【スクリーンで君が観たい Vol.7】可憐でセクシー、ストイックな姿勢も備えた憧れの的──アン・ハサウェイ

【スクリーンで君が観たい Vol.7】可憐でセクシー、ストイックな姿勢も備えた憧れの的──アン・ハサウェイ

映画ライター・安藤エヌが今こそ語りたい「推し」は男性だけにとどまらない。スクリーンの中で熱演を見せる映画俳優を愛する安藤にとっては女性だって等しく感銘を受ける存在。さて、中でも一際ゴージャスな存在感を放つビッグスター、アン・ハサウェイの登場だ。

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時として、天は二物を与えることがある。俳優業に就くような人物にはとかくそういった逸材が多いが、その中で私が最も憧れる人物は、アン・ハサウェイだ。

目鼻立ちのはっきりした美貌に存在感を放つ演技力、おまけに歌も上手いときた。朝起きて洗面台の鏡を覗いたらアン・ハサウェイみたいな顔になってないかな…と、どれだけ願ったことだろう。もっとも私があの美しさを手に入れたら怠惰を極めて、ちゃっちゃとお金のある男と結婚し、自分磨きなど露ほどもしない人生を歩んでいた気がするので、やはりアンはアンで良かったのだろうと思う。

この連載のタイトルは『スクリーンで君が観たい』だが、「君」とは「あなた(You)」の意味を兼ねているので、女性も推していきたい。若手の男性俳優が並んだラインナップに満を持して、最高にゴージャスな女性の登場である。

アンの出演作で私が好きな二大巨頭は『レ・ミゼラブル』(2012)と『プラダを着た悪魔』(2006)だ。どちらも繰り返し観るほど好きで、アン・ハサウェイという女優の魅力を最大限に味わえる作品だと思っている。

アン演じるファンティーヌの「夢やぶれて(I Dreamed A Dream)」を聴いた時には全身が総毛立った。なんて悲痛な、しかし身体の内側から迸るエネルギーこもった歌なのだろうと、その力強さに圧倒され、本作で第85回アカデミー賞助演女優賞を受賞した彼女の凄みを見せつけられた。

アンはファンティーヌ役を演じる上で11kgの減量、さらにはロングヘアをばっさりと切りベリーショートにするという体当たりの役作りをして撮影に臨んだ。受賞を機に批判も受けたが、それを「良い勉強になった」とポジティブに受け止めるなど、芯の強い女性としての一面も見せた。

私はそんなアンが演じたからこそ、ファンティーヌという1人の女性が忘れられない大切なキャラクターになったし、彼女の歌った魂の音楽も、痛みと共に心の奥底に刻み付けられたのだ。

そして『プラダを着た悪魔』は、『レ・ミゼラブル』同様彼女のファンから愛されている映画として名高い作品だ。アン演じる冴えないキャリアウーマンのアンディが、メリル・ストリープ(実は彼女も私の「推し」である)演じる鬼上司・ミランダの元で働き、めきめきと垢抜けていく姿を描いた本作は、公開から15年以上経った今でも「観ると元気になるキャリアアップ・ムービー」として、老若男女、特にアンディと同じような働く女性たちから支持を集めている。

私自身、働く時の信条を本作から教えてもらったし、何よりアンディが努力をして美しくなっていき、夢を掴んでいく姿には勇気づけられて、憧れもした。私にとってアンとは、そういった「憧れ」の対象なのだ。

もし鏡に魔法がかかっているなら、私はすぐにでも彼女になりたいと言うだろう。けれど、現実はそうもいかない。アンはアンで、私は私。だからずっと、スクリーンの中を見つめて憧れていたい。

ああ、でもやっぱりアンみたいな女性になって、マンハッタンの片隅で優雅にアップルパイを食べたいなあ、なんて思ったりもするのだった。

安藤エヌ