私を構成する9枚【寄稿/吉田コウヘイ編】

私を構成する9枚【寄稿/吉田コウヘイ編】

#私を構成する9枚──その文言通り自身の音楽遍歴を語る上では決して切り離せない音楽作品を9枚選ぶハッシュタグ。musitでは書き手自身を掘り下げるべく個人の音楽的嗜好に迫る企画としてお送りしている。

アーティストからリスナーに音楽が手渡される。その過程で物語が生まれ、同じ作品でも受け手の数だけドラマがある。そういった「音楽は個人史である」という側面を、より読者の皆様に広く共有し楽しんでいただきたいという思いから、本企画の寄稿を募集。今回はその公募分から掲載する。選出した9枚の中から、特に思い入れの強い3枚について語っていただいた。

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TRICERATOPS『THE GREAT SKELETONS MUSIC GUIDE BOOK』(1998)

ギター・リフあるいはテンションを交えた4コードのループ、ナチュラルにハネたリズム、ふわふわ甘い歌声で綴られる、コンプレックスと自己愛が混じりながらも決してシリアスにはならない歌詞、和田唱が抱えるレスポールのシルエット。のちのブラック・ミュージックへの傾倒の種子を、エレクトリック・ギターへの憧れを、静岡の田舎街に住む12歳に鮮烈に植え付けてくれたスリーピース・バンドの2ndアルバム。ラスト前の10曲目という置き所が絶妙な、可愛らしいミディアム・テンポの小品「LIP CREAM」を聴くと、今も水色の制服とオレンジ色の帰り道が蘇る。

Wilco『Sky Blue Sky』(2007)

制作開始時からネルス・クラインが全面的に参加した初のスタジオ・アルバム。ジェイソン・ライトマンの青春映画が始まりそうな「Either Way」「You Are My Face」に続き、妖艶に始まる「Impossible Germany」のギター・ソロに世界中のギタリスト、ギター・マニア、その卵のキッズたちが決定的に人生を変えられてしまった。混沌にあった20代前半をそのまま音像化してくれたような、ネルスのジャズマスターに救われた夜は数知れない。同時代のGRAPEVINEは「ウィルコならどうする?」を合言葉にスリリングな傑作を連発し、ロック少年だった西田修大はジャズマスターを手にオリジナリティを築き始めた。次作以降、解体、そして再構築へ向かうウィルコの1つの到達点。

Mitski『Be the Cowboy』(2018)

2019年のフジロック、翌日の台風を予感させる不穏な風が吹く、苗場の月明かりの下で観たMitskiのステージ。1時間以上に及ぶ入念なサウンドチェックと、ラスト・ミニッツ・レスキューで用意されたメインマイクというサスペンスの果てに披露される、精鋭のメンバーたちによる繊細な轟音の中で、「Washing Machine Heart」のショッキングなシンセが鳴り響く。「私の洗濯機の心で、あなたの汚れた靴を洗って」。ステージでは木の机と愛し合うかのように座り、寝そべり、跨るMitskiの身体。その時僕は、遠い昔に読んだ本にあった「手術台のミシンと蝙蝠傘の出会いの美しさ」を知った。

◯執筆=吉田コウヘイ

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・吉田コウヘイ
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musit編集部