Gosekiのアメリカ徒然探訪録:Day 14

Gosekiのアメリカ徒然探訪録:Day 14

アメリカに来て早2週間、ついにAwesome &roidとしての大きな目的を果たす日がやってきた。サポート・ドラムにThe Velvet Teenのケイシー・デイツを迎え、準備は万端…!

主な登場人物

ゴセキ
Awesome &roid ベース、musitライター

タツル
Awesome &roid ヴォーカル/ギター

ショータロー
カメラマン

シバ
Awsome &roid スタッフ

ケイシー・デイツ
The Velvet Teenのドラマー/Awsome &roidのアメリカ・ツアーのサポート・ドラマー

ルームメイトT
Aタウンにあるケイシー宅のルームメイト/台湾人

* * *

8月14日

今日はついにAwesome &roid初となるアメリカでのライブ1日目だ。これまで散々遊び回っていたので、我々がなぜアメリカに来たのか忘れてしまった人もいるのではないだろうか。私たちはアーティストとして、ライブをするためにアメリカに来た。急な事情でサポート・ギターのタカヒロの到着が遅れるため、今日のライブはケイシーを迎えて3人で行う。日本でもやったことのない編成に緊張はするが、毎日練習もしたしあとは楽しむだけだ。

Awesome &roidとケイシー

ケイシーとショータロー@スタバ

準備をしてライブ会場に向かう。その前に、私たちはある所に向かっていた。会場近くにある《ローズ・ボウル・スタジアム》で、1ヶ月に1度、大規模なフリーマーケットが開催されているという情報をケイシーとTに教えてもらい、せっかくなので観光がてら遊びに来たのだ。《ローズ・ボウル・スタジアム》はカレッジ・フットボールの会場として有名で、カリフォルニアで最も古く、1902年からあるらしい。100年以上前から親しまれている建物に敬意を払う。

ショータローとシバ@ローズ・ボウル・スタジアム

フリーマーケットというから近所のお祭りくらいを想像していたが、とんでもない規模で、会場はフェスでもやるのかってくらいの人で埋め尽くされていた。店も全国各地から様々な業種が集まっており、古着はもちろん、骨董品やレコード、家具やおもちゃまで、ありとあらゆる物が売っていた。タツル、ショータロー、シバは古着の中で掘り出し物を探そうと見て回っていたが、私はあまり服には興味が湧かなかったため、別行動をしながら骨董品やレコードを探していた。

私は昔のチラシや新聞、切符といった、普通なら残っていないような当時の情景が分かるアイテムを集めるのが好きだ。ここにもそんな物がないか探していると、1930〜1960年代に実在したレストランのメニューに描かれていたポップアートが売られていた。当時は印刷技術が今ほど栄えておらず、活版や版画印刷を用いており、その原画を使ったポスターやポストカードが販売されていた。要はレプリカなのだが、1900年代の実在したレストランのデザインなどに興味が沸いた。こういう店に来ると私は端から端まで見て回らないと気が済まず、1人で30分以上はそこにいた。

メニューアートはシンプルながらも目に付くデザインで、私は特に気に入ったデザインのポスターを2枚買うことにした。本当は際限なく買ってしまいそうだったのだが、1枚50ドルとなかなか高価だったため、めちゃくちゃ悩んだ。当時のデザインの物ではあったがレプリカだったため、私のコレクション的には少し外れていたのだ。しかし、この機会を逃せはもう手には入らないという確信があったため、私は1930年代にニューヨークにあったという《Grand Central Penguin》と、1940年代にあった《Pan American Clipper Service》という店のメニューデザインを購入した。

その後もレコードを見たり、誰が買うのかも分からない謎の置物を買ったりと1人ながら楽しんだ。ちなみに謎の置物は本当に謎で、気味が悪くなったため友達にお土産としてあげた。喜んでいた。

謎の置物

気付くとみんな別行動をしていたらしく、ショータローと合流。2人でレモネードを飲みながらタツルとシバを探したが、見つかる気配もなかったので先に車に戻ることにした。無事に4人合流することができ、私たちはケイシー宅に戻り最後のリハーサルを終え、ライブ会場があるベンチュラへ向かった。

ベンチュラはケイシー宅があるAタウンから2時間ほどの海沿いの町だ。LAの北側に位置するためか、市内よりも風が冷たく、夜は寒いくらいだった。同じ州でも少し北に行くだけでここまで気温が違うのかと驚いた。逆に内陸に行けば10度は気温が違うのだから、大きい国だ。

オーシャンサイド、ロングビーチと海沿いの町をいくつか回ったが、私はベンチュラが一番好きかもしれない。寒いせいもあって海水浴客はおらず、町全体に落ち着いた雰囲気が漂っていた。大通りでは路上パフォーマーが演奏をして、人々はコーヒーを飲みながらその演奏に聴き入っている。町の真ん中には古い映画館がシンボルのように建っており、夜はレトロな照明で町を明るく照らしていた。

映画館とショータロー

ライブ会場はそんな町の商店街にあるイベントスペースだ。普段は展示会などで使用されるような場所で、もちろんスピーカーやアンプ、楽器は全て持ち込みだ。前回、地元のローカルショーを見た時と状況が似ていた。やはりアメリカではD.I.Yショーが基本なのだろう。あらかじめ知れてよかった。

今回イベントを組んでくれたのはタツルの友人のOUTWESTというバンドで、ドラムやスピーカーなど一式貸してくれた。本当にありがたい。

防音も特にされていないイベントスペースで音を出して、苦情が来ないのだろうかという心配があった。日本ではまずあり得ない、一発シンバルを鳴らしただけで警察が来るだろう。だがそんな心配をよそにリハーサルから轟音を出すOUTWEST。心配は無用のようだ。Awesome &roidは2番手。

イベントのフライヤー

まだ少し時間があったため、ショータローとケイシーと3人でコーヒーを飲みに行く。ついアイスコーヒーを頼んでしまったが寒い。しかもテラス席に座ってしまったものだからガタガタと震えた。ケイシーとショータローは平気な顔をしている。体が大きいから寒さに強いのかもしれない。

近くに楽器屋やレコードショップがあり寄りたかったのだが、どこも17時には閉まっており残念。次の機会があればもっと早く来て散歩をしたい。

会場に戻るとOUTWESTが会場を大いに盛り上げていた。ユースクルー・ハードコアを彷彿とさせるサウンドにスピード感のあるドラムでこちらの体温も上がる。会場もステージなどはなく、客とバンドの境界線も曖昧で、D.I.Y精神が伝わってくる。本場のアメリカン・ハードコアを体感することができた。

OUTWESTには、イベントを組んでもらい機材も用意し1番手で会場を温めるという、これ以上ないもてなしを受けてしまった。いつか恩返しをしたい。これは下手なライブはできないなと気合が入った。

そしてついにAwesome &roidの出番だ。セッティングし軽いサウンド・チェック。タツルと目が合う。アメリカでライブをするのはAwesome &roid結成時からの目標だったが、まさかこんな形でこんなにも早く叶うとは思わなかった。「楽しもう」と彼が言う。日本でもアメリカでもスタンスは変わらないなと笑ったが、肩の力は抜けた。

ケイシーと目が合う。彼はいつだって落ち着いている。私が拳を突き出すと笑ってグータッチをしてくれた。言葉は通じないがケイシーと楽器を通じて分かり合えていると思うと嬉しい。音楽って素敵だな。

そしてライブが始まった。

1曲目は私たちの十八番「Yesterday」。最初は棒立ちで珍しいものを見るような目をしていた観客も、少しずつ表情が柔らかくなってゆく。続けて普段のライブでも盛り上がる「Minecraft」「Torigger Words」が終わる頃にはバンドと客の間に壁はなくなり、私の緊張の糸もいつの間にか解けていた。

正直、日本のライブよりも断然盛り上がっていたと思う。彼らは良いと感じれば全身で表現する。私も含めて日本人には静かにライブをみたいタイプが多いから、そういうところはさすが外国だ。最後の曲「Michiko」ではモッシュまで起きた。英語で歌うバンドにとってアメリカでライブをするというだけでも光栄に感じるのに、ここまで盛り上がるとは想像もしていなかったため本当に嬉しかった。認められた気持ちになった。

ライブが終わって他のバンドをぼーっと見ていると、たくさんの人に声をかけられた。何を言っているのかはよく分からなかったのだが、私たちの演奏を褒めてくれているのは表情や固い握手でわかった。日本から持ってきたTシャツやCDなどもほとんどなくなってしまい、驚いた。もっと持ってくればよかったのだが、正直ここまで反響があると思っていなかったため仕方がない。

ライブが終わり撤収作業をする。タツルは私の分まで関係者や対バンしてくれたバンドマン、来てくれたお客さんと話してくれていたので、私が機材を片付けてケイシーの車まで運んでいた。

その時、事件が起きた。

通りを抜ける時に人とぶつかりそうになり慌てて避けた結果、持っていたカウベルが思いっきり私の顔面に当たってしまったのだ。

幸い、他の人には被害がなかったので良かった。のだが、カウベルが当たった箇所から生温かい違和感を感じる。慌ててそれを手で拭うと真っ赤になっていた。唇の上の部分がカウベルに当たり切れてしまったらしい。すぐに着ていたTシャツで抑える。よりによって白いTシャツだったせいでどんどん赤く染まる。まるでハードコアのライブに参戦した過激なモッシュ客のような風貌になってしまう。ライブでも怪我をしなかったのにこんなくだらないことで怪我をするとは情けない。幸い、切ったのは唇で、血はたくさん出たが傷は深くなかったため、水道で洗い綺麗な布を当てていたら血は止まった。

最後にOUTWESTや他のバンドにも挨拶をしたかったが、血だらけのTシャツを着て口から血を出しているような人間と話したくないだろうと思い、タツルに任せて車で待っていることにした。

そんなトラブルもあったが、ライブは無事(?)大成功で終えることができた。

私たちは帰り道にあった《レイジードッグ》というレストランに寄り、簡単な打ち上げをした。ビールが美味い。出血のせいで不足した鉄分を補うために奮発して200ドルのステーキを食べたが、傷に染みてあまり味わえなかった。残念。

ケイシーから「普段は大人しいのにライブだとかなりファンキーになるから面白いね」と褒めてもらった。実は二重人格なんだよと神妙な顔で話すと、なるほど。。と信じかけてたので慌てて訂正する。実際、私のことを二重人格なのでは、と疑っている人は結構いるらしい。だんだん自分でも否定できなくなってきた。

ケイシーの家に帰ると、まだルームメイトのTが起きて待っていてくれた。彼は医療関係の仕事をしているらしく、私の傷を診てくれて手当をしてくれた。「とにかく染みて痛いけどすぐに治る薬があるけどどうする?」と言われ、少し怖かったが早く治したかったのでお願いする。まあどんなに言っても眠れないほど痛くはないだろうと高を括っていたが、本当に染みた。口を動かすと痛みで涙が出そうになる。これは眠れないかもしれない。。そんな心配をしていたが、体力の限界を迎えていたのであっという間に眠ることができた。

少しのトラブルもあったが無事にライブができてよかった。私たちにはあと1回のショーが残っている。次も成功できるように頑張らなくては。

* * *

Goseki