Gosekiのアメリカ徒然探訪録:Day 7-8

Gosekiのアメリカ徒然探訪録:Day 7-8

2022年8月、Awesome &roidのベーシストであり、musitのライターでもあるGosekiが、バンド・メンバーでヴォーカル/ギターのタツルと、カメラマンのショータロー(NEW FAT GLORY)と共に、人生初の海外、そして人生初のアメリカを訪れた。ここに綴られるのは、Gosekiがその目で見て、その耳で聞いて、その手で触れたものたちの、大いなる記録である。

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8月7日

今日は特に予定がない。アメリカに来て早いもので1週間になる。これまで予定がない日というのはなかったため新鮮だ。

しかし、明日の昼までにロサンゼルスへ行き、レンタカーを返さなくてはいけないため、今日は1日かけてアリゾナからロサンゼルスへ移動することにした。ホテルのチェックアウトを済ませて車を走らせる。ロサンゼルスまでは7時間かかる。東京、大阪間を普通に超える距離の運転にも動じなくなってしまった。

ロスまでの道中は、行きと同じようにひたすら砂漠と荒野が広がっていた。空は雲一つない青空だ。そういえば、アメリカに来てからほとんど雨が降っていないことに気が付いた。一度だけ、ラスベガスに向かう途中でゲリラ豪雨のような大雨が降ったかと思うとすぐに止んだのが唯一だ。この季節の日本は雨が多いので、こんなに晴れ間が続くのは不思議な感覚だった。

調べてみると、カリフォルニアをはじめとする西海岸は雨があまり降らない地域のようだ。どうりで町を離れるとすぐに一帯が砂漠になるはずだ。ジュースよりも水が高価になる理由もうなずけた。一方で、日本では先日も大雨が続いているとネットで報じられている。日本の雨を少し分けてあげたい気持ちになった。

しかし、アメリカでは雨の被害は少ないが別の災害がある。竜巻だ。

この移動中に一度竜巻を見かけた。幸い近くに建物もなく、我々とも距離があったので大事にはならなかったと思うが、大気がぶれて動いている様には恐怖を感じた。

本来であれば、今日はグランド・キャニオンへ行く予定となっていた。しかし急遽レンタカーの期日が明日までになってしまっていたため、泣く泣く諦めた。昔から自然が好きな私はグランドキャニオンをNew Found Gloryのライブの次に楽しみにしていたため、ショックが大きかった。しかし、ロスまでの道中に広がる渓谷の壮大さに圧倒され、「あれ、これもうグランドキャニオン行ったようなものなのでは?」と思ってしまった。実際にその渓谷を一つ越えればもうグランドキャニオンの端っこだったようなので、あながち間違っていなかった。次回はちゃんと行ってみたい。

その代わりに、私たちはトイレ休憩のたびに少しハイウェイを外れ、砂漠や荒野などを探検した。どこも観光地でもなんでもないため名前などもなく、地元民たちは見向きもしない荒野だが、遠い異国から来た私たちにとっては全てが新鮮で、まるでゲーム『グランド・セフト・オート』の世界に迷い込んだような風景に胸が躍った。

今までは時間に制限がありゆっくり見ることができなかったため、今日はゆっくり観光できた。給油のたびに売店でお菓子を買い、どのポテチが一番美味いかを吟味し、車内では昨日まで毎日ライブで聴いていたNFGのアルバムを永遠にリピートし皆で歌った。

寄り道をしながら運転をしていたため、ロサンゼルスの近くに着いたのは23時を超えていた。この日はハリウッドの北側にある《ラジオシティー》という町に泊まることになった。良い名前だ。ポケモンに出てきそう。

少し古いモーテルに泊まったのだが、プールが付いており、私が思い描いていた映画に出てきそうな「THEモーテル」という風貌にテンションが上がった。酒を飲みながらプールに飛び込んだりすれば、もうティーンエイジャー系の映画になりそうだ。

モーテルの部屋にて

もう時間も遅かったが3人でお酒を飲みながら少し話した。これからのバンドの予定や目標、日本の音楽シーンについてなど、白熱した会話をし、この3人でアメリカに来れて良かったなと改めて感じた。

特筆するような大きいことは何も起きていない1日だが、この日はとても記憶に残っている。そんな1日だった。

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8月8日

怒涛のNFGウィークが終わり、旅の第2章が始まる。

今日からはNFGファンとしてではなく、Awesome &roidとしての活動が始まる。忘れかけていたが私たちはアメリカにライブツアーをしに来たのだ。そして今日は、アメリカでのライブをサポートしてくれるドラマー、ケイシーと初顔合わせ&アメリカでの初音出しの日だ。緊張。

ケイシーと会う前に、1週間この長旅を共にしたレンタカーを返却しなくてはいけない。長く苦楽を共にした相棒とも呼べる愛車だ。「別れの際は泣いてしまうかも」と3人で話しながら、ロサンゼルス空港の近くにある返却場へ向かった。

日本のレンタカーは返す際に傷がついていないか、ガソリンは満タンかなど入念なチェックをされる。もちろんアメリカでも厳しいチェックがあるだろう、と私たちは肩に力を入れていた。というのもこの車、借りた時には既に至る所に傷があったからだ。借りる際に事前に傷をチェックし、写真に納めていたが、ここは訴訟の国アメリカ。どんないちゃもんをつけられるかとドキドキしていた。

最初のレンタカーとお別れ

が、いざ返却場に行くと恐ろしいくらいのスピードで手続きが進み、車には一瞥もくれずに返却が完了してしまった。最後に3人で車の前で記念撮影をしようと話していたのに、あまりの速さで忘れてしまったほどだ。車社会のアメリカでは多少の傷などはついて当たり前のようだ(ちなみにガソリンについては元々の契約で満タンで返す必要はないプランだった)。

その後、残りの期間で使うレンタカーを借りるためレンタカー会社へ。前回の店はうまく予約ができず余計な出費が掛かってしまったため、今回は別の会社に変更した。ロサンゼルス空港の近くにある《サクラレンタカー》は日本人スタッフが多く日本車も多いうえ、安価だった。オススメである。

新しいレンタカー!

無事に新たな相棒となる愛車のトヨタ・CAMRYを借りることができた私たちは、ついに今回のアメリカツアーでのドラマーのケイシーに会うために、彼が住む街まで車を走らせた。

ケイシーの住むAタウン(彼のプライベートのため実際の町名は伏せておく)はロス市内から40分ほどの場所にあり、治安も良く住みやすそうだった。これから残りの期間はこのAタウンに拠点を置くことになる。

家の前に着き、チャイムを鳴らす。緊張の瞬間だ。ドアを開けて現れたのは、身長190cmほどの大柄な男性だった。

ケイシー・デイツ。The Velvet Teenのドラマーであり、今回Awesome &roidのドラムをサポートしてくれる。元々親交のあったショータローが彼を我々に紹介してくれて、今回のスペシャルコラボが叶ったのだ。ケイシーはルームメイトのTと愛犬のマルと暮らしており、家に自作の練習スタジオがある。

私は拙すぎる英語で自己紹介をし、なんとか名前だけは伝えることができた。タツルがバンドの曲やライブについて説明している間、私はマルと遊んでいた。英語が得意ではない私にとって、犬は言葉を返さずとも分かり合える唯一の相手と言える。しかし私はマルに「お手!」と言うが伝わらない。英語でお手は「ポー!(paw)」と言うらしく、お手では伝わらないのだそうだ。マル、お前もか、、

自己紹介が済んだところで、早速スタジオで音合わせをする。8畳ほどの自作スタジオはしっかりと防音もされており、アンプも揃っている。十分すぎる環境で練習できることに感謝だ。私はほとんど手ぶらで来たため、ベースも借りることになった。タツルはスーツケースにテレキャスターを分解して持ってきており、なるほどそんな手があったのかと膝を打った。

ケイシーはあらかじめオーサムの曲を練習してくれており、初の音合わせだったがかなりの完成度だった。さすがプロだ。初めて合わせたのに安心感すらあった。正直、言葉が分からない相手と演奏をするのは初めての経験だったため不安な気持ちもあったのだが、音楽をする上で言葉など必要なかった。彼のドラムは彼の言葉よりも雄弁にケイシーという人間を表しており、私もまた自分のことを説明するためにベースを弾いた。音楽の可能性をさらに感じた有意義な時間だった。

2時間ほど練習し、私たちは一度ケイシー宅を後にした。今日から5日間、私とタツルは近くにあるモーテルに泊まる。ショータローはケイシー宅のゲストルームに泊まることになったため、7日間に及ぶ3人の共同生活が一旦終了する。と言ってもただ泊まる場所が違うだけで(しかもかなり近い)、この後もほとんど毎日私たちは行動を共にする。だが、なんとなくの寂しさはあった。

サンディエゴでも泊まった《モーテル6》でチェックインを済ませた後、再びケイシーとルームメイトのTと合流し、一緒にご飯を食べることになった。TはオススメのコリアンBBQ、つまりは焼肉屋に連れて行ってくれた。ここで私たちは8日ぶりに白米を食べることができた。やはり日本の米とは少し違いパサパサしてはいたが、紛れもない米と、馴染みのある味付けの焼き肉に感動した。

ビールを飲みながら円卓を囲んで会話をする。私はやはり会話には参加できないのだが、ケイシーは気を遣ってゆっくり話してくれたため、なんとなく会話の内容は理解できた。ケイシーはAwesome &roidのサポートドラマーの1人でもある中川航や他にも多くの友人とも親交があるらしく、意外な共通点に大いに盛り上がった。日本が好きで、今度観光で日本に行く予定を立てているらしく、自分の国を褒めてもらえたことが嬉しかった。来てくれた時は精一杯オ・モ・テ・ナ・シしたい。

焼肉を食べ終えた後、私的にはもう十分すぎるくらいお腹がいっぱいだったのだが、Tオススメのアイスクリーム屋さんがあるということで、せっかくなので食べようということになった。みんな本当にたくさん食べるなと私は感心した。

《Handel’s Ice Cream》という店で、我々はアイスを食べた。お腹がいっぱいだった私は1番小さいチョコアイスを頼んだのだが、なぜか2段重ねのビッグサイズが来てしまった。注文を間違えられたのかと思ったが、どうやらこれがその店でのスモールサイズだったらしい。さすがアメリカだ。。。。

アイスを握るショータローとタツル

パンパンの腹にアイスをぶちこみ気を失いそうになりながらも、ケイシーとTと談笑を楽しんだ。Tは日本のアニメや漫画が好きらしく、週刊少年ジャンプで連載中の『チェンソーマン』にハマっていると言うので、私は一時期ネットで話題になった『チェンソーマン』に出てくる武器「田中脊髄剣」をガガガガガというセリフ共にマネすると、Tはとても喜んでいた。日本のコミック文化も言葉の壁を超えるのかと驚いた。

ケイシーたちと別れモーテルに戻る。ケイシーやTはとても良い人たちで安心した。アメリカはアジア人に冷たいのでは、と勝手に不安になっていたが、杞憂だったようだ。残りの期間は毎日午前中に練習し、ライブに備えることになる。やっとバンド・ツアーらしくなってきた。

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Goseki