Gosekiのアメリカ徒然探訪録:Day 4
2022年8月、Awesome &roidのベーシストであり、musitのライターでもあるGosekiが、バンド・メンバーでヴォーカル/ギターのタツルと、カメラマンのショータロー(NEW FAT GLORY)と共に、人生初の海外、そして人生初のアメリカを訪れた。ここに綴られるのは、Gosekiがその目で見て、その耳で聞いて、その手で触れたものたちの、大いなる記録である。
Gosekiのアメリカ徒然探訪録(特集ページ)
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8月4日
本日はカリフォルニア州のリバーサイドへ向かう。
休憩も挟めば大体5時間以上はかかるため、ラスベガスを早々に出発することに。前日に3時近くまで起きていたため完全に寝不足だったが、時間は待ってくれない。
ラスベガスは朝が一番静かなのではないだろうか。深夜の馬鹿騒ぎが嘘のように静まり返った大通りを歩きながらそう思った。新宿歌舞伎町の早朝に近いものを感じ、ラスベガスに感じた苦手意識の理由に気付いた。
この頃になると流石に運転にも慣れ、ウインカーと間違えてワイパーを動かすミスもなくなり、スムーズに目的地へ向かう。

行きにも通った砂漠地帯をまた戻るように進む。途中で降りたガソリンスタンドの売店にはやたらとエイリアングッズが置いてあった。ここはUFOの目撃情報などでも知られる謎の《エリア51》の近くなのだと知らされ納得した。
ラスベガスのカジノもそうだったが、映画などで知った場所に実際に足を踏み入れる度に不思議な感覚に陥る。まるで自分が『第九地区』や『オーシャンズ11』の世界に入り込んだような、異世界感に酔いそうになる。アメリカ人も、日本に来たら京都や秋葉原を見て同じような気持ちになるのかもしれない。日本らしさというものの大切さをなんとなく感じた。

タツルはアメリカに来てから何かにつけてスイカ味のグミやらガムを食べており、そのせいなのか車中ではハリー・スタイルズの「Watermelon Sugar」が流行り、何かにつけてこの曲が流れた。アメリカにいる間に50回は聴いたと思う。そのうち、曲が流れなくても誰かが急に「ウォーターメロンシュガー?」と言えば全員で「ハーイ!」と叫ぶ独特なノリが生まれていた。睡眠不足&長時間の運転でハイになっていたのだろう。食べてたグミを股にこぼしただけでも大笑いするほどのテンションになっていた。
今思い返すとかなり危険な3人組だし、ここに書いても誰にも伝わらないようなことなのだが、そんな何気ない1シーンが意外とずっと頭に残っているものなのかと驚いた。もしかしたら死ぬ前の走馬灯もこんな場面を見せられるのだろうか。それは嫌かもしれない。
休憩もほとんどせずに走り通して、リバーサイドには14時頃に到着した。ここからまたショータローとは別行動となり、恒例のタツルとの散歩タイムとなる。

リバーサイド
リバーサイドはタツルにとっては所縁のある町だった。彼は大学生の頃、半年間このリバーサイドに留学していたのだという。半年も住んでいた町にこうして戻ってきたのだから、さぞ嬉しいのだろうと思っていたのだが、彼の顔を見る限りではそこまで思い入れはないようだ。理由を聞くと、リバーサイドは特に遊ぶ所もなく、勉強ばかりしていたから良い思い出がそんなにないのだという。なるほど、そういえば以前、ホームステイ先の家族ともあんまり仲良くなかったと言っていたことを思い出した。きっと彼にとってのアメリカは、良い思い出が全てではないのかもしれない。
私は今回、英語が喋れる、アメリカにも詳しい友人と来れているから、戸惑うことがあっても困ることはほとんどない。本当に恵まれていると思う。だが、彼のような留学生は1人で長い間家族とも離れ、文化も言葉も違う場所で生活をしなければならない。それは私が想像するよりもずっと恐ろしいことなのかもしれない。しかし、その経験がタツルという人間を強くし、世界に通じる言語能力と英語での作詞技術をもたらしたのだろう。努力の賜物だ。少しだけ彼を尊敬し直した。
タツルは何もないと言っていたリバーサイドだが、歴史的な建造物が多くダウンタウンも長閑に思えて、私としては居心地の良い町だと感じた。《ミッション・イン》という、140年以上前に建てられたホテルがあり、かつてリンカーン大統領も宿泊したとして町の象徴となっていたり、他の建物もこれまで見てきたアメリカの建物とはまた違う作りをしており、アメリカというよりもどことなくヨーロッパの建物の雰囲気を感じた。私は元来、古い建物や絵画が好きな質なので、この町も楽しむことができた。

ミッション・インとタツル
しかし、リバーサイドはダウンタウンを少し外れると貧困層が暮らす地区があるらしく、決して安全とは言えないのだそうだ。実際に、トイレを借りようと入ったスーパーはトイレに鍵がかかっており、店員に断らなければ入れないようになっていた。アメリカは日本のように気軽にトイレを貸してくれるお店はないし、公衆トイレも少ない。また、治安の悪い町では基本的にトイレに鍵やパスワードロックがかかっている(帰国して改めて思い返すと鍵がかかっていないトイレのほうが希少だった)。
なぜトイレにここまで厳しいのかと疑問に思っていたのだが、どうやらトイレは違法薬物の使用や売買が行われるスポットとなっているのだそうだ。なるほど、これは日本人としてはあまり実感の湧かない理由だ。これならアメリカの個室の下部分がスカスカで、ちょっと覗けば見られてしまう理由も頷ける。
リバーサイドの良いところも悪いところも知ったところで、本日のNew Found Gloryのライブ会場である《Municipal Auditorium》へ向かった。この会場はどうやら歴史の長そうな建造物を改装して造られているようで、外観はまるで教会のように厳かな見た目をしており、とてもライブハウスとは思えなかった。タツルも留学していた時にはライブハウスなんてなかったと言っていたので、見た目に反して新しくできた会場なのかもしれない。中も木造の作りで、まるで80年代の映画に出てくるプロムの会場のようでわくわくした。昨日のラスベガスもそうだったが、アメリカのライブハウスはお洒落でかっこいい。日本も見習えないだろうか。

Riverside Municipal Auditorium
前日、前々日はステージの目の前で観れたので、今日は2階席で観てみることにした。こんな贅沢な選択はないな。
NFGのライブには、上は50代くらいの初老から、下は6歳くらいの子供まで、幅広い年齢層の客が来ており、アメリカのポップパンクというジャンルの認知度に驚いた。2階席はモッシュなどには参加せずに落ち着いてライブを観たい人や、そういった子供がいるファンにはちょうど良い。イヤーカフをした小さい子供があまりにも楽しそうにライブを観ていたので、なぜだか私の方が嬉しくなってしまった。
世代を超えて愛されるバンドというのは私たちの理想だ。

ノリノリの子供
2階席で観るNFGはまた違う印象だった。ステージのそばで観るよりインパクトはないが、ステージ全体を見回すことでメンバー全員の動きの統率性が伺えた。ジョーダン(Vo.)が目立つシーンでは他のメンバーは少し下がり、チャド(Gt.)が前に出れば逆にジョーダンが少し下がる。メンバー各々が常にどんな動きをしているのか把握し、客の目線が散らばらないようにフォーメーションが組まれているようだった。ショーとしての完成度の高さを改めて実感し、テンションが上がった私は結局数曲を2階席で観た後に1階のモッシュピットへ潜っていた。2階席で傍観していることがもったいなく思えてしまうほど、ライブの熱が会場全体を包み込んでいた。
1階へ降りると、タツルがダイブして客の波の上を泳いでいる様をすぐに見つけた。彼のリバーサイドの思い出は良い方へ更新されただろう。ライブが終わった後に「次は自分たちのライブでまたここに戻って来たい」と言っていた彼は、昼間にリバーサイドの思い出を話す時とは別の顔をしていた。


リバーサイドでは宿が取れなかった我々は、今日のうちに次の目的地であるアナハイムへ向かうことにした。いつか、あのリンカーンも泊まったミッション・インに泊まれるくらいの大物になってやる。。と誓いながら夜の道を走った。
アナハイムまではおよそ1時間。ラスベガスから5時間かけて運転した我々にとっては、もはや近所のように感じた。道中お腹がすいてしまったためメキシコ料理屋に入る。アメリカは夜遅くまで営業している飲食店が多い。というか20時近くまで日が出ているため、夜という感覚がそもそも日本と違うのかもしれない。

メキシコ料理屋へ
メキシコ料理を食べ、アナハイムのモーテルに着いた頃には夜中の1時を超えていた。長時間の運転とリバーサイドの散歩、NFGの熱狂的なライブと、今日も濃密な時間を過ごした我々は疲弊しきっていた。とにかく睡眠が必要だ。なだれ込むように入った部屋で私は絶望する。
部屋にベッドが1つしかなかったのだ。。。。
補足すると、ショータローはそもそも別の部屋を取っており、お金のない私とタツルは今回の旅の全ての部屋を共有することになっていた。大概のモーテルやホテルはツインベッドとなっているため特に問題はなかったのだが、今回のモーテルはセミダブルほどのベッドが1つ置かれていただけだった。
私とタツルは10年以上の仲だ。何度も同じ屋根の下で眠り、同じ釜の飯を食ったソウルメイトと言っても過言ではない。しかし、私たちはベッドを共有したことはこれまで1度もなかったと思う。まさか30歳を目前にして、しかもこの疲労困憊の中で同じベッドで寝ることになるとは。。。。私は露骨に嫌そうな顔をしながら文句を垂れた。
というのも、我々はここで2泊する予定となっていたのだ。1泊ならまだしも2泊、、、、気も滅入る。しかし、どんなに文句を言ったところで、もう1つ部屋を取るほどのお金もないし床で寝るような惨めな思いもしたくない。
私は渋々ベッドで横になった。横に男が寝ていると思うと寝づらいなー、疲れも取れないだろうなー、と思いながらも瞼を閉じる。ぱっと瞬きをしたくらいの気持ちで目を開けると、なぜだか空は明るくなっていた。
あれ?
時空ゆがんだ?
起き上がるとびっくりするくらい疲れが取れていた。

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Goseki

