太鼓の達人』とボカロ文化は非常に相性が良く、実際に筆者の知人は、当時『太鼓の達人』にマイバチを持参するほどの執心ぶりで、自分のプレイをゲーセンにいる多くの人に鑑賞されることに喜びを感じているようでした。
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<h2>音ゲーは“身体で共有するための”再現文化</h2>
見ず知らず‘‘達人’’たちがゲームセンターでしのぎを削っているのを見ていると、不思議に触発されるのは、「こんなすごいことを自分も再現したい」という欲求からくる行動だと思います。それは現在のTikTokerが、誰かのダンスや編集動画を見て「自分も作ってみたい」という創作意欲が連鎖していく様子と同様ものだと言えます。つまり、ブームが生み出される構造は、『太鼓の達人』もTiktokも流行る時期が異なるだけで、実は仕組みとしては同じなのです。
音ハメを模倣する行為は音と身体が同期する成功体験であり、そのときの気分に合わせて選曲ができる点や、‘‘成功バイアス’’という快感がともなうので何度も繰り返してしまう中毒性も共通点に挙げられます。現在はスマートフォンでプレイできるタイトルも潤沢で、音ゲーのバリエーションが増えてきましたが、私たちの音楽に対する根源的な欲求は実はシンプルであることを、音ゲーのプレイとTikTok動画に気付かされました。
“聴く”でも“観る”でも“歌う”でもなく、ただひたすらに“叩く”という人間の身体的動作に特化した『太鼓の達人』は、現代のTikTokに先駆けて、身体を使って再現し、他者に表現するための場所になっていました。私たちはあの頃、スマホの代わりにバチを握っていたのかもしれません。
ちなみに、筆者は高校時代に週4回、渋谷センター街でマイミクとぴんあぽ（編注：二人で遊ぶこと）をして、ゲームセンターで『pop’n music』をプレイしてからプリクラを撮り、タピオカかフラペチーノを飲んでカラオケで歌ってから、児童〜青少年少女合唱団の習い事に通う生活を送っていました。
 
次回は、ケータイ小説と主題歌をテーマに語っていこうと思います。
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ポストパンクを主に聴いています。毎年苗場で音楽と共に焼死。クラフトビール好きが興じてブルワリー取材を行うこともしばしば。なんでもご用命ください。

星野

【SNS前夜、平成J-POPの話 Vol.4】『太鼓の達人』はネット音楽とJ-POPの交差点だった

1995年生まれ、編集者／音楽ライター。サウンド＆レコーディングマガジン編集部に3年間在籍後、plug+（ぷらぷら）のプロデュースやボカロZINE（ドワンゴ）の監修などを行う。現在、月刊雑誌アニメージュにて『耳がきゅんとするラブソングの話』連載中。

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【SNS前夜、平成J-POPの話 Vol.4】『太鼓の達人』はネット音楽とJ-POPの交差点だった

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