【衣食住 plus 音 Vol.1】『pays des fées』2022SS Collection [Inframince]──朝藤りむがプリーツに込めた「境」の世界
着たい服を着て出掛ける時、今日の昼食を拵える時間、1日の終わりを自分に告げる間際で、聴きたい音楽がある。そんな「衣食住」と音楽の濃厚な関係に迫る連載コラム。第1回目は、中野ブロードウェイに店舗を構えるファッションブランド『pays des fées(ペイ・デ・フェ)』。
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「奇妙かわいい」をブランドコンセプトに掲げる『pays des fées』。ニューウェーブとポストパンクが共存するバンド、PLASTICZOOMSのフロントマン・SHOが同ブランドのユニセックスラインのデザインを手掛けていることから、名前だけは知っている──という人も読者の中には多いことと思う。
8/31、『pays des fées』の2022SSコレクション「[Inframince](アンフラマンス)」が渋谷ヒカリエにて開催された。本コレクションのテーマでありタイトルとなった「アンフラマンス」の由来について、ミスiDファイナリストであり現在はアイドルユニット・電影と少年CQでも活躍する、ゆっきゅん執筆のステートメントから一部引用したい。
“これはマルセル・デュシャンによる造語です。(中略)デュシャンはアンフラマンスについて多くを語っているわけではありませんが、「薄い紙の表と裏の中空」「タバコの煙」「コーデュロイのパンツがこすれる音」といったものを例に挙げました。不可視的なものと可視的なものの間に現れてはふっと消えてしまうような、薄くて軽い儚さを持つものをデュシャンは「アンフラマンス」と呼んだのです。”

表と裏、可視と不可視、現実と幻想における間。触れるに触れられないその「境」を、オーナー兼デザイナーである朝藤はどう解釈したのか。そのアンサーとなったのは、本コレクション内でもとりわけ目を引いた宇宙的で浮遊感のあるテキスタイル、そしてふんだんにあしらわれたプリーツ素材にあった──。
コレクション開催時刻の正午、アコーディオンの音が場内に鳴り響く。それはあらかじめ仕込まれていたBGMかと思いきや、このアコーディオンの音の正体は姉妹ユニット、チャラン・ポ・ランタンの小春による生演奏だった。
小春の甘美なアコーディオン演奏と共に、彼女自身も一歩ずつ確かめるようにランウェイを前へと進み、その周りを妖精のような衣装に身をまとった踊り子2人が囲う。さながら幻想の世界へ誘うおとぎ話のような、しかし少し危険な香りさえ鼻を掠めるような、まさしく『pays des fées』のブランドコンセプトである「奇妙かわいい」が体現された幕開けに息を飲む。
本コレクションのステートメント及びショー終了後の質疑応答でも朝藤が語っていたように、「アンフラマンス」は小説家・稲垣足穂の「薄板界」が最も近しい概念だと言う。
足穂が定義する「薄板界」とは「ふとした時、脇見をした時に見えるもの」のことであり、なるほど確かに、衣服に風が出たり入ったりすると同時に閉じ開きする様が窺える「両面プリーツ」という手法はその定義が緻密なまでに落とし込まれている。
モデルの歩幅や歩行速度に合わせて、裏面に施されたプリーツが見え隠れする。同じ箇所に同じデザインをあしらっていても、着る人によって見える範囲が異なる繊細な作り。表面=つまり外側の世界だけでなく裏側にもプリーツを施すことで完成される「境」の領域をファッションに投影することによって、衣服はファッションである以上の価値--「可視」か「不可視」かのどちらか一方でなくてはならない、といった世相の中であえて繊細な感覚に目を向け、認めていく姿をもつことの重要性──を見出せるラインナップに思えた。
また本コレクションのルックモデルには、映画『街の上で』やロック・バンド、Cody・Lee(李)の楽曲「異星人と熱帯夜」にも出演している、俳優でありモデルのタカハシシンノスケも登場。
端正な顔立ちが一層引き立つような白地のボウブラウスと、サスペンダー付きのハーフパンツに身を包んで颯爽とランウェイを歩く姿が印象的だったタカハシ。取材陣の1人に「体格の良いモデルを選んでいるように見えたが基準はあるのか」と聞かれた際、「見た目ではなくその人の持っている雰囲気が好きで、各々の個性に合わせてスタイリングをした」と回答していた朝藤だが、男性/女性、細い/太いといった「モデルらしさ」を判断材料にするのではなく、極めて抽象的で繊細な「個性」と朝藤の感覚をマッチングさせてこそのオファーだった点においても「アンフラマンス」が内包する真のジャンルレス(≒可視と不可視の間)という所と通ずるものがあるように思う。
また、コレクションの中で最も目を引いたのは、「天体」や「宇宙」をモチーフに製作されたTシャツが各ページに縫い付けられた、大きな絵本を抱えながら歩くモデルの姿。踊り子が絵本のページをめくる度に天体や宇宙が形を変えていくのだが、この点についても「稲垣足穂の小説に多数登場するモチーフから着想を得た」と言う。表側からは服のデザインが確認できなかったものの、後ろを振り返って歩く際に見えた可憐なトップスに普段他人と触れ合うことで引き起こしている「表」と「裏」のギャップを見、その表と裏の隙間にあるものを知らなくては他者への理解は深まらない、ということを悟った瞬間でもあった。
後半では天体や軌道の類を全て「円」というモチーフに統一させたデザイン(グラフィック・デザイナーのQ-TAが担当)のワンピースや、デニムスカートとプリーツを融合させた独創性溢れるアヴァンギャルドなルックが続き、最後は踊り子2人に手を繋がれた朝藤が無垢な笑顔を浮かべ、ランウェイを軽やかにスキップして幕を閉じた。「演劇のようなショーにしたかったから今回はフィジカルで行った」と話していた朝藤の、ファッションと日々生活する中で感じてきた問題提起を引き合わせることへの信念を見るような、メッセージ性の高い貴重なコレクションとなった。
なお、本コレクションの模様はYouTubeにアーカイブ動画が残されている。朝藤が描く「アンフラマンス」な世界を覗きたい方は是非。
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pays des fées
・所在地:〒164-0001 東京都中野区中野5-52-15 中野ブロードウェイ4階464-1
・OPEN / CLOSE:12:00 / 17:00(毎週水・木曜定休+不定休)
・公式HP:https://pays-des-fees.com/
・Instagram:@paysdesfees_nakano_broadway/
・Twitter:@paysdesfees_o
◯[Inframince]店頭受注会は9月24日(金)~28日(火)。web受注会は11月4日まで。
・web受注会URL:https://pays-des-fees.com/?mode=grp&gid=2625044&sort=p
pays des fées 2022S/S Collection [Inframince]
星野

