今年9月、ジューク／フットワーク・シーンにおける世界最大のクルーことTEKLIFEのTASOが東京と大阪の2ヶ所で来日公演を実施し、エネルギッシュなDJパフォーマンスで各会場のフロアを熱狂の渦に巻き込んだ。オーディエンスの衝動を突き動かす彼のDJセットのほとんどは、彼のオリジナル曲で構成されており、そのサウンドは全て音楽制作ツール・AKAI MPCで作られたものだ。世界中のMPCユーザーの中でもベテラン級にAKAI MPCを使いこなしており、また筆者の長年の友人である彼に、スタジオワークの様子を見学させてもらいながらその魅力について語ってもらった。

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最初のMPCは、自分の頭の中と学校の机だった
MPCはまるで我が家みたいな存在
「もう1回聴こう！」って何度も言いながら何時間も再生したんだ
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最初のMPCは、自分の頭の中と学校の机だった

──TASOが音楽活動を始めたのはいつから？

中学生の頃、学校の成績が良かったご褒美にHipHop Ejay 2*を親に買ってもらったんだ。だから、実際にビートメイクを始めたのは13歳くらいかな。放課後ショッピングモールに立ち寄った時に、楽器屋のモニターでHipHop Ejay 2のCMが流れていたのを見てからずっと欲しかったんだ。ちなみにその時にはギター、ベース、ドラムも演奏してた。

*HipHop Ejay 2：2000年に発売されたWindows用作曲ソフトウェア。内蔵された音源を並び替えることでヒップホップのビートを作成できる。

──若くしてマルチミュージシャンだったんだね。そこからどうやってAKAI MPCに出会うの？

最初のMPCは、自分の頭の中と学校の机だった。

──どういうこと？

さっき、学生の頃は成績が良かったって話をしたけど、他の子たちと同じように気が散りやすい性格だったんだ。授業中は机の上にいくつか円を描いて、それぞれ違う音がアサインされているのをイメージしながら叩いてしょっちゅう遊んでたんだよ。笑

──あぁ、なるほど。笑　妄想で自分なりのサンプラーを生み出してたんだ？

多分、サンプラーのアイデアはMTVの影響でインプットされていたんだと思う。MPCのことはまだ当時は知らなかったけどね。

本物のMPCは、大学生の時に俺の先生であるCoupe DeVilleが使っているところを初めて見たんだよ。その時、彼はもう既にビートを作っていたから、彼のスタジオに入り浸って使い方を学ばせてもらったんだ。「レジ」*ことMPC2000XLのね。その間、コツコツバイト代を貯めてMPC2000XLを買ったんだ。

*「レジ」（MPC2000XL）：現在の音楽史になくてはならない機材 AKAI MPCの人気モデルMPC2000XLのこと。ヒップホップ界の偉大なプロデューサー・Dr.DREもMPC 2000XLを使用して作曲を行なっており、売れっ子になった際「儲かりすぎてMPC 2000XLがレジに見える」と発言したことに由来する。

──MPC、安くないもんね…。もうどれくらい使ってるの？

MPC歴は今年で18年目になるよ。それまではDAWとMIDIのパッドコントローラーを使ってビートメイクしていたんだけど、これがもう最悪で。笑　パッドを叩いても1秒くらい何も音が出なくて、こんなので皆どうやって音楽作ってるんだよ！って感じだった。まあ、当時はデジタルレイテンシーを理解してなかった、って話なんだけど…。だから初めてAKAI MPC2000XLのパッドを叩いて、瞬時に音が出た時は人生のベストに入る感動だったよ！笑

──今もその感動が楽曲制作の根底にあるんだね。作曲をする上で、具体的にMPCは何がそんなに魅力的なの？

それはDJ RashadとDJ Spinnの曲に詰まっている。MPCの良いところを最大限に引き出したサウンドを生み出しているんだよね。DJ RashadとDJ Spinnは俺にとって、DJ PremierとPete Rockに並ぶMPCサウンドのお手本だよ。皆のことを総称して「MPC大学」って呼びたいぐらいだ。

今年9月、CIRCUS TOKYOで開催されたTASO JAPAN TOURの様子

MPCはまるで我が家みたいな存在

──以前、「TEKLIFEみたいなMPCの使い方をしている奴らはいない」って話をしていたけど、実際どういう使い方をしてたの？

2013年頃からDJ RashadとDJ Spinnのと曲を作り始めた時に、2人のMPCの使い方をよく観察したんだけど、全部の機能を「オフ」にするんだよね。リピートは使わない、ノードもオフ、グループはミュート。リピートなしで一緒にターゲットさせて作るんだけど、まるで錬金術のようだったよ。ヒップホップ、UKクラブ・ミュージック、ハウス、テクノの断片を取り出してごった煮にするんだ。おまけに低音に低音を重ねたり、音楽知識的にNGとされているような方法もバンバンやっていて。自分のアイデンティティ全てを変えられたような、衝撃的な体験だった。

──それは強烈だね…。

うん、自分がこれまで学んだことを目の前で引き裂かれて、ゴミ箱に棄てられたような気分になったよ。笑　MPCで素材を作り終えると、DJ Rashadが各トラックをソロモードで再生して「Record that shit!（録音しろ）」って言うんだ。それをオーディオアウトでAbelton Liveにエクスポートしてミックスダウンする、っていうのが主な制作の流れだった。今は2人から学んだこのやり方でMPCを使っている。かつての自分がそうだったように、このやり方を見た人は皆驚くよ！　ここまでシンプルで効果的なMPCの使い方はないからね。

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──2000XLだけじゃなくて、MPC Xも使ってるんだよね？

うん、MPC2000XLとMPC Xの2台をMIDIシンクさせて使ってる。MPC Xはintelのチップが搭載されていて性能はパソコン並みだし、システムも出力のサウンドも素晴らしいから、これ1台だけでもいいぐらいなんだけどね…MPC2000XLのフィーリングが好きだから両方使ってるんだ。

──MPC2000XLは出音が太いって言ってたよね？

そう、ヘッドフォン出力が超太いんだよ！　低音の周波数がコーンフィルターのように積み重なって、サンプルした音源が劣化せずに再生される。MPCの魔法だよ。これは（別モデルの）2500や5000にも言えることだと思う。

大学時代にMPCを手に入れてから、本当に多くの時間MPCに向き合ってきた。もっと大学の勉強をするべきだったかもしれないけど…自分にとってはMPCでの楽曲制作が本当に学びたいことだったんだ。世界中を旅するようになってからは、MPCはまるで我が家みたいな存在に感じてる。安心できて、ハッピーになれて、ひらめきを与えてくれる。もし家に何でも好きなものを置いていいって言われたら…そうだな、歴代のMPC全部欲しい！笑　それぞれどんなサウンドなのか、どんな見た目なのか全て知りたい。それくらい最高の機材だよ。

あとは、世界中のアーティストにMPCにはもっと色々な使い方があるんだよってことも教えたい。シカゴの先人たちが築き上げた作曲のシステムを広めたい。もちろん、彼らから了承をもらった上でね。

MPC X SEで作曲するTASO

「もう1回聴こう！」って何度も言いながら何時間も再生したんだ

──MPCにまつわるベスト・エピソードを教えてくれる？

そうだな…。2013年の6月にサンフランシスコでDJ RashadとDJ Spinnと初めて一緒に曲を作ったんだ。2人を空港まで迎えに行って、うちに連れて来たんだけど、部屋にあったMPCを見るなりDJ Rashadが「うお！　お前2000XL持ってるのかよ！」ってブチ上がってさ。その時にできた曲が「Pass That Shit」なんだ。

曲が完成した時はまさに最高の気分だったよ！　仕上げた後、車に乗って皆でサウンドチェックしたんだけど、サンフランシスコ中をドライブしながら何時間も聴いていたんだ。「もう1回聴こう！」って何度も言いながらさ。笑　あの曲には、俺がLogicのUltrabeatでカスタムして完璧にチューンアップした808のサウンドを使っている。鳴りのいいガツンとした808の音源がなかったから自分で作って、それをMPCにインポートしてあった。DJ RashadとDJ Spinnは「おいなんだよ、この808サウンドは？」って言うから、得意気に「俺の808だよ」って返して。笑　最高の褒め言葉だったね。

──良い話だね。笑　最後に読者へ向けてメッセージをくれる？

MPCはサウンドだけじゃなくて、使ってる人自身にも影響を与える機材だよ。内に秘めた想像力を解放させてくれる。J Dillaの物真似ばっかりしてちゃダメだ！　DJ Premierを見てみなよ！彼は今もなお新しいサウンドをMPCで生み出してカマしてる。

先人たちが築き上げた文化を俺たちがどんどん発展させて前に進まなきゃ。MPCを生み出したRodger LynnとAKAIは本当に偉大だよ、心から感謝している。頭がおかしいオタクだと思われるかもしれないけど…MPCにはソウルが宿っていると俺は信じてる。このインタビューを読んでいる人には是非AKAIの機材をチェックしてみてほしい。一度MPCのソウルと繋がれば、無限の可能性が待っているから。

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TASO

instagram：https://www.instagram.com/tasoteklife/
X：https://twitter.com/tasoteklife
bandcamp：https://tasoteklife.bandcamp.com/
Soundcloud：https://soundcloud.com/TASO

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【インタビュー】16のパッドに宿るソウル、TASOが語るAKAI MPCへの異常な愛情

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