私を構成する9枚【寄稿/EPOCALC編】

私を構成する9枚【寄稿/EPOCALC編】

#私を構成する9枚--その文言通り自身の音楽遍歴を語る上では決して切り離せない音楽作品を9枚選ぶハッシュタグ。musitでは書き手自身を掘り下げるべく個人の音楽的嗜好に迫る企画としてお送りしている。

アーティストからリスナーに音楽が手渡される。その過程で物語が生まれ、同じ作品でも受け手の数だけドラマがある。そういった「音楽は個人史である」という側面を、より読者の皆様に広く共有し楽しんでいただきたいという思いから、本企画の寄稿を募集。今回はその公募分から掲載する。選出した9枚の中から、特に思い入れの強い3枚について語っていただいた。

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大滝詠一『A LONG VACATION』(1981)

忘れもしない、2013年の紅白歌合戦の合間のニュースだった。華々しい紅白の舞台とコントラストをなす知らせが読み上げられた。大滝詠一が亡くなったのだ。当時彼のことを全く知らなかった僕は、最初は「へえ」程度にしか思わなかったが、次の瞬間テレビから流れてきた曲に感動してしまった。

正直当時の音楽に馴染めなかった僕は、今から30年以上前に美しさと一抹の悲しさを丁寧に掬い上げた楽曲が存在したこと、しかもそれがチャートを賑わせていたことに愕然とした。みんなにも聴いてもらいたい。以降、僕は80年代邦楽激推し中学生として地域で知られることになり、「もっと多くの人に良い曲を聴いてもらいたい」という一心で今でもブログを書いている。

Steve Hiett『渚にて』(1983)

《AOR CITY 1000》という、入手困難なものも含めたAORの名盤を格安で再発する、貧乏浪人生にとってはありがたい企画があったのだが、その中でも最も優れたリイシュー盤だったと思うのがこれ。当時、遂に大衆にも広まり始めた80年代ポップスと、現在それに続いてブームが広まるアンビエントのちょうど中間に位置し、真夏のプールを揺蕩う日差しを思わせる、緩やかで儚げな作品である。

ところで地元にはバブル期に建った展望台付きの高層ビルがあるのだが、そこに登るたび僕はiPodでこのアルバムをかける。買った当時の浪人時代の空虚な生活と、それに似たテナントがら空きの絢爛なビルの未来を思いながら、儚いバレアリックを聴く。それが今自分ができる、一番の贅沢であるような気がするのだ。

吉村弘 Hiroshi Yoshimura『Green』(1986)

吉村弘はタージマハル旅行団にいたことでも有名な、日本のアンビエントの中心人物。彼、そして国産アンビエントを代表する本作では、ミニマルの影響を受けた粒のような音が跳ねたり転がったりするような、可愛らしく美しい楽曲が楽しめる。昨今のアンビエントブームにより世界中の音楽ファンたちがこれを買い集め、その人気は再発版も若干のプレミアがつくほど。

個人的には、このアルバムにかなり救われている。長いこと悩まされていた不眠がこれで治ったのだ。ライナーノーツによれば、彼も制作中に寝てしまったらしい。徹底的に心地良い音を追求した彼は第一に「サウンドデザイナー」であり、その上で「音楽家」としても音の心地よさを追求した点で、本作は<音響派>を先取ったアルバムなのだ。

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◯執筆=EPOCALC
Twitter:@insomniaEPOCALC
Blog:EPOCALC’s GARAGE

musit編集部