【衣食住 plus 音 Vol.5】pays des fées(ペイ・デ・フェ)2022AW「[電気と魔術]」で成し遂げた異世界との接続

【衣食住 plus 音 Vol.5】pays des fées(ペイ・デ・フェ)2022AW「[電気と魔術]」で成し遂げた異世界との接続

着たい服を着て出掛ける時、今日の昼食を拵える時間、1日の終わりを自分に告げる間際で、聴きたい音楽がある。そんな「衣食住」と音楽の濃厚な関係に迫る連載コラム。第5回目は、中野ブロードウェイに店舗を構えるファッションブランド・pays des fées(ペイ・デ・フェ)の最新コレクションに迫る。

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ファッションデザイナー・朝藤りむが展開するpays des fées(ペイ・デ・フェ)が先日、2022AWコレクションを発表。また新作の発表に伴い、コンセプチュアルな世界観で表現するファッションショーを開催。現在は原宿/中野/松本(長野)/博多・天神(福岡)/神戸(兵庫)と全国各地を巡る受注会を行っている最中だ。

今季のテーマは「電気と魔術」。数々のエキセントリックな発明を世に遺した稀代のサイエンティスト、ニコラ・テスラが構想した「世界システム」からインスパイアを受けて製作された。前回のテーマ「[Inframince](アンフラマンス)」のデザインを踏襲しながらもアンダーグラウンドな世界観が彩られたアイテムの数々は、「[Inframince]」までのコレクションで朝藤が表現していた「儚さ」や「浮遊感」とは真逆の位置関係にある無機質で硬質感のある印象を付与している。しかし、それでありながら不思議と引き摺り込まれていくような感覚に陥るのはやはり、pays des féesが基盤にしている「奇妙でアヴァンギャルドな」デザインを志向していることが起因しているのかもしれない。

「テーマは常に先々を見据えながら選択肢としてあり、その時代に見合ったものをカスタムしている」と語る朝藤。グラフィック・デザイナーのQ-TAが手掛けた、メインビジュアルの鉄塔や工業的な物品の組み合わせは時代の変遷と共に人智を超えた存在となり行く「電気」を、また透明リフレクター素材を採用し、ライトを当てるとオーロラに光るテキスタイルでは「魔術」を表現。異なる2方向のモチーフが絡み合って一つの作品像を展開する手法は、このブランドならではの柔軟な発想から生まれたもののように思う。

外側ではONになったトグルスイッチを右胸に描き、内側を捲るとOFFの状態が顔を覗かせるリバーシブル仕様のブルゾン。斬新性も取り入れながら実用性も重視していることは言わずもがなだが、着る者の心理状態にも寄り添う姿勢には、朝藤のデザイナーとしてのプロフェッショナルを感じざるを得ない。

中でも特筆すべきは、朝藤自身がフェイヴァイリットに掲げているコクトー・ツインズやセイント・ヴィンセントらをイメージして作られたピラミッド・アイ・ドレス。異国へと連れ出すような気品溢れたルックだが、風を受けると正面から見て十字架になるように配置された胸下のリボンが揺れ動く女性らしさも備えている。こちらはブラックとホワイト×ミントグリーンの2色展開。

また、今シーズンではパンクアイドル・東京サイコパスからカオス・ゾルディックが手刺繍作家として製作に関わっている。約一ヶ月もの期間を要したという手縫いのワンピースは中心に玩具や人形がランダムに配置されており、一面に赤色を使用していることから電気都市に生きる人間の在り方、そして無意識に淘汰されていくものの姿を表現しているように感じられた。

常にソリッドな感覚を持ち、カウンターカルチャーを体現するpays des fées。「電気と魔術」が意味するのは、既存のブランド像からの脱却と、着る者を異空間へ連れ出す無限の可能性さえ含んでいるように思う。筆者は参加することが叶わなかったが、テーマを忠実に描くために埼玉・川口の廃工場でショーを行ったという点もまた、pays des féesの在り方の一つと言えよう。時代背景と呼応しながら新たなファッションを提案するブランド像は、着る者を異空間へと接続し、その足枷を取っ払って自由へと解放するのだ。

pays des féesのオーナー兼デザイナー・朝藤りむ(lim asafuji)

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pays des fées

・所在地:〒164-0001 東京都中野区中野5-52-15 中野ブロードウェイ4階464-1
・OPEN / CLOSE:12:00 / 17:00(毎週水・木曜定休+不定休)
・公式HP:https://pays-des-fees.com/
・Instagram:@paysdesfees_nakano_broadway/
・Twitter:@paysdesfees_o

※受注会詳細は下記画像を参照

星野