私を構成する9枚【寄稿/Ai編】

私を構成する9枚【寄稿/Ai編】

#私を構成する9枚--その文言通り自身の音楽遍歴を語る上では決して切り離せない音楽作品を9枚選ぶハッシュタグ。musitでは書き手自身を掘り下げるべく個人の音楽的嗜好に迫る企画としてお送りしている。

アーティストからリスナーに音楽が手渡される。その過程で物語が生まれ、同じ作品でも受け手の数だけドラマがある。そういった「音楽は個人史である」という側面を、より読者の皆様に広く共有し楽しんでいただきたいという思いから、本企画の寄稿を募集。今回はその公募分から掲載する。選出した9枚の中から、特に思い入れの強い3枚について語っていただいた。

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Tracy Chapman『Tracy Chapman』(1988)

今年70歳の父はSpotifyを使いこなして音楽をディグり、「◯◯聴いてる?」と連絡してくる音楽好きだ。そんな父に育てられた僕の幼い頃の記憶といえば、父の愛する音楽が流れる居間の情景。彼は大量のカセットテープとCDを棚の引出しにまとめて、ヘビロテする作品は取りやすい場所に置いていた。それゆえ僕の記憶の中で引出しの一番上にあるのは黄色味かかった背景に物憂げな女性が佇むこのジャケットなのだ。

当時はアコースティック・ギターと優しい歌声が心地良いだけだったが、大人になるにつれ背景には差別や貧困、暴力など社会問題に対する彼女の憤りがあると知り聴こえ方が変わった。音楽は世界を変えられないかもしれないが、聴く人の感情を揺さぶり、心に小さな変化を起こす力があると信じさせてくれる、とても大切な1枚。

HUSKING BEE『FOUR COLOR PROBLEM』(2000)

人生のターニングポイントになった年を問われたら迷わず「2000年」と答える。当時、高校1年生だった僕は友人に誘われROCK IN JAPANとAIR JAMに何気なく参加。そこで屋外で全身に浴びる音の熱量にあてられて20年、未だにフェスを愛さずにはいられない。この2フェスで心を鷲掴みにされたのがHUSKING BEEだった。どこにでもいそうな見た目でふらっと現れたと思ったら、しゃがれ声とハイトーンのツイン・ヴォーカルが美しいメロディーに乗って泣きを誘い、気付けば拳を突き上げていた。思えばこの時に聴いた「欠けボタンの浜」と「THE SUN AND THE MOON」が僕のエモ原体験だったのだろう。2ヶ月後にリリースされ、憑りつかれたように聴いたこのアルバムには10代後半の思い出が詰まっている。

Moment Joon『Passport & Garcon』(2020)

 

2020年、新型コロナ感染拡大により世の中が大きく変わりゆく中で36歳になった僕は、父親になるという新しい経験の真っ只中にいた。我が子が日々成長する姿に寄り添う中で湧き上がってきた想いは「この子が大きくなる頃には、差別や暴力が姿を消して心穏やかに過ごせる社会になっていてほしい」ということ。そんな折、数年前から音源をリリースするたびに追いかけていたMoment Joonが年末にリリースした本作は、<移民ラッパー>として日本で暮らす彼の目に映るこの国の不条理を鮮明に炙りだし、次の世代のために僕らが戦うべき「ナニカ」を教えてくれる。最近、音楽をBGM的に聴く機会が知らずのうちに増えてきていたことにハッと気付かされることになった今、大切な作品。

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◯執筆=Ai
Twitter:@Ai_Tkgk
note:猫と僕らと。

musit編集部