【衣食住 plus 音 Vol.3】ジャパニズムと社会が融け合うファッションブランド『kemono』──デザイナー・I. P. Uが掲げる自由への期待と渇望
着たい服を着て出掛ける時、今日の昼食を拵える時間、1日の終わりを自分に告げる間際で、聴きたい音楽がある。そんな「衣食住」と音楽の濃厚な関係に迫る連載コラム。第3回目は、デザイナー兼音楽家のI.P.Uが展開するファッションブランド『kemono』。
* * *
‘‘「アジア、日本伝統のあるものと現在、未来無重力をかけあわせたもの。」’’
上記はファッションブランド『kemono』が掲げるブランド・コンセプトだ。何にも染まりゆくことのない「黒」を自在に操り、自身の生活圏である「和」のスパイスと、細やかなディティールを施しながら作り上げられたアバンギャルドなコレクションは、着る者を抑圧された社会から解放する。

アシンメトリーなドレープやスケルトンの下駄など前衛的なデザイン性が窺えるほか、黒と白のコントラストが立体的なシルエットを創り出す『kemono』。「静」を感じる色使いとは非対称的に、何パターンもの着こなしを提案する「動」の設計。童話の続きを着る側へ受け渡すような物語性すら窺えるコレクションの数々からは、新しい世界へ連れ込むような期待と高揚を感じる。
アンビエントのように流麗で、滑らかな質感。ファッションデザイナー・I.P.Uは音楽家としての顔も持ち合わせており、音楽プラットフォーム『Bandcamp』では昨年夏にEP『Pale』をリリースしているほか、DJとしての活動を行うことも屡々。また、『kemono』を展開するにあたっては空間作りを重んじる面も見られ、コレクション・フィルムをカワウチケンタ(ex.sheeplore)が制作、更に同じく元sheeploreのメンバー、現在は画家/コラージュ作家として活動を行うかわいわかもテキスタイルやアートワーク等、『kemono』のブランド展開に携わっている。

気品あるブランド像が先行する反面で、昨年12月には『歯のマンガ』でお馴染みの漫画家・カトちゃんの花嫁とタッグを組み、平仮名の手書きロゴとイラストが描かれたエコバックを数量限定で販売。
ファッションはもちろん、活動面においても自らの意思を貫きながら活動する彼女らと『kemono』の融合には、「女性」として生きることの強いパッションと希望を感じる。
作品のテーマについても触れておきたい。『kemono』は従来のコレクション発表の時期に囚われず、デザインの独創性同様に極めて自由な発表形式を行っている。2018SSは「近未来進化論」、2019SSでは人生を通して色付いていく様を意味に込めた「透藍生」、2021SSでは「双互思想 。双なる二極性。二つの思想と対極化。変革世界。」をコレクションのテーマに掲げていた。それぞれに異なるテーマを持ちながら、通底しているのは未来への探究心であろう。黒を基調としたコレクションの数々は、着る者の毎分、毎秒を美しい世界へと染め上げていく。ファッション、音楽、アート、空間。『kemono』の服を纏うということは、「変革」を身に纏うということかもしれない。

kemono
・公式HP:https://www.kemono-japan.com/
・Instagram:@kemono.japan
・Twitter:@kemonojapan
I.P.U

星野

