私を構成する9枚【寄稿/まっつ編】

私を構成する9枚【寄稿/まっつ編】

#私を構成する9枚──その文言通り自身の音楽遍歴を語る上では決して切り離せない音楽作品を9枚選ぶハッシュタグ。musitでは書き手自身を掘り下げるべく個人の音楽的嗜好に迫る企画としてお送りしている。

アーティストからリスナーに音楽が手渡される。その過程で物語が生まれ、同じ作品でも受け手の数だけドラマがある。そういった「音楽は個人史である」という側面を、より読者の皆様に広く共有し楽しんでいただきたいという思いから、本企画の寄稿を募集。今回はその公募分から掲載する。選出した9枚の中から、特に思い入れの強い3枚について語っていただいた。

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UVERworld『PROGLUTION』(2008)

今でこそ「歌詞が熱い」という切り口で取り上げられがちな彼らだが、中学2年生も終盤に差し掛かっていた当時の私が特に革新的だと感じたのは、そのサウンドと構成だ。中盤のブロックでは各楽曲がシームレスに繋がり、それまで築き上げたロック・サウンドにダンス・ミュージックを取り込んでいた。各要素が混ざり合わないままハレーションを起こす様は刺激的だし、いくつかの曲で見られる意味性の希薄なリリックも今の彼らからは想像がつかないため面白い。リリースは2008年。前年となる2007年はJustice、Digitalism、Simian Mobile Discoの1stアルバムがリリースされ、エレクトロのシーンが盛り上がりを見せた時期だった。

Slipknot『All Hope Is Gone』(2008)

2000年代後半の音楽体験で大きかったものの1つが、YouTubeの登場及びその日本語対応だった。ミュージシャンの公式アカウントがアップロードしたMVから見知らぬ誰かが忍ばせたmp4音源まで、関連動画の一覧を辿ればどこまででも行けた。彼らを見つけ出したのはその時で、全く関係ないアーティストの関連動画から「Psychosocial」を発見した。耳に引っかかるタイプのイヤホンのせいでリフには重さが足りなかったが、ヴィジュアルと曲全体が孕む鋭さは損なわれることなく届いた。彼らにとって初の全米1位を記録した本作はギターの勢いが強く、そのフレーズは流麗でメロディアスですらある。希望が潰えた後に流れる歌としては、あまりにも美しい。

NICO Touches the Walls『Who Are You?』(2008)

2000年代の音は国を問わず総じて音が尖っている。「高い」でも「軽い」でもなく、尖っている。録音環境の向上もあるだろうが、各々の音がよりクリアになったといくつかの作品を聴いて思う。ブルージーなセッションと巻き舌のヴォーカル、語感を重視したリリックなど随所に土臭さを感じさせるこのバンドも、その声の尖りによって光り輝き、現代に通じる同時代性を獲得したのだと私は信じてやまない。以前「2000年代に目ぼしい音楽は何もなかった」という趣旨のツイートを見かけたことがある。その時代に青春時代を過ごした私から最後に1つだけ言い残したい。もしこれを読んだあなたもそう思うなら、あなたに今の音楽を聴く資格はない。

◯執筆=まっつ

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・まっつ
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musit編集部