Gosekiのアメリカ徒然探訪録:Day 9
怒涛のNew Found Gloryの追っかけツアーが幕を下ろし、旅の記録もいよいよ新章に突入。Day 8ではAwesome &roidのアメリカ・ツアーをサポートするドラマー、ケイシー・デイツ(The Velvet Teen)と対面した一行。ここからは寄り道をしつつ、それなりのトラブルに見舞われながら、Awesome &roidとしてのアメリカでの初ライブに向けて邁進していく。
Gosekiのアメリカ徒然探訪録(特集ページ)
主な登場人物
ゴセキ
Awesome &roid ベース、musitライター
タツル
Awesome &roid ヴォーカル/ギター
ショータロー
カメラマン
Cosmic Vinyl Cafeの看板娘
重要人物…?
SiM
言わずと知れた日本のレゲエ・パンク・バンド
* * *
8月9日
午前中にケイシーの家に行きバンドの練習を始める。今回のアメリカツアーではサポート・ギターのタカヒロも同行予定だったのだが、彼のバンドであるgatoが急遽ライブの予定が入り、アメリカ到着の日程がずれてしまったため、ツアーの1本はスリーピースでライブすることになった。初めての3人編成でのライブのため、こちらも緊張感がある。我々にとっても修行の期間の始まりだった。
午前の練習が終わり、今日はデイオフだ。カメラマンのショータローは、同じくアメリカ・ツアーに来ていたSiMのロサンゼルス公演の仕事があったため、車で彼をライブ会場まで送った。
その後、私とタツルはアメリカに来たらやりたかったことの1つでもあるレコード屋巡りをすることにした。なので今回は、特別企画「Gosekiのレコ屋徒然探訪録」をお届けしたい。
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◉ 1軒目:Cosmic Vinyl Cafe
まず最初に向かったのは、SiMのライブ会場近くにあった《Cosmic Vinyl Cafe》だ。車を近くの駐車場に停めて店に向かうと、なぜか開いていなかった。幸先が悪い。なぜなのかと思い入口に近づくと「ちょっと出掛けてるけどすぐ戻るよー!」とかわいらしい文字で書かれた張り紙が貼ってあった。なんというか、こういう緩い感じがアメリカのレコード屋らしいなと思い微笑ましかった。私たちは特に急いでいなかったためこのまま少し待つことにした。
10分ほどして、全身タトゥーのハーレイ・クインのような女性スタッフが戻ってきた。いかにも「レコ屋の看板娘」といった風貌の彼女に挨拶をして、中に入れてもらった。

しかし、ただの看板娘ではなかったのだ…
《Cosmic Vinyl Cafe》は名前の通りカフェが併設されており、ディスクユニオン新宿のパンク館ほどの大きさで、レコードの数はそこまで多くはなかった。ジャンルは70年代〜80年代のハードロックとパンクを中心にしつつもジャズやブルースも展開している。面白いのはスタッフのレコメンドコーナーや、地元のバンドのレコードを扱ったコーナーがちゃんと作られていて、D.I.Yを感じた。ふとディスクユニオンで働いていた時のことを思い出し、懐かしい気持ちになった。
私が棚の端から端までレコードをディグっている間に、タツルは店員の女性と話していた。身近に良いバンドはいないかと聞いたところ、彼女はなんとニュージャージーのポップ・パンク・バンド、Save Faceのメンバーの彼女だという。思わず「本当か?」と疑ってしまった。聞き覚えのあるバンドが出てくるとは思わなかったので驚いた。

彼女自身もSuzie Trueというバンドでヴォーカル*をしているらしく、週末にライブがあると言うので「行けたら行くよ!」と日本人の伝家の宝刀のような口約束を交わした。本人もまさか本当に来るとは思わなかっただろう。私も思わなかった。
一緒に写真を撮りステッカーを交換して、私たちはお別れをした。
*Suzie True = LAを拠点に活動するスリーピース・バンド。Cosmic Vinyl CafeのスタッフでもあるLexi McCoyはベース/ヴォーカル担当。
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◉ 2軒目:Going Underground Records
車で30分ほど走り、ロサンゼルス市内の方まで来た。
次の目的地《Going Underground Records》はパンクの品揃えが豊富らしく、日本のハードコアも多く置いている珍しい店舗だ。Going Undergroundと聞くと日本人だと別のアーティストを連想してしまうが、おそらく関係はないだろう。店舗は日本人が多く住む地域である、リトルトーキョーの中心にあった。なるほど、それで日本のアーティストも取り扱っているのかと納得した。

店内は綺麗でまとまっており、居心地も良かった。日本のレコ屋は居心地が悪い店が多い気がする。あの居辛さがなければもう少し若い客層も増えるだろう、と働いていた時は常に思っていた。
パンク、オルタナを中心に展開された品揃えで、個人店舗の中では一番好きなレコードが多かった。私はなんやかんや持っていなかったGreen Dayの名盤『Dookie』や、最近PolyvinylからリリースしたMommaの『Household Name』など、5枚ほどのレコードを購入。



その間にタツルは店員と談笑していた。オススメのハードコア・バンドを聞き、店員のルームメイトのバンドを教えてもらいそのカセットを買っていた。こういった、普通のレコメンドからは探せないバンドのディグり方は、英語を身に着けた彼だからこそできる芸当だなと感心した。その店員も気さくで、私たちがバンドをやっていることを知ると応援してくれた。「今度は音源を持ってまた来るね」と伝えて、私たちは次の目的地へ向かう。
* * *
◉ 3軒目:Gimme Gimme Records
次はさらに車を走らせ、ハイランド・パークにある《Gimme Gimme Records》へ向かった。
ロス周辺のレコード屋の中ではかなりの老舗らしく、店内も厳かな雰囲気を醸し出している。店員は老人が一人、奥の方でぶっきらぼうに座っている。これは絵に描いたようなレコード屋だなと笑ってしまった。ジャンルは幅広く置いてあったが、オールドロックが多い印象だった。ここではさすがのタツルも老人店員と談笑する気にはならなかったらしく、2人でレコードを黙々とディグった。

先日までライブを観ていたFour Year StrongやNirvanaなど、意外とパンクやオルタナのレコードもあり、なかなか楽しめた。私はNirvanaの『Nevermind』を買った。日本でもデラックス版というやたら高い2枚組のレコードが発売されているが、私の個人的な趣向で「パンクは2枚組で聴きたくない」という気持ちがあったため、まだ持っていなかった。なんだかんだ王道のレコードって持っていなかったな。
さらに、よく分からないクマが描かれたコンピが5ドルと安かったので購入し、会計の際に勇気を出して自分たちがバンドをやっていることを老人店員に説明し、ステッカーを渡した。予想通り彼は怪訝な顔をしていたがステッカーは受け取ってくれ、私たちにGimme Gimme Recordsのステッカーもくれた。
* * *
日も傾き、次はどこに行こうかと考えていたところ、SiMのライブ撮影のため別行動だったショータローから連絡があった。ライブを観られることになったのだ。日本のバンドのライブをアメリカで観る機会はなかなかないので、元々私たちも行きたいと思っていたのだが、チケットがソールドしていたため諦めていた。しかし、ショータローが会場に確認してくれたところ当日券が若干空いたとのことだったので、私たちはライブ会場へ向かうことにした。

SiMがアメリカでライブをするというのは少し意外だと思っていたのだが、今アメリカではアニメ『進撃の巨人』が大人気らしく、そのOPテーマ(「The Rumbling」)を担当しているのがSiMで、彼らもアメリカのアニメファンの間では知らない者はいないというほどの人気を博していた。前日に『アニメ・エキスポ』という大規模なイベントがあり、それにゲストで参加するついでにロス公演も組み込んだ、という流れのようだ。
《Echoplex》という会場で、キャパは780ほど。日本ではこの規模の箱ではもう観れないかもしれない。そういう意味でも貴重なライブを目撃できた。会場には多くの客がおり、アニメのコスプレをした者や、ゴスロリ、鋲ジャン、モヒカン、オタクなど、さまざまな人がいて面白かった。
ライブもかなり盛り上がり、特に驚いたのはヴォーカル・MAHのMCでの英語力の高さだ。話すたびに異常なほど盛り上がり、最高潮の状態で曲のカウントが始まる。これを日本ではともかくホームではない異国でできるということを純粋に尊敬した。SiMのライブは初めて観たのだが、ライブのパフォーマンスとして見習うところがあった。
ライブが終わり、ホールでぼーっとしていると、タツルでもショータローでもない日本語が聞こえてきた。私たち以外に日本人の観客がいたのだ。日本を代表するバンドのライブなのだから、そこまで珍しいことでもないと思うかもしれないが、このコロナ禍でアメリカに来ている日本人はかなり珍しかった。思わず声をかけると、男女の2人組で仕事のために来ており、2日後の帰国の前に立ち寄ったのだという。遠く離れた土地で同じ国の人に会えることがこんなにも嬉しいとは思わなかった。私は自身もバンド活動をしていることを話し、ステッカーを渡すことができた。いつか、今度は日本で会えたら感動してしまいそうだ。

ライブ会場を後にし、まだ仕事が残っているショータローを待つため、先にご飯を食べに行くことにした。といっても、もう時間も遅く店も開いていない。適当に車を走らせていると、私たちにとって見覚えのある店の電気がついているのが見えた。吉野家だ。アメリカにもあるのは知っていたし何度か見かけてはいたが、改めて「YOSHINOYA」と書かれた看板を見るとびっくりする。
アメリカに来てから、タツルとショータローに「アメリカの野屋は半端なく不味いから是非食べてほしい」と常々言われていたが、なぜ不味いと言われているものを食べなくてはいけないのかと拒否していた。しかし他に店もなかったため、覚悟を決めて入店。
深夜ということもあり、かなり治安悪めな雰囲気が漂う中、注文し、安全を考え(それと店内がめちゃくちゃ寒かったため)、車の中で食べることにした。いざ食べてみると私は驚いた。普通に美味しかったのだ。
米はやはりボソボソしていたが、肉に関しては日本と差し支えなく感じた。紅ショウガまでついていたから、不意の日本の味に涙が出そうになった。さっきまでは「犬のエサの方が美味い可能性がある」と言っていた横のタツルも、これは何かの間違いだと言わんばかりの顔で牛丼を頬張っていた。おそらく「YOSHINOYA」の中で改革が起きたのだろう。なんにせよ美味しいご飯が食べれて良かった。
せっかくだからショータローにも持って行ってあげようと思い、再び店に入り、同じ牛丼を注文すると、店員に「また食うの!? そんな美味くないだろ!?」と驚かれてしまい、お前がそんなこと言うなよと笑ってしまった。
仕事終わりのショータローを迎えに行き、牛丼を渡すと彼も驚いていた。むしろ前までがどんだけ不味かったのかが気になる。
ところで、ショータローを迎えに行く際に事件が起きた。私とタツルで車を運転していたのだが、目的地の《Echoplex》の反対車線側についてしまった。ぐるっと遠回りして会場側に行くのは時間がかかってしまうため、私は走行している道路がUターン禁止ではないことを確認してUターンをした。その瞬間、けたたましいサイレンの音が鳴り響き、赤いランプを点滅させたパトカーがこちらに向かってきたのだ。
終わった。
Uターン禁止ではないと思っていたがダメだったのか、それとも1回のターンで上手くいかず切り返ししたのがまずかったのか、とにかく私はこんな遠く離れた土地で罰金を払うのかとガッカリしてしまった。横を見るとタツルもドンマイという顔でこちらを見ている。アメリカは交通違反に厳しく、200ドルくらい取られると何かで見た気がする。こんな無駄な出費はない。どうにかタツルにも半分払わせたいと考えを巡らせていた。
そして、パトカーは私たちの車を追い抜き走り去って行った。
え?
私たちは顔を見合わせた。
パトカーは私たちを追っていたわけではなく、別の事件のためにサイレンを鳴らしていたのだ。結局、私たちは特に違反をしていたわけではなかった。なんだよ! 紛らわしいよ! 心臓はいまだにバクバクとドラムを叩いている。おそらくアメリカにいる中で最も焦った事件となった。
私たちは気を取り直して、ショータローの待つ《Echoplex》へ向かった。合流した時にはすでに日付も変わっていたため、我々はモーテルに戻りそのまま眠ることにした。明日は3人とも何の予定もない日となる。1週間以上滞在して初めての全員のデイオフのため、明日はしっかりアメリカを観光することにした。
Coming Soon…
Goseki

