【衣食住 plus 音 Vol.2】創作と嗜好のクロスオーバーが生み出す特別な味。笹塚駅徒歩2分の絶品パン屋、Bakery SASA

【衣食住 plus 音 Vol.2】創作と嗜好のクロスオーバーが生み出す特別な味。笹塚駅徒歩2分の絶品パン屋、Bakery SASA

着たい服を着て出掛ける時、今日の昼食を拵える時間、1日の終わりを自分に告げる間際で、聴きたい音楽がある。そんな「衣食住」と音楽の濃厚な関係に迫る連載コラム。第2回目は、東京・渋谷区笹塚に店を構える小さなパン屋、Bakery SASA(ベーカリー ササ)。

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「好きなバンドですか? ザ・ポーグスです」

--慣れた手付きでパン生地を捏ねながら、そう答えるのはBakery SASAのオーナー・シュンさん。9月某日の昼過ぎ、甲州街道を渡る車の風が時折店の中にも入り込んで、小麦の香りがふわっと鼻を掠める。

Bakery SASAは東京都渋谷区の北西部、笹塚駅から徒歩2分の場所にある。対面式の販売で、両腕を広げれば足りてしまいそうなほどこじんまりとした規模感のパン屋。以前のオーナーから店を引き継ぎ、今年15周年を迎えたという。

現在のオーナーであるシュンさんが器用にパン生地を扱うその腕元には、イカしたファッションタトゥーが数ヶ所彫られている。「海外行ったら結構普通ですからね。皆入れてる」と話すシュンさん。続けて、「でも、僕のタトゥーを彫ってくれた友人は皆海外に行っちゃったんですよ。笑 あと、この上(2階)も昔はタトゥースタジオで、そこの彫師にHPのデザイン考えてもらったりとか」とも。まさか街のパン屋とは思えないような(それこそタトゥースタジオのような)HPのデザイン、またメタルやパンク・ファッションのスタイルを想起させるロゴがあしらわれたエコバッグやTシャツなどのショップグッズも展開されており、パン以外にも楽しめる仕掛けが満載。主な発信源であるInstagramのバイオグラフィーには、‘‘東 京 笹 塚 米 菓 利 異 笹’’と一文書かれてあるのも面白い。さらに店内設置の冷蔵庫及び店奥の保管庫には、バンドやブルワリーのステッカーがびっしり貼り付けてあるのも印象的だった(シュンさんは大の酒好きだそう)。

「以前のオーナーからこの場所を受け継いだ時に大規模な改装をしたんですよ。それまでは本当にいわゆる普通のパン屋って感じで、改装する時に自分の好きなデザインを落とし込んでいったらこうなっちゃいました。笑」
小さな店内には、街の人たちに愛される絶品のパンのレシピだけではない、シュンさんが根底に持つカルチャー嗜好が店の随所に詰め込まれているのだ。

そんなパンキッシュかつ既存のパン屋の概念を真っ向から裏切るブランディングから、どのような音楽遍歴をたどってきたのか聞いてみると「やっぱりパンクが多いですね。あとはアイリッシュ系…それもパンクなんですけど。笑 初めて買ったCDは『YOUNG AND PRETTY』(THE BLUE HEARTS)です」と若干照れ臭そうに答えるシュンさん。ロカビリーを彷彿とさせる外観についても「確かに、アメリカ南部の音楽も結構好きですね」と話す。

と、ついデザインへのこだわりっぷりに冒頭から引っ張られてしまったものの、気になるのはやはりパン作りへの想いだ。Instagramにほぼ毎日投稿しているパンの写真は壮観! 厚切りチャーシューバインミー、紫芋餡を練り込んだ食パン、アールグレイメロンパン…ほかでは到底見られないような独創性溢れるラインナップにスクロールする指が止まらなくなる(もちろん、味に関しても折り紙付き!)。特にサンドイッチ類へのこだわりが強いようで、和牛スネ肉のコーンビーフサンド(!)なんて贅沢なサンドイッチも…。

Bakery SASAの公式Instagramより

「僕は元々飲食店で働いてて、最後に行き着いたのがパン屋だったんです。パンって自分のイメージをどんどん落とし込めるから。カレーもパン生地に詰めればカレーパンになるじゃないですか? 僕にとってはパン=米みたいなもので、パンをベースにアレンジを加えながら作ってて。その上で、びっくりするような見た目にした方が面白いかなと。笑」

ビジュアルこそ圧巻だが、サイズは比較的小ぶりでおやつ代わりにもなりそうなパンが多く、そのギャップも何だか愛おしい。「パンって結構オタクの人が多くて、そういう人たちには勝てないんですよ。楽器と一緒で高い機材には敵わない。笑 だから、ソーセージとかそういうので勝負しないとなって」。

中でも一際目立つ、肉厚な自家製ソーセージのレシピはなんと独学! 「こういうのやりたいな、って思ったら割とすぐ行動に移しちゃう」シュンさんのクリエイティビティな気質は、アーティスト精神とも通ずるものがあるように思う。

そんなBakery SASAは、過去に残響SHOP(現在は閉店)の元店長・田畑猛とコラボレート企画『パン屋さんでしか買えないCDを作ろう!』を実施している。「パン屋でしか買えないCD」をコンセプトに参加アーティストがBakery SASAのパンを食べ、そこから得た着想を元に楽曲を作るという何ともユニークな企画だ。

ジャケットデザインはRicco Label代表でありAnoiceのメンバー・木戸崇博

全11曲入りのオムニバスCDには、LosingMySilentDoors、ルルルルズ、クマに鈴とキャリアやジャンルの垣根を超えた多彩なアーティストが参加。シュンさん自身は本企画にほとんど関与していないものの、パンを食べた時の多幸感やふわふわとした軽い口当たりを表現するような楽曲が並び、リスナーにとっても妄想の広がる仕上がりになっている。

最後に、Bakery SASAの今後の目標について伺ってみた。

「もっとサンドイッチを前面に推し出したパン屋にしたいですね。あとはここじゃなくても、場所を借りてお酒を出したりできるような空間を作れたらいいなと。自家製のソーセージとか、揚げ物…フライドチキンとかも出して、ゆったりお酒を飲みながらサンドイッチを食べる、みたいな。アメリカとかヨーロッパの雰囲気を感じるようなパン屋ができたらいいですね」

甲州街道沿いに突如現れる、パンキッシュで一際目を引く街のベーカリー。しかし中を覗いてみると、パンへの強い創作意欲と自身の嗜好を掛け合わせたうえで展開されるラインナップやショップカラーにオーナー・シュンさんの温かい人間味を感じ、街に愛されるべくして愛され続けるパン屋なのだと思った。

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オーナー・シュンさん(画像上)の愛情込もったパンを土産に編集部オフィスへ帰社。ごちそうさまでした。

Bakery SASA

・所在地:東京都渋谷区笹塚2-7-10 1F
・OPEN 8:00〜売り切れ次第閉店。火曜定休+不定休(詳しくはInstagramの投稿を参照)
・公式HP:http://bakerysasa.tokyo/
・Facebook:@Bakery-SASA
・Instagram:@bakerysasa
・Twitter:@Bakery_sasa

翳目