私を構成する9枚【Ot3編】

私を構成する9枚【Ot3編】

#私を構成する9枚──その文言通り自身の音楽遍歴を語る上では決して切り離せない音楽作品を9枚選ぶハッシュタグ。musitでは書き手自身を掘り下げるべく個人の音楽的嗜好に迫る企画としてお送りする。弊メディアのライターたちがどのような遍歴を辿ってきたのか覗いてみてほしい。

今回は、都内の楽器店スタッフであるOt3の9枚を紹介。

①BOØWY 『LAST GIGS』(1988)

人気絶頂のうちに終止符を打った伝説のロック・バンド、BOØWYの最終コンサートが収録されたライブ・アルバム。氷室京介の独特な歌声と発音、布袋寅泰の華麗なるギターのリフワークが光るフロント2人に対して、淡々とベースを弾き続ける松井恒松と、楽しそうな顔でドラムを叩き続ける高橋まことの姿が大好きで、高校時代から「マイ・フェイバリット」になっている。

「NO. NEW YORK」はコードが押さえられ、ほかのパートも8ビートを刻めばなんとか形になったため、初めてバンドでコピーした曲でもあった。私はこの曲をきっかけにBOØWYを聴き始めたので、ハマったのは解散してからだいぶ時間が経った頃だったけれど、「自分を構成する音楽」としてこのアルバムを最初に挙げずにはいられない。

②B’z 『The 7th Blues』(1994)

中学時代からよく聴いていたB’z。初の2枚組アルバム『The 7th Blues』は、これまでのデジタル・ロックの殻を破り捨てて骨太なロック・バンドとなった作品。稲葉浩志のソウルフルな歌声、この頃から多用されるようになったレスポールによる松本孝弘のエモーショナルなギターは、本人たちのやりたいことを全面に押し出した結果であり、彼らのターニング・ポイントとなるアルバムだ。洋楽のエッセンスがスパイスのように散りばめられており、その元ネタを聴くためにレンタルショップへ走ったこともあった。自分が洋楽を聴くようになった「原点」とも言うべき作品である。

③MR.BIG 『Bump Ahead』(1993)

超絶テクニカル集団、MR.BIGの3rdアルバム。前作『Lean Into It』が大ヒットしたためプレッシャーを受けながら制作された、というのはファンの中でも有名な話。初めて聴いた時はギターのことも特に詳しくなかったので、「かっこいい曲だな」ぐらいの印象だったけれど、その後に観たサンフランシスコのライブ映像で、彼らが一線を画したプレイヤー集団だと知った。ビリー・シーンの超絶ベース・プレイとエリック・マーティンの歌唱力、パット・トーピーの安定感のある力強いドラミング、そして何よりもポール・ギルバートのギター・プレイには目を見張るものがあった。シグネチャー・モデルのギターや、「BOSS OD-2」を買いに行くほど熱をあげていた高校時代が懐かしい。

④Paul Gilbert 『Tribute To Jimi Hendrix』(1991)

1991年に行われた、フランクフルト・ジャズ・フェスティバルのライブ音源が収録された作品。ポールがプライベートで遊びに行った際、急遽出演をキャンセルしたアーティストの穴埋めをプロモーターに頼まれ、およそ1時間の練習で仕上げたという驚異のライブ・アルバム。

しかし本当に驚くべきは、45分間をたった5曲で持たせないといけなかったため、ポールのソロが延々続くというところだ(ファンにとっては垂涎そのものだが…)。元々ポール本人は「セッションできたらいいな」ぐらいの気持ちで足を運んでいたので、1本のギターにファズ一発をマーシャルに繋いでるだけの、極めてシンプルなサウンド・メイキングになっている。残りはボリュームとピッキングの強弱だけでサウンドのバリエーションを作っており、ギタリスト視点で見ても非常に勉強になるアルバムだ。

⑤Steve Vai 『Alien Love Secrets』(1995)

高校時代、たまたま寄った楽器屋で流れていたスティーヴ・ヴァイのMV。今でもおすすめのギター・インストゥルメンタルのアルバムを聞かれたら、この作品が一番に思いつく。スティーヴ・ヴァイの曲はどれも難易度が高いことで有名だが、それと同時にエモーショナルなギターを弾くことでも知られており、ギター、ベース、ドラム、キーボードの至ってシンプルなバンド編成をイメージして制作された本作品では、その両方を楽しむことができる。

ノリの良い高速シャッフルの中にタッピングなどのスーパー・プレイが入った「Juice」。爽やかなギター・カッティングで聴かせる「the boy from seattle」、珠玉のバラード「Tender Surrender」など、初めてスティーヴ・ヴァイを聴くのであれば、このアルバムから入るのがベストだと思う。

⑥Yngwie Malmsteen 『Odyssey』(1988)

ロック・バンドにクラシック音楽の要素を大いに取り入れ、圧倒的な早弾きでギターの演奏に革命を起こした第一人者、イングヴェイ・マルムスティーン。彼の登場以後、しばらくはどれだけテクニカルにギターを弾けるかが競われ、<テクニック戦国時代>とも言われていたほどだ。

本作は、そのイングヴェイがかねてからファンであるレインボーのヴォーカル、ジョー・リン・ターナーを迎えて制作されたアルバム。彼が制作に携わっているためか、これまでのアルバムよりキャッチーなメロディが多い点が特徴的で、思わず彼の構築する世界観にのめり込んでしまう。昔はライブ音源の『Trial By Fire: Live In Leningrad』と併せて繰り返し聴いていた。彼の音楽は紛れもなく本物だったのだ。

⑦Björk『Post』(1995)

高校時代に「Play Dead」のMVを観た瞬間からすっかり彼女の虜。壮大なオーケストラの中で感情を表に出して絶唱するビョークの姿に釘付けになった。2枚目のアルバム『Post』は、ダメ男を諭すかのように歌う「Army of Me」から徐々に盛り上がっていき、名曲「Hyper-ballad」へ繋ぐ完璧な流れ。その他にも、ミュージカル調にテンションが上がっていく「It’s Oh So Quiet」や民族音楽調の「Isobel」と彼女の才能が光る楽曲が揃っている。デジタルとアナログのサウンドが高い次元で融合されてるのが特徴的で、ギター・ロックばかりを聴いていたあの頃は、ビョークの全てが新鮮だった。

⑧宇多田ヒカル『Fantôme』(2016)

宇多田ヒカルが活動休止から復帰後初めてリリースしたアルバムで、2013年に亡くなった母を偲ぶ歌が多くみられる作品。曲の節々に、哀しさや喪失感を感じられる。しかし、ただ負の感情だけではなく、前を向く姿勢が感じられるメッセージの込められた曲も収録された、味わい深いアルバムに仕上がっている。

明るく踏み出したい時には軽快なポップ・ナンバー「道」、息抜きしたい時には「二時間だけのバカンス」、傷を洗い流したい時は「真夏の通り雨」、母を想う時には「花束を君に」、どうしようもなく落ち込みたい時は「忘却」--と、様々な感情が揃っており、最後は日本人らしく「桜流し」で締められる。宇多田ヒカルのアルバムの中で最も気に入っている作品。

⑨ヨルシカ『盗作』(2020)

アルバム自体が1つのストーリーになっているヨルシカ。最近はこのアルバムを繰り返し聴いている。物作りをする上では盗作なんて御法度だが、もうアイデアなんてものはとっくに出尽くしている、オマージュと盗用の境界線はきっと曖昧だろう…と、そんな葛藤が感じられる名盤。

現代のストレスから解放されるために全てを爆破したいと描く「爆弾魔」、別れた後の情景を歌う「花人局」、ギターとベースのスラップが特徴的なイントロから始まる「昼鳶」、そして問題の「盗作」。リアルな事柄が文学的に書かれている詩も素晴らしく、久しぶりにハマったアルバム。タイトなリズムにギターが絡む爽快な曲「思想犯」など、演奏の視点から見ても興味深く、またバンドを組んで演奏してみたい、そんな気持ちになった。

Ot3