【紀行】編集部・對馬の北海道出張 part.2/駿河屋ディグとサケの聖地

【紀行】編集部・對馬の北海道出張 part.2/駿河屋ディグとサケの聖地

musit編集部の對馬が、11月13日から14日にかけて敢行した札幌出張。地元でRingo Deathstarrのライブを観られた感動を噛み締めながら迎えた2日目、その模様の一部始終をここに記しておこうと思います。

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11月14日(月)

フッ、と目覚めるとテレビは当然、付けっぱなし。ノソノソとベッドから起き上がり、シャワーを浴びてPCに向かったが、あっという間にチェックアウトの11:00を迎え、急いで支度してホテルを出た。今日も雨。ちょいと気持ちがダウナーになったが、とある目的を果たすために再び『ノルベサ』へ向かった。まずはここで「駿河屋ディグ」に臨む。

昨年帰省した時に知ったのだが、ノルベサの3階には巨大な『駿河屋』ができており、そのフロアのほとんどのテナントが駿河屋で埋め尽くされていた。フィギュアやホビー、CDや映像ソフト、アイドルのグッズなど各ジャンルごとにざっくりコーナーが分かれている(イメージとしては『中野ブロードウェイ』内の『まんだらけ』の各店舗みたいな)。あまり時間もなかったため、邦楽CDのみに絞って舐めるように見た。その結果購入した4枚のCDをさらっと紹介したい。

喜多郎『大地/フロム・ザ・フル・ムーン・ストーリー』

ビクターインビテーション
1990/06/21

70年代から活躍するシンセサイザー奏者/作曲家にして、グラミー賞の受賞経験もある世界的なアーティスト、喜多郎。1980年にNHKのドキュメンタリー番組『NHK特集 シルクロード』の音楽を担当したことで一躍名の知れた存在となったが、本作はその前夜とも言える1979年発表のアルバム(購入したのは再発盤)。喜多郎の作品はニューエイジのコーナーに複数枚刺さっていたが、その中から最もジャケットのデザインに惹かれた1枚をチョイスした。

『大地』というタイトル通り、広大な自然、そして宇宙の神秘的な景色が目の前に展開されるようなサウンドは、数多のシンセサイザーと多重録音を駆使して構築されており、これが40年以上前の音なのかと驚く。クラウス・シュルツェとも近いサウンド・スケープだと感じたが、実際、喜多郎自身もシュルツェとの出会いがシンセサイザー奏者として歩み出したきっかけになっているらしい。いやしかし、アルバム自体はストリーミングでも聴けるのだが、CDを買って良かったと思うのは、ブックレットに収録されたライナーノーツがやたらと詩的で読み応えがあるという点だろう。

石井ゆき『Fantastic Voyage』

アイノクス
1998/03/04

モーニング娘。やCHEMISTRYなどを輩出した、テレビ東京系の伝説的番組『ASAYAN』のデビュー予備軍ユニット、AIS出身の石井ゆきによるソロ・デビュー・アルバム。とはいえ私は『ASAYAN』をリアルタイムで観ていたわけではなかったので、頭にケーキ(?)を乗っけて口の周りにクリームを付け、そこにアリが群がる……という謎センスのジャケットに妙に惹かれてしまい購入(CDジャーナルのミニ・レビューには“ビジュアルの見せ方が弱いので損をしているが歌はウマイし、いいもの持ってそう。”と書かれているが、同意できてしまう)。

本作はDA PUMPの黄金期を支えたことでも知られるm.c.A・Tこと富樫明生がプロデュースを担当、その力の入れようが窺えるが、M1「Lovin’ You」からドラムンベースが炸裂し思わず宙を仰ぐ。さらに、M5の本作収録曲が数曲ミックスされた「The Remix Time」では無条件でダンスフロアと化す。大人たちが本気で遊んじゃってる感じがとにかく痛快。同時代の女性アーティストで言うと篠原ともえと近い雰囲気を感じなくもない。ちなみに富樫明生は札幌市出身らしい。マジか。

エスタシオン『少女歳時記〈冬〉』

qbism
2015/12/02

ワールド・スタンダードのメンバーとしても知られるプロデューサーの鈴木惣一朗と、ピアノの弾き唄いで活動するSSWの南壽あさ子による“季刊”限定ユニット。エスタシオン(estación=スペイン語で「駅」)というユニット名、『少女歳時記』というタイトル、そして花束を持って海辺に佇むジャケット、手に取った瞬間にそれら全てにグッときた。今回購入した中では最も新しい作品。

収録内容の大半がカヴァー曲だが、『少女歳時記』というのは国内外の唱歌やトラディショナル・ソングを日本語で歌うプロジェクトだとか。ピアノやアコギを主体とした至極シンプルで控えめなアレンジに南壽あさ子の柔らかなヴォーカルがハマっており、聴いていると優しい気持ちになれる。

永井真理子『やさしくなりたい』

ファンハウス(現:アリオラジャパン)
1992/02/26

80年代後半から90年代前半にかけて人気を博したシンガー、永井真理子。本作は90年にリリースし翌年の『紅白歌合戦』でも披露した代表曲「ZUTTO」や新曲も含むバラード・ベスト。例に違わず事前情報は一切知らない状態で、「この時代の女性アーティストの白黒ジャケットは大体良いはず」という超アバウトな感覚のみで購入。しかしこれがドンピシャで、情感溢れるヴォーカルと、それを活かすギターやピアノのアレンジが素晴らしい。平成初期の空気感がパッケージされたような音像も、平成4年(1992年)生まれの私にとってはどことなく懐かしく感じもした。そして、バラードだけを集めたベストを出すだけあって、彼女が屈指のバラード・シンガーであることが分かる。

ちなみにストリーミングでは一部のアルバムが配信されているが、本作収録の楽曲はいずれも未配信の模様。なお、今年の8月には30年前の横浜スタジアム公演を再現したライブ『Re-Birth of 1992』が開催されて話題となっていたようで、2023年1月にはアンコール公演も開催されるらしい。図らずもタイムリーだった。

……とまあ、ディスクユニオンやブックオフとも一味違う、思わぬ出会いがあった。ちなみにこの日は月曜日だったが、買取カウンターには平日の午前中にも関わらず長蛇の列ができており、「おうち時間」以降のリユース需要の高さを垣間見たような気がした。

知識あるサケ、聖地に立つ

さて、次なる目的地へ向かうために札幌を発つ。というのも実は、ひっそり更新されている『musitTV』のスピンオフ番組『酒られない話』で使用するおつまみを探す、という任務を託されていた。私は新千歳空港の2つ手前、千歳駅から徒歩20分ほどの場所にある道の駅『サーモンパーク千歳』と、同じ敷地内に併設される『千歳水族館』に向かった。昨日の寿司屋でも1皿目にサーモンの握りを食べていたように、私はサケに目がなく、そういう意味でも両施設の訪問は個人的にも楽しみだった。

まずは空腹を満たす。『サーモンパーク千歳』内にある『Go coo』というアジア料理店のザンギがやたらと美味そうだったので入った。どうやらここでは札幌の中国料理の名店『布袋』のザンギが特別に提供されているらしい。1人だし3つくらいで良いかなと思い注文してみたら、想像以上のサイズで若干焦る。

しかし一口食べてみると、衣はサックサクで、その中にギュッと閉じ込められた肉汁が噛む度にじんわりと溢れ出てくる。特製のたれ(酢醤油ベースのネギだれとのこと)も相まって口当たりは意外とあっさりとしており、ぺろりと平らげてしまった。

※『布袋』のザンギについては公式HPに詳細の記載あり。
https://zangihoteigroup.com/blog/20210811192316-851/

ちなみにサケのほぐし身がピャーッとまぶされたチャーハンも注文。サーモン好きに死角はない。しかもこの日はマスクの色もサーモンピンクだった。もう一度言おう、サーモン好きに死角はないのだ。

少し休憩して、いざ水族館へ。この『千歳水族館』は千歳川のすぐそばに立っており、周辺に生息する魚介類を展示しているだけでなく、なんと川の断面をガラス張りにして、水中を泳ぐサケたちを直近に観察できるようになっているのが特徴。ゆえにDJネームとして「知識あるサケ」を名乗る私にとっては聖地も同然なのだ。

なお川を覗き込むと(写真だと少し分かりにくいが)サケの群れを上から確認することもできた。さすがサケの街、千歳である。

実はこの場所にはかなり昔に一度来たことがあり、川の水槽も見たのだが、時期的にサケが1匹も泳いでおらず残念だった記憶がある。しかし今回はちょうど旬の11月、産卵のために遡上してきた大勢のサケを目の当たりにし、とても感動した。

しかし彼らは命がけ。中には遡上の果てにボロボロになった個体もいて、心が痛んだりもした。こうして彼らが子孫を残してくれるおかげで、我々の食卓も彩られる。感謝の気持ちを忘れずに食したい。

遅延こそ旅の醍醐味?

今思えば、電車が遅れていたのは「前兆」だったのかもしれない。何気なしにスマホに目をやると、飛行機の遅延を知らせるメールが届いており、目を疑った。2時間近くも出発が遅れるというのだ。成田空港から自宅までの電車の時間も含めると、家に着く頃には余裕で日付を超える。さてどうしたものかと考えていると、例の初日に入れ違ったSuiseiNoboAzファンの友人からLINEが入った。もしかしたら帰りの新千歳空港で一瞬会えるかもしれない、という話をしていたのだが、飛行機の遅延により時間ができたため、どうやら実現しそうなのだ。不幸中の幸い、ということにしよう。

彼はディスクユニオン時代の後輩で、私が書いた店頭ポップを見て『3020』を聴いてからボアズにどハマりしており、ついには北海道から大阪までライブを観に行くという熱の上げっぷり。晩ご飯やお土産を見て回りながら近況について語り合っているうちに時間となり、別れを告げ、私は保安検査場へと向かった。搭乗ゲート付近で気持ち程度の作業をしたあと、飛行機に乗り込む。

家に帰るのは予定よりもだいぶ遅くなるが、有意義な時間を過ごせたという充実感で、ストレスはむしろ半減されていた。しかも早い便に乗り換えた人が多いのか空席が目立ち、図らずも快適なフライトとなった。機内で2日間の出来事をメモにまとめ、残りの時間は音楽を聴いて過ごした。

さらに、乗客の少なさゆえに乗降もスムーズだったらしく、予定時間よりも前倒しで新千歳空港に降り立つことができた。完全に結果オーライだが、これも旅の醍醐味というものだろう。いや、正直「旅」と言えるほどゆっくりはできなかったが、地元で仕事をすることができて嬉しかった。近いうちに、必ずまた。

對馬拓