観客を引き込む「MC」の在り方──インディーズ・バンドがファンを増やすための法則

観客を引き込む「MC」の在り方──インディーズ・バンドがファンを増やすための法則

バンドでもシンガーソングライターでもアイドルでも、ライブの際にほとんどと言っていいほどセットリストに「MC」というものが組み込まれる。

ライブでの「MC」とは、曲の説明や次回のライブの告知、最近あった些細な話など、要はアーティストにとって曲では表現できない(と考えている)もの、それが「MC」だ。またこのMCがアーティストにとっても、ライブを観に来たお客さんにとっても少しの休憩時間の役割を果たすこともある。もちろん、曲間に挟まれるMCを楽しみにしている人もいると思うが、人によってはこの時間にトイレへ行ったりドリンクカウンターでお酒を買ったりする時間にもなり得る。

しかし、アーティストによってはMCがない場合もある。これにはいくつか理由があるのだが、長年ライブハウスの店長として働いてきた立場から考察すると、アーティスト側がMCをする必要性が全くないと考えていること、またセットリストの流れを崩したくない、単にMCが苦手…などが主な理由として挙げられる。

MCが必要か不必要かという議論に対しては、結論は「どちらでも問題ない」が正解だと思っている。そのアーティストにとってMCが絶対必要な場合もあるし、MCに有用性を感じていない場合もあるからだ。

ではなぜ今回MCをテーマに筆を執るかというと、それほどアーティストにとってMCというのは重要なものであり、もしかしたら楽曲のセットリストを組むよりも重要なポイントであると考えているからだ。今回は焦点を絞るため、「アーティスト」と広く捉えるのではなく、インディーズ・バンドとMCの関係性について話したいと思う。特に、これから軸足を固めてスキルアップを目指す結成3年未満のインディーズ・バンドに対して、ライブハウスの店長として働いてきた身から個人の見解をもってアドバイスを述べたい。

そのMC、本当に必要? インディーズ・バンドがMCの仕方に迷ったら

①適当な話はしないこと。珠玉の一曲を聴かせて!

多くのバンドはMCとなると、「今日ご飯食べに行った時なんですけど…」「さっきの楽屋での出来事なんですけど…」などといった(雑談に近い)話をすると思う。

しかし、観客側からしたらあまり興味を持てないし、記憶の共有もし難い。それであれば、君たちが一生懸命スタジオで練習したであろう珠玉の一曲を1秒でも早く聴かせてほしいと願っているはず。ファンはそれを待ち侘びている!

②変に面白い話をしなくても大丈夫。君たちはバンドマン

MCをしている途中、ふとフロアに目を遣るとステージ上の君たちしか笑ってない…なんて経験はないだろうか。残念ながら、ほとんどのいわゆる「身内的な面白エピソード」は、観客側からするとあまり共感できない場合が多いのだ。お笑い芸人でさえも人を笑わせることが難しい。笑わせようとしても、実は笑われているということで悩んでいる芸人もいる。じゃあ駆け出しのバンドマンができることは? もちろん、感動を巻き起こす素晴らしいステージに決まってる!

③無理して「MC」をセットリストに組み込まなくてもいい

これもよくありがちなことだ。「今から演奏する曲は…」「さっきの曲は昔…」と、演奏する/した曲の説明をMCに盛り込むパターン。でもよく考えてみてほしいのだけど、言葉で説明しないと分からない曲を作っているんだとしたら、それはもう音楽として披露しなくてもいいのではないか? それでも君たちは自分の感情を歌詞に起こし、メロディを付けて、曲にしたわけだ。であれば、自分たちの楽曲の説明なんて、少なくとも無理してする必要はないはず。もっと自分たちの曲に自信を持って演奏に臨んでいい。

以上が私の考える、MCの不必要性だ。あくまでもMCを絶対悪と捉えているわけではなく、君たちの音楽はMCを挟まずとも説明不要で素晴らしい、ということに気づいてほしい。

駆け出しのインディーズ・バンドがMCをするメリットとは

では、MCにおける「必要性」とは一体なんだろうか。 メジャー・シーンで活躍する多くのロック・バンドは、MCの「必要性」を熟知したうえでライブに臨んでいるはずだ。ここではインディーズ・バンドがMCをする利点について述べていきたい。 

①お客さんや対バン、箱のスタッフさんとの距離が近づく

君たちのファンは全国各地からライブを観に来る。それはどういうことかというと、自分のスケジュールを調整し、時間と交通費をかけてやってくる、ということだ。対バン形式の場合、共演者となる対バン相手はその日一日を一緒に盛り上げてくれるライバルでもあり、また戦友でもある。箱のスタッフさんは、イベントを成立するために事前にバンドの情報を揃え、君たちに適切な対応をしてくれる。受付業務/オペ業務/カウンター業務/宣伝業務と多岐にわたり、その日ステージに立つ君たちをバックアップしてくれるのだ。そんな人たちに対し「このバンドと関われて良かった」「このバンドのために時間やお金を費やして良かった」一緒に戦えて良かった」といったやりがいを感じさせるのは、やはりステージの合間で差し込まれるMCだけだろう。特にバンドのファンにとっては、帰りの電車やバスの中で素敵な思い出として脳裏に刻まれる。曲では表現しきれないMCをすることで、その日ステージを観覧した多くの人が、君たちに対して好意的に思ってくれるはずだ。

②メンバーの人となりや人格が見える

先ほど、「楽曲では表せられない感情をMCに乗せられる」と書いたが、喋り方や伝え方一つとっても、バンドの数だけあれば幾千ものMCの仕方がある。定型的なものをしていても間の取り方や方言など、演奏していない状態の素のバンドの姿を見せることが可能だ。得てして言えば、独特の人間性が出ることでファンに愛着を感じさせ、更に君たちに愛情を抱いてくれるものであり、演奏中とのギャップが出れば出るほど「ライブに足を運んで良かった」と思わせることができるのもMCの持つ強い力なのだ。

③様々なことに対して感謝を伝えられる

その日のステージに限らず、バンドのキャリアを振り返りながら感謝を伝えられる、ということもMCならではのメリットだろう。どういった経緯でバンドが成り立っているのか、メンバーはどんな人たちなのか、自分たちはどういった日々を送りながら音楽活動を続けているのか──という、音楽活動全体に対しての意思を伝えることが可能であり、訪れた人々に対して自分たちのバックボーンを知ってもらえるのもMCなのだ。そこに付随する形として、「自分たちの音楽を愛してくれている」という感謝の気持ちを述べられるのがMCが持つパワーである。楽曲では君たちの感情を音楽的に表現し、MCではバンド全体を俯瞰しながら毎日への感謝を表現することができ、君たちという存在意義を正確に伝えられるのだ。

MCは時として楽曲以上に観る人の心を突き動かし、感動を起こす。実際私もMCで何度も涙した経験がある。ステージに立つ回数が多くなったバンドほど、このMCの使い方や重要性を熟知しており、そのうえでセットリストにMCを組み込んでいる。それは、MCには話す内容を事前に決めておくのではなく、ステージ上で思わず話したくなる、伝えたくなる時に、楽曲に込めたい気持ちが身体の内側から飛び出してくるという魔法があるからだ。だからこそ、MCというのは観客を引き込むまでにテクニックを要するものであり、同時にそのバンドの本質が出やすいものなのだ。

あくまで本コラムは個人の見解に過ぎない。しかし本コラムが、全国のインディーズ・バンドにおける活動の一助となれば幸いである。

後藤 瞬