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【スクリーンで君が観たい vol.18(終)】船出の姿に少女は今も夢中──ジョニー・デップ

By安藤エヌ

幼少期に観た映画というのは、大人になっても強く心に残っているものが多い。歳をとるにつれ、難しいことを考えながら映画を観てしまったり(もちろん、それは悪いことではないのだけれど)もするが、子供の頃はただ純粋に非日常を見せてくれる「楽しいもの」として映画を観れていたように思う。その頃に観た中でもお気に入りの映画や登場人物、劇中で流れる音楽に初めて出会った時に感じたファースト・インプレッションは忘れられないし、中には小さなハートを射止めた「初恋の人」もいた。

少女だった私には、とある俳優の活躍を追いかけるために映画館に通い詰めた思い出がある。あまりのカッコよさに衝撃を受け、一目惚れしてからというもの足繁く彼の出る映画を追いかけ続けた記憶は、今となれば甘酸っぱくて愛おしい。その俳優とは──、『エルム街の悪夢』(1984)で映画デビューし、俳優歴40年にしてカリスマ的魅力を放ち続けるジョニー・デップだ。

彼との出会いは、こちらの記事でも惚れ込んだ理由を語らせてもらった『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズだった。今でも鮮明に思い出す。家族に連れられた映画館で、スクリーンに映されたジャック・スパロウ船長を見た時の雷に打たれたような衝撃……もとい一目惚れした日のことを。

「ジョニーといえばパイレーツ」という具合に、知名度の高さと人気で彼の代表作と称される本シリーズだが、世界中の人々にジャックが愛されるわけが痛いほどに分かる。ジャックのひょうきんさや抜け目のなさは、ジョニーが演じたからこそ魅力的に感じるし、彼は完全にジャックに「なっている」。ジョニーがいかに素晴らしい俳優であるかを語る時、真っ先に言いたいのは「ジョニー・デップが演じたからこそキャラが何倍も立つ」ということ、そして「本人のカリスマ性が相乗効果をもたらし、唯一無二の存在感を放つ」ということだ。

キャラクターを演じる時、「彼、彼女でなければならなかった」と思わせられる俳優がいかに稀有なことか、映画ファンなら分かっていただけるだろう。ジョニーは観客にキャラクターや物語、強いては映画という総合芸術の面白さを感じてもらうための要素をその演技力と存在感で作り上げながら、作品を飲み込んでしまうほどの圧倒的カリスマ・パワーをも同時に感じさせる俳優なのだ。

ジャックに惚れ込んだ私は『パイレーツ』シリーズをどれだけ観たか、もはや数えきれない。すっかりジョニーの虜になったまま成長した中学3年生の私は、友達と『スウィーニー・トッド』(2007)(本作はR-15作品のため、年齢的にギリギリで観れたことはとても嬉しかった)や『アリス・イン・ワンダーランド』(2010)のチケットを握りしめ、何度も映画館へ足を運んだ。そして帰りのマクドナルドでポテトをつまみながら、どれだけジョニーが好きかを友達に熱弁したりもしていた。どれも大切で、抱きしめたくなる幸せな思い出である。

ジョニーのような素晴らしい俳優に出会えた過去の私と、今も彼を愛し続ける私。映画が好きで良かったと、「映画館で初めて恋した相手」、ジャック船長が船出する姿を思い浮かべながら、改めて変わらぬ愛を誓う今日なのであった。

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安藤エヌ

日芸卒フリーライター。「生きづらさと愛を書く」をモットーに音楽、映画、マンガなどの分野で執筆活動中。主な掲載先はrockin’on、リアルサウンドなど。

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ポストパンクを主に聴いています。毎年苗場で音楽と共に焼死。クラフトビール好きが興じてブルワリー取材を行うこともしばしば。なんでもご用命ください。

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