【フィジカル放浪記 Vol.1】Amazonでレコードをディグる

【フィジカル放浪記 Vol.1】Amazonでレコードをディグる

もはや言うまでもなく、アナログがブームとなって久しい今日この頃。情勢的に家で過ごす時間も増えたため、新たにレコードに手を出してみた、という方も多いかもしれない。

筆者は3年前、新宿のディスクユニオンでレコードプレイヤーを購入した。その年にリリースされたマイ・ブラッディ・ヴァレンタインのアナログリマスターをどうしても聴きたかったのだ。プレイヤーの外箱が大きく重量もかなりあったので、帰りの電車の中でショッパーの取手が破れてしまい、最終的には滝汗を流しながら大箱を引きずりつつ家まで辿り着いた、という命懸けのマイ・スイート・メモリーが蘇る。

店舗まで赴いたのは事前に実機をあれこれ触るためであり、後日オンラインで買えば良かったのだが--結局その場の流れで、比較的安価でビギナーズモデルとしても有名であろう「ION」の機種を購入。オンラインだと発送されるまでの時間すら惜しい、早く使いたい、そんな思いもあった。しかし、当時よりアナログ周辺の知識を得た今となっては、あらゆる面で物足りなくなってしまった。これについて語るのは、また別の機会に譲るとしよう。

前置きはこの辺で。今回は初心者でも金欠でも安心、低価格でレコードが買える入り口へとご案内したい。

 

Amazonで低価格レコードを狙う

レコードのディグは店舗に限った行為ではない。もちろん実際に足を運んで、パンパンになった什器をひたすら漁るのは醍醐味だが--この情勢、である。

CDやレコードの中古市場と言えばディスクユニオンが強いイメージだが、今やタワーレコードやHMVといった全国チェーンの大手も積極的に力を入れ、フィジカルにおけるディグへの間口は相当大きく開かれている。特にコロナ禍以降は実店舗での集客が以前よりも難しくなっており、オンライン限定のセールも頻繁に行われているのだ。これを逃す手はない。筆者もタワレコで開催されたオンラインのアウトレットセールに意気揚々と参戦、上坂すみれの『NEO PROPAGANDA』の初回盤CDとCranesの『Loved』のアナログを格安で購入、保持していたポイントを使いほとんど実質「タダ」で奪取して帰還、なんてケースもあった。

だが、鉱脈は決してレコ屋のオンラインだけではない--ゴールドラッシュを狙うなら、灯台下暗し、誰もが知るようで実はほんの一角しか知らない、地球最後の秘境がある--「Amazon」だ。

ここまでもったいぶる必要もないと思うが、Amazonは新品/中古に限らずレコードの宝庫である。それも、タイミングが良ければ安価で入手できる可能性が高い。

ある晩、コーラハイボールを片手に気分が良くなっていた筆者は、おもむろにPCを開きながら、とあるツイートを思い出していた。

https://twitter.com/telepath_yukari/status/1414577914276827136

Amazonがそんなことになっていたとは…意外にも、完全に盲点であった。そして、そんな密林の策略に自ら身を投じるアラサーの図。記事のネタにもなるし今夜くらいは良いだろう、という天使の囁き。悪魔はアルコールと共に消滅。

今回は1,000円以下のレコードを中心に狙った。方法は単純、Amazonの検索カテゴリーを「ミュージック」に指定し、検索ワードには「Analog」と打ち込む。後は価格を絞ってひたすら見ていくだけ(表示を安い順番にソートしても良いかもしれない)。以前から欲しかったレコードがあれば御の字、そうでなくとも良い感じでジャケ買いができればラッキー、くらいのマインドで、筆者はジャングルの奥地へと向かった--。

さて、結末は。実際に購入した3枚のレコードを紹介しよう。

 

Blue Hawaii – 『Open Reduction Internal Fixation』(2019)

Label – Arbutus Records(LP) / PLANCHA(CD)
Release – 2019/10/11

カナダのアート・ロック/エクスペリメンタル・ポップ・バンド(長い!)、ブレイズのヴォーカルでもあるRaphaelle ‘Ra’ Standellと、ベルリンを拠点に活動するAlexander ‘Agor’ Kerbyによる男女デュオ、ブルー・ハワイ。そういやフィジカルで持ってないな、と思い入手。新品未開封。

ハウス、トリップホップ、UKガラージなどの要素をチルウェイヴ以降の感覚でまとめ上げたようなサウンド。バレアリックな感触がありつつ、サカナクションのインスト曲を想起する瞬間なんかもある。何よりキックと低音の鳴りが良い。踊れる。

ちなみにRaphaelleとAlexanderはカップルだったが、既に破局したらしい…(2013年のアルバムのタイトルが『Untogether』だったのも暗示的)。男女デュオに歴史あり、である。しかしまたこうして佳作を生み出しているのだから、音楽にはそういったものを超越する何かが宿っているに違いない。

 

Scott Hardware – 『Engel』(2020)

Label – Telephone Explosion
Release – 2020/04/03

全く知らないアーティストだったが、グロテスクなジャケットに惹かれて購入。こちらも新品未開封。個人的には今回最大の収穫だった。

スコット・ハードウェアはカナダのトロントを拠点に活動するアーティストで、本作は2ndアルバム。ジャケットからハードコアな音楽性を想像するかもしれないが、実際は有機的な生楽器と無機質なエレクトロニカを融合し、精緻なサウンド・スケープを展開している。ノスタルジックなピアノの音色も美しく、これがまた浸れるのだ…。エクスペリメンタルな瞬間も多く、2021年リリースの作品で言えばWilliam Doyleの『Great Spans of Muddy Time』に近い感触。ヴォーカルも相まって、トム・ヨークがソロでアウトテイク集を出したらこんな感じかも…? と妄想したりもする。

本作のアートワークを手掛けたのは、同じくカナダのChris Curreriというアーティスト。表は「The Insomniac」、裏は「Kiss」という作品。アルバムを聴き終えた後に改めて眺めると、本作があくまで肉体的な音楽性を志向していることを視覚の面で強調するかのよう。是非LPサイズで手に取っていただきたい1枚。

 

水越けいこ – 『LOVE TIME』(1980)

Label – ポリドール
Release – 1980/12/05(LP) 1994/05/25(CD)

山梨県出身のシンガーソングライター、水越けいこの5thアルバム。こちらも恥ずかしながら存じ上げなかったのだが、髪を手で束ね佇む姿に一目惚れ。Spotifyでは配信されていなかったので、YouTubeに上がっていた音源を試聴し購入した。

今回の買い物の中では唯一の中古品。帯やジャケットにシミが見られるほか他、ライナーはかなり汚れており、盤も綺麗な状態ではない。

ただ、再生自体に問題はなく、これも味か…と思うに至った。Amazonの場合は検盤ができないので、中古品を購入する際は注意が必要だ。信頼できる出品者なのか事前に確認することも重要。

盤は汚れているが、幸い致命的な傷もなく再生可能。拭き上げればそれなりに綺麗になりそうだ。

胸をぎゅっと締め付ける切ない恋心をしっとり歌い上げた「いつだってボーイフレンド」は紛れもない名曲だが、個人的にはグルーヴィーな「あなたなしでは」を推したい。小気味の良いギターとアーバンなサックスが洒落ている。

それもそのはず…購入後にクレジットを見て知ったことだが、ドラムにはティン・パン・アレーなどで知られる林立夫、ギターには同じくティン・パン・アレーやはっぴいえんどのメンバーとして著名な鈴木茂が参加するなど、実に豪華な布陣が揃っているのだ。近年のシティポップに代表される和モノ再評価の流れで海外のリスナーに見つかるのも時間の問題だろうか。

 

買わなかったけど良かった作品

レコードを手に取るまでには至らなかったが、今回ディグっている中で出会って印象的だった作品もいくつかピックアップしておく。

Nite Jewel – 『Liquid Cool』(2016)

Label – Gloriette Records
Release – 2016/06/10

LAのアーティスト、ラモーナ・ゴンザレスのソロ・プロジェクト、ナイト・ジュエル。まずジャケットが素晴らしいのだが、冷ややかなシンセと流麗なヴォーカルがとにかく美しく、今後も長い付き合いになりそうな予感がしている。作品全体のトーンはどこかKelly Lee Owensを想起したりするが、DIY感のあるトラックの感触は大和那南と通ずる部分もある。

Lady Starlight – 『w』(2019)

Label – Figure
Release – 2019/09/09

レディー・スターライトという名前がストレートすぎて逆に良い。内容はトランス〜ミニマル・テクノで筆者が普段聴かないテイストだが、たまには悪くないと思わせてくれるジャケットだ。調べてみると、かのレディー・ガガとの共演でも知られるDJらしい。この音に合わせて爆踊りするギャルがクラブにいたら見惚れるかもしれない。なんだその感想は。

Gasp – 『Stardonas』(2020)

Label – To Live a Lie Records
Release – 2020/03/12

コラージュのジャケットが好きなので瞬時にアンテナが反応。勝手にシューゲイザーかエレクトロニカ周辺…?と想像したが、試しにSpotifyで聴いてみると2曲目で急にガテラルヴォイスが飛び込んできて、完全に面喰らう結果となった。どうやらLAの90’sパワーバイオレンス・バンドの最新作らしい。いやしかし…悪くない。何を隠そう、就活で疲弊していた時期にグラインド・コアにハマりかけていた筆者である。

Hand Habits – 『dirt』(2021)

Label – Saddle Creek
Release – 2021/02/19

こちらもLAのアーティスト。この日はLA祭りだったのだろうか? 冗談はさておき、3曲(うち1曲はリミックス)ながら今まで知らなかったのを後悔するほど味わい深いインディー・フォークだった。本作がリリースされた《Saddle Creek》と言えば、4AD移籍前のビッグ・シーフや、スピリット・オブ・ザ・ビーハイヴの2021年最新作などが思い浮かぶ。なるほど、このレーベルは今後もチェックせねば。

 

注意!

新品/中古に限らず、Amazonでレコードを購入する際に留意すべきは「梱包」である。

毎回とは限らないかもしれないが…筆者が購入した時は、適当に梱包材を入れた箱の中に固定もされず、雑な状態で入れられていた。

この通り、雑の極みである。箱のサイズも合っておらず、レコードが上下に動いてしまう最悪の梱包だった。

当然ながら、レコードはプラケースのCDとは異なり紙でできているため、より丁寧に扱わなければならない。下手な梱包をするとジャケットの角が折れたり潰れたりしてしまうこともある。いわゆる「角打ち」だ。

角打ちはレコードファンにとっては死活問題。ディスクユニオンではこの角打ちを防ぐため、レコードの発送時には「ピザ箱」の使用を始めるなど対策を行っている。

Amazonで購入する場合も、出品者が信頼できるレコ屋であれば問題ないかもしれないが、発送がAmazonの場合は注意かもしれない。神経質な方は控えるべきだろう。安い商品だから仕方ない、と割り切るのも手だ。

なお、『LOVE TIME』のジャケットは角打ち状態にあるが、これが元々なのか発送時になってしまったのかは不明。

最後に。今回購入した3枚の合計金額は…

3,138円!

どの商品がいくらだったのか…それはあえて伏せておくが、アルバム1枚分くらいの値段で3枚買えてしまうのだ(しかも2枚は新品、である)。Amazon恐るべし。

という訳で、バカあち〜夏は家でレコードでも聴いてチルアウトしよう。

對馬拓