【スクリーンで君が観たい Vol.9】豊潤な果実味と色気漂うジェントルマン──コリン・ファース

【スクリーンで君が観たい Vol.9】豊潤な果実味と色気漂うジェントルマン──コリン・ファース

肌寒い日には身も心も温まる、切なくもハートウォーミングな映画を。安藤エヌの「推し」を語る連載、今回はブランケットを膝の上に被せながら観たくなるような映画俳優──コリン・ファースを紹介する。

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秋になると、シックで渋い素敵なおじさまが見たくなる。なぜだろう、秋という季節がそんな気持ちにさせるのだろうか。深煎りした珈琲のような味わい深さがあって、名優であり優しい笑顔が似合う紳士でもある──そう、コリン・ファースの出演している映画を、私は猛烈に観たくなったのだ。

小雨が降る夜。少し肌寒さも感じ、かねてよりずっと観たいと思っていたコリンが主演する2020年公開の映画『スーパーノヴァ』を観るなら今だ、と思い立ち、珈琲を淹れていざ、と映画を再生した。

冒頭、1つの星からインクが染みるように広がる星空と静かな音楽。心が一気に惹き込まれていくのを感じ、そこからはもうずっと美しい景色に夢中だった。

20年来のパートナーであるタスカー(演:スタンリー・トゥッチ)を一途に愛しながら過ごすコリン演じるサム。しかしタッカーの抱える病である認知症が2人の愛を引き裂こうとしていた。互いへ向ける愛を確かめながら、古ぼけたキャンピングカーで旅をする2人。やがて下した、1つの決断とは。

主演の2人を愛し、上質で澄んだ空気を纏う映画が好きな私にとって、本作は願ってもない「特別な」1本だった。観る前から先入観で決めてしまうのは良くないと思いながらも、鑑賞中ずっとじんわりとした心地良さに身体を預け、ラストシーンの手前、コリンが迫真の演技で涙する姿を観てその想いは確信に変わった。

なんて切実で、悲哀の重みを吸った、熱の伝わる涙を流すのだろう。あまりにも、全てが美しい。大切に時間をかけて作った硝子細工がいとも簡単に砕けてしまう刹那の美しさを、胸いっぱいに感じた。2人が旅したイギリス湖水地方の冷えた空気と、コリンの流す涙の熱さが融け合って、彼を見つめる瞳が滲む。

鑑賞中に飲もうと思っていた珈琲が冷めるくらい映画に没頭した私は、エンディングでさめざめと泣き、「モスト・ビューティフル・ムービー(最も美しい映画)」リストに本作を加えたのだった(ちなみに、このリストには第4回で紹介したエディ・レッドメイン主演の『リリーのすべて』なども入っている)。

コリンは映画『シングルマン』(2009)でもゲイの男性を演じており、キャラクターの性的指向に関わらず彼の「誰かを切に想う視線」にぐっと来てしまうので、コリンの演技観たさにこちらも続けて観てみたいと思う所存である。

『スーパーノヴァ』で真の愛とは何かを人間味ある演技で表現してみせたコリン・ファース。彼が演じるキャラクターはウィットに富んでいて、知れば知るほど深みに嵌る魅力に溢れている。『キングスマン』(2015)では傘代わりの銃をぶっ放す眼鏡にスーツの英国紳士・ハリーを演じ、『メリー・ポピンズ リターンズ』(2018)では主人公のマイケル一家を引き剥そうと画策する狡猾なヴィラン・ウィリアムを演じた。役によって全く異なる表情を見せてくれる所も「沼」に嵌る一手だといえよう。

そんなコリンは、2021年に外伝『キングスマン:ファースト・エージェント』が上映された『キングスマン』シリーズ続編にハリー役としてカムバックするという。ハリーの弟子・エグジーとの師弟関係にフォーカスされるという次回作。またあの過激でセクシー、かつジェントルメンなコリンが観られるのかと思うと「推し心」がうずいてしまう。しばらくコリン沼から這い上がれそうにない気配を感じる、落ち葉色付く秋の日頃なのだった。

安藤エヌ