Gosekiのアメリカ徒然探訪録:Day 20

Gosekiのアメリカ徒然探訪録:Day 20

帰国目前。Awesome &roidがアメリカ・ツアーの2日目に臨む。前回に引き続きサポート・ドラムにケイシーが、そしてサポート・ギターには我らがタカヒロも参戦。パワー!

主な登場人物

ゴセキ
Awesome &roid ベース、musitライター

タツル
Awesome &roid ヴォーカル/ギター

ショータロー
カメラマン

タカヒロ
Awsome &roid サポート・ギター

ケイシー・デイツ
The Velvet Teen ドラマー/Awsome &roid アメリカ・ツアーのサポート・ドラマー

トラヴィス・ダンバー
Sad Girlz Club ベース

* * *

8月20日

今日はついにAwesome &roidカリフォルニア・ツアー2日目にしてファイナルだ。今回はショータローと親交のあるバンド、Sad Girlz Clubのベーシストのトラヴィスがイベントを組んでくれた。場所はサンディエゴの《Til-Two Club》というライブ・バーのようなところで、奇しくも私たちが最初に降り立った地、サンディエゴでのライブということで高揚した。朝一で軽く練習し、セットリストの確認をする。タカヒロが加わったことで曲の練度も数段上がっていた。本番当日に本格的な練習をしても良いことがないので、早々に切り上げて朝食を食べる。

パワー!

サンディエゴへ向かう前に、私たちにはやらなくてはいけないことがあった。日本へ帰る手続きのためのPCR検査だ。飛行機に乗る72時間前に必ず受け、陰性の証明書をもらわなくては飛行機に乗れないのだ(現在は規制が緩和しPCR検査は不要になったらしい)。検査をするためだけにロサンゼルスへ行かなくてはいけない。しかも検査費用として1人1万円以上取られるのだから酷い話だ。

検査会場は航空会社が用意しているもので、ダウンタウンのホテルの一室で行う。私たちの他にも数人の日本人がいた。私はこれまで1度もコロナに感染したことがなかったため、今回が初めてのPCR検査となる。噂では綿棒を鼻の奥の奥、脳みそまで届くのでは?というくらい奥に突っ込まれるらしいので、細心の注意と警戒、そしてあきらめを胸に秘めながら会場へ向かった。

結果から言うと、綿棒は脳みそどころか鼻孔部分を数回撫でるだけだった。しかも驚くのはその作業を被験者本人が行うのだ。やろうと思えばいくらでも不正できそうだし、方法が正しいのかも分からないが、とりあえず教わった通りにテストをする。これでいいのだろうか。帰国に際してPCR検査が必要な国は日本だけらしく、検査場のスタッフにも日本人が多かった。思い返せば他の被験者も含めてこんなにたくさんの日本人に会ったのはアメリカに来て初めてだった。私たちを除いて10人ほどだったが、この時期にアメリカにいた者どうしとして、なんとなくの親近感を感じた。

PCRの結果は24時間以内に届く。この結果次第では日本に10日間帰れなくなる。しかも陽性者が私1人だった場合、1人で残らなくてはいけないのだから緊張が走る。検査結果に不安を抱きながらもなんとか検査を終わらせ、一度ケイシーの家へ戻る。機材の準備をし、いよいよライブ会場のあるサンディエゴへ向かう。今回もケイシーの車で3時間ほどのドライブだ。ドラムも叩かせるし運転もさせるしで鬼畜の所業だ。

途中休憩も入れつつ車を走らせていると、先ほどのPCRの検査結果がメールで送られてきた。思っていたよりも早い。緊張の瞬間。結果次第では帰国どころか今日のライブもできないのではないだろうか。覚悟を決めてメールを開く。メールの文章には大きく「ネガティブ(陰性)」と書かれていた。最初はネガティブの意味が分からず、「マイナス!? 陽性??」と誤解してしまったが、無事に全員陰性だった。これで心置きなくライブができる。

Til-Two Club前にて

本日の会場があるサンディエゴのライブ・バー《Til-Two Club》へ到着した。小さいながらステージもありスピーカーなども常設され、専属のPAもいた。アメリカに来てから小さい規模のライブは全てレンタル・スペースを使ったDIYショーだったため、この規模感のライブハウスを初めて見た。

中に入ると、これぞアメリカのバーという内装でテンションが上がる。現役で稼働しているジュークボックスを発見しさらにテンションが上がる。せっかくだから1曲かけてみようとよく見ると、見た目は昔ながらのジュークボックスだがモニターがついており、サブスクの画面から曲をリクエストするような仕組みになっていた。ジュークボックスも時代によって進化が必要なのだ。

Sad Girlz ClubのトラヴィスとAwesome &roid

会場には主宰のSad Girlz Clubが既にいたのでショータローに紹介してもらう。トラヴィスはショータローが1人で何度もアメリカに行くうちに仲良くなった友達らしい。改めて彼の人脈の広さには驚かされる。そして友達の頼みとはいえ全く知らない日本のバンドのためにイベントを企画してくれて、アンプやドラムなどの機材を用意してくれたSad Girlz Clubに感謝だ。ケイシーもバンドの繋がりでトラヴィスとは面識があるらしく、事前にケイシーからは「トラヴィスはアヒルのようだ」と言われていた。その時はどういう意味か分からなかったのだが、実際に会ってみるとなるほど、彼は本当によく喋る。しかも早口でグワグワとマシンガンのように話すので、確かにアヒルのようだった。

機材の搬入も落ち着き、《Til-Two Club》のマスターにも挨拶をする。彼は日本からバンドが来るのを楽しみしてくれていたらしく、店の至るところに今日のイベントフライヤーを貼ってくれていた。さらに「ウェルカムドリンクだよ!」と言って出されたお酒が日本酒だったのには驚いた。アメリカで日本酒を飲むとは思っていなかったからだ。しかも店内のテレビで日本の伝統的アニメ映画『となりのトトロ』を流し始めたのだから思わず笑ってしまった。アジアのバンドなんて誰も見向きもせずに冷たくあしらわれるのではないかとビクビクしていたため、熱烈な歓迎に思わず泣きそうになってしまう。

会場準備が整いライブが始まる。1番手はMatt Caskittによる弾き語りだ。彼は店の常連らしく、よくここで歌っているようだ。一見ただのおじさんなのだが、歌い出すとその歌唱力の高さに驚く。古き良きアメリカのカントリー・フォークを彷彿とさせていた。

アメリカはただのおじさんでもこんなに上手いのか、とステージの近くで興味深くライブを観ていると、MCで話しかけられてしまった。周りにタツルやショータローはいない。相変わらず言葉の意味は分からないが、なんとなくニュアンスで「アメリカに来たのは何度目なのか」と聞かれていると分かり、私は「First Time!!」と答えた。伝わったのか、果たして聞かれている質問の答えとして正解だったのか分からなかったが、彼は満足そうな顔をして次の曲を演奏し始めたので良かった。この数十日で何万回と思ったことだが、次にアメリカに来る時までにはもう少し、せめて挨拶だけでも気軽に英語で話せるようになりたいものだ。

弾き語りが終了し、いよいよAwesome &roidの出番だ。これで私たちのツアーも終わってしまう。悔いのないライブをしなければいけない。気が付くとホールはたくさんのお客さんで溢れていた。

サウンドチェック中

ほとんどはSad Girlz Clubの客だが、私たちを観に来てくれた人も少なからずいた。その中にはタツルの前身バンドから親交もあり、来日した際にAwesome &roidとも対バンしたSmallsのアシュリーも来てくれていた。日本で仲良くなった友達とアメリカで再会できるなんて、まるで強力な敵を前に過去の仲間が集結してくれているかのような安心感がある。

そしてライブが始まる。ステージは、立つと観ていたよりもさらに狭く感じた。メンバーの心臓の音が聞こえてくる感覚がしたが、それは自分の鼓動だった。自分が緊張しているのすら気付いていなかったのだ。既に一度アメリカでのライブを経験しているが、あの時とはまた違った雰囲気が私を飲み込もうとしてくる。落ち着かなければいけない。経験上、気持ちが浮ついている時には良いライブはできない。だが既にタツルは客に向けて挨拶をしている。あと数秒でライブが始まろうとしている。

このまま始めるしかないのか、と半ば諦めながらケイシーの方へ目を向けると彼はすっと拳を差し出してきた。そうだ。前回のライブでやった彼とのグータッチを忘れていた。お互いの拳を突き合わせる。ケイシーの力強さが拳を通して私の心臓まで届き、気付けばうるさいほど高鳴っていた心臓の音は落ち着いていた。

その瞬間、タツルの演奏からアルバムのリード・トラック「Yesterday」が始まる。今回はタカヒロもいる。彼がいるだけでサウンド面での安心感が違う。ケイシーとの波長も前回よりずっと合う。10日以上一緒に寝食を共にしていく中で、友情にも似た感情が芽生えていた。

最初は棒立ちで観ていた観客も次第に表情が緩み、どんどん会場の熱が上がっていくのが分かった。前回のベンチュラ(Day 14)もそうだったが、Awesome &roidのライブは日本よりアメリカの方が断然盛り上がる。タツルの英語が海外でも通用するのが分かり嬉しく思う。そしてそれだけではない。きっと私たちの演奏やパフォーマンスもここで通用しているのだ。観客の声援がそのことを教えてくれているように感じた。それが何よりも嬉しかった。

気が付くとライブは終わっていた。

終わってしまった。

もしかしたら今までのライブで1、2位を争うレベルで楽しく、興奮したライブだった。ステージを降りるとたくさんの人から賞賛の拍手をもらった。私の方まで駆け寄って握手をして感想を伝えてくれた。言葉が分からなくとも、それが賞賛だということは誰にでも分かるだろう。それほどの固い握手だった。持ってきていたCDやTシャツも全て売れてしまい買えなかった人が残念がり、必ずまた来てねとチップをくれた。こんなに幸せなことはない。

マスターも気に入ってくれたようで、また日本酒をご馳走してくれた。さらに日本酒でできた炭酸ゼリーのようなものを出してくれたのだが、私以外のメンバーは飲まなかった(食べなかった?)ため1人で4つ食べる羽目に。美味しかったが、普通にアルコール度数が高いのでフラフラになってしまった。

Sad Grilz Club

そしてトリのSad Grilz Clubの演奏が始まる。女性ヴォーカルのガレージ・パンクという感じで、バーのステージがよく似合うバンドだった。サイコビリーのような雰囲気もあり、聴いているだけで自然と肩が揺れる。先日観たSuzie TrueやDiva Bleachなどもそうだったが、今アメリカではガレージ・ロックのようなサウンドが流行っているのかもしれない。THEティバなんかがカリフォルニア・ツアーに行ったら面白いだろうな。

Sad Girlz Clubの演奏も終了し、店はバー営業となる。その後もたくさんの人が話しかけてくれて嬉しかった。Smallsのアシュリーも良かったと声をかけてくれた。今は音楽活動をやめていた彼女だが、Awesome &roidのライブを観てまた心に灯がともった、と言ってくれて嬉しかった。

ここで、なぜか長野に住んでいた経験があるというアメリカ人女性が流暢な日本語でタカヒロを口説いているのを目撃する。彼は日本よりアメリカの方がモテるのかもしれない。

なぜか口説かれるタカヒロ

もっといろんな人と話したかったのだが、この後ケイシーが友達のライブを観に行く用事があるというので、そろそろ行かなくてはいけなかった。なんとSad Girlz Clubも別の会場でこの後ライブがあるらしく、同じタイミングで解散することになった。私たちは再度トラヴィスや他のバンド・メンバー、そして《Til-Two Club》のスタッフへお礼を言い、会場を後にした。

車でサンディエゴのダウンタウンへ向かう。ケイシーの友人のバンド、Emeryがダウンタウンの《House Of Blues》でライブを行っているらしい。《House Of Blues》は旅の前半でNew Found Gloryのツアーを追っていた時、アナハイムにもあった老舗のライブハウスだ(Day 5参照)。つまりNFGと同じ規模のバンドということになる。改めてケイシーはすごい人だったのだと驚いてしまう。元々ケイシーのバンドのThe Velvet Teenも知っていたし、彼がどれほど偉大なドラマーかということは分かっていたつもりだったが、この数日共に生活し、良い意味で彼を身近に感じていた。

ケイシーがライブを観に行っている間、私はタカヒロと2人になってしまった。ショータローはケイシーと一緒にライブを観ることにし、タツルは単独でライブを観に行った。私とタカヒロは疲れてしまい、誰かのライブを観る気力がなかったため、2人でご飯を食べに行くことにした。だが、夜のダウンタウンでまともに英語を話せない日本人2人というのは圧倒的に危険だったし、そんな勇気はなかった。悩んだ末に《House Of Blues》の1階に併設されたレストランに行くことに。本来ならチケットを持っている人しか利用ができないらしいのだが、ケイシーが店に交渉してくれたおかげで大丈夫だった。

タカヒロと2人でビール、のはずが…

とりあえずここでビールでも飲んでケイシーとショータローを待つことにして、席に座りウェイターを待った。しかし、一向に注文を取りに来ない。タツルから事前に、こういったレストランのような場所では大きい声でウェイターを呼ぶのはマナー違反だと教わっていた。アイコンタクトで察して来てくれるから無理に呼ばずに待っている方が良いらしい。嘘か本当か定かではなかったが、確かに周りを見渡しても大声を出している客はおらず、ウェイターも率先して客に注文を聞いていたため、私たちは待ってみた。もちろん熱烈な視線を常にウェイターに向けながら。

しかし彼女たちは一向に私たちのところには来てくれない。なんなら目が合っても見なかったことにされてしまっている気がする。もしやこれがアジア人差別かと疑いたくもなる。もしかしたら向こうも向こうで呼ばれなくて焦れったいと思っているのかもしれない。「あの日本人たち、注文もしないでずっとこっち睨んでる。きも!」と厨房で話し合っているのではないか。そうなれば声をかけて呼べばいいのだが、こんな時、英語でどう言えばいいのか分からない。中学の教科書に出てきそうなシチュエーションなのに何も思い浮かばず、私は己の無知を恥じた。

そんな時、チャンスが訪れた。ウェイターの1人が私たちの座っている席の近くの皿を片づけ始めたのだ。なんならその時にも目があったような気がするが、やはりこちらに来てはくれない。だがこの機を逃せばもうチャンスはないと思い、私は意を決して「Excuse me?」と店員を呼ぶ。「May I have a menu?」と聞くと、やっとメニューを持ってきてくれた。正直これが正しい方法だったのかは分からないが、意味は伝わったのだから良かった。その後とりあえずビールと適当なつまみを注文することに成功した。

タカヒロは相変わらず自分では注文しないため私が代わりにやった。注文した後、私に「“May I〜?”だと丁寧過ぎて素人っぽくなるから“Can I~?”の方がいいんだよ」とYouTubeで仕入れたらしい情報を得意げに指摘してきて少し腹が立った。自分では注文しないくせに、どの口が言っているのだろうか? だが彼に悪気はなく、天然ゆえの発言だというのは分かっていたので許した。

アメリカのメニューには写真が載っていない。そのため文字だけでどんな料理か想像しなくてはいけないので、知らない名前の食べ物を頼むのは博打だ。私たちはビールと一緒にメニューの「Appetizers(おつまみ)」という欄からなるべく安く、なるべく美味しそうな名前の食べ物を注文した。おつまみの欄にあるのだから大概のものはビールに合うだろうと高を括って、それがなんなのか特に調べなかったのだが、なぜか想像とは遥かに違う、蒸しパンみたいな料理が運ばれてきた。ほのかにチーズの香りがして甘い。そして恐ろしくパサパサなその料理は、どうあがいてもビールには合わなかった。パサパサの蒸しパンをビールで無理やり流し込む。

私もタカヒロもライブでヘトヘトな身体で蒸しパンがのどを通るわけもなく、奮闘はしたが結局残してしまった。仕方がないので再度ウェイターを呼び、ジェスチャーと拙い英語でテイクアウト用のトレーをもらうことができた。これは私にとってはかなりの快挙だ。選んだ料理は失敗だったかもしれないが、自分で店員に話しかけてメニューをもらい、分からないなりに注文し、テイクアウトのトレーも手に入れることができ、私はとても満足した。少しではあるが、この数十日で確実に成長できているような気がする。誇らしくもあった。

その後、ライブを観終えたケイシーとショータローと合流し、タツルを迎えに行く。タツルはSad Girlz Clubの2度目のライブを観に行っており、到着した頃にはトラヴィスとさらに仲良くなり談笑していた。タツルのコミュニケーション能力と英語力には驚かされる。ライブのMCも全て英語で話し、しっかりと笑いを取っていた。もしかして日本語で話すより英語の方が得意なのではないかと疑ってくる。

トラヴィスと再会の約束をして2度目のお別れをした。また日本に招待する予定のバンドが増えてしまった。彼らが日本でライブをしたいと言ったときは精一杯のお礼をこめてエスコートしなくては。

タツルと合流した時点で日付はとっくに変わっていた。これからロサンゼルスに帰るのは少々無理があるため、今日はサンディエゴのモーテルに泊まることにした。これが今回のツアー最後のモーテルだ。ケイシーとショータローは別部屋、私とタツル、タカヒロは3人で1部屋。もちろんベッドは2つしかない。これが最後のタツルとのベッドシェアになるだろう。この旅で何度も同じ布団で寝た私たちに、もはや抵抗はなかった。

濃すぎる1日が終わった安堵で私たちは横になった途端に寝てしまった。この感覚はどこかで経験したなと思い出す。アメリカに来た最初の日も気絶したように寝てしまっていた。奇しくも最後のモーテルが始まりの地であるサンディエゴになるとは、なにか運命的なものを感じた。

アメリカにいる日もあと1日となった。まだ実感が湧いていないが、やり残したことや後悔は微塵もなかった。

* * *

アメリカ旅行の中でGosekiが感じた現地のCD事情は、musitのZINE『(W)AVE』Vol.2にて。発売中!
*商品URL:https://store.dandy-music.com/product/musit-wave-vol2/

Goseki