近年、漫画作品の実写化がブームとなっている。好きな作品ほど実写化が決まれば嬉しいはずなのだが、一概にそうとも言えない。というのも、原作のファンであればあるほど、映画の解釈が自分と異なることに納得がいかず、悲しい思いをしてしまうことが往々にしてあるからだ。
「原作ファンが納得する実写作品」を世に出すことは、総合的なクオリティの高さだけでなく、どれだけ原作に敬意を払って作られているかなども関わってくるため、非常にセンシティブで高いハードルが設けられていると言っても過言ではない。
そんな中、筆者も原作漫画の大ファンである『カラオケ行こ！』の実写映画化が決まり、1月12日に封切りとなった。公開されるやいなや、SNSでは絶賛の嵐が飛び交った。「周りが盛り上がるほど作品に触れるタイミングを吟味してしまう」いわゆる「逆張りオタク」な私は、その様子を傍観しながら、まあでも、私は原作が好きだから、実写は……という感じで、溢れる高評価コメントを斜め読みしては閉じ、映画にハマった人の長文感想を途中まで読んでは閉じ、を繰り返していた。
ところが某日、満を持して映画『カラオケ行こ！』を観た私は、齋藤潤演じる岡聡実が己の青春をすべて捧げて絶唱したX JAPANの「紅」をヘビロテしながら、冷めやらぬ感動に打ちひしがれたのだった。
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私が原作『カラオケ行こ！』から、続編である『ファミレス行こ。』までをリアルタイムで追いかけていて感じたのは、これは人と人の奇遇で運命的な邂逅の話であり、かつ、ドラマチックな出会いによって生まれる愛の話だということである。作品のテイストとしてはコメディなのだが、時々ロマンスとしての側面も見せる。そして、物語の中央に立つのは中学生の岡聡実。彼と出会うべくして出会った、ヤクザの成田狂児。歌のうまい中学生にヤクザがカラオケで歌を教わる──凸凹で、エキセントリックな組み合わせから紡がれるシュールなお笑い要素。そこに見え隠れする、大真面目な愛。私はそこにこの作品の真髄を見ていたのだ。
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「歌は愛やで」聡実が所属する合唱部の顧問、モモちゃん先生の台詞。 
「閉ざされた 愛に向かい 叫び続ける」狂児が幾度となく歌う「紅」の歌詞。 
聡実の母が父の茶碗の上に置いた鮭の皮。巻き戻せないVHSのモノクロ映画を観ながら、愛について語る「映画を観る部」。
映画『カラオケ行こ！』には、薄ら青くけぶる青春の香りとニコチンの匂いのまざった愛の形が描かれていた。それは曖昧で、ふわふわと風船のように風に舞い、宙ぶらりんで目に見えない。しかし、私には見えたのだ。綾野剛演じる狂児が、自分のためだけにソプラノを捧げて歌う聡実を見つめる姿に、彼の身体を一本芯で貫く揺るがぬ聡実への愛を。
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無理に定義しなくてもいい。言葉にしなくてもいい。じんわりと胸が熱くなったのなら、その気持ちを忘れないでほしいと映画が伝えてくれている気がして、観終わった後の満ち足りた心がリズムを打った。
「紅」が、今も響いてやまない。エンドロールを観ていてもまだ、青春が終わってくれない。
すみません、1時間延長でお願いします。カラオケに行ったら、私はきっとそう言うだろう。マイクを握って、声を枯らして叫ぶのだ──何もかもが違うのに、歌で心を通わせ合ったふたりへの愛を。

ポストパンクを主に聴いています。毎年苗場で音楽と共に焼死。クラフトビール好きが興じてブルワリー取材を行うこともしばしば。なんでもご用命ください。

星野

【シーンで君を切り取りたい vol.5】『カラオケ行こ！』──何もかも違っても、歌で通じ合う大真面目な愛

日芸卒フリーライター。「生きづらさと愛を書く」をモットーに音楽、映画、マンガなどの分野で執筆活動中。主な掲載先はrockin’on、リアルサウンドなど。

安藤エヌ

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【シーンで君を切り取りたい vol.5】『カラオケ行こ！』──何もかも違っても、歌で通じ合う大真面目な愛

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