私を構成する9枚【寄稿/ISLD編】
#私を構成する9枚--その文言通り自身の音楽遍歴を語る上では決して切り離せない音楽作品を9枚選ぶハッシュタグ。musitでは書き手自身を掘り下げるべく個人の音楽的嗜好に迫る企画としてお送りしている。
アーティストからリスナーに音楽が手渡される。その過程で物語が生まれ、同じ作品でも受け手の数だけドラマがある。そういった「音楽は個人史である」という側面を、より読者の皆様に広く共有し楽しんでいただきたいという思いから、本企画の寄稿を募集。今回はその公募分から掲載する。選出した9枚の中から、特に思い入れの強い3枚について語っていただいた。
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・Porter Robinson『Nurture』(2021)
・小林太郎『tremolo』(2013)
・THE NOVEMBERS『zeitgeist』(2013)
・The Album Leaf『In a Safe Place』(2004)
・ヒトリエ『HOWLS』(2019)
・KID FRESINO『Horseman’s Scheme』(2013)
・LITE『phantasia』(2008)
・yahyel『HUMAN』(2018)
The Album Leaf『In a Safe Place』(2004)

長引く就活に苦難していた大学4回生の春、先の見えない将来への悩みや憂鬱を抱えたまま眠れない夜を幾度もやり過ごしていた。慰めの歌すらも聴けないでいた中、唯一拠り所になってくれたアルバムがあった。軋む金属のような、冷たく硬質なパーカッションと柔らかいローズ・ピアノの重なりは、冷えた身体が昇る朝陽に照らされじんわりと温もっていく時の感覚にどこか似ていて、何をするでもなくぼんやりと浪費する夜をいつもこの作品が連れ立ってくれた。あれから沢山の類似なエレクトロニカに出会ったが、未だ代わりになるものはなく、20代半ばになった今でもこれしかないかのように取り縋っている。
yahyel『HUMAN』(2018)

リリースツアーのファイナルで初めて目にした彼らは、無機的な世界観を湛えながらも噎せ返るほどの人肌の熱を放っていた。ドラムは太鼓とパッドを器用に組み合わせた人機一体のビートを構築し、シンセの冷徹な電子音は生身で打ち出すビートに焚き付けられながらどんどんと熱を帯びていく。ヴォーカルが本能に従うかの如く野性的に舞い踊り、さらにステージに火を焚べる。そのテンションに呼応するようにシーケンサーのツマミが右に振れていく。魂の依り代は楽器だけだと信じていた自分の価値観が、根底から覆る体験だった。生粋のバンドマンだった私はこの時をもって<肉体的な電子音楽>の持つ力を思い知らされ、深い沼に嵌っていくこととなる。
ヒトリエ『HOWLS』(2019)

飯田橋の辺りで勤めていた時のこと、スタジオへ向かうwowaka氏に偶然お会いした。思い切って話しかけ応援の気持ちを伝えると、ありがとうと嬉しそうにはにかんでくれた。それからほどなくして彼は亡くなった。訃報を知った帰路の途中、ショックで道端に蹲りながらアルバム『HOWLS』を聴いた。ラストを締める「ウィンドミル」には、心身を顧みず駆け抜けた彼の人生が綴られていた。“止まってなんていられないんだ 無我夢中の毎日をやって 夢心地の孤独を超えんだ ”--きっと人の何倍もの速さで生きてきたんだろう。あの日会った顔は写真よりもやつれていた。自分はどうだろうか。明日終わるとて悔やまない人生を歩めているか。春疾風に吹かれる度聴き返しては、生活の中で霞んでく覚悟を呼び戻している。
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◯執筆=ISLD
Twitter:@___ISLD
note:ECHOES vol.2 雨奇晴好
musit編集部




