『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』──ジャック・スパロウが確立した無敵のヒーロー像

『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』──ジャック・スパロウが確立した無敵のヒーロー像

ジャック・スパロウ──おそらく彼は、世界中で最も愛されている海賊だろう。

金曜ロードショー(日テレ系)で今夜地上波放送される『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』(2003)は、同名の人気シリーズ1作目にあたる作品だ。ジョニー・デップ扮する海賊のジャック・スパロウが、奪われた海賊船・ブラックパール号を取り戻すため、ひょんなことから出会った提督の娘・エリザベス、鍛冶職人のウィルと共にアステカの金貨にまつわる伝説に関わっていくストーリーを描く。

冒頭に記したように、本作の主人公であるジャックは海賊として物語上にとどまらず現実世界でも名を馳せ、子供から大人まで幅広い世代に愛されているキャラクターだが、その様相は他作品のヒーローたちとは大きく異なる。アメコミを原作とするマーベル・シネマティック・ユニバースやDCユニバースではスパイダーマン、バットマン、スーパーマンなどが登場し、彼らも多くの支持を得ている。しかしジャックは彼らが属するヒーロー・タイプのどれにも当てはまらないキャラクター造形であることが特徴だ。

口先が巧みで誘導に長け、時には仲間をも裏切り、自陣に有利な駒進めをするジャックだが、なぜシリーズ屈指のヒーローとして公開当時から人々に愛され続けているのだろうか。彼の行動、そして周囲の言動などから考えてみたい。

まず挙げられるのは、ヒーローとして欠かせない要素ともいえるカリスマ性だ。『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』において、ジャックの存在は伝説化しており、その伝説を知る海賊たちからは畏敬の念を抱かれている。魂を分けたといっても過言ではない自身の船、ブラック・パール号を愛し、船を取り戻すために姿を現した彼には登場時、持ち船も乗組員もいなかった。しかし彼と共に航海がしたいと志願する海賊たちが集まり(そこには「船に乗せると不吉とされる」女性もいたが、ジャックは彼女を船に乗せた)、再び大海へ乗り出す。

その中の1人であるジョシャミー・ギブスはジャックの右腕的存在である航海士で、例え窮地に追いやられても船長のジャックを信頼し、傍を離れない。交渉や駆け引きで裏切りがまかり通るような世界だが、そんな中でも船を愛し、信念を貫き、プライドを捨てないという柱を立て、海賊とは何たるかを体現している人物こそがジャックなのである。

海賊、というGood old(古き良き)な存在に対し、観客が求めているのは目新しさよりも通説通りで古風な、且つ強烈な印象のフックを与えられるキャラクターである。ジャックはそんな観客たちの願望を叶え、カリスマ性を放ちながら人々の鑑賞欲を力強く牽引していくキャラクターだからこそ愛される存在なのではないだろうか。

またこの点に関してもう少し掘り下げた言及をするならば、ジャックは勧善懲悪でマジョリティな正義を掲げる人物ではない、という見方ができることにも触れておきたい。

先に挙げたように、彼は時に保身のために動くこともあり、また敵の懐に潜り込み味方のふりをして物事を巧みに進めていくこともある。トリッキーで狡猾な面を持つ主人公というのはこれまでにも登場しており──先に挙げたマーベル・シネマティック・ユニバースでいえば、2016年からシリーズ化されている『デッドプール』シリーズの同名主人公がその一例だ──彼やジャックのような主人公は正統派ヒーローの枠には当てはまらないという考えもあるだろう。

しかし正統派ではないにしろ、ジャックは劇中で自分もあずかり知らない内に人を救っている。ジャックの口車に何度も翻弄されたエリザベスたちだったが、確かに両者の間では救った者、救われた者としての関係が成立しており、それはジャックを終盤で一気にヒーロー然とさせる(与えられた情を飄々とかわし、まるで自分は何もしていないという顔をするのも全くもって彼らしい)。

よって筆者はジャックに対し、アンチヒーローでもダークヒーローでもない、アイロニック(皮肉的な)ヒーローと名付けたい。「Saavy?(お分かり?)」が口癖の、錆びたコンパスを持ち、「名前の先にキャプテンを付けろ」と口角を上げながら不敵に笑う海賊に、私たちはいつの間にか惹かれ、虜になっている。

最近ではシリーズ1作目から最終作にわたってジャックを演じたジョニー・デップが、闘病中の子供を勇気づけるためジャックに扮してビデオレターを贈るという微笑ましいニュースがあった。ビデオの中でのジャックも、お決まりの歌うような口上まじりの口調で少年を励ましており、変わらない船長の姿に喜んだ人々も多いはずだ。

ジャックに息を吹き込んだジョニー・デップに功労とリスペクトの念を贈るとともに、今後も多くの子供たち、ないし大人たちに愛され続けるであろうジャック・スパロウに陸の上から敬礼を贈りたい。

安藤エヌ