「物悲しい街に響き渡る、自らの内の溢れ出す渇望が生み出したエモーショナルシティポップ」をコンセプトに表現する4人組ダンス・ヴォーカルグループ、ユレルランドスケープ。グループの休止期間を経て、昨年4月に新メンバーを迎えて活動再開。来月9日には現体制1周年記念ワンマンライブ『MASTER PLAN』を控え、これからの活躍にますます期待が高まる。
そんなユレルランドスケープにとって、ワンマンライブの会場である代官山UNITは前体制の活動を終了した思い出の地。新たな4人で迎える1周年を前に、改めて結成から現体制に至るまでの歩み、そして来る『MASTER PLAN』に馳せる想いを聞いた。
〈L→R〉雅春奈/麦ゆき/空蝉さな/小野町子
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取材/文=すなくじら
写真=井上恵美梨
編集=星野
空蝉さな:空蝉(うつせみ)さなです。趣味は筋トレとランニング。学生時代から勉強よりも運動が好きで…大体ライブの音源2本分くらいは走ります。笑
雅春奈:ユレルラのリーダー担当、雅春奈です。趣味に入るのか微妙ですが…韓国のカルチャーが好きです。韓国語も軽い日常会話くらいだったら話せます。
雅:そうです! 昔、大久保周辺に住んでたんですけど、あの辺りってやっぱり韓国の人と交流しやすくて。そういった機会に積極的に触れたり、自分で韓国ドラマを観たりしてたら自然と覚えました。
麦ゆき:麦ゆきです。趣味はヒップホップで、自分でリリックを書くこともあります。
小野町子:小野町子です。趣味は筋トレ…さなと被りますね。笑 あとはライブ鑑賞が好きです。
空蝉:春奈はユレルラの太陽。まさに天真爛漫って感じのムードメーカーですね。あまり深いことを考えずに、思うままにユレルランドスケープで活動してほしいなっていつも思います。
雅:「春奈は春奈らしく自由にやっていいよ」っていう空気が本当にありがたいよ…。次は私がゆき(の紹介)?
麦:えっ…さなが良かったな。笑
雅:なんでよ!笑 ゆきは小柄なのもあって、とにかく小動物っぽい。1人にしておくと勝手に動いてどこか行っちゃうんですよ。同期として一緒に加入したこともあって、軽いノリで絡んできてくれるのも私にとっては嬉しいですね。
雅:ラップの絡み方にゆきらしさを感じます。元の曲の良さがさらに引き立っていて…すごく良いんです。ライブの曲間のSEもゆきが考えてきたりするし、本当にラップ含め音楽が好きなんだな〜って。…ほら、私で良かったでしょ?笑(麦を見ながら)
麦:そうだね。笑 私はまち(小野)の紹介ですね。まちって、スタイリッシュで広告のモデルみたいじゃないですか? でも喋ると良い意味で変なエンジンがかかる。そこが可愛いんですよ。笑
麦:なんだろう…ここではパッと出てこないんですけど、この間エレベーターに乗ろうとしたら、ベビーカーを押したお母さんがエレベーターの入口まで来て。その時真っ先に「階段で行こう」って提案してきたのもまちでした。そういう見えないところでの人への気遣いや優しさにも長けた人です。
小野:さなは外見だけだとすごく華やかで女性らしいと思うんですけど、中身は意外と熱くて男らしい。
空蝉:良いところ見てる! 漢気だけは全女性に負けたくないって思ってるから。
小野:うん、ちゃんと知ってるよ。笑
小野:私はそもそも断るつもりで話を聞きに行ったんです。
小野:あまりにも(加入を)プッシュしてくるので、とりあえず話を聞いてくれば終わるかな、と。笑 そしたら、流れで社長とも会うことになって。その時に社長が「枠としてはアイドルだけど、アイドルを超えた音楽をやりたい」と話してくれたんです。率直に面白そうだなって思いましたね。ユレルランドスケープが本格始動して、同じ志を持った人を探している時に応募してくれたのがさなでした。
空蝉:私は元々違うグループに所属してたんですけど、その頃にたまたま町子ちゃんのステージを観たことがあったんです。音楽性と世界観、あと町子ちゃんの楽屋での低姿勢な挨拶を見て、この子と一緒にやりたいなって思いました。
小野:覚えてます。当時は歌もダンスも初心者で…全く分からなかったんですよ。それで、楽屋の中で一番舞台慣れしてそうに見えたさなに声をかけて、ダンスとかパフォーマンスについて質問したんです。
空蝉:そうそう。その時、クールで完璧なルックスと低姿勢な態度のギャップにびっくりしちゃって。町子ちゃんのそういうところは今も素敵だなって思います。
雅:私も前のグループにいた時からユレルランドスケープの存在は知ってて。当時、ファンの方に勧められてユレルラの動画ばかり見てた時期もあったんですけど、「さよなら、春」のMVを見たのがきっかけでユレルラの存在が気になり始めて…。そのあと、前のグループが解散してユレルラにお声掛けいただいたんです。今でも印象に残ってるんですけど、最後の意思確認で社長さんから「このグループを任せていいのか」って聞かれて。私はユレルランドスケープでの活動を最後にするつもりだったので「このグループでやりたいんです」ってはっきり答えました。
麦:私はユレルラに入る前、舞台女優の活動もしてたんですよ。ただ言葉で伝えるだけじゃなく、ダンスを交えて表現するのが自分は根本的に好きで。今思えば自分の中で「もう1回ユニットとして活動したい」っていう気持ちが募っていたのかもしれません。「もうこれで最後にしよう」と思いながらオーディションを探していた中で見つけたのがユレルラでした。でも、ユレルラのオーディションは最初スルーしてて…クリックすらしなかったな。笑
麦:オーディションサイトって普通は写真付きで公募が載ってるんですけど、ユレルラのサイトは写真がなくて、テキストだけだったんです。同じサイトが表示されてるな〜とは思いつつ、全然目立ってなかったから気にも留めてなくて。笑 でも、色々探していくうちにユレルラの音楽に巡り合って、それがきっかけになってオーディションへ行きました。ユレルラの楽曲を聴いたあとにサイト名と音楽が頭の中で一致して、運命かな?って思いましたね。
小野:分かりやすく言うと「方向性の違い」です。それぞれのメンバーにやりたいことがあったからこそ、その壁を貫くには当時のユレルラのままではいられなかった。もちろん、基本的にこだわりがあることは良いことだと思うんですけど…それぞれが持ち寄ったこだわりが最終的にぶつかってしまって。
空蝉:私の場合「0か100か」な性格なので、前の体制で売れなかったら辞めようと思ってたんです。今だから言えることなんですけど。笑 (前体制での活動が)終わってしまうことへの気持ちの遣り場にも困りました。ただ、今まで歩んできた道を正解にしたいなら、もうこのまま走り続けるしかないなって思って。
空蝉:とにかく熱い話を沢山した…よね。
小野:うん。これからグループとして向かうべきところとか、色々話したね。
空蝉:それぞれに乗り越えてきたものがあったからこそ一度腹を割って話して、お互いにどうしたいかを素直に伝え合いました。
雅:当然なんですけど、お披露目(昨年の4月9日ワンマン)の段階で今のユレルラに思い入れのある人ってゼロじゃないですか。さなと町子が観たくてお客さんはそこにいるわけで。SNSでユレルラのメンバーが変わってしまったことへの反響も見てましたし、楽しみか不安かで言ったら不安でした。お披露目までのスケジュールがかなりタイトで、8曲くらいをゆきと一緒にとにかく詰め込んで頑張りましたね。でも、正直なところ「まだ新しいユレルラのメンバーとして完全に受け入れられているわけじゃないな」っていう自覚もあって…それが悔しかったです。
麦:私は春奈と真逆で、とにかく楽しみで仕方なかった! またグループとして活動できることに喜びを感じていましたね。さなや町子が自分を表現しやすい環境を揃えてくれたのもあって。
雅:あれ? …あれれ?(自身の方向へ指を差す)
麦:春奈もね。笑 気持ちで折れるとダメだ!と思っていたので、とにかく見せつけてやるぞって思いながらステージに立っていました。もちろん緊張したけど、楽しさが勝ってたから…そんなに感じなかったな。
雅:めちゃくちゃ緊張しました! さなに背中叩いてもらってたよね。笑
麦:お披露目以降も最初の方のライブは基本毎回叩かれてた。笑
小野:お披露目の日、春奈がとんでもなく震え上がってたのは覚えてる。笑 会場の出入り口の鉄の柵に捕まってカタカタしてたよね…。それ見てたらこっちの緊張が飛んだもん。笑
空蝉:でもさ、ゆきはゆきでステージでずっと泣いてなかった?
麦:ふふふ。笑
空蝉:ちゃんと覚えてるから!笑 本番のステージと練習はまた違うものなので、新メンバーの新しい表情が見られて私たちもほっこりしました。
雅:3月に行かせていただく沖縄は、社長さんの出身地なんです。大阪に関しては前体制の時に決まっていた遠征がコロナで流れてしまったので…「リベンジ」という形ですね。せっかくなので、新しくなったユレルラの全力を感じてもらえる機会にしたいです。
雅:そうですね。喜んでくれると思います! 東京でのライブでファンの方に「早く大阪来てよ」とか「沖縄来て!」って言ってもらうことも結構あるので、今回やっと有言実行できて嬉しいです。
空蝉:タイトルはoasisのアルバム『The Masterplan』(編注:1998年リリース。ノエル・ギャラガーとファン投票によって構成されたB面オンリーのベスト・アルバム)になぞらえています。そのうえで、裏テーマとしては「ここから色々なものを覆してく革命宣言のようなライブにしたい」っていう想いを重ねていて。
雅:「4月9日に代官山UNiTでライブをやりたい」っていうのは全員の希望としてまとまっていたんですけど、マネージャーさんが代官山UNiTの空き状況を聞いたら本当にそこがたまたま空いていたらしくて。さすがにびっくりしましたね。
麦:今のユレルラを証明していく、というのが一つのテーマでもあって。1周年とはいえ、まだまだ目指すゴールから見れば中間地点なので、今だからこそ見せられる「生々しさ」も出していきたいと思っています。
小野:ライブ自体を見てほしいのはもちろん、この日にリリースする『PLAN-A』『PLAN-B』のCDも楽しみにしていてほしいです。2種類のそれぞれの良さを沢山の方に知ってもらえたらと思います。
空蝉:これまで悔しい思いも沢山してきたので、ここからは絶対に上がっていきたいですね。来年の4月9日、自分たちがより大きいステージにたどり着くための通過点。目立たなくても静かに上に行けるんだということを示していきます。静かに、でも熱く。人によってはたかが1周年に見えるかもしれません。でも私たちにとっては、大切な意味のある1周年の節目です。
雅:来たことを絶対後悔させません! 特典会ができないんじゃないか?ってくらいの勢いで、死ぬ気でやります。笑 だからファンの皆さんも私たちに本気でぶつかってきてほしいし、絶対に見届けてもらいたいです。
空蝉:エモーショナルシティポップの「エモーショナル」の部分は、哀愁とか、ノスタルジックなイメージを想像してもらえると分かりやすいかと…。J-POPって絶対的にポップで明るい音楽が王道とされる空気がある中で、ユレルラの曲には悲しい音が加えてある。でも、その捻った部分に共感を持ってくれる人もいると思っていて。
空蝉:うーん…私自身は、やっぱり本物の感情じゃないと伝わらないよな、と思うんです。だから少し極端ですけど、自分を追い込んで(楽曲で描かれる心情と)同じところまで落ちる。ライブ終わりとか、意識飛んで事務所の方たちに引き摺られたりすることもあって…。そうやって行くところまで行ってから調整するんです。もちろんキツさはありますけど、そのキツさがむしろ楽しい。どんどんユレルラが求めるエモーショナルに近付いている気がするから。
麦:歌詞の登場人物の感情を自分なりに解釈する作業から始めますね。お芝居と一緒。登場人物の下地をちゃんと理解してからじゃないと、ユレルラの曲は薄くなっちゃう。
小野:私は「聞く」ことに力を入れてます。もちろん曲を聴き込むって意味もありますけど、その日のお客さんの雰囲気によって曲って変わるものだと思っていて。自分の体調とかもそうですし…。その小さな差異が、本物のエモーショナルな表現には大切だと思う。だから常に自分を含めた周りの空気を「聞く」ようにしていますね。
雅:エモーショナルな表現の仕方…。私は言葉を理解するのが皆よりも遅いので、1個ずつ調べないとちゃんと頭で理解できないんですよ。なので、とにかく丁寧に一つずつ自分で調べてから自分の中での近い体験を探すようにしています。ライブの中でようやく「これだ!」ってハマることもあります。なかなかうまくパズルのピースが見つからない時は苦しいですね。
空蝉:私は宇多田ヒカルさんと秦基博さんが好きです。昔から寂しさを感じることが多かったんですけど、唯一お2人の音楽を聴いてる時間が孤独を癒せる時間でした。歌で人を癒せることを知ってから、自分もそっち側になりたい想いが一層強くなりましたね。ダンスに関しては基礎だけ過去に半年ぐらい学んで、あとは独学です…! 心が折れそうな時もあったんですけど、根性で形になるまで練習しました。実は私、ユレルラで振り付けも担当してるんです。
空蝉:やっぱりメンバーの個性とか、その人にしかない魅力を一番知ってるのは自分だっていう自信があったからですね。技術だけで言ったら、自分より素敵な振り付けができる方は世の中に沢山いると思います。でも、メンバーの良さを活かした振り付けは自分にしかできない。新曲の振り付けは基本私が考えていて、過去の曲は今の4人に合わせて所々アレンジを加えたりしていますね。
雅:ONE OK ROCK、Aimer、BiSHのアイナ・ジ・エンドさん…声に特徴があるアーティストが好きですね。あとはやっぱり韓国が好きなので、K-POPもよく聴いてます。それから、アリスプロジェクトの仮面女子に推しメンがいて。小中学校ではダンスと歌を完コピしてました。本格的に練習を始めたのは高校卒業してからかな? 今年は特に歌唱力を上げる1年にしたいと思って頑張ってます!
麦:私の場合は家族が音楽好きで、小さい頃からよくスナックとかジャズバーに連れて行ってもらってたんです。アフリカの音楽とか演歌とかを聴かされてて。笑 全然知識とかないのに、不思議と元気が出るんですよね。私、親を前にしてもあんまり悩みとか言えないタイプで。基本的にマイナスなことは言いたくないと思ってて、その分言葉にできない想いは音楽で癒されてきました。アーティストだとEXILEさん、BiSHさん、平井大さんとか。ダンスは高校のパフォーマンス学科で勉強したんです。
麦:最初の入り口は…いわゆるノリ系のヒップホップをなぞっていく程度だったんですけど。でも、次第に聴く曲の範囲が増えていくにつれて、ラップには「歌っている人の生き様」が表れていることに気が付いたんです。それこそ、ユレルラが表現しているような感情の深い部分に近いもの…自分との「共通点」が見つかってからはさらにハマって、ラップばかり聴く生活になりましたね。
麦:少しずつ感情を書き溜める用のノートがあるんですよ。その中から言葉を選ぶこともあるし、その時の自分の率直な気持ちをリリックに反映させることもあります。どちらかというと、負の感情がリリックのベースになっていることが多いですね。
小野:特にこれといったきっかけはなくて、気付いたら色んな音楽を聴くようになっていました。特に好きなアーティストは…戸川純さん、たまさん、グルグル映畫館さん。世代的にはちょっと上かも。最近の曲の音楽性ってあんまりついていけなくて。笑 ダンスについては、最初は独学で頑張ってました。さながユレルラに加入してから、初めて人に本格的に教えてもらうようになった、って感じですね。
空蝉:人間らしさを体現したライブができるところですかね。こっちが心を裸にして向き合わないと、フロアには何も届かない。本物のエモーショナルシティポップを届けるための泥臭さ、人間臭さが「私たちらしさ」だと思ってます。
空蝉:ユレルランドスケープの結成当初の目標で言えば、結成から2年でO-EASTでワンマンをやることでした。ただその会場を目標にしてしまうとまだ先だと思うし、現実的にエネルギーをどこ向けるべきかが分からなくなるんじゃないかな…と思っていて。まずは静かに実力をつけて、それから渋谷で一番大きいライブハウスのステージを踏めるようにしたいです。
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少なくとも私個人の考えではあるが、どんなジャンルであれ、ステージでパフォーマンスをする者は自分の「人間臭さ」をいかに隠すか、ということに注力をしているものだと勝手に思っていた。もちろん「キャラ売り」としてのありのまま、素のままが求まられることもあるが、苦しくネガティブな部分はしまっておく…というイメージがどうしても頭から離れなかったのだ。
しかし、ユレルランドスケープが追い求める「エモーショナル」はそれでは完成しない。彼女たちが表現するのは、フィクションで持て囃されるような「エモさ」ではなく、もっとその先の深い感情だ。チープなエモさに興味はないからこそ、本物の感情に自らが触れて初めて曲を完成させる。そのどこまでもリアルにこだわるプロ意識に、感銘を受けた。
ユレルランドスケープの持つ独特の儚さは、彼女たちの努力が生んだ美しい痛みと常に背中合わせにある。どろっとした暗闇の中から取り出したような、誰にも見せられない弱さにそっと寄り添ってくれる場所。それが、彼女たちの歌い上げるエモーショナルが作り上げる理想郷なのかもしれない。
<1月某日、東京・原宿にて>
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ユレルランドスケープ 現体制1周年記念ONEMANLIVE『MASTER PLAN』
開催日:2023年4月9日
OPEN / START:16:00 /17:00(予定)
場所:代官山UNIT
チケット購入URL:https://tiget.net/events/220112
*同日、『PLAN-A』『PLAN-B』2枚同時リリース
公式HP:http://yurerulandscape.sainantantracks.com/
雅春奈:@haruna_yurerula
麦ゆき:@yuki_yurerula
空蝉さな:@sana_yurerula
小野町子:@ono_yurerula